考えてみれば、被告が50人もいたら訴状の送達に問題が生じるのは必然だった

 このところ、毎年のように、原告の代理人になり、10人から50人ぐらいの相手方を被告として訴訟を提起することがある。内容は、時効取得による所有権移転登記手続を求めたり、妨害排除請求としての抵当権抹消登記手続を求めるなどの登記手続を求める訴訟である。

 例えば、時効取得による所有権移転登記手続を求める場合、相手方は占有開始時の所有者であるが、その方に相続が発生しており、また、その相続人が後日亡くなってさらに相続が発生しているような場合、登記手続に協力してもらわなければならない方が次々と増えていくこととなる。

 古い時代の抵当権の抹消も同様に、当時、登記手続きがされていれば何の問題もないのだが、登記手続がされていないために次々と相続が発生し、相手方が増えていってしまうのである。

 もちろん、そうした相手方全員の任意の協力のもと、登記書類に押印をいただいて登記手続を進めることは理論上は可能である。しかし、多くの場合、相手方の一部が遠隔地に居住していて任意の協力が困難であったり、登記手続における印鑑証明書の期限である3か月内に全ての書類をそろえるのが不可能と見込まれることが多い。

 そこで、協力していただきたい相手方全員を被告として登記手続を命じる判決を取得して登記に持ち込む方が簡便であるため、大勢の方を被告にして訴訟を提起することになるのである。

 しかし、多くの場合、訴訟を提起した後に、被告の中に判断能力が衰えている高齢者がいることが判明する。訴状を裁判所に提出すると裁判所は被告ら全員に訴状副本を送達するが、その際に、家族から「本人はとても内容を理解できる状態にはない」という情報が裁判所に寄せられて発覚するのである。

 このような場合、裁判所から原告代理人である私に、「被告の○○さんは高齢で判断能力が劣っており、内容を理解できないということですので検討をお願いします」という電話がかかってくるのである。

 「検討をお願いします」と言われても、相手である被告のご家族に、この裁判のためだけに成年後見人を選任して欲しいなどと言うことはできない。なぜなら、そもそも、この裁判自体、相手方にすれば突然降って湧いたような迷惑な裁判で、原告の都合で起こした裁判であることに加え、いきなり「被告」として訴えられてしまったわけだから、被告のご家族に対し、成年後見人を選任するという重い手続きをとってもらうことは不可能なのである。

 では、「検討をお願いします」というリクエストに対しどのように応えるか。こうした場合、原告の申立てにより、この裁判だけのための当該被告の代理人を裁判所に選任してもらう方法がある。根拠は、民事訴訟法35条の特別代理人の規定だ。

民事訴訟法35条1項
法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。

 我が国において、65才以上で認知症に罹患している方は500万人いると言われている。そうすると、わが国では100人に6名程度は認知症ということになる。被告が50人いたら、その内3名は認知症である可能性があるのである。
 そう考えると、数十人を被告にする訴訟において上記のように特別代理人を選任しなければならい事態は当然に起こりうるのである。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

