民法改正

2020年4月に施行された改正民法の下での賃貸借契約の注意点

2020年4月1日から改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が施行されます。このページでは、民法改正後の賃貸借契約における注意点をFAQ方式で作成してみました。日々更新していきますので、参考となればさいわいです。

 なお、FAQに記載した意見に関する部分は当事務所に所属する司法書士の個人的な見解も多く含まれていますのでご了承ください。

 

新法適用の注意点

  • 不動産賃貸借契約に対して改正民法が与える影響を教えてください

    詳細な解説は別のFAQで行うこととしますが、大きく3つのポイントがあると思われます。

    ひとつめは、賃貸借契約について直接改正された部分です。たとえば、敷金に関する規定の新設、賃借人の原状回復義務の取扱いの明確化、賃借人の修繕権などがあります。

    次に、保証ルールの改正も大きな影響があります。賃貸借契約に個人の保証人をつける場合には限度額を定めておかなければ保証契約が無効となってしまいます。また、事業のために賃借する場合の個人の保証人には、賃借人が自らの財産状況を保証人に説明しておく必要があります。

    三つ目は、その他の改正点が及ぼす影響です。たとえば、改正民法施行時の法定利息は年3%ですから、滞納家賃の遅延損害金利率に影響があります。また、賃貸借契約解除を目的として滞納家賃の催告をした場合、一部のみの支払いしかなかったときでも、改正民法により、賃貸借契約を解除できないこともあり得ます。

  • 2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されますか

    改正民法が施行される2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されるかどうかは、改正民法の「附則」を注意して見ておく必要があります。

    施行日前に贈与、売買、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例によるとされていますから(附則34条1項)、2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約には旧法が適用されます。

    また、施行日前に通知が発せられた意思表示の効力発生時期については旧法が適用されますので(附則6条2項)、例えば、施行前に発せられた解除等の意思表示の到達は旧法が適用されます。

    さらに、施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例によるとされていますから(附則10条4項)、施行前に生じた賃料等の消滅時効期間は旧法が適用されます。

    このほか、施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率についてはなお従前の例によるとされていますから(附則15条1項)、施行前に生じた利息は旧法が適用され、施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率についてもなお従前の例によるとされていますから(附則17条3項)、施行前に生じた利息の法定利率は旧法によります。

    また、施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例によるとされていますから(附則21条1項)、施行前にされた保証契約には旧法が適用されます。

    さらに、施行日前に契約が締結された場合におけるその契約の解除については、なお従前の例によるとされています(附則32条)。

    一方、施行日前に締結された定型取引に係る契約については、改正民法の適用を受けることとなりますので(附則33条)、賃貸借契約に付随して締結された定型取引に係る契約は、改正民法施行により定型約款の規定の適用を受けることになります。

 

敷金に関する注意点

  • 民法改正により、敷金について定められたことはありますか

    実は、敷金については、これまではっきりとした規定は民法にありませんでした。そこで、今回の民法改正で、初めて次のような規定が設けられました。

    民法622条の2第1項

    「賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
    1 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
    2 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。」

    もっとも、この規定は、これまで敷金について一般的に理解されていた内容と異なるものではありませんので、実務的な影響は少ないものと考えられます。

  • 民法改正後、敷金の返還時期を、「賃貸物の返還を受けたとき」ではなく、「賃貸物の返還を受けた後1ケ月後」とか、「敷金の半額を控除して返還する」などと定めることは可能でしょうか

    改正民法では、敷金は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」には、「その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」と規定していますが、当事者間でこれと異なる契約をすること自体を禁止しているわけではありません。したがって、ご質問のような契約も原則として可能と考えられます。

    しかしながら、賃借人が消費者である個人の場合には、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項で消費者の利益を一方的に害するような契約は、消費者契約法によって無効となる可能性がありますので注意が必要です。

  • 賃貸借契約継続中に、賃借人から敷金を滞納家賃に充当するように請求することはできますか

    できません。賃借人は、賃貸借契約にもとづいて賃料を支払う義務があります。賃借人から敷金を滞納家賃に充当するように請求することはできません。

    逆に、賃貸借契約継続中に、賃貸人から、敷金を滞納家賃に充当することはできます。その場合には、賃借人に対して充当した金額を敷金として再度預けるように請求することができます。

 

