民法改正と契約実務FAQ

民法改正と契約実務FAQ

 2020年4月1日から改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が施行されます。このページでは、民法改正と契約実務に与える影響という観点で改正民法を考えながら、少しずつ、FAQを増やしていきたいと思います。

 なお、FAQを作成するにあたっては次の文献を参考にさせていただいています。また、意見に関する部分は当事務所に所属する司法書士の個人的な見解も多く含まれていますのでご了承ください。

参考文献
「法制審議会民法(債権関係)部会資料」
 法務省ウェブサイト
「実務解説改正債権法」
 日本弁護士連合会 弘文堂
「民法改正で変わる!契約実務チェックポイント」
 虎ノ門法律事務所 日本加除出版
「新債権法下の債権管理回収実務Q&A」
 増本善丈他 金融財政事情研究会
「民法(債権関係)改正と司法書士実務」

 日本司法書士会連合会編 民事法研究会
「Q&Aでマスターする民法改正と登記実務」
 東京司法書士会民法改正対策委員会 日本加除出版
「これならわかる改正民法と不動産賃貸業」
 中島成 日本実業出版社

契約実務と改正法施行との関係

契約実務と消滅時効に関する見直しとの関係

契約実務と法定利率に関する見直しとの関係

契約実務と保証に関する見直しとの関係

契約実務と債権譲渡に関する見直しとの関係

契約実務と約款に関する規定の新設との関係

契約実務と履行の請求・解除・損害賠償との関係

契約実務とその他の改正事項との関係

消費貸借に対する改正民法の注意点

不動産賃貸借に対する改正民法の注意点

請負契約に対する改正民法の注意点

 

契約実務と改正法施行との関係

  • 2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されますか?

     改正民法が施行される2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されるかどうかは、改正民法の「附則」を注意して見ておく必要があります。

     施行日前に贈与、売買、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例によるとされていますから(附則34条1項)、2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約には旧法が適用されます。

     また、施行日前に通知が発せられた意思表示の効力発生時期については旧法が適用されますので(附則6条2項)、例えば、施行前に発せられた解除等の意思表示の到達は旧法が適用されます。

     さらに、施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例によるとされていますから(附則10条4項)、施行前に生じた賃料等の消滅時効期間は旧法が適用されます。

     このほか、施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率についてはなお従前の例によるとされていますから(附則15条1項)、施行前に生じた利息は旧法が適用され、施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率についてもなお従前の例によるとされていますから(附則17条3項)、施行前に生じた利息の法定利率は旧法によります。

     また、施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例によるとされていますから(附則21条1項)、施行前にされた保証契約には旧法が適用されます。

     さらに、施行日前に契約が締結された場合におけるその契約の解除については、なお従前の例によるとされています(附則32条)。

     一方、施行日前に締結された定型取引に係る契約については、改正民法の適用を受けることとなりますので(附則33条)、賃貸借契約に付随して締結された定型取引に係る契約は、改正民法施行により定型約款の規定の適用を受けることになります。

  • 2018年4月1日から2020年3月31日までの間に定型約款の反対の意思表示をするかどうかの判断は、どのような点がポイントでしょうか

     反対の意思表示をすることにより、改正法の定型約款の規定が適用されないこととなります。その場合には、改正法施行後も改正前の民法が適用されることになりますが、改正前の民法には約款に関する規定が置かれていないため、反対の意思表示をすることにメリットがあるのかどうか、一概には言えません。個別の事例によって、反対の意思表示をするかどうかを検討した方がよいと思われます。

     なお、契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者は,反対の意思表示をすることはできないこととされています(附則33条2項)。

  • 改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)はいつから施行されますか。

    一部の規定を除き,2020年4月1日から施行されますが、次のとおり、2つの例外がありますのでご注意ください。

    ① 2018年4月1日から2020年3月31日までの間に定型約款の反対の意思表示をすることができます。

    ② 2020年3月1日から公証人による保証意思の確認手続をすることができます。

  • 2018年4月1日から2020年3月31日までの間に定型約款の反対の意思表示をすることができるということですが、これはどういう意味ですか。

     今回の改正により、定型約款の規定が新設されました。改正法施行前においても定型取引にかかる契約は多数締結されています。これらの施行日前に締結された定型取引にかかる契約に対しても、改正法の定型約款の規定が適用されます(附則33条1項)。その結果、改正法施行前の定型取引契約の契約当事者も、改正法施行後は、改正法のもとで定型約款の適用を受けることになってしまいます。

