債権者の対応

 住宅ローンの支払いが滞り、延滞が長期化すると、住宅ローン債権者は概ね次のような対応をしてきます。

① 延滞金の督促
 支払いが半年程度遅れてしまうと、内容証明郵便などで延滞金を支払うように督促してきます。
 「何月何日までに支払いがない場合には期限の利益を喪失し、残金を一括してお支払いいただくことになります」
 というような内容が書かれています。
 「期限の利益を喪失」するというのは、これまでのように住宅ローンを月々分割して支払っていくことができなくなるという意味です。
住宅を維持するためには、この段階で早めに対応する必要があります。

 この時点における対処法

 a 親族などから調達して延滞金を一括して支払い、正常な状態に戻す。
 b 親族などから調達して延滞金を一括して支払い、今後の月々の支払額、ボーナス時期の支払額、返済期間等について金融機関に相談する(リスケジュールの相談)。
 c 個人再生の申立てを準備し、平行して金融機関と今後の月々の支払額、ボーナス時期の支払額、返済期間等について金融機関に相談する(リスケジュールの相談)。
 d 破産申立てをする。

 なお、このような延滞状態になっている場合、他の金融機関で融資を受けて住宅ローンを借り換えることは不可能であると思われます。一般的に、金融機関は延滞金を解消するための融資は行いません。
 延滞状態を解消するために消費者金融などから借り入れるのは愚策です。住宅ローンよりも遙かに高い金利を払えなくなるのは目に見えています。
 なお、金融機関によっては、「おまとめ」を進めてくる場合があります。これは、住宅ローンと住宅ローン以外の借金をまとめて借り換えをして、担保を付け替えるものです。これにより、一時的に返済が楽になるかもしれませんが、このような借り換えを行ってしまうと、将来、個人再生で住宅ローン特則を利用できなくなる(つまり、住宅を保持する目的で個人再生を使えなくなる)のでご注意ください。

② 預金の相殺と代位弁済
 ①の督促で期限の利益を喪失してしまうと、金融機関は代位弁済を受ける準備を進めます。
 代位弁済とは、住宅ローンを保証している会社が住宅ローン利用者に代わって金融機関に残金全額を支払うことです。代位弁済が行われると、金融機関は住宅ローンの全額を回収したことになりますので、金融機関から督促が来ることはなくなります。
 しかし、今後は、金融機関に肩代わりして支払った保証会社が住宅ローン利用者に請求してくることになります。
 ここまで進みますと、住宅ローンを少しずつ支払って住宅を持ち続けることは困難な状況になります。なぜなら、保証会社は、肩代わりした金銭を回収するのが仕事だからです。

 この時点における対処法

 基本的には前記①の場合と同じです。
しかし、個人再生の申し立てをして住宅ローン特則を利用することをお考えの場合には、代位弁済の日から6カ月以内に個人再生の申し立てをする必要があります。申し立ての準備には最低でも2カ月程度はかかりますので、早めに検討する必要があります。

③ 任意売却の打診
 保証会社が代位弁済した後に、不動産業者が突然訪れ、「住宅売却のお手伝いをします」と言って訪れることがあります。こうした不動産業者は保証会社から依頼されて住宅を売却し、保証会社は売却代金から肩代わりした金銭を回収することになります。
 保証会社がいきなり競売の申立てをしないのは、一般的に、競売では売却代金が安くなってしまうからです。競売ではなく、通常の方法で売却する方が回収金額が多く、保証会社にメリットがあるのです。

 この時点における対処法

 任意売却に協力するのが得策であると思われます。自らも、親戚等で購入してもらえる方がいないか探してみましょう。もしも、親戚等が購入してくれ、それを賃借することができれば住み続けることが可能となります。
 また、任意売却であれば、不動産業者が債権者と協議して売却代金から若干の引越代を出してもらうこともあります(必ず出してくれるというわけではありませんので期待しないでください)。
 なお、自宅を売却しても住宅ローン債権者に全額返済できない場合、返済できない金額は売却後も借金として残ります。たとえば、住宅ローンが3000万円残っていて、住宅が2000万円で売却できた場合、残り1000万円は借金として残ってしまうということです。
 今後、賃貸住宅等に転居して生活していくことを考えると、残ったローンの返済は困難なことも多いと思いますので、そのような場合は自己破産を検討する必要もあるでしょう。

④ 競売申立
保証会社は任意売却を試みながら、競売の申立をします。競売手続が始まっても、任意売却で競売よりも高く売れる場合には任意売却成立と同時に競売申立てを取り下げます。任意売却が成立しない場合には競売手続で売却を進めることになります。

  この時点における対処法

 基本的には上記③と同じです。
 なお、競売により落札されると住宅の所有権は落札者に移転しますので、住宅に住み続けることは不法に住宅を占有していることになります。落札者は裁判所で不動産引渡命令等を得て、強制的に住宅の引渡しを実現することもできますので、そのような事態になる前に明け渡すのが得策であると思います。
 なお、競売により落札されても、競売の代金により住宅ローン債権者に全額返済できない場合には、返済できない金額は売却後も借金として残ることは任意売却の場合と同じです。したがって、この場合も、自己破産を検討する必要があるでしょう。