空き家問題

空き家を相続した際のリスク

 相続が発生すると、相続人は不動産、預貯金、株式などの財産を引き継ぐことになりますが、昨今大きな問題となっている空き家を相続した場合には、そのまま放置しておくと様々なリスクが発生するおそれがあります。

リスク1 近隣に対する損害賠償責任
 空き家を放置していたことにより建物の老朽化が進み、近隣に迷惑をかける可能性があります。当事務所でも、台風で飛んだ瓦が隣の家の自動車に落下し、損害賠償請求を受けたという相談を受けています。
 さらに、不審者が住みついたり、火災の危険性も否定できません。そのため、万一に備えて火災保険に加入しておくべきですが、こうした費用負担もリスクと言えるでしょう。

リスク2 税金のリスク
 次のリスクとして、固定資産税や都市計画税などの税負担があります。空き家のまま放置していても固定資産税などは否応なく課税されます。
 ところで、住宅の敷地の場合は、固定資産税が一定の面積までは6分の1、超えた面積については3分の1にまで軽減される特例があります。都市計画税についても、3分の1又は3分の2に軽減される特例があります。
 しかしながら、「空家等対策の推進に関する特別措置法」により「特定空家」(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態その他生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等)に認定されてしまうと、固定資産税等の住宅用地特例が解除されてしまい、固定資産税や都市計画税の負担が増加することになります。

空家等対策の推進に関する特別措置法のQ&Aはこちら!

空き家を相続した際の対策

対策1 売却する
 相続した不動産を売却するためには相続登記を済ませておく必要があります。相続登記については司法書士に、売却については不動産業者に依頼して進めるのがよいでしょう。また、売却にともなって境界の確認や建物解体を伴う場合もありますので、早めに専門家に相談することをお勧めします。

対策2 賃貸する
 「空き家になったら賃貸すればいい」と簡単に考えていても、実際には、リフォームするなどして市場価値を上げないとなかなか賃貸契約にまで結びつかないことが多いようです。また、立地条件等により賃貸に適していない物件の場合もありますので、不動産業者に相談するとよいでしょう。

対策3 そのまま有効活用する
 当事務所が所属している「はままつ空き家プロジェクト」では、リフォームをせずに一般社団法人はままつ空き家プロジェクトが空き家を借り受け、生活困窮者、災害避難者、趣味の部屋等が必要な方々に転貸するという事業を行っています。基本的にリフォームしない状態でそのまま借り受けていますので当事務所までお問い合わせ下さい。

対策4 相続放棄
 空き家を相続したくないという理由で相続放棄することは可能です。しかし、相続放棄するためには相続人が自分のために相続が発生したことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。
 また、相続放棄の申述が受理されると、全ての財産や負債について相続しないということになりますので、空き家以外の相続財産も全て相続しないということになります。

空家等対策の推進に関する特別措置法 Q&A

(注)この「空家等対策の推進に関する特別措置法 Q&A」は日本司法書士会連合会空き家・所有者不明土地問題等対策部作成によるものです。

本Q&Aでは空き家は、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「特措法」という)に関する記述に関しては「空家等」と表記し、一般的な意味では「空き家」と表記する。
なお、本Q&Aは特に断りのない限り、特措法、基本指針、ガイドライン、意見募集結果を参照している。
【凡例】特措法・・・・空家等対策の推進に関する特別措置法
基本指針・・・空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針ガイドライン・「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針
意見募集結果・『「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)(案)』に関するパブリックコメントの募集結果

 

第1.全体関係
Q1.特措法を制定するに至った経緯は?
Q2.特措法の制定を必要とした背景は?
Q3.空き家が増加した背景は?
Q4.空き家の増加によりどのような問題が発生しているか?
Q5.全国の空き家率は?
Q6.都道府県別で空き家率が高いのはどこか?
Q7.空き家にはどのような類型があるか?
Q8.空き家のうちどの類型が特に増加しているか?
Q9.空き家の中で特に問題となるのはどの類型か?
Q10.全国の自治体で空き家に関する条例を制定した背景は?
Q11.空き家に関する条例はどれだけ制定されているか?
Q12.空き家に関する条例の内容は?
Q13.空き家に関する条例と特措法との関係は?

第2.特措法「定義」
Q14.特措法上の「空家等」の意味は?
Q15.特措法上の「常態である」の意味は?
Q16.特措法上の「特定空家等」の意味は?
Q17.「空家等」は、住宅に限られるか?
Q18.アパート、長屋、マンションの一室が空いている場合は「空家等」となるか?
Q19.いわゆるゴミ屋敷は空家等となるか?
Q20.特措法上の「所有者等」とは?

 
第3 特措法「所有者等と行政の役割」
 
第4.各論「所有者等調査」
 
Q52.立入調査の結果、占有者が存在することが判明した場合、どのような処置を行うか?
Q53.長屋やアパート等の一室が空室となり、問題が発生している場合の対応は?
3.特定空家等に対する措置
Q54.特定空家等の所有者に対する措置とはどのような内容か?
Q55.特定空家等に対する助言又は指導、勧告、命令は必ず順を経る必要があるか?
Q56.特定空家等に抵当権等が設定されていた場合、措置を行うに当たり、関係権利者と調整をする必要があるか?
Q57.特定空家等の所有者等に対する助言又は指導とは?
Q58.特定空家等の所有者等に対する助言又は指導はどのように行うか?
Q59.特定空家等の所有者等に対する勧告とは?
Q60.特定空家等の所有者等に対する勧告はどのように行うか?
Q61.特定空家等の所有者等に対する勧告はどのように送達するか?
Q62.勧告の相手方が複数存在する場合の送達は?
 