修繕・現状回復についての注意点

  • 賃借人が結露を放置していたために物件にシミができてしまいました。賃借人の退去時に修繕費を請求することができるでしょうか

    賃借人は、賃借物を善良な管理者としての注意を払って使用する義務を負っています(民法400条)。建物の賃借の場合には、建物の賃借人として社会通念上要求される程度の注意を払って賃借物を使用しなければならず、日頃の通常の清掃や退去時の清掃を行うことに気をつける必要があります。

    賃借人が不注意等によって賃借物に対して通常の使用をした場合よりも大きな損耗・損傷等を生じさせた場合は、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになります。例えば、通常の掃除を怠ったことによって、特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合も、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになると考えられます。

    また、飲み物をこぼしたままにする、あるいは結露を放置するなどにより物件にシミ等を発生させた場合も、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになると考えられます。

    なお、物件や設備が壊れたりして修繕が必要となった場合は、賃貸人に修繕する義務がありますが、賃借人はそのような場合には、賃貸人に通知する必要があるとされており、通知を怠って物件等に被害が生じた場合(例えば水道からの水漏れを賃貸人に知らせなかったため、階下の部屋にまで水漏れが拡大したような場合)には、賃貸人は、賃借人に対し、損害賠償を求めることも可能である場合があると思われます。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 賃借人が原状回復すべき部分が一部分の場合、賃借人の負担すべき補修費用の算出はどのようにすればいいですか

    原状回復は毀損部分の復旧ですから毀損部分に限定する必要があります。しかしながら、通常、当該部分のみの補修工事を施工単位としない場合には、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位を負担対象範囲として算出すべきです。

    この場合、毀損部分と補修工事施工箇所にギャップがあるケースが問題となります。

    例えば、壁等のクロスの場合、毀損箇所が一部であっても他の面との色や模様あわせを実施しないと商品価値を維持できない場合があることから、毀損部分だけでなく部屋全体の張替えを行うことが多いと思われます。しかし、賃借人の負担すべき修繕義務という観点からは、賃借人にどのような範囲でクロスの張替え義務があるとするかということが問題となります。

    この点、当該部屋全体のクロスの色・模様を一致させるのは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きいというべきであり、当該部屋全体のクロスの張替えを賃借人の義務とすると、原状回復以上の利益を賃貸人が得ることとなり、妥当ではありません。

    一方、毀損部分のみのクロスの張替えが技術的には可能であっても、その部分の張替えが明確に判別できるような状態になり、このような状態では、建物価値の減少を復旧できておらず、賃借人としての原状回復義務を十分果たしたとはいえないとも考えられます。

    したがって、クロス張替えの場合には、毀損箇所を含む一面分の張替費用を賃借人の負担とすることが妥当と考えられます。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 賃貸借契約中に修繕が必要となった場合、誰が修繕費を負担しなければなりませんか

    改正民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」と定めています。

    つまり、原則として賃貸人が修繕義務を負うが、賃借人の責任で修繕が必要となった場合には賃貸人は修繕義務を負わないということです。

    これまでは、この点について明確な規定はありませんでしたが、民法改正により規定が設けられました。

    したがって、賃貸人の立場から言えば、修繕が必要となった場合には、どうして修繕が必要となったのか、その事情を賃借人から説明してもらうことが必要となります。そして、それが専ら賃借人の責任によるものであれば、賃貸人は修繕義務を負わないということになります。

    そして、現実的な対応としては、修繕の負担について修繕をする前に充分協議したうえで進めていくことが必要であると考えられます。

  • 賃貸借契約終了後の原状回復について、民法改正で定められたことはありますか

    改正民法621条は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定しました。

    実は、これまでは、賃貸借契約終了後の原状回復について民法にこれほど具体的な規定は置かれていませんでした。もっとも、平成17年の最高裁判決では、賃借人が通常の使用をしていても生じる損傷や劣化(自然損耗)については、賃借人は原則として原状回復費用を負担する義務はないと判断されましたから、裁判実務ではこの考えが定着しています。なお、この判例では、例外的に、賃貸借契約等で、賃借人が負担すべき損傷の範囲が具体的かつ明確に定められている場合には賃借人が原状回復費用を負担する必要があると判断しています。

    今回の民法改正で上記のような具体的な規定が設けられましたが、これは、それまでの最高裁判例等を踏まえて原状回復費用の負担のルールを明確にしたということができます。

  • 民法改正後、賃貸借契約等で、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大することは可能ですか

    改正民法621条で定める賃借人の原状回復義務の規定(賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない)は任意規定と解されています。

    このため、賃貸人と賃借人との間でこれと異なる特約を定め、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大することは、理論上は可能です。しかし、そのハードルは、決して低くはありません。