  • 事務所を移転しました事務所を移転しました  司法書士法人中央合同事務所は、令和7年1月29日、主たる事務所を 静岡県浜松市中央区曳馬五丁目11番5号 に移転しました。                                                                                           〇遠州鉄道曳馬駅 徒歩6分                 […]
  • 訴訟代理人は依頼者にストーリーを語らせよ  ― 訴訟代理人の極意 ―訴訟代理人は依頼者にストーリーを語らせよ  ― 訴訟代理人の極意 ― 訴訟代理人は依頼者にストーリーを語らせよ   ― 訴訟代理人の極意 ― (本稿は、「月報司法書士」2016年9月号に寄稿したものです。内容は、一部事案を変更し、または複数の事案を組み合わせています)   1.心地よい疲れ […]
  • 特別寄与料の請求権者特別寄与料の請求権者 【特別寄与料の請求権者】 相続人以外の者が被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合、どのような者でも特別寄与者として特別寄与料を請求できるのですか。   特別寄与者は被相続人の相続人ではない親族に限られます。 親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいいますが、このうち相続人ではない者が被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合には、 […]
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第7回 不動産登記法改正案 ~登記手続の簡略化 その1~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第7回 不動産登記法改正案 ~登記手続の簡略化 その1~ https://youtu.be/PK6hJaW4qIY
  • 【動画】静岡県司法書士会研修会 「相続法改正の施行時期と適用場面」【動画】静岡県司法書士会研修会 「相続法改正の施行時期と適用場面」 【動画】静岡県司法書士会研修会 「相続法改正の施行時期と適用場面」  7月27日、台風で開催が危ぶまれましたが、予定どおり、静岡県司法書士会第1回会員研修会「さらにパワーアップ 相続実務必携 「相続登記の専門家」から「相続の専門家」になる」が開催されました。  参加申込みは、なんと252名! 昨年開催された研修会の最高が約140名とのこと。とんでもない記録的な参加申込みと […]
  • プロモーションビデオ、作ってみましたプロモーションビデオ、作ってみました 笑わないでください。プロモーションビデオ作ってみました。実は、1円もかかっていません。完全な趣味です! ご意見などいただけると嬉しいです! https://youtu.be/f58WlZpJXjA   […]
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第21回 改正民法 共有制度の見直し ~事例問題 売却予定の土地が相続時未了! 相続人の一人が国籍離脱し行方不明! 改正法を適用するとどうなるか~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第21回 改正民法 共有制度の見直し ~事例問題 売却予定の土地が相続時未了! 相続人の一人が国籍離脱し行方不明! 改正法を適用するとどうなるか~ https://youtu.be/WY5-btR4BJ8
  • 事実実験公正証書という手段(静岡ビジネスレポートに掲載されました)事実実験公正証書という手段(静岡ビジネスレポートに掲載されました) 静岡ビジネスレポートに、古橋清二が寄稿した事実実験公正証書についての記事が掲載されました Q 取引先の代表取締役が入院中の病院で重要な契約を締結することになりました。脳に後遺症があるとのことですが、後日契約の効力を争われないために公証人に依頼する方法があるとお聞きしましたが。 A 判断能力について主治医からの意見聴取などを行っておくとともに、契約締結の状況を保全しておくた […]
  • 銀行にとっては小さなことかもしれないが、顧客にとっては大変な問題なんだ!銀行にとっては小さなことかもしれないが、顧客にとっては大変な問題なんだ!  十数年前に「登記情報」という雑誌にコラムとして書いたことあるが、同じ問題がまた生じている。検認を受けた自筆証書遺言。全文、日付、氏名が自筆で書かれ、押印もされており、法律上の要件は全て満たしている。遺言の内容も一義的に解釈され、疑義を挟む余地はない。既に、この遺言を使って複数の銀行預金を解約し、不動産登記も済ませている。ところが、ある銀行だけ、被相続人である遺言者の預金の解 […]
  • 佐久間現地訪問・・・生誕地へ佐久間現地訪問・・・生誕地へ  実は、私の生まれは佐久間なんです。戸籍には出生地が記載されていますが、現在戸籍では市町村等の行政区画が記載されているだけです。  しかし、平成改製原戸籍には、出生した地番まで出ていることがありますので皆さんも、是非一度、平成改製原戸籍を見ておいてください。  これ、私の平成改製原戸籍です。出生地は、磐田郡佐久間町大井2 […]