     そこで、改正法施行前に定型取引にかかる契約を締結した場合で、既存の定型約款の効力に異議があるときは、施行日前に定型約款を提供する相手方に対して、新設された定型約款のみなし合意の規定を適用することに反対する旨の意思表示をすることができることとしました。

     なお、改正法施行後は、定型取引を行うことの合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされることとなります(法548条の2第1項)。
    一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
    二 定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

  • 当社の使用している売買取引基本契約書は、1年間の契約期間を定め、期間満了1月前までにいずれの当事者からの申し出がない限り自動で契約期間が1年間更新されることとしています。この規定により、民法改正後に自動更新された場合、改正前の民法が適用されるのでしょうか、それとも改正民法が適用されるのでしょうか。

     一概には言えませんが、当初の契約が2020年4月より前に締結され、改正民法施行後に自動更新された場合でも、契約締結時、すなわち、改正前の民法が適用されるものと思われます(附則34条1項参照)。

     これは、契約の当事者は契約を締結した時点において通用している法令の規定が適用されると考えるのが通常であるため、施行日前に契約が締結された場合について改正後の民法の規定を適用すると、当事者の予測可能性を害する結果となること等によるものです(部会資料85-4頁参照)。

     しかし、いずれの民法が適用されるのかを明確にするため、更新時に改正民法を前提として起案した契約書を締結し直すことは有意義であると考えます。

     なお、法第604条2項(賃貸借の存続期間)の規定は、施行日前に賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるときにも適用されます(附則34条2項参照)。

     これは、賃貸借契約の更新は契約の当事者の合意により行われるものであるため、更新後の賃貸期間の上限を20年から50年に改める旨の改正後の民法の規定を施行日前に契約が締結された場合について適用しても、契約の当事者の予測可能性を害することにはならないこと等を根拠としています(部会資料85-4頁参照)。

  • 当社の使用している売買取引基本契約書は、1年間の契約期間を定め、期間満了1月前までにいずれの当事者からの申し出がない限り自動で契約期間が1年間更新されることとしています。この規定により、民法改正後に自動更新された場合、改正前の民法が適用されるのでしょうか、それとも改正民法が適用されるのでしょうか。

     一概には言えませんが、当初の契約が2020年4月より前に締結され、改正民法施行後に自動更新された場合でも、契約締結時、すなわち、改正前の民法が適用されるものと思われます(附則34条1項参照)。

     これは、契約の当事者は契約を締結した時点において通用している法令の規定が適用されると考えるのが通常であるため、施行日前に契約が締結された場合について改正後の民法の規定を適用すると、当事者の予測可能性を害する結果となること等によるものです(部会資料85-4頁参照)。

     しかし、いずれの民法が適用されるのかを明確にするため、更新時に改正民法を前提として起案した契約書を締結し直すことは有意義であると考えます。

     なお、法第604条2項(賃貸借の存続期間)の規定は、施行日前に賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるときにも適用されます(附則34条2項参照)。

     これは、賃貸借契約の更新は契約の当事者の合意により行われるものであるため、更新後の賃貸期間の上限を20年から50年に改める旨の改正後の民法の規定を施行日前に契約が締結された場合について適用しても、契約の当事者の予測可能性を害することにはならないこと等を根拠としています(部会資料85-4頁参照)。

  • 民法改正により契約関係のルールに様々な変更があったということですが、当事者間で法律とは異なる内容のルールを定めた場合、どちらが優先しますか。

     当事者間で契約書を締結していたり、民法と異なるルールを合意している場合には、その契約書の内容や合意の内容が優先します。契約書を締結していなかったり、民法と異なるルールを合意していない場合には、民法のルールが適用されることになります。

     仮に、契約書を締結していたり、民法と異なるルールを合意していた場合であっても、それらの内容に含まれない事項については民法のルールが適用されることになります。

  • 民法改正により法定利率が年5パーセントから年3パーセントに変更になるのはいつからですか。

     改正民法は2020年4月1日から施行されますが、 施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率については旧法の規定によることとされています(附則15条1項)。つまり、2020年4月1日より前に利息が生じている場合には年5パーセントの法定利息が発生し、2020年4月1日以降についても年3パーセントではなく、年5パーセントの利率のままであるということです。