    この点について、最高裁判例では、「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」との判断が示されています。

    また、消費者契約法9条1項1号は、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効であること、同法10条で「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定されています。

    したがって、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大する旨の特約を設ける場合ためには、例えば家賃を低廉に設定する代わりに、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大するなどの必要性を明らかにして、明け渡しの際の原状回復の内容等を具体的に契約前に開示し、賃借人の十分な確認を得たうえで、双方の合意により契約事項として取り決める必要があります。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 改正民法621条は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」規定されていますが、具体的な責任分担がイメージできません。

    国土交通省住宅局が公表しているガイドラインでは、次のような図を用いて修繕等の費用の負担者について説明しています。

    「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」国土交通省住宅局 平成23年8月より抜粋

    A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものは、「経年変化」か、「通常損耗」であり、これらは賃貸借契約の性質上、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものである。したがって、賃借人はこれらを修繕等する義務を負わず、この場合の費用は賃貸人が負担することとなる。

    A(+G):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものについては、上記のように、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものであり、賃借人は修繕等をする義務を負わないのであるから、まして建物価値を増大させるような修繕等(例えば、古くなった設備等を最新のものに取り替えるとか、居室をあたかも新築のような状態にするためにクリーニングを実施する等、Aに区分されるような建物価値の減少を補ってなお余りあるような修繕等)をする義務を負うことはない。したがって、この場合の費用についても賃貸人が負担することとなる。

    B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものは、「故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等」を含むこともあり、もはや通常の使用により生ずる損耗とはいえない。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

    A(+B):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられる。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

    なお、これらの区分は、あくまで一般的な事例を想定したものであり、個々の事象においては、Aに区分されるようなものであっても、損耗の程度等により実体上Bまたはそれに近いものとして判断され、賃借人に原状回復義務が発生すると思われるものもある。したがって、こうした損耗の程度を考慮し、賃借人の負担割合等についてより詳細に決定することも可能と考えられる。

  • 賃貸借契約終了時にクリーニング費用を敷金から差し引くことは可能ですか

    クリーニングに関する特約についてもいろいろなケースがあり、修繕・交換等と含めてクリーニングに関する費用負担を義務付けるケースもあれば、クリーニングの費用に限定して借主負担であることを定めているケースがあります。

    後者についても具体的な金額を記載しているものもあれば、そうでないものもあります。

    クリーニング特約の有効性を認めたものとしては、契約の締結にあたって特約の内容が説明されていたこと等を踏まえ「契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わす専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円(消費税別)を負担する旨の特約が明確に合意されている」と判断されたもの(東京地方裁判所判決平成21年9月18日)があり、本件については借主にとっては退去時に通常の清掃を免れる面もあることやその金額も月額賃料の半額以下であること、専門業者による清掃費用として相応な範囲のものであることを理由に消費者契約法10条にも違反しないと判断しました。他方、(畳の表替え等や)「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約は、一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えないと判断したもの(東京地方裁判所判決平成21年1月16日)もあり、クリーニング特約が有効とされない場合もあることに留意が必要です。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

 

保証人についての注意点

  • 民法改正前に賃貸借契約が締結され、同時に保証契約も締結されました。そして、民法改正後に賃貸借契約が法定更新されました。保証契約については何ら合意はありません。この場合、法定更新後は保証契約が継続しているのでしょうか。また、存続しているとしたら、新法、旧法のどちらが適用されるのでしょうか

    まず、前段のご質問については、原則として、更新後の賃借人の債務についても保証人の責任が生じるとするのが判例です(最判平成9年11月13日)。後段については未だ明確ではなく、今後の実務の趨勢を見ながら検討する必要がありますが、もしも、新法が適用されるとすると、極度額を定めて合意をしておく必要があり、何ら合意をしていない場合には、極度額の定めがないことを理由に無効となる可能性があります。

  • 民法改正後、賃貸借契約に個人保証をつける場合の注意点を教えてください

    一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(いわゆる「根保証契約」)であって保証人が法人でないもの(いわゆる「個人根保証契約」)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負うものとされ、個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じないとされました(民465条の2)。

    賃貸借契約の個人保証も「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」ですから個人根保証契約であり、この条文が適用されます。

