時効援用

貸金業者(会社の場合)の借入れは5年で時効が原則です!


 債務者が支払いを何らかの事情で停止してから、数年あるいは時によっては10年以上経過してから、多額の損害金を付した請求がなされることがあります。元本は50万円未満でも、損害金が100万円を超えているような場合も多く見られます。
 このような場合、決まり文句として「連絡がない場合は法的手続をとる」、「和解に応じる用意がある」、「○○万円に減額する」などと債務者に和解を迫ってきます。
 大手の貸金業者も平然とこのような請求をしてきます。また、請求してくる債権者は元々貸付けを行った債権者とは限りません。債権者から債権譲渡を受けたと称する業者から請求されることもあります。
 債権譲渡を受けたという業者は、貸金業登録業者であることもありますが無登録業者のこともあります。このように貸金業者から時効になった債権などを二束三文で買い取る債権買取業者が存在しています。しかし、債権譲渡を債務者に有効に対抗できるようなことはまずないと考えていいと思われます。
 このような場合、最終の取引日から5年以上経過しているのであれば、債権が時効により消滅している可能性があります。しかし、例外もあります。

例外に注意


 例外のひとつとして、判決をとられている場合があります。過去に債権者から裁判等を起こされて判決等をとられている場合は判決から10年経過しないと時効は成立しません。
 また、債権者が個人で営業している業者については、判例(最三小判昭和30・9・27民集9巻10号1444頁。質屋営業者の貸付について、最三小判昭和50・6・27判時785号100頁)にもあるとおり、商行為性が否定され時効期間は10年とされています。
 このほか、クレジットを利用した場合にも5年とは限りません。クレジットは加盟店の債権が信販会社に移転したと考えて、元の債権の種類に応じた時効期間となるのが基本的な考え方です。しかし近時は信販会社のカードを利用して借入れをしていることも多いので、借入れといわゆるクレジット契約とが同じ信販会社にある場合には、時効期間は分けて考えることになります。

時効の起算点は?


 時効の起算点であるが、厳密には分割弁済の場合、各支払予定額について個別に進行するので、最終弁済期日とならないと債権全額の時効が進行しないことになる。しかし業者は3カ月程度延滞すると残代金を一括して請求するため、最終の取引から3カ月程度で時効は進行することになる。一括請求がなかったとしても通常業者の約定には分割払いの支払いを怠ったことで期限の利益を喪失する条項が入っており、期限の利益喪失時点から時効が進行すると考えられる。
債務者には消滅時効の知識がないことがほとんどで、業者からの請求により和解に応じて債務承認をしたり、支払いをしてしまうことがある。しかしそのような事情の後に相談を受けたとしても、業者に対し消滅時効を援用することができるケースがあるので、どのような事情で支払いをしてしまったのかよく確認する必要がある。業者は時効中断を主張するであろうが、近年このような債務者の無知につけ込む業者に対し、債務者が消滅時効の援用権を喪失しないという判例が多数あることを紹介しておく。

〔参考判例〕東京地判平成7・7・26金商1011号38頁
(判決要旨)
債権者が、消滅時効完成後に欺瞞的方法を用いて債務者に一部弁済をすれば、もはや残債務はないものと誤信を生ぜしめ、その結果債務者がその債務の一部弁済をした場合、債務者は、その債務について消滅時効の援用権を喪失しない。
〔参考判例〕札幌簡判平成10・12・22判タ1040号211頁
(判決要旨)
消滅時刻完成後、債務者が債務の承認をしたが、その承認が債権者が弄した甘言等のためになされたような場合には、債務者が時効援用権を行使しても、信義則による制限を受けない。
〔参考判例〕東京簡判平成11・3・19判タ1045号169頁
(判決要旨)
債権者が消滅時効完成後に、例えば、欺瞞的方法(債務者の無知に乗じて)を用いて債務者に一部弁済を促したり、債権の取立が法令や各種通達などに抵触する方法でなされた場合にまで、債権者の信頼を保護するために債務者がその債務について消滅時効の援用権を喪失すると解すべきいわれはない。