     また、契約が2020年4月1日より前であっても利息が2020年4月1日以降に発生した場合の法定利息の利率は年3パーセントということになります。

     次に、遅延損害金の法定利率ですが、施行日前に債務が生じた場合(施行日以後に債務が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む)におけるその債務不履行の責任等についても、旧法の規定によることとされています(附則17条1項)。したがって、2020年4月1日より前に遅延損害金が生じている場合には年5パーセントの遅延損害金が発生し、2020年4月1日以降についても年3パーセントではなく、年5パーセントの利率のままであるということです。

     そして、2020年4月1日以後に遅延損害金が生じる場合であっても、その原因である法律行為が2020年4月1日より前にされたときも、年3パーセントではなく、年5パーセントの利率が適用されることになります。

  • 民法改正前に賃貸借契約が締結され、同時に保証契約も締結されました。そして、民法改正後に賃貸借契約が法定更新されました。保証契約については何ら合意はありません。この場合、法定更新後は保証契約が継続しているのでしょうか。また、存続しているとしたら、新法、旧法のどちらが適用されるのでしょうか。

     まず、前段のご質問については、原則として、更新後の賃借人の債務についても保証人の責任が生じるとするのが判例です(最判平成9年11月13日)。

     後段については未だ明確ではなく、今後の実務の趨勢を見ながら検討する必要がありますが、もしも、新法が適用されるとすると、極度額を定めて合意をしておく必要があり、何ら合意をしていない場合には、極度額の定めがないことを理由に無効となる可能性があります。

  • 2018年4月1日から2020年3月31日までの間に定型約款の反対の意思表示をしようと思いますが、どのような方法で行えばいいですか。

    書面(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)で行う必要があります(附則33条1項)。

    通知書 例文

    私、貴社の間で締結した平成○年○月○日付○○サービス契約に関する約款に対し、改正民法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)548条の2ないし548条の4の適用に反対いたしますので、その旨通知いたします。

  • 2020年3月1日から公証人による保証意思の確認手続の規定が前倒しで施行されるのはなぜですか。

     改正法465条の6第1項は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、:原則として、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じないとしています。

     また、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約についても465条の6第1項の規定を準用しています(465条の8第1項)

     しかし、本体施行日である2020年4月1日上記の規定を施行するとなると、保証契約の締結が円滑に行われないおそれがあります。

     そこで、保証人になろうとする者は、2020年3月1日移行において上記の公正証書の作成を嘱託することができることとされています(附則21条2項等)。

契約実務と消滅時効に関する見直しとの関係

  • これまで、商事債権は商法の規定により5年の消滅時効期間が定められていましたが、この点について改正はありましたか。

     商事債権の消滅時効期間を5年とする商法522条が削除されました。したがって、商事債権であっても、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から原則として10年間の消滅時効期間となります。

  • これまでは、債権の種類ごとに短期消滅時効が定められていましたが、この点について改正はありましたか。

     改正により、債権の種類ごとの短期消滅時効は廃止され、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から原則として10年間の時効期間に統一されました。

  • 債権の消滅時効の起算点である「債権者が権利を行使することができることを知った時」(消滅時効期間5年)と、「権利を行使することができる時」(消滅時効期間10年)とは、同じ時点になりませんか?

     たしかに同じ時点である場合が多いとは思いますが、異なる時点となることも考えられます。

     たとえば、弁済期の定めのある債権(支払期の定めのある売買代金債権、返済日の定めのある貸金債権等)については、債権者は、支払期や弁済期がいつであるかは知っているものと考えられますので、「債権者が権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」とは同じ時点になります。そうすると、実質的にはその時点から5年で消滅事項期間が経過することになります。

     しかし、不確定期限(ある事実が生じることを期限とするもので、その事実の生じる時期が不明なもの)や条件が付された債権については、期限が到来したり条件が成就した時が「権利を行使することができる時」に該当しますが、債権者がその事実を即座に知ることができずに後日知ったという場合には、その後日が「債権者が権利を行使することができることを知った時」となります。この場合には、「権利を行使することができる時」から10年間と、「債権者が権利を行使することができることを知った時」から5年間のいずれか早く満了する時期に時効期間が経過することになります。

  • 債権の消滅時効の起算点である「債権者が権利を行使することができることを知った時」(消滅時効期間5年)と、「権利を行使することができる時」(消滅時効期間10年)とは、同じ時点になりませんか?