Q1.特措法を制定するに至った経緯は?
これまで各自治体単位で適切な管理が行われていない空き家に対し、既存の法令(建築基準法など)や条例等に基づき地域の実情に応じた空き家・空き地の施策を行ってきた。しかし、近年の空き家の増加に伴い、適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることから、地域住民の生命、身体又は財産を保護し、その生活環境の保全を図ることを目的に、空家等に関する国及び市町村による施策を総合的かつ計画的に推進する必要があった。
 
Q2.特措法の制定を必要とした背景は?
Q1に記したように空き家に関する問題が多岐にわたる一方で、空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)の特定が困難な場合があること等解決すべき施策の充実、例えば空家等への立入調査、空家等の所有者等に関する税情報の内部利用、固定資産税の住宅用地特例等への税制上の措置等が全国的に求められていた。
 
Q3.空き家が増加した背景は?
人口減少や既存住宅・建築物の老朽化、社会的ニーズの変化、産業構造の変化等に伴い使用されていない住宅が増加する一方で、中古住宅の利活用が進まず新築住宅の着工数が一定の水準を保っていることが考えられる。
 
Q4.空き家の増加によりどのような問題が発生しているか?
防災上の問題としては、積雪等による倒壊、崩壊、屋根、外壁等の落下、火災のおそれ等がある。衛生上の問題としては、浄化槽の放置、蚊の大量発生、ねずみ野良猫等による悪臭の発生等がある。景観上の問題としては、雑草の繁茂、割れた窓ガラスの放置、ゴミの山積等がある。環境上の問題としては、落雪による歩道の阻害、樹枝の越境、落葉の飛散等がある。
 
Q5.全国の空き家率は?
平成25年現在で、総住宅数6063万戸に対し空き家数は820万戸であり、全体の13.5%が空き家となっている(「総務省HP 平成25年度住宅・土地統計調査」より)。
 
Q6.都道府県別で空き家率が高いのはどこか?
平成25年現在で、山梨県が22.0%と最も多く、ついで長野県19.8%、和歌山県18.1%、高知県17.8%、徳島県が17.6%と続いている(「総務省HP 平成25年度住宅・土地統計調査」より)。

Q7.空き家にはどのような類型があるか?
総務省による平成25年住宅・土地統計調査上は、①売却用住宅、②賃貸用住宅、 ③別荘等の二次的住宅、④その他の住宅、に分けられている。なお、それぞれの類型の定義は以下の通りである。
①売却用住宅:新築・中古を問わず、売却のために空き家になっている住宅
②賃貸用住宅:新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅
③二次的住宅:普段住んでいる住宅とは別に、週末や休暇等に避暑・避寒・保養などの目的で使用され、若しくは残業で遅くなったときに寝泊りするための住宅
④その他の住宅:上記以外の住宅で長期にわたって不在の住宅や建て替えのために取り壊すことになっている住宅(空き家の区分の判断が困難な住宅を含む)
「国土交通省 空き家の現状と論点 住宅・土地統計調査による定義」

Q8.空き家のうちどの類型が特に増加しているか?
総務省が5年おきに統計を取っている「住宅・土地統計調査」によれば、下記の通り、上記の類型のうち「その他の住宅」が特に増加している。

Q9.空き家の中で特に問題となるのはどの類型か?
「その他の住宅」については、適切な管理が行われなくなり放置されるおそれが高い。管理が不十分となることで倒壊等の危険の発生、衛生上有害となるおそれ、著しく景観を損なう可能性が高くなり、周辺住民の生活環境に悪影響を及ぼしかねない事態が生じるため、特に問題となる可能性がある。

Q10.全国の自治体で空き家に関する条例を制定した背景は?
空き家に関する問題が多岐にわたり、所有者の特定が困難である事例等、空き家がもたらす問題に総合的に対応するための国策としての施策の充実が求められていたが、空き家に特化した法律がなかったために、いくつかの自治体では、条例等を制定し、所有者等に適切な管理を促すために必要な助言や指導、空き家の有効活用等を行ってきた。
 
Q11.空き家に関する条例はどれだけ制定されているか?
平成27年4月1日現在で431の自治体で制定施行されている。
 
Q12.空き家に関する条例の内容は?
地域の実情に応じて様々な問題へのアプローチが見られる。豪雪による倒壊事故防止、火災予防、景観保全、突風による倒壊防止等に対応するために、それぞれ勧告、命令、公表、罰則規定、代執行と様々なレベルで規定されている。
 
Q13.空き家に関する条例と特措法との関係は?
特措法の施行により、直ちに空き家に関する条例が廃止になるものではない。ただし、当該条例による措置が特措法上最低限満たすべき基準や遵守すべき手順に抵触する場合はその部分は無効となる。
 
第2.特措法「定義」
 
Q14.特措法上の「空家等」の意味は?
「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)」と定義されている(特措法第2条第1項)。
 
Q15.特措法上の「常態である」の意味は?
「常態である」とは、長期間にわたって使用されていない状態をいい、概ね年間を通して建築物等の使用実績が無いことは一つの基準となるとされている。例えば、現に居住している者がおらず、人の出入りもない状態が長期間継続している家屋などは一般的に空家等と認められると考えられている。
 
Q16.特措法上の「特定空家等」の意味は?
空家等のうち「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態その他生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」と定義されており(特措法第2条第2項)、市町村が認定する。
特定空家等の認定についてはQ43を参照。
 
Q17.「空家等」は、住宅に限られるか?
特措法上の空家等は、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていない常態にあるもの」を指し、住宅に限られない。
なお、総務省による住宅・土地統計調査における空き家は、一戸建の住宅やアパートのように一つの世帯が独立して家庭生活を営むことのできる『住宅』に関するものである。
 
Q18.アパート、長屋、マンションの一室が空いている場合は「空家等」となるか?
特措法上はアパート・長屋・マンションの全室が空いていなければ空家等として認定されない。
なお、住宅・土地統計調査は、アパート・長屋・マンションの一室が空いている場合でも一戸の空き家となる。
 
Q19.いわゆるゴミ屋敷は空家等となるか?
特措法上の空家等とは、長期間にわたって使用されていないことが常態である建築物等とされるので、人が居住をしていれば、著しく衛生上有害ないわゆるゴミ屋敷であっても、空家等とはならない。この場合、生活環境等に関する他の条例等により対応することになる。
なお、長期間にわたって使用されていないことが常態であるいわゆるゴミ屋敷は、特措法による対応の対象となる。
 
Q20.特措法上の「所有者等」とは?
「空家等の所有者又は管理者」を指している(特措法第3条)。管理者とは、賃借人、使用借人、相続財産管理人、破産管財人等が考えられるが、現在のところその具体例は示されていない。
 