    さらに、その極度額は書面等で定めなければ保証契約が無効となってしまいますので注意が必要です。

  • 民法改正後、会社等の法人が賃貸借契約の保証人となる場合、保証契約に極度額を定めることは必要ですか

    民法改正後に個人が賃貸借契約の保証人となる場合には保証契約に極度額を定めることが必要ですが、会社等の法人が賃貸借契約の保証人となる場合には、保証契約に極度額を定めることは必要ありません。これは、会社等の法人は、リスクを負うかどうかについて自らの責任で判断すべきだからです。

  • 賃貸借契約の場合、改正民法が規定する保証人の極度額にはどのような債務が含まれますか

    一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(いわゆる「根保証契約」)であって保証人が法人でないもの(いわゆる「個人根保証契約」)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負うものとされ、個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じないとされました(民465条の2)。

    そこで、賃貸借契約においてどのような債務が含まれるのかを考えてみますと、滞納家賃、滞納家賃に対する利息や遅延損害金、賃貸借契約から生じる違約金、損害賠償金などが含まれると考えられます。

  • 民法改正後に、極度額を100万円と定めて賃貸借契約の連帯保証人となった個人が、滞納家賃を60万円支払って家賃滞納が解消されました。ところが、その後再び滞納が始まり、滞納家賃が80万円となった場合、賃借人は連帯保証人にいくらの保証債務の履行を請求できるでしょうか。

    この場合、極度額が100万円であり、既に連帯保証人は60万円の保証債務を履行していますので、賃貸人が連帯保証人に請求できる金額は40万円が限度となります。100万円の限度額の範囲である80万円全額を請求できることにはなりませんので注意が必要です。

  • 民法改正後に賃貸借契約の保証契約を個人と結ぶ場合は極度額を定めなければならないとされましたが、「賃料○カ月分」というような定め方でもいいでしょうか

    極度額を定める場合の定め方については、今後の実務や裁判例を注視していく必要があり、「賃料○カ月分」という定めが有効かどうか、現時点では不明です。なぜなら、賃料はしばしば改定されることがありますので、「賃料○カ月分」という極度額の定めでは賃料改定により極度額が実質的に変動することになり、具体的な金額を定めたものとは言いがたいものとなってしまうからです。

    ちなみに、平成16年改正で設けられた貸金等根保証契約の限度額については、具体的な金額を定めなければならないと解説しているものもありますので、その考え方を踏襲すると、「賃料○カ月分」という定め方は避けた方が無難であると思われます。

    それでも、「賃料○カ月分」という定め方をするのであれば、「当初賃料○カ月分」等と、具体的金額が変動することなく把握できるようにすべきであると思われます。

  • 民法改正後に賃貸借契約の保証契約を個人と結ぶ場合は極度額を定めなければならないとされましたが、さまざまな損害に対応するために極度額を相当高めに設定することは可能でしょうか

    極度額を定める場合には、家賃の額、予想される損害の額、敷金の額、保証人の資力、家賃滞納等で解除し明け渡しを求めるのにどの程度の期間を要すると考えるのが合理的か、などを総合的に勘案して定めるのが一般的かと思われます。したがって、そのような計算からかけ離れた金額を極度額として定めた場合には、公序良俗に反して無効とされてしまうことも考えられます。

    仮に、極度額の定めが無効とされてしまうと、極度額を定めていないと同じことですから、個人根保証契約も無効とされ、保証人に何の請求もできないこととなりますので注意が必要です。

  • 民法改正後に賃貸借契約の保証契約を個人と結ぶ場合は極度額を定めなければならないとされましたが、どのような基準で極度額を定めたらいいでしょうか

    民法では特に基準を定めていませんが、一般的に言えば、家賃の額、どのような物件か、保証人をつける目的、賃借人の資力、保証人の資力、予想される損害の内容、解約時の修繕の程度などを考慮して定めることになるでしょう。また、家賃滞納があった場合には、そのまま放置すると極度額を高めに設定しなければなりませんので、放置せずに早期に対応していくことを前提として合理的な範囲で定めるべきかと思われます。

  • 賃貸借契約の連帯保証人は、どのような債務を支払わなければなりませんか

    賃貸借契約の連帯保証人は、賃貸借契約にもとづいて賃借人が支払わなければならない様々な債務を支払う必要があります。家賃や、賃貸借契約解除後に至っても賃借人が退去しないために生じた損害賠償債務、賃貸物件の設備を壊してしまった場合の修繕費、退去後に放置された物品の処分費等、その範囲は広範です。賃借人が賃貸物件内で自殺をしてしまった場合には、それが原因で他人に賃貸できなくなったことによる損害賠償債務を負うこともあります。