     たしかに同じ時点である場合が多いとは思いますが、異なる時点となることも考えられます。

     たとえば、弁済期の定めのある債権(支払期の定めのある売買代金債権、返済日の定めのある貸金債権等)については、債権者は、支払期や弁済期がいつであるかは知っているものと考えられますので、「債権者が権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」とは同じ時点になります。そうすると、実質的にはその時点から5年で消滅事項期間が経過することになります。

     しかし、不確定期限(ある事実が生じることを期限とするもので、その事実の生じる時期が不明なもの)や条件が付された債権については、期限が到来したり条件が成就した時が「権利を行使することができる時」に該当しますが、債権者がその事実を即座に知ることができずに後日知ったという場合には、その後日が「債権者が権利を行使することができることを知った時」となります。この場合には、「権利を行使することができる時」から10年間と、「債権者が権利を行使することができることを知った時」から5年間のいずれか早く満了する時期に時効期間が経過することになります。

  • 改正民法では、時効の「完成猶予」、時効の「更新」という用語の使い方をしていますが、どのような意味ですか。

     民法改正前は、消滅時効の「中断」、消滅時効の「停止」とされていた概念が、消滅時効の「完成猶予」、消滅時効の「更新」という概念に整理され、従来の消滅時効の中断事由、消滅時効の停止事由が分類され直しています。

     消滅時効の「完成猶予」とは、消滅時効期間が満了するまでの間に一定の事由が生じた場合には、その間(又はその事由が解消されてから一定の期間)は、消滅時効期間の進行を停止させるという意味です。

     一方、消滅時効の「更新」とは、新たに時効期間がスタートするという意味です。

     消滅時効期間が満了するまでの間に訴訟を提起した場合を例に説明すると、訴訟提起によって消滅時効が「完成猶予」され、時効期間は進行しませんが、判決が確定すると、消滅時効が「更新」され、新たに消滅時効期間がスタートすることになります。

  • 改正民法により、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度が設けられましたが、協議を行う期間を自動更新して延長する定めは有効ですか。

     権利についての協議を行う旨の合意が書面でされ、その合意において当事者が協議を行う期間を定めたときは、その期間を経過するまでは消滅時効は完成猶予されます。ただし、その期間は1年に満たないものに限るとされています。

     ご質問の趣旨は、協議を行う期間を1年未満と定め、その期間が自動更新される旨の合意書面であれば完成猶予の期間も更新されるか、という意味だと思われます。

     しかしながら、当初の完成猶予期間が更新されるのは、満了する前に再度の合意をした場合とされていますから、「再度の合意」を伴わない自動更新では、完成猶予期間が更新されないと考えておくべきだと思います。

  • 期限の定めのない債権は、いつ時効期間が経過するのでしょうか。

     債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効により消滅します。

     ところで、期限の定めのない債権については、債権者はいつでも債務者に履行を請求することができます。そして、そのことは、債権者も知っていると考えられます(実際には知識がなく知らなかったとしても、法的には知っていたものとして扱われます)。

     したがって、「債権者が権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」とは同じ時点となるため、その時点から5年で消滅事項期間が経過することになります。

     しかし、貸金を代表とする消費貸借契約では、当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、相当の期間を定めて返還の催告をすることができるとされていることから(民591条1項)、相当期間が経過しなければ返還の請求をすることができません。ですから、相当期間が経過してから5年経過しなければなければ消滅事項期間が経過したとは言えません。

  • 民法改正により、消滅時効の起算点と時効期間はどのように改正されたのですか。

     債権の消滅時効の起算点と時効期間は次の2通りとなりました。

    1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
    2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

     民法改正前は、消滅時効の起算点は「権利を行使できる時」のひとつだけでしたが、民法改正により、「権利を行使することができることを知った時」という起算点が加えられました。これらのいずれかの時効期間が満了すれば、消滅時効が完成するということになります。