第3 特措法「所有者等と行政の役割」
 
Q21.特措法上の「所有者等」の責務は?
周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努める責務がある(特措法第3条)。
 
Q22.特措法上の国の役割は?
国土交通省及び総務大臣が基本指針を定める(特措法第5条)。
また、市町村が行う空家等対策の費用の補助、交付金制度による支援、特別交付税措置を講ずる等の手段で市町村を支援するとされている。なお、財政上の支援は、都道府県の責務ともされている。
 
Q23.空家等「基本指針」とはどのようなものか?
国土交通省及び総務大臣により、①空家等に関する施策の実施に関する基本的な事項、②空家等対策計画に関する事項、③その他空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するために必要な事項が定められる。平成27年2月26日に告示されている。
 
Q24.ガイドラインとはどのようなものか?
特定空家等に該当するか否かを判断するための参考となる基準や、特措法第14条に基づく特定空家等に対する措置を行う上での具体的な手続きを定めている。
従って、市町村は特定空家等の認定や措置については同ガイドラインを参考に判断することになる。平成27年5月26日に定められている。
 
Q25.国及び都道府県が市町村に対して行う財政上の支援には、どのようなものがあるか?
相談窓口の整備のための空き家管理等基盤強化推進事業や空き家調査を行うための地方交付税制の拡充等がある。詳しくは、国土交通省のホームページ内の空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html)の下部に参考としてリンク先が記載されている「空家等対策に係る関連施策等」を参照。

Q26.特措法上の都道府県の役割は?
空家等対策計画の作成及び変更並びに実施その他特措法に基づいて市町村が講ずる措置について、当該市町村に対する情報の提供及び技術的な助言、市町村相互間の連絡調整その他必要な援助を行うよう努めるとされている(特措法第8条)。

Q27.特措法上の市町村の役割りは?
空き家対策を直接的に実施するとされている(国や都道府県は、市町村を支援することによる間接的な実施である。)。
具体的には、以下のとおり空家等対策計画の作成及びこれに基づく空家等に関する対策の実施その他の空家等に関する必要な措置を適切に講ずるよう努めるとされている(特措法第4条)。
①国の指針に即した空家等対策計画の策定
②協議会の設置
③空家等の所在及び所有者等の調査による実態把握
④空家等に関するデータベースの整備
⑤空家等及びその跡地に関する情報の提供・助言
⑥空家等及びその跡地の利活用の支援
⑦特定空家等に対する措置
⑧税制上の措置

Q28.特措法の制定により、空き家問題が自治体任せにならないか?
Q21のとおり、第一義的には所有者等に空家等の適切な管理に努める責務が存在する。例えば、市町村が代執行を行った場合には、当該空家等の所有者から費用を徴収することになっており、自治体任せになるとは限らない。
 
Q29.市町村が定める空家等対策計画とは?
市町村の区域内で空家等に関する対策を総合的かつ計画的に実施するため、国が定めた基本指針に即して作成する計画をいう(特措法第6条第1項)。
 
Q30.市町村が策定する空家等対策計画の内容は?
空家等対策計画には次の事項を定めるものとされている(特措法第6条第2項)。
①空家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空家等の種類その他空家等に関する対策に関する基本的な方針
②計画期間
③空家等の調査に関する事項
④所有者等による空家等の適切な管理の促進に関する事項
⑤空家等及び除却した空家等に係る跡地の活用の促進に関する事項
⑥特定空家の措置その他特定空家等への対処に関する事項
⑦住民等からの空家等に関する相談への対応に関する事項
⑧空家等に関する対策の実施体制に関する事項
⑨その他空家等に関する施策の実施に関し必要な事項
 
Q31.住民等からの空家等に関する相談体制は?
空家等をめぐる一般的な相談はまず市町村において対応した上で、専門的な相談については宅地建物取引業者等の関係事業者や司法書士等の関係資格者専門家の団体等と連携して対応するものとされている。
 
Q32.特措法上の協議会とは?
空家等対策計画の作成及び変更並びに実施、その他空家等に関する協議を行うために市町村が設置することができる機関をいう(特措法第7条)。
なお、特措法第7条に基づかない任意の組織体を構成し、空家等対策の対応を行う市町村もある。
 
Q33.協議会ではどのようなことを行うか?
市町村は空家等対策計画の作成及び変更に関する協議のほか任意に議題を選択するが、次のようなことを行うことが考えられる。
①空家等対策計画の実施に関する協議
②特定空家等への対策方針に係る審議
③特定空家等への措置に関する審査(個別案件審査)
④跡地活用に関する協議
⑤その他市町村が空家対策に必要と考えることの協議
 
Q34.協議会の構成メンバーは?
弁護士、司法書士、宅地建物取引業者、不動産鑑定士、土地家屋調査士、建築士、社会福祉士の資格を有して地域の福祉に携わる者、郷土研究家、大学教授・教員、自治会役員、民生委員、警察職員、消防職員、道路管理等公物管理者、まちづくりや地域おこしを行うNPO等の団体等が予定されている。
 
Q35.市町村はどのようにして空家等の実態を把握するか?
市町村が定めることができる空家等対策計画には、空家等の調査に関する事項を定めることとされ、市町村は下記の調査方法等により空家等に関するデータベースの整備その他空家等に関する正確な情報を把握するために必要な措置を講ずる旨の努力義務規定が設けられている(特措法第11条)。
・不動産登記情報の活用
・住民票情報や戸籍謄本等の活用
・近隣住民への聞き取り
・固定資産税課税台帳に記載された情報の活用
 
Q36.市町村が策定する空家等に関するデータベースとは?
市町村長が空家等に関する対策を実施するにあたり、調査によって把握した空家等の情報を整理し、行政情報の蓄積として用いられる。
データベースには空家等の所在地、現況、所有者等の氏名など、特定空家等に該当するものについては特定空家等に該当する旨、当該特定空家等に対する措置の内容及びその履歴の記載が考えられる。なお、データベースの情報は空家等の所有者等の了解なく漏えいすることがないよう細心の注意が必要である。
 
