裁判による回収

◇実は、裁判費用は高くありません

 裁判が敬遠される理由のひとつが裁判費用です。裁判には費用がかかるという話がよく聞かれます。では、具体的にどのような金額がかかるのでしょうか。
 裁判に関する費用は、大きく分けると、実費(申立手数料、郵便切手等)と報酬(弁護士または司法書士に依頼する場合)です。
このうち、
申立手数料については、意外に高くありません。たとえば100万円を支払って欲しいという訴訟を提起する場合の申立手数料は1万円です。また、郵便切手は、5000円~7000円程度を見込んでおけばよいでしょう。したがって、100万円の訴訟を行う場合には、申立手数料と郵便切手で、実費は17000円程度ということになります。
「裁判には費用がかかる」という理由で裁判が敬遠されているのは、どちらかというと、弁護士や司法書士の報酬が高額になるのでないか、と心配しているからでしょう。

◇140万円以内なら認定司法書士が訴訟を代理できます

 「裁判」というと弁護士を連想される方が多いと思いますが、140万円以内の請求であれば認定司法書士も依頼者を代理して訴訟を進めることができます。会社の登記等で身近な存在である司法書士に、相談してみてはいかがでしょうか。

◇裁判手続を利用しない手はありません

 よく、「裁判沙汰」とか「裁判に巻き込まれる」という 言い方で、裁判手続は敬遠されることが多いようです。また、裁判手続を駆使して債権回収をされている会社などに対して、血も涙もないというイメージすら持たれている方もいらっしゃるようです。
 しかし、当事者間で交渉しても解決しなかったり、そもそも相手方が交渉にも応じないという場合は、裁判手続を利用しない手はありません。
たとえば、訴訟を提起すると、裁判所は相手方に呼出状を送付して、裁判期日に裁判所に出頭するように相手方に促します。相手方がことを無視して出頭もせず、反論も提出しない場合には、相手方は、敗訴等の不利益な結果を受けることになります。つまり、裁判では、「逃げ得」は許されないのです。

◇裁判は手段にすぎません。最終目的は債権回収です

 何のために裁判をやるのか、その意味をはっきりさせておきましょう。もちろん、代金を支払って欲しい、貸したお金を払って欲しい、などということなんですが、それ以外に、一言「すいませんでした」と言って欲しいとか、払えなかった理由を説明して欲しい、といった要望もあるかもしれません。
 しかし、現在の裁判制度では、相手に謝らせることは難しいし、払わなかった理由の説明を強制することも困難です。裁判では、原則として金銭的な請求が中心となります。

◇最終的に、どこから回収するか

「被告は原告に対し金10万円を支払え」という判決が確定したとしましょう。でも、相手方に支払う気持ちなどさらさらなかったり、気持ちはあっても先立つ物がないということもよくあります。
しかし、判決が出たからといって、裁判官が責任をもって相手方を説得してくれるようなことはありません。

 したがって、相手方が判決どおりの支払いをしない場合には、裁判所に、「相手方の財産を差し押さえてお金に換えてください」という申立てをする必要があります。これを「強制執行の申立て」とか「差押え」など言います。
問題は、強制執行の申立てに際しては、どの財産を差し押さえるのか、申立てる時に申立人が特定しなければならないということです。相手方の銀行預金を差し押さえるのであれば、少なくとも「何々銀行何々支店の預金全部」というところまで絞り込んだうえで申し立てる必要があるのです。また、相手方が受領している給料を差押さえる場合にも、相手方がどこから給料をもらっているのかを特定しなければ、裁判所は申立の書類すら受け付けないということになります。
このように、強制執行により金銭を回収するのは大変なストレスがかかることになります。ですから、そこまで行く前に交渉や裁判所での話し合いで解決するのが得策とも言えます。

裁判費用は誰が払うのか

 払ってもらうべきお金が払われないから裁判をするのに、それにかかる費用まで負担させられるのはたまらないという意見もあるでしょう。裁判費用は誰が払うことになるのでしょうか。
 訴訟で原告が勝訴したときは、判決には、「訴訟費用は被告の負担とする」と書かれるのが一般的です。逆に、被告が勝訴したときは「訴訟費用は原告の負担とする」ということが判決に書かれます。訴訟が、お互いの歩み寄りによって和解によって終了する場合は、「訴訟費用は各自の負担とする」ということになります。
 しかし、これらの「訴訟費用」というのは、申立手数料、郵便切手代が主なもので、弁護士や司法書士に依頼した場合の報酬は残念ながら含まれていません。しかも、この「訴訟費用」の金額を確定するためには、目的としていた裁判とは別に訴訟費用額確定の裁判を受けなければならないことになっています。
そのため
、面倒な訴訟費用額確定の裁判をやるぐらいなら訴訟費用の回収は断念するということも多く見られます。
 訴訟費用に弁護士や司法書士の報酬が含まれないというのは、日本の裁判制度がそうした専門家に依頼しなくても本人でできることを前提としているからだと思われます。