     また、債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅することになります。

  • 民法改正により。交渉中に消滅時効が完成してしまうことを防ぐ方法ができたと効きましたが。

     民法改正により、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しないものとされました。

    1  その合意があった時から1年を経過した時
    2  その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
    3  当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時

     したがって、時効完成が間近な場合で、交渉している間に消滅時効が完成してしまう可能性のある場合には、上記の方法で時効完成猶予をすることができます。もちろん、裁判上の請求をして時効の完成猶予をすることもできますが、裁判上の請求まではしたくない場合には、上記の書面による完成猶予を選択するとよいと思われます。

  • 民法改正後において、確定判決を得ている債権の消滅時効期間は何年ですか。

     確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年です。この点については改正されていません。

  • 消滅時効完成間近に催告をしたことにより時効完成が6ヶ月猶予されますが、その間に、改正民法で設けられた、権利についての協議を行う旨の合意が書面で成立すれば、時効完成猶予期間を延長させることはできますか。

     催告をしたことにより時効完成は6ヶ月猶予されますが、6ヶ月経過により消滅時効き完成すると考えられますので、その間に権利についての協議を行う旨の合意を書面で行っても、時効完成猶予期間を延長させることはできないものと考えられます。

  • 短期消滅時効の適用のある債権について勝訴判決を得たのち一部弁済があった場合、時効期間は何年になるか

     例えば、売掛金として2年の短期消滅時効の適用のある債権(民法改正前)について勝訴判決を得ると、時効期間は10年に延長される。

     ここで、その10年に戻った債権について、判決確定後に一部弁済があり、時効が中断した場合に、その後の時効期間は何年になるか、という問題を考えたい。

     たとえば、売掛債権の判決確定から1年を経過したときに一部弁済があったとすると、そこからの時効期間は10年なのか、売掛債権の短期消滅時効にもどって2年なのか、はたまた、9年(10年―1年)なのか、仮に、判決確定から一部弁済の間で改正民法が施行された場合には5年になるのか。

     この問題については、判決確定によりなぜ時効期間が10年になるのか、その理由を探るとヒントになりそうだ。

     なぜ10年に延長されるかについては、確定判決によって債権の存在が公の手続きによって明確になったのであるから、原則的な時効期間である10年に延長されると説明されているようである。

     つまり、10年は確定判決を取得した特典ということではなく、短期消滅時効制度から解放されて原則的な期間に戻るという意味のようである。「時効期間の転換」というような表現もされているようである。

     このような考え方を前提に本問を検討すると、判決確定後に一部弁済があつたとしても、既に「時効期間の転換」が生じているのであるから一部弁済後の時効期間は10年と考えるのが相当であると思われる。

     ところで、改正民法は、判決確定後の消滅時効期間は10年とし、改正前の期間を維持している。一方で、一般の債権の消滅時効期間は権利を行使することができることを知ったときから5年、権利を行使することができるときから10年を原則的な期間としている。

     そうすると、改正前は「時効期間の転換」という論理で判決確定後の時効期間10年の説明がされていたが、改正後に「時効期間の転換」の論理を持ち出してくると、判決確定後の消滅時効期間は、権利を行使することができることを知ったときから5年、権利を行使することができるときから10年となってしまい、判決確定後の時効期間を10年とすることと整合性がとれなくなってくるのではないか。

     ふとそう思ったので、備忘録として掲げておく。

契約実務と法定利率に関する見直しとの関係

  • 売買代金の債務不履行の場合における遅延損害金について何か改正されたことはありますか。

     金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めることとされました。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によります(419条1項)。

     改正前の法定利率は年5パーセントでしたが、民法改正時の法定利率は年3パーセントに変更されました。また、これに伴い、商事法定利率(年6パーセント)の規定は廃止され、改正民法の法定利率に統一されることになりました。

     さらに、法定利率は3年に1度見直されることになりました。

     利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率によることとされましたので(419条)、売買代金の債務不履行の場合における遅延損害金は、遅滞が生じた時点における法定利率が適用されることになります。