Q37.市町村は所有者等に対して、どのような支援をするか?
空家等の所有者等及び近隣住民の相談に応じる。
市町村は、所有者等の空家等の適切な管理を促進するため所有者等に対し、情報の提供や助言などの必要な援助を行うように努める必要がある(特措法第12条)。相談を受けるに際しては、空家等をめぐる一般的な相談はまず市町村において対応した上で、専門的な相談については、民間の専門団体と連携の上対応することが考えられている。具体的には空家等対策計画等において各市町村が定めると思われる。
 
Q38.市町村は空家等及び空家等の跡地の利活用に関し、どのような対策を行うか?
利活用可能な空家等又は空家等の跡地の情報を市町村が収集した後、当該情報について、その所有者の同意を得た上で、インターネットや宅地建物取引業者の流通ネットワークを通じて、広く当該空家等又はその跡地を購入又は賃借しようとする者に提供することが想定されている。その際、空き家バンク等の空き家等情報を提供するサービスにおける宅地建物取引業者等の関係事業者団体との連携に関する協定を締結することが考えられている。
他にも地域交流のためや福祉のための施設へ用途変更を誘導する等の対策が考えられている。
 
第4.各論「所有者等調査」
 
Q39.所有者等調査はなぜ必要か?
地域住民に身近な自治体である市町村は、特措法第6条第1項の空家等対策計画の作成及びこれに基づく空家等に関する対策の実施その他空家等に関する必要な措置を適切に講ずるよう努めなければならないため(特措法第4条)、空家等の所在や状態だけではなく、空家等の所有者等を把握する必要がある。
市町村は、把握した空家等の所有者等に対し、空家等の現状の通知、空家等に対する意向の確認、相談窓口等の紹介等を行うことになる。
また、特定空家等に対する措置を行う場合には、所有者等の調査が前提となっている。
 
Q40.特措法により、所有者等の調査はどのように変わったか?
これまで市町村長が行う空家等の所有者等の調査は、空家等がある地域住民等への聞き取り調査に加え、不動産登記法に基づく不動産登記情報の調査、住民基本台帳法に基づく住民票情報の調査、戸籍法に基づく戸籍謄本等の調査など、既存の法制度で入手可能な情報により行われていた。
特措法の施行により、市長村長は、固定資産税の課税等の目的で保有する所有者等の情報(以下「税務情報」という)の内部利用(東京都の場合は特別区の区長が都知事に税務情報提供を請求すること)が可能になった(特措法第10条第1項、第2項)。また、市長村長は、関係する地方公共団体その他の者に対し、情報の提供を求めることが可能になった(特措法第10条第3項)ので、例えば、法務局長・地方法務局長に対して電子媒体での不動産登記情報の提供を、電気・ガス等の供給事業者に対して電気・ガス等の使用状況等の情報の提供を求めることもできることになった。
 
Q41.税務情報の内部利用とは?
固定資産税の課税のための情報は、同じ市町村内においても他の部署が利用することは、地方税法第22条の秘密漏えいになるおそれがあり、原則としてできないものとされている。
しかし、固定資産税の課税のための情報は、税務当局が独自の調査により収集するものもあり、不動産登記情報などでは把握できない有益な情報が含まれる可能性があるため、市長村長が所有者等を調査する際に、これまで利用できなかった税務情報を内部利用できるよう法整備が行われた(特措法第10条第1項、第2項)。
 
Q42.所有者等の調査はどの範囲まで行うか?
空家等の適切な管理を促進するために所有者等に対し情報の提供や助言などの必要な援助を行う場合には、連絡が取れる所有者又は管理者の調査に留まると考えられる。
一方、特定空家等に対する措置を行うに場合には、所有者等の全員(相続が発生している場合は相続人全員)を確認するための調査が実施されることになる。
 
第5.各論「特定空家等」
 
1 特定空家等の認定
 
Q43.特定空家等はどのように認定をするか?
市町村はガイドラインを参考にして特定空家等を認定することになる。
特定空家等の認定は、将来の蓋然性を含む概念に基づき行われるので、認定の際には、個々の事情を勘案して総合的な判断が必要である。このため、地域性を考慮して、空家等対策計画でその基準を定める場合や、特措法第7条の規定に基づく協議会等において学識経験者等の意見を聞く等の慎重な手続きを経ることも考えられる。
「ガイドライン別紙1から4」を参照。
 
2 立入調査
 
Q44.空家等の立入調査は何のために行うか?
市町村長は、法第14条第1項から同条第3項に規定する特定空家等に対する措置(助言又は指導、勧告、命令)を行う事前準備として、空家等と認められる場所に立ち入って調査を行うことができる(特措法第9条第2項)。
また、市町村長は、特定空家等に該当する可能性があるか否かの確認のために立入調査を行うことも可能と解されている。
ただし、この立入調査は、必要最小限度の範囲で実施が可能であり、調査が空家等の敷地内に立ち入らないでも可能な場合には行うことができない。
 
Q45.空家等の立入調査はだれが行うか?
市町村長は、空家等と認められる場所に立ち入って調査を行う必要がある場合、市町村の職員や市町村長が委任した者に立入調査を行わせることができる(特措法第9条第2項)。なお、市町村長が委任した者の立入調査は、市町村職員の立ち会いが無くても行うことができる。
 
Q46.空家等の立入調査の際、事前に所有者等へ通知を行う必要があるか?
市町村長が空家等と認められる場所に立入調査を行う場合は、その5日前までに当該空家等の所有者等にその旨を通知する必要があるが、所有者等への通知が困難な場合はその必要はない(特措法第9条第3項)。
この通知は、所有者等が複数存在する場合、市長村長が確知している所有者等全員に行う必要がある。所有者等を確知するためには、不動産登記情報、住民票情報、固定資産課税情報等を用いて調査を行う必要がある。所有者等が死亡している場合は、戸籍情報等を用いて相続人を確定する必要がある。
 
Q47.空家等の所有者等が高齢・認知症等により判断能力が疑われる場合、通知はどうするか?
所有者等の判断能力が疑われる場合でも、事前通知、助言又は指導、勧告をするに際して、特措法上は成年後見人等の選任を必須とされていないが、不利益処分であることから、事案に則して、成年後見制度の利用等につき十分検討をすべきである。
 
