ブレーンストーミング 抵当権抹消の巻

ブレーンストーミング 抵当権抹消の巻

過去、浜松支部の支部通信に寄稿した問題。

【事例】
 X所有の建物に、昭和34年に債務弁済契約を原因としてY会社の抵当権が登記されている。Y会社は、当時、Xの娘婿が商品の入れをしていた株式会社であり、娘婿である債務者の買掛金を担保するために抵当権を設定したものである。その後、娘婿は、その後商売がうまくいかず娘と離婚したが、Y会社に対する支払を怠っていた。そこで、昭和40年頃、物上保証人であるXは、Y会社に対して残金を確認し、全額支払って領収書を受領したが、担保抹消手続はされず、また、当該領収書も紛失してしまった。なお、その後、風の噂でY会社は倒産したということを聞いたことがある。
 今回、Xが銀行から融資を受けるにあたり、Y会社の抵当権が抹消されないままであることを思い出し、Y会社に問い合わせしようとしたところ、当時の住所にはY会社は存在しなかった。

【問題1】 Xから依頼を受けた司法書士が調査したところ、Y会社は事実上倒産していた。そこで、代表取締役に連絡をとり、抵当権抹消登記を依頼したが、「全く資料もないし、今となっては、会社のことは知らない。協力できない」と言われてしまった。
そこで、抵当権抹消登記手続請求訴訟を提起する場合、訴状に記載する請求原因事実はどのようなものになるか。

【問題2】 Xから依頼を受けた司法書士が調査したところ、Y会社は昭和50年に職権解散されており、当時の取締役も全て死亡していた。なお、清算人は選任されていない。抵当権抹消登記を行うために、どのような手続が考えられるか。

【問題3】 Xから依頼を受けた司法書士が調査したところ、Y会社は昭和60年に破産宣告を受け、昭和62年には破産が終結していた。抵当権抹消登記を行うために、どのような手続が考えられるか。

古橋の勝手な回答です。

【問題1に対する回答】
 不動産の権利に関して訴訟を提起する場合、物権的請求権によるのか債権的請求権によるのかを事件の内容により判断する必要がある。
債権的請求権では、債務の発生原因事実、抵当権設定契約の存在、債務の弁済(しからずとも時効援用権の代位行使による債務の消滅)、抹消登記義務の不履行という構成が考えられるが、債務の弁済の立証責任はXにあるため、実質的には時効援用することになると思われる。
しかし、本件の場合には、物権的請求権で、所有権の妨害排除請求として構成した方が簡便であると考えられる。その場合の請求原因事実は、Xの所有権、Y会社の抵当権の存在だけを主張・立証すればよい。この場合、Y会社の代表取締役としては、被担保債権の存在を主張しなければならないが、資料は全くないとのことであるので主張・立証不能と思われる。仮に、債権の存在の主張・立証が功を奏した場合には、Xとしては時効の抗弁を提出することになり、実質的に債権的請求権で争うことになる。

【問題2に対する回答】
Y会社は職権解散されていて、清算人も選任されていないのであるから、解散当時の取締役が法定清算人となっていた。ところが、法定清算人も全員死亡しているのであるから、Y会社を代表する者がいない状態である。そこで、非訟事件手続で清算人を選任することが考えられる。実務上は、清算人候補者は申立人が推薦するので、清算人が選任されれば、Xとの共同申請により抵当権抹消登記が可能となる。
このほか、抵当権抹消登記手続請求訴訟を提起することも考えられる。その際には、緊急性があれば民事訴訟法上の特別代理人の選任申立をすることも考えられるが、非訟事件手続で清算人を選任するのは特に時間を要しないため、裁判所は特別代理人の選任に消極であると考えられる。そうすると、結局のところ、非訟事件手続で清算人を選任することになるのであるから、訴訟手続をせずとも、清算人と共同申請で抵当権を抹消すればいいことになる。

【問題3に対する回答】
Y会社は破産終結により会社を代表する者がいない状態である。そこで、非訟事件手続で清算人を選任することが考えられる。実務上は、清算人候補者は申立人が推薦するので、清算人が選任されれば、Xとの共同申請により抵当権抹消登記が可能となる。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

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