  • 相続分の指定と所有権の対抗問題相続分の指定と所有権の対抗問題 【相続分の指定と所有権の対抗問題】  父Aが死亡し、相続人は子供の私Xと弟Yの2名です。Aは、「Xの相続分を3分の2、Yの相続分を3分の1とする」との遺言を残していました。この遺言をもとにXは甲土地全てを含む遺産の3分の2を、Yが預貯金から残りの3分の1を相続することになりました。甲土地について、まだAからXへの所有権移転登記はしていませんでした。  ところが、Yには借金 […]
  • 平成30年度考査の結果発表平成30年度考査の結果発表  昨日、平成30年度簡裁訴訟代理等能力認定考査の認定者の発表があった。この考査で認定された司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務を行うことができる。当事務所でも神谷司法書士が受験し、問題なく認定された。  認定の合格率は43.1パーセントということであるが、私が受験した平成15年(第1回考査)は、確か70パーセント前後であったことを考えると、随分合格率が低下したものだ。最近では […]
  • 可分債権を遺産分割の対象とすることの可否可分債権を遺産分割の対象とすることの可否 【可分債権を遺産分割の対象とすることの可否】 貸金債権のような可分債権の相続においては、当該債権が遺産分割の対象となるかどうかが問題となります。判例では、被相続人が相続開始時に有していた貸金債権は、相続開始とともに当然分割されて各相続人に法定相続分に応じて帰属することになるため、遺産分割の対象とならないとされています(最判昭29.4.8)。  しかしながら、裁判所の実務で […]
  • 時代に翻弄される人たち時代に翻弄される人たち 時代に翻弄される人たち (これは、平成27年6月29日に開催された静岡県司法書士会は浜松支部の人権委員会で当事務所代表の古橋清二が発表したものを文字おこししたものです)   Ⅰ はじめに 今日は、発表の機会をいただき、ありがとうございます。  判例解説ということですので、平成26年7月18日、最高裁で永住外国人の生活保護受給権に関する判決が […]
  • 【動画】相続実務必携を出版しました!【動画】相続実務必携を出版しました! https://www.youtube.com/watch?v=a51CS7iUzuU&list=PLCwThu8Lcj0qEX-g0BUIgyg3_Ui1qyJ0W&index=2&t=0s 民事法研究会より「相続実務必携」が発刊されました! 静岡県司法書士会あかし運営委員会編の本書は、当事務所の古橋清二、神谷忠勝も執筆に加わっています。 […]
  • 自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、遺言書本文と目録には契印をする必要がありますか自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、遺言書本文と目録には契印をする必要がありますか 自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、遺言書本文と目録には契印をする必要がありますか  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、印を押さなければなりません。また、自筆証書遺言と 一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録は自書でなくてもかまいませんが、自書でない場合、遺言 […]
  • 【動画】『再考 司法書士の訴訟実務』間接事実と経験則を積み上げて立証を試みる【動画】『再考 司法書士の訴訟実務』間接事実と経験則を積み上げて立証を試みる 【動画】『再考 […]
  • NEOあかし運営委員会のホームページに遺産承継業務静岡モデルをテーマに講演する古橋清二の動画が掲載されましたNEOあかし運営委員会のホームページに遺産承継業務静岡モデルをテーマに講演する古橋清二の動画が掲載されました  2019年10月12日に開催された大阪司法書士会・近畿ブロック司法書士会協議会主催の研修会における古橋清二の講演の模様を掲載いたします。  当日は350名の参加申込をいただいていましたが、台風19号の影響で参加できない方が多数いらっしゃいました。それでも約150名の方が聴講されました。   動画目次 第1講 「遺産承継業務・静岡モデル」  10年後の司法 […]
  • 遺贈と所有権の対抗問題遺贈と所有権の対抗問題 【遺贈と所有権の対抗問題】  Aが死亡し、相続人はXとYの2名です。Aは、「甲土地をTに遺贈する」との遺言を残していましたが、甲土地について、まだAからTへの所有権移転登記はしていませんでした。  ところが、Yには借金があり、債権者であるKが、甲土地につきXとYに代位して、AからXY名義への相続を原因とする移転登記をしたうえで、Yの持分を差押えてしまいました。  XY名 […]
  • 監査役の権限変更による退任と就任監査役の権限変更による退任と就任 監査役の権限が会計監査権限に業務監査権限が加わったことにより任期満了退任した監査役が、新たに監査役に選任された場合、「任期満了退任」後即「就任」であれば「重任」の登記が可能である (平成18年6月13日東京司法書士会説明会配付資料・東京法務局民事行政部法人登記部門) […]

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)