Q48.空家等の所有者等が死亡している場合、立入調査の通知は相続人全員に行う必要があるか?
空家等の所有者等が死亡している場合には、市長村長が確知している相続人全員に通知する必要がある。所有者等の確知についてはQ46参照。
 
Q49.土地と建物所有者等が異なる場合、立入調査の通知は双方へ行う必要があるか?
土地と建物の所有者等が異なる場合には、それぞれに通知する必要がある。
 
Q50.立入調査は強制力があるか?
市町村長が行う立入調査(特措法第9条第2項)には、空家等の所有者等の承諾は要件ではないが、空家等の所有者等(所有者等が複数いる場合においてその一部が拒否する場合を含む)が立入調査を拒否する以上、物理的強制力を行使してまでの立入調査はできない。
立入調査の通知(特措法第9条第3項)に応答が無い場合や所有者等が確知できない場合には、所有者等の明示的な拒否はないものと考えて差支えないとされている。
なお、立入調査をする空家等が、塀等で囲まれ、門戸が閉まっている場合であっても、物理的強制力を用いない立入調査は可能と解されている。このため、門戸や塀を破壊したり、施錠を開錠して立入調査を行うことはできないが、塀を乗り越える等の方法で立入調査を行うことは可能と考えられている。
 
Q51.立入調査が拒否された場合、どのような対応をとるか?
市町村長は、過料(特措法第16条第2項)、助言又は指導(特措法第14条第1項)の対応を検討することが考えられる。
 
Q52.立入調査の結果、占有者が存在することが判明した場合、どのような処置を行うか?
立入調査の結果、建物内に占有者が存在することが判明した場合(その他建物の使用実態があると認められた場合を含む)には、当該建物は空家等に該当しないことになり、以後、立入調査を継続することはできない。
占有者が、所有者等が知り得ない占有者であった場合でも、建物に占有者が存在する以上、当該建物は空家等に該当しないので、立入調査を継続することはできないとされている。
 
Q53.長屋やアパート等の一室が空室となり、問題が発生している場合の対応は?
特措法では長屋やアパート等の共同住宅において、その一室でも利用者がいる場合には、空家等に該当しないとされているが、市町村が独自に定めた条例等で対応が可能な場合もある。
 
3.特定空家等に対する措置
 
Q54.特定空家等の所有者に対する措置とはどのような内容か?
空家等市町村長が特定空家等の所有者に対し、除却、修繕、立木竹の伐採等につき、以下の措置を講ずる(特措法第14条)。
①助言又は指導
②勧告
③命令
④代執行
 
Q55.特定空家等に対する助言又は指導、勧告、命令は必ず順を経る必要があるか?
対象となる特定空家等とは、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある」など、将来の蓋然性を考慮した内容が含まれていること、かつその判断の裁量の余地があること、また措置の内容も所有者等の財産権を制約する側面があることから、よりソフトな手段である助言又は指導からはじまり、勧告、命令と所有者等に接触して必要な措置を講じることが望ましいため、必ず助言又は指導、勧告、命令の順を経る必要がある。
 
Q56.特定空家等に抵当権等が設定されていた場合、措置を行うに当たり、関係権利者と調整をする必要があるか?
特措法第14条に基づく措置の過程で抵当権等の担保物権や賃貸借契約による賃貸借権が設定されている等が判明することがある。この場合、同条に基づく「特定空家等に対する措置」は、客観的事情により判断される特定空家等に対してなされる措置(行政処分)であるため、命令等の対象となる特定空家等に抵当権等が設定されていた場合でも、市町村長が命令等を行うに当たっては、関係する権利者等と必ずしも調整を行う必要はなく、基本的に当該抵当権者等と特定空家等の所有者等とによる解決に委ねられる。
 
Q57.特定空家等の所有者等に対する助言又は指導とは?
特定空家等の所有者等に対する助言又は指導の内容は、特定空家等の除却・修繕・立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置である。
この場合、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態のいずれでもない特定空家等については、建物全部の除却の助言又は指導はできない(特措法第14条第1項括弧書き)。
助言又は指導の内容については、その趣旨(何をどのようにするのか等)を明示し、所有者等自らの改善を促すように努めるべきとされている。また、助言又は指導を行う場合には、助言又は指導の根拠規定に加え、所有者等が建築物等の状況を把握していない可能性を考慮し、どの建築物等が対象になっているのか、建築物の現状がどのようなものであるのか、どのように周辺の生活環境に悪影響を与えているのか等についても分かりやすく示すことが望ましいとされている。
 
Q58.特定空家等の所有者等に対する助言又は指導はどのように行うか?
助言又は指導は、口頭(電話を含む)によることが可能であるとされている。
助言又は指導は、特定空家等の所有者等に対し、当該助言又は指導の内容とその事由、当該助言又は指導の責任者を明示して行う。また、助言又は指導後においても特定空家等の状態が改善されない場合には、市町村長が勧告する可能性があること、市長村長が勧告をした場合には当該特定空家等の敷地が固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外される旨を示し、所有者等自らの改善を促すよう努めるべきであるとされている。
 
Q59.特定空家等の所有者等に対する勧告とは?
市町村長は、特措法第14条第1項に基づく助言又は指導をした結果、当該特定空家等の状態が改善されない場合、当該特定空家等の所有者等に対し、相当の猶予期限を付けて、必要な措置を勧告することができる(特措法第14条第2項)。
なお、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態のいずれでもない特定空家等については、建物全部の除却の勧告はできない(特措法第14条第1項括弧書き)。
 
Q60.特定空家等の所有者等に対する勧告はどのように行うか?
勧告は措置の内容を明確にするとともに、勧告を伴う効果を当該特定空家等の所有者等に明確に示すことから、書面(勧告書)で行わなければならない。
勧告書には、「対象となる特定空家等」「勧告に係る措置の内容(具体的に何をどのようにするのか)」「勧告に至った理由(特定空家等がどのような状態であって、どのような悪影響をもたらしているか、特定空家等の判断基準のどの状態に該当するか)」「勧告の責任者」「措置の期限」を記載する。「勧告に係る措置を実施した場合には当該責任者に報告すべきであること」「正当な理由なく措置を取らなかった場合は命令を行う可能性があること」「地方税法の住宅用地特例を受けている場合には、本勧告による措置を期限までに実施しない
場合には、当該特例の対象から除外されること」も併せて示すべきとされている。
 