    このため、改正民法では、個人の連帯保証人の責任が制限なく広がらないように改正がされました。

  • 賃貸借契約期間中であっても個人の連帯保証人の責任の範囲が確定することがあると聞きましたが、どのような場合に確定するのですか

    改正民法は、次の場合に賃貸借契約の個人の連帯保証人の責任の範囲が確定することとしました。この改正は、実務的にも大きな影響がありますので注意が必要です。

    ① 賃借人の死亡
    ② 保証人の死亡
    ③ 保証人が破産したとき
    ④ 保証人の財産に強制執行がされたとき

  • 民法改正後の賃貸借契約において、賃借人が死亡したときは個人保証人の責任の範囲が確定するようですが、具体的にはどのようになるのですか

    改正民法では、賃借人が死亡した場合には個人保証人の責任の範囲が確定することとされました。たとえば、賃借人Aが死亡したときは、その時点でAが賃貸人に支払うべき債務の範囲で個人保証人の責任の範囲が確定しますから、仮に、10ケ月分の賃料滞納があった場合には、その後もAの相続人が賃料滞納を続けたとしても、個人保証人Bは10ケ月分のみの責任を負えば足ります。この場合、もしも、個人保証人Bの極度額が10ケ月分未満の金額である場合には、個人保証人Bの責任は極度額までということになります。

    ところで、賃借人Aが死亡したとしても賃貸借契約は終了せず、Aの相続人が賃借人の地位を承継することになります。そうしますと、Aの死亡時点以降はBは保証人としての責任を負わなくてよいことになりますから、賃貸人としては保証人がいない状態で賃貸借契約を続けなければならなくなります。

    したがって、賃借人が死亡した場合には、新たに保証人を徴求するなどの対応が必要になるケースがありますので注意が必要です。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、個人保証人が死亡したときは保証人の責任の範囲が確定するようですが、具体的にはどのようになるのですか

    改正民法では、賃貸借契約の個人の保証人が死亡した場合には保証人の責任の範囲が確定することとされました。たとえば、個人保証人Bが死亡したときは、その時点で賃借人Aが賃貸人に支払うべき債務の範囲で保証人の責任の範囲が確定しますから、仮に、10ケ月分の賃料滞納があった場合には、保証人Bの相続人は、10ケ月分のみの責任を負えば足ります。この場合、もしも、保証人Bの極度額が10ケ月分未満の金額であった場合には、保証人Bの相続人の責任は極度額までということになります。

    ところで、保証人Bが死亡したとしても賃貸借契約は終了しません。そうしますと、Bの死亡時点以降に発生する債務についてはBの相続人は責任を負わなくてよいことになりますから、賃貸人としては保証人がいない状態で賃貸借契約を続けなければならなくなります。この点は注意が必要です。

    したがって、保証人が死亡した場合には、新たに保証人を徴求するなどの対応が必要になるケースがありますので注意が必要です。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、賃借人や個人の保証人が破産した場合にはどのような影響があるのでしょうか

    賃借人が破産したとしても、賃借人が賃料を支払い続けている限り、賃貸借契約が終了することはありませんし、保証人の元本が確定することもありません。一方、個人の保証人が破産したときは、保証人の元本が確定し、その時点における賃借人の債務額を保証債務として破産手続きにより処理されることになります。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、保証人の財産に強制執行がされたときには保証債務の元本が確定するとされたのはなぜですか

    保証人の財産に強制執行や担保権の実行がされるときは、保証人が相当程度苦境に陥っていることが考えられるため、個人保証人の保護のために元本を確定させることとしたと言われています。

  • 民法改正により、賃貸借契約の個人保証人には極度額を定めなければならないこととされましたが、確定した元本が極度額より低い場合、元本額だけの責任を負うことになりますか

    元本に対しては遅延損害金が発生します。遅延損害金の率は賃貸借契約で定められていることが多いと思われますが、定められていない場合には法定利率により計算します。ちなみに、改正民法施行時の法定利率は年3パーセントです。確定した元本が極度額を下回っていたとしても、遅延損害金は日々発生します。保証人が責任を負う極度額にはこの遅延損害金が含まれることになります。もっとも、どんなに遅延損害金が発生しても、保証人が責任を負うのは極度額の金額が上限となります。

  • 民法改正後に賃借人が賃借物件内で自殺してしまった場合、その部屋を貸し出すことができません。相続人や保証人に損害賠償請求できますか

    賃借人が賃借物件内で自殺してしまうと、嫌悪感のため、通常はその物件の賃借を希望する人が見つかりません。したがって、賃借人の相続人に対して損害賠償請求することは可能と考えられます。この賃貸借契約に個人保証人がいる場合には、賃借人の死亡によって保証債務の額が確定しますが、賃借人の死亡の時に損害賠償請求権が発生すると考えられますから、個人保証人に対しても損害賠償の保証債務を履行することを求めることは可能です。