  • 改正民法では遅延損害金の法定利率が下がるということですが、契約どおりに支払わなければペナルティを受けるというプレッシャーが弱くなってしまうことが心配ですが。

     改正前の法定利率は年5パーセントでしたが、民法改正時の法定利率は年3パーセントに変更されました。また、これに伴い、商事法定利率(年6パーセント)の規定は廃止され、改正民法の法定利率に統一されることになりました。さらに、法定利率は3年に1度見直されることになりました。

     もしも、契約どおりに支払わなければペナルティを受けるというプレッシャーが弱くなってしまうことが心配でしたら、法定利率ではなく、遅延損害金の利率を契約で定めておく必要があります。

  • 民法改正により法定利率が年5パーセントから年3パーセントに変更になるのはいつからですか。

     改正民法は2020年4月1日から施行されますが、 施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率については旧法の規定によることとされています(附則15条1項)。つまり、2020年4月1日より前に利息が生じている場合には年5パーセントの法定利息が発生し、2020年4月1日以降についても年3パーセントではなく、年5パーセントの利率のままであるということです。

     また、契約が2020年4月1日より前であっても利息が2020年4月1日以降に発生した場合の法定利息の利率は年3パーセントということになります。

     次に、遅延損害金の法定利率ですが、施行日前に債務が生じた場合(施行日以後に債務が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む)におけるその債務不履行の責任等についても、旧法の規定によることとされています(附則17条1項)。したがって、2020年4月1日より前に遅延損害金が生じている場合には年5パーセントの遅延損害金が発生し、2020年4月1日以降についても年3パーセントではなく、年5パーセントの利率のままであるということです。

     そして、2020年4月1日以後に遅延損害金が生じる場合であっても、その原因である法律行為が2020年4月1日より前にされたときも、年3パーセントではなく、年5パーセントの利率が適用されることになります。

契約実務と保証に関する見直しとの関係

  • 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならないとされましたが(458条の3)、保証契約書において、債権者の上記通知義務を免除する条項を設けることはできますか。

     これまで、主たる債務者が期限の利益を喪失してから相当な期間が経過した後に保証人に一括請求がなされ、元本に加え、膨大な遅延損害金を請求されてしまう事態が少なからず生じていました。

     そこで、保証人を保護する必要性から本条が設けられたという背景を鑑みると、仮に、保証契約書において、債権者の上記の通知義務を免除する条項を設けたとしても、当該条項は無効とされる可能性が高いと考えられます。

  • 保証契約に関し、どのような場合に公正証書の作成をしなければならないのですか。

     465条の6は、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。」と規定しています。したがって、公正証書の作成をしなければならない保証契約は、①「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」と、②「主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約」のふたつということになります。

  • 個人が根保証人となる場合においては極度額を設けなければならないこととされましたが(465条の2)、元本について極度額を定めておけばいいでしょうか。

     一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証契約であって保証人が法人でないものの保証人は、極度額を限度として履行をする責任を負うものとされ、極度額を定めなければ根保証契約の効力は生じないとされましたが、その場合、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額の全部に係る極度額を定める必要があります。

     熊本地裁平成21年11月24日判決(判時2085号124頁)は、極度額の定めは保証人が負担する保証債務の範囲の全部を対象とし、その上限の金額が一義的に明確でなければならず、かかる方式によらない元本の極度額のみの定めは(旧)465条の2第1項の極度額の定めには当たらないものと解するのが相当であると判示しています。

     したがって、元本についてのみの極度額を定めてあった場合には、その保証契約は無効とされる可能性がありますので注意が必要です。

  • 個人が根保証人となる場合において極度額を設けなければならないことはこれまでも民法に規定があったと思いますが、どのような点が改正されたのですか。

     民法改正前は、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証契約であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるものの保証(法人を除く)には極度額を定めなければ保証契約の効力は生じないとされていました。

     しかし、改正民法465条の2は、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証契約であって保証人が法人でないものの保証人は、極度額を限度として履行をする責任を負うものとされ、極度額を定めなければ、根保証契約の効力は生じないとされました。

     つまり、改正前は貸金等の債務が含まれる債務に限定されていましたが、改正法はその範囲の限定を取り除き、「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」とだけ規定しました。

     これは、保証人の根保証債務が多額に及ぶのは主債務が貸金等債務の場合ばかりではなく、売買代金債務、リース料債務、賃借料債務等、さまざまな債務についての根保証債務も同様であるという背景があったからです。

  • 個人が根保証人となる場合には極度額を定めなければ効力が生じないとされましたが、これは主債務は貸金等の債務の場合に限られますか?