Q61.特定空家等の所有者等に対する勧告はどのように送達するか?
直接手交、郵送などの方法から選択するとされている。
勧告は相手方への到達によって効力を生じ、勧告の相手方が現実に受領しなくとも当該勧告の内容を了知し得るべき場所に送達されれば到達と見なされる。従って、確実に送達されたことを確認できるよう配達証明郵便又は配達証明付内容証明郵便を選択することが望ましいとされている。
 
Q62.勧告の相手方が複数存在する場合の送達は?
所有者等が複数存在する場合は、市町村長が確知している当該空家等の所有者等全員に対して勧告を行う必要がある。従って、相続が発生している場合には、相続人の把握作業を進め、確知できた相続人全員に対して告知する必要がある。
 
Q63.勧告に係る措置の期限はどのように定めるか?
勧告を受けた所有者等が当該措置を行い、周辺生活環境への悪影響を改善するのに通常要すると思われる期間となる。
当然ながら対象となる措置の期限は、当該特定空家等の規模、措置の内容によっても異なるが、おおよそ当該空家等を整理するための期間や工事の施工に要する期間を合計したものが標準とされている。
 
Q64.特定空家等の敷地に対し、固定資産税等の住宅用地特例が解除されることになった背景は?
空家等の中でも特定空家等は地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているものであり、その除却や適正管理を促す必要性から、固定資産税等の住宅用地特例が解除されるという税制上の措置がされた。
また、人の居住の用に供すると認めらない家屋の敷地に対し、そもそも固定資産税等の住宅用地特例が適用され続けることは税の公平性の観点からも不適切という背景がある。
 
Q65.勧告の対象が立木や倉庫のみでも住宅用地特例が解除されるのか?
特定空家等に対する勧告の対象が立木や同一敷地内にある倉庫等のみの場合でも当該特定空家等の敷地に対する住宅用地特例の除外の対象となる。これは特定空家等の前提となる空家等は建築物等及び立木等を含むその敷地を一体として捉えているからである。
 
Q66.固定資産税等の住宅用地特例が解除される根拠規定は?特措法の施行に伴い、地方税法等の一部を改正する法律(平成27年法律第2号)が平成27年5月26日から施行され、住宅用地特例を規定する地方税法第349条の3の2が改正となった。
 
Q67.固定資産税等の住宅用地特例が解除されるのは特定空家等に対する措置のどの段階か?
特措法の規定に基づき勧告を受けることにより住宅用地特例の対象から除外され、最初に到来する1月1日を賦課期日とする年度から住宅用地特例が解除される。
従って、勧告を行う場合には、空家等施策担当部局は速やかに税務部局等関係内部機関へ情報提供を行うことが予定され、税務部局の事務に支障を来すことがないよう調整が図られることとなる。
なお、所有者等が勧告に従った措置を行った場合、勧告は撤回され、固定資産税等の住宅用地特例の要件を満たす家屋の敷地については再度特例の適用対象となる。
 
Q68.固定資産税等の住宅用地特例が解除されることによって固定資産税等はどのように変わるか?
固定資産税等の住宅用地特例の適用が解除されると、非住宅用地として取り扱われ、下記の課税標準の軽減特例措置がなくなる。
【住宅用地の特例率】
区分 面積 課税標準の軽減特例
小規模住宅用地 200㎡以下 固定資産税 6分の1
都市計画税 3分の1
一般住宅用地 200㎡を超える部分
(家屋の床面積の10倍まで) 固定資産税 3分の1
都市計画税 3分の2
非住宅用地となった場合でも固定資産税額は課税標準額に対する負担調整措置(都市計画税も同様)及び各市町村による条例減額制度に基づき、決定されることになるので、例えば小規模住宅用地の固定資産税について形式的に6倍に増加するわけではない。
 
Q69.勧告後に売買等を原因として特定空家等の所有者等が変わった場合、勧告の効力はどうなるか?
市町村長による勧告を受けた後に所有者等が売買等により変更になった場合は勧告の効力は失われる。
新たに当該特定空家等の所有者等になった者に対し、市町村長は改めてできるだけ迅速に助言又は指導から順を追って勧告を講じる必要がある。なお、所有者等が変更となる原因には贈与・相続、法人の場合の合併も含まれる。
 
Q70.勧告後に特定空家等の建物と敷地のいずれか一方の所有者等が変更となった場合、勧告の効力はどうなるか?
勧告を受けた後に特定空家等の建物とその敷地のいずれかが当該勧告後に所有者等が変わった場合でも、変更がなかった所有者等に対する効力は引き続き存続する。従って、建物又はその敷地の所有者等のいずれかが当該勧告に係る措置を履行しない場合、当該勧告に伴う措置は継続する。しかし、新たに特定空家等の建物又は当該敷地の所有者となった者に対し、改めてできるだけ迅速に助言又は指導から順を追って勧告を講ずる必要があるとされている。
 
Q71.勧告に対する不服申立の手段は?
勧告は行政手続法上の行政指導として規定されており、不利益処分にはあたらないため、不服申立はできない。なお、固定資産税等の住宅用地特例が適用されない点について、行政不服審査法の規定に基づき市町村長に異議申立が可能である。
命令と代執行は不利益処分であることから、不服申立が可能である。
 
Q72.特定空家等の所有者等に対する命令とは?
市町村長は勧告を受けた所有者等が正当な理由なくその勧告に係る措置をとらない場合、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付してその勧告に係る措置をとることを命じることができる(特措法第14条第3項)。
 
Q73.特定空家等に対する命令の手順は?
特定空家等に対する命令は以下の手順となる。
①命令に係る事前の通知
②所有者等から意見書の提出又は意見書の提出に代えて公開による意見の聴取の請求
③命令書の通知
④命令を行った旨の公示
 