    ところが、民法改正により、個人保証人の場合には極度額を定めておく必要がありますので、将来、このような事態が生じた場合にどの程度の損害賠償請求をすることができるかを予想して極度額を定めておく必要があります。

    様々な裁判例がありますが、東京地裁平成19年8月10日の判決では、2年分の賃料に相当する損害賠償を認めました。2年分というのは、最初の1年間は貸し出すことができず、次の2年間は半額の家賃でなければ貸し出すことができないという計算です。このような裁判例を参考にしながら極度額を検討する必要もありそうですね。

  • 民法改正後において、賃貸借契約に保証会社をつける場合には保証の極度額を定めなくてもいいですか

    民法改正により個人の保証人には極度額を定めなければならないこととなりましたが、これは、個人の保証人が過大な保証債務を負担することがないように限度額を定めることを義務付けたものです。したがって、賃貸借契約に保証会社をつける場合には、原則として保証の極度額を定める必要はありません。

    保証会社は、家賃滞納等があった場合には賃借人に代わって賃貸人に賃料等を支払いますが、保証会社はその金額等を賃借人に求償することになります。そして、その求償権を保全するために個人の保証人を徴求することがあります。そのような場合に、保証会社が個人保証人に対して求償できる限度額を定めておかなければ個人の保証人保護に欠けることとなります。

    そこで、保証会社の求償権を保全するために個人の保証人を徴求する場合には、賃貸人と保証会社との間の保証契約に極度額を定めておかなければならないとされましたので注意が必要です。

  • 民法改正により、賃貸借契約の賃借人は、保証人になろうとする者に対し、賃借人の財産状況を説明しなければならなくなると聞きましたが

    民法改正により、賃貸借契約における個人の保証人の保護が強化されましたが、賃貸借契約の賃借人が保証人になろうとする者に対し賃借人の財産状況を説明しなければならないとされるのは、一定の場合に限られます。

    まず、賃借人が事業のために賃借する場合に限られます。したがって、賃借人が自らの住居として賃借する場合は該当しません。また、保証人が個人の場合に限られます。

    このいずれにも該当する場合は、賃借人は、保証人になろうとする者に対し、賃借人の財産状況を説明しなければなりません。説明をしなかったり、虚偽の説明がなされた場合には、保証人は保証契約を取り消すことができますので注意が必要です。

  • 民法改正により、賃借人が事業のために賃借する場合には、賃借人は保証人になろうとする個人に対し、賃借人の財産状況を説明しなければならないこととなりましたが、具体的に、どんなことを説明したらいいのでしょうか

    この場合に説明すべきことは、賃借人の財産や収入、賃借する不動産の家賃等以外に債務があれば、その額や弁済状況、賃借する不動産の家賃等のために担保を設定する場合はその内容です。

    この説明をしなかったり、虚偽の説明をした場合には、保証人は保証契約を取り消すことができます。したがって、賃貸人、賃借人、保証人のいずれも、どのような内容の説明をしたのかを何らかの記録で残しておくことが望まれます。

  • 賃貸人が保証人から家賃滞納状況等を尋ねられたら答えてもいいのでしょうか。個人情報保護との関係で問題ないでしょうか

    保証人から家賃滞納状況等を尋ねられたら、答えるのが当然であると考えます。しかし、賃借人の家賃滞納状況等は個人情報に該当するため、賃借人の同意を要するという考え方もあったようです。この点につき、改正民法は、保証人から請求があれば、賃貸人は、遅滞なく家賃の履行状況や滞納金額等を伝えなければならないと定めましたので、回答することについて明確な根拠となります。

  • 民法改正後、賃貸人が保証人から家賃滞納状況等を尋ねられた場合に答えなかったら、なにか問題になるのでしょうか

    保証人は賃借人が正常に家賃を支払っているかどうか、重大な利害関係があります。そこで、改正民法は、保証人から請求があれば、賃貸人は、遅滞なく家賃の履行状況や滞納金額等を伝えなければならないと定めました。もしも、保証人から家賃支払状況等について尋ねられても賃借人が回答しなかったり、虚偽の回答をしたことにより保証人に損害が発生した場合には、損害賠償請求を受ける可能性があります。