     個人が根保証人となる場合には極度額を定めなければ効力が生じないとされましたが、その場合の主たる債務は、一定の範囲に属する不特定の債務とされます(465条の2第1項)。

     このように、主たる債務は貸金等債務に限られるものではなく、継続的な商品取引契約の売買代金支払債務、賃貸借契約の賃料支払債務等、一定の範囲に属する不特定の債務であればこの制限の対象となります。

     したがって、これまでは必ずしも極度額を定めていなかった個人根保証契約については、極度額を定める必要があります。

  • 個人根保証契約の極度額設定を定めた465条の2は一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする個人根保証契約を対象としており、貸金等債務を含む場合に限定していません。一方、個人根保証契約の元本確定期日を定める465条の3の規定は、個人貸金等根保証債務を含む場合に限って適用しています。これはなぜですか。

     個人根保証契約が締結される場合の主債務は、貸金等債務だけではなく、建物賃貸借契約の賃料支払債務、継続的売買契約の売買代金支払債務など様々なものが考えられます。

     このうち、建物賃貸借契約は法定又は合意により期間が更新されることが多く、また、企業間で行われる継続的売買契約等も、契約が自動更新されて長期に亘って契約関係が継続することも多いと思われます。

     このような場合にまで元本確定期日を定めなければならないとすると、元本確定期日以降の取引については根保証の効力が及ばないこととなってしまいます。

    そ こで、元本確定期日を定める465条の3の規定は、個人貸金等根保証債務を含む場合に限って適用することとされました。

  • 当社の販売取引基本契約書では、一定事由の発生により売掛債権の期限の利益喪失条項を定めています。このたび、主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならないとされましたが(458条の3)、上記の販売取引基本契約書にも適用されるのでしょうか。

     貴社の販売取引基本契約書がいつ作成され、改正民法が適用されるのか旧民法が適用されるのか不明ですが、仮に改正民法の適用がある場合には458条の3の通知義務が適用されると考えられます。

     458条の3の「期限の利益」という用語から主債務が金銭消費貸借取引である場合に限ると連想されるかもしれませんが、条文は「主たる債務者が期限の利益を有する場合において」とするのみですので金銭消費貸借取引のみならず様々な金銭債務が想定されます。したがって、販売取引基本契約においても「主たる債務者が期限の利益を有する場合」には本条の適用があると考えられます。

     また、債権の性質も、事業のために負担する債務である必要もなく、また、保証人は委託を受けた保証人である必要もないと考えられます。

  • 改正民法では、保証契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示し、公正証書を作成しなければならない場合があると聞きましたが、どのような場合でしょうか。

    ①事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約、又は、②主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、原則として、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じないとされました(465条の6)。

  • 改正法では、主たる債務者の履行状況について保証人から請求があったときは、債権者はその履行状況について情報を提供しなければならないとされました(458条の2)。一方、金融機関のような債権者は、主たる債務者に対して守秘義務を負っている場合も考えられますが、そのような場合はどのように考えたらいいのでしょうか。

    保証人は、通常、主債務者による債務不履行があるかどうか、主債務をどれくらい弁済し、残額がどれほどかを当然に知り得る立場にはありません。そのため、主債務者が主債務について債務不履行に陥っても保証人が長期間にわたってそのことを知らず、保証人が請求を受ける時点では遅延損害金が積み重なって多額の履行を求められるという酷な結果になる場合があることが指摘されていました。そのため、主債務の履行状況について保証人が知る手段として、458条の2が設けられました(部会資料76A 11頁)。

    例えば債権者が金融機関の場合や契約上の守秘義務がある場合には、主債務者の履行状況を、保証人からの照会に対して回答することが許されるかどうか判断に迷うところですが、本条が設けられた背景を考慮すると、保証人の照会は法的な権利であり、債権者は回答すべきであると考えます。

    なお、保証契約書において、保証人の上記の請求を制限する条項を設けることも考えられますが、本条が設けられた趣旨に鑑みると当該条項を設けたとしても無効とされる可能性が高いと考えられます。

  • 改正法では主たる債務者の履行状況について、保証人から請求があったときは、債権