Q74.命令に係る事前の通知書とは?
命令は不利益処分の性質を持つ行政処分であるので、命令の相手方に対し反論・防御の機会等の手続的保障を与えるため、あらかじめ命令に係る事前の通知書を措置を命じようとする者又はその代理人に対し、交付する必要がある。
 
Q75.特定空家等の所有者等に対する命令はどのように行うか?
命令に係る事前の通知書に示した意見書の提出期限までに意見書の提出がなかった場合、事前の通知書の交付を受けた日から5日以内に意見聴取の請求がなかった場合、意見書の提出又は意見聴取を経てもなお当該命令措置が不当でないと認められた場合は、市長村長は、当該措置を命令することができる(特措法第14条第3項)。
命令はその内容を的確に所有者等に伝え、同命令の到達を明確にすること等処理の確実性を期す観点から書面(命令書)で行う。
当該命令に対し不服がある場合は、行政不服審査法第6条の規定により、当該市町村長に異議申立てを行うことができる。なお、同命令に違反したものは、50万円以下の過料に処することになる(特措法16条第1項)。
 
Q76.命令を行った場合の公示はどのように行うか?
市町村長は命令を行った場合は、第三者に不測の損害を与えることを未然に防止する観点から必ず標識の設置をする。また、標識の設置とともに市町村の広報への掲載、インターネットの利用その他市町村が適切と認める方法により同項の命令がでている旨を公示しなければならないとされている(特措法第14条第11項)。
標識は命令に係る特定空家等に設置することができ(特措法第14条第12項)、当該特定空家等において目的を達成するのに最も適切な場所を選定してよいと解されるが、社会通念上標識の設置のために必要と認められる範囲に限られる。
 
Q77.特定空家等に対する代執行とは?
特措法に基づく代執行は、行政代執行の要件を定めた行政代執行法の特則との位置づけになる。市町村長が必要な措置を命じた場合において、その措置を命じられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても期限までに完了する見込みがないときは行政代執行法の定めるところに従い、代執行ができる(特措法第14条第9項)。
 
Q78.特措法で代執行ができる措置の要件は?
代執行ができる措置については以下の2つの要件を満たす必要がある。
①他人が代わってすることができる義務(代替的作為義務)に限られること
②当該特定空家等による周辺の生活環境の保全を図るという規制目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内のものとしなければならないこと(公益性)
これらの要件は、市町村長が助言・指導、勧告、命令を行うまでの過程において十分検討した上で判断しており、また命ぜられた措置が履行されないときは、それ自体が著しく公益に反する状況といえることから、改めて行政代執行法の要件に該当するか否かの判断をするまでもなく、市町村長が迅速機宜に行政代執行ができるようになった。
 
Q79.特定空家等に対する代執行の手順は?
特定空家等に対する代執行は以下の手順となる。
①文書による戒告
②再戒告
③代執行令書の通知
④代執行
 
Q80.代執行における「文書による戒告」とは?
代執行をなすには文書(戒告書)にて戒告をする必要があり、以下の内容を相手方に示す。なお、戒告の送達方法について具体的に定めはないが、勧告の送達方法に準じるものとされている。
①相当の履行期限
②その期限までに義務の履行がなされないときは、代執行をなすべき旨
相当の履行期限についての定めはないが、少なくとも戒告の時点から起算して当該措置を履行することが社会通念上可能な期限とされている。
 
Q81.代執行における「再戒告」とは?
戒告に定められた期限までに履行がなされない場合、市町村長は直ちに代執行令書による通知の手続きに移らず、再度戒告を重ね、義務者自ら履行する機会を与えることも認められるとされている。どの時点で代執行を実行するかについては、市町村長の判断となる。
 
Q82.代執行における「代執行令書の通知」とは?
義務者が戒告を受けて指定の期限までにその義務を履行しないときは、市町村長は書面(代執行令書)をもって、以下の内容を義務者に通知する。
①代執行をなすべき時期
②代執行のために派遣する執行責任者の氏名
③代執行に要する費用の概算による見積額
 
Q83.「略式代執行」とは?
勧告に基づく措置を命じようとする場合において、過失なく措置を命ぜられる者を確知することができないとき(過失がなくて助言又は指導及び勧告が行われるべき者を確知することができないため命令を行うことができないときを含む。)であっても、事前の公告を行うことで市町村長はその者の負担において、その措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任を受けた者に行わせることができる(特措法第14条第10項)。これを略式代執行という。
 
Q84.「過失がなくて」「確知することができない」とは?
「過失がなくて」とは、市長村長がその職務において通常要求される注意義務を履行したことを意味する。「確知することができない」とは、措置を命ぜられるべき者の氏名及び所在をともに確知しえない場合及び氏名を知り得ても所在を確知しえない場合とされている。
少なくとも不動産登記記録や住民票情報等市町村が保有する情報、固定資産課税情報等を活用せずに所有者等を特定できない場合は「過失がない」とは言えないとされている。所有者等が死亡している場合の確知についてはQ46参照。
 
Q85.特定空家等の相続人が全員相続放棄をした場合に略式代執行ができるか?
「過失なく措置を命ぜられる者を確知することができないとき」に該当するので、略式代執行が可能と考えられる。なお、不動産としての価値がほぼ無いものや、固定資産税滞納等をはじめ不動産に関連づけられる複数の債務が残存するなど、売却することで十分に回収できないものもあり、相続財産管理人の選任申立てをするか、又は略式代執行を選択するかは個別の事案に則して各市町村が判断するものとされている。
 
Q86.略式代執行における「事前の公告」とは?
略式代執行を行う場合には、あらかじめ相当の期限を定めて以下の内容の公告を行う必要がある。
①当該措置を行うべき旨 ②その期限までに当該措置を行わないときは、市長村長又はその措置を命じた者若しくは委任した者がその措置を行うべき旨
事前の公告は、当該市町村の掲示板に掲示し、かつその掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載する。相当と認められるときは、官報への掲載に代えて、当該市町村の「広報」「公報」等に掲載することをもって足りるとされている。
 
Q87.代執行に関する費用はだれが負担するか?
代執行に要した一切の費用は行政主体が義務者から徴収する。当該費用について、行政主体が義務者に対して有する請求権は、行政代執行法に基づく公法上の請求権であり、義務者から徴収すべき金額は代執行の手数料ではなく、実際に代執行に要した費用となる。従って、作業員の賃金、請負人に対する報酬、資材費、第三者に支払うべき補償料等が含まれ、義務違反の確認のために要した調査費等は対象外となる。
 
Q88.代執行に関する費用はどのように徴収するか?
納付命令書によって「実際に要した費用の額」「その納付日」を定め、その納付を命じる。費用の徴収は国税滞納処分の例による強制徴収が認められている。
一方、略式代執行の場合、強制徴収の規定がないため、義務者が任意に支払いをしない場合、市町村は民事訴訟を提起し、裁判所による給付判決を債務名義として民事執行法の規定に基づく強制執行を要することになる。
 
Q89.代執行の際、動産はどのように取り扱われるか?
特定空家等内に相当の価値がある動産が存する場合、まず所有者等に運び出すように連絡し、応じない場合は保管し、所有者等に期限を定めて引き取りに来るよう連絡することとされている。この場合、いつまで保管するかは、市町村の法務部局と協議して適切に定める必要がある。
 
Q90.これまで代執行が行われた例はあるか?
平成27年10月26日、横須賀市が特措法に基づき除却を行った。本件の経過は以下のとおりである。
・平成24年10月2日、市民から苦情を受けてきたことから建物所有者・管理者を探索するも確認できず。建築基準法による略式代執行を検討するも税情報を取得できない状態で略式代執行をすることは困難と判断。
・平成27年9月1日、特措法に基づく除却命令(同年10月22日まで)
・平成27年10月26日、略式代執行対象建物:木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 約60平方メートル解体費用:150万円
所有者:法人登記簿が閉鎖されており、現在の所有者・管理者は不明、土地の所有者も同じ法人名義
なお、特措法施行以前には空き家条例や建築基準法に基づく代執行が行われた例がある。
 
Q91.代執行と公売との関係は?
固定資産税等の回収の観点からは代執行をせずに公売の選択をすることも考えられる。
特定空家等には不動産の価値がほぼないものや、固定資産税滞納等をはじめ不動産に関連づけられる複数の債務が残存するなどの状態もあり、固定資産税の滞納を理由とする特定空家等の差し押さえ及び公売を行うか否かは課税庁である市町村の判断による。
 
Q92.助言又は指導から代執行まで概ねどの程度の期間を要するか?
特定空家等の代執行に至るまでには、必ず助言又は指導、勧告、命令、代執行の順を経る必要があり、さらに所有者等調査、立入調査に日数を要すれば、長期間を要する事案も予想される。
 
第6.その他
 
Q93.市町村が行う利活用としてどのような方法があるか?
利活用希望者に対し、インターネットや宅地建物取引業者の流通ネットワークを通じて購入又は賃貸の情報提供をすること、空家等を市町村等が修繕した後、地域の集会所、井戸端交流サロン、農村宿泊体験施設、住民と訪問客との交流スペース、移住希望者の居住に供すること、また、空家等の跡地をポケットパーク、漁業集落等の狭隘な地区における駐車場等として活用することが考えられる。
 
Q94.解体に関する補助はあるか?
市町村によっては解体に関する補助制度を設けている場合がある。
市町村の補助にかかる財源については、国及び都道府県は、補助、地方交付税制度の拡充、その他の必要な財政上の措置を講ずるものとされている(特措法第15条第1項)。
なお、民間においても解体ローンを設ける金融機関が増えてきている。
 
Q95.解体に関して他に制度はあるか?
平成28年度税制改正大綱に「相続により生じた空き家であって旧耐震基準しか満たしていないものに関し、相続人が必要な耐震改修又は除却を行った上で家屋又は土地を売却した場合の譲渡所得について特別控除(3,000 万円)」の創設が盛り込まれている。
 
Q96.特措法に関して罰則はあるか?
特定空家等の命令に違反したものは、50万円以下の過料に処せられる。
また、空家等の立ち入り調査を拒み、妨げ、または忌避した者は、20万円以下の過料に処せられる。
 
Q97.特措法と建築基準法との関係はどのようなものか?
他法令による諸規制については、特措法の成立にかかわらず、今までどおりの効力がある。
建築基準法では「保安上危険な建築物等に対する措置」について規定している。この規定により、特定行政庁は、損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となるおそれがある建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告、命令、行政代執行することができる。
 
Q98.特措法と災害救助法との関係はどのようなものか?
他法令による諸規制については、特措法の成立にかかわらず、今までどおりの効力がある。
都道府県知事が、該当市町村に災害救助法を適用した場合において、空家等が近隣の住民の生命又は身体に危険を及ぼすと認められる場合、市町村は災害救助法による障害物の除去が可能である。
なお、除雪については、都道府県知事が該当市町村に災害救助法を適用した場合であって、管理者が不明であったり、管理者自らの資力では除雪を行えない等により、倒壊して隣接する住居に被害が生じるおそれがあるときには、市町村による障害物の除去としての除雪が可能である。
 
Q99.特措法と道路法との関係はどのようなものか?
他法令による諸規制については、特措法の成立にかかわらず、今までどおりの効力がある。
道路法では、「道路に関する禁止行為」について規定している。空き家が道路の構造又は交通に危険を及ぼしている場合、道路管理者は、道路及び条例で指定する沿道区域において道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある行為を防止するために必要な措置を命ずることができる。なお、道路法には行政代執行法の準用規定はない。
 
Q100.特措法と消防法との関係はどのようなものか?
他法令による諸規制については、特措法の成立にかかわらず、今までどおりの効力がある。
消防法では、消防長、消防署長その他の消防吏員は、火災の予防に危険であると認める場合に、みだりに存置された燃焼のおそれのある物件の除去等を所有者等に命ずることができる。また、消防長又は消防署長は、建築物の構造又は管理等の状況について、火災の予防に危険であると認める場合に、建築物の改修等を所有者等に命ずることができる。消防長又は消防署長は上記の命令による措置が講じられないとき等は代執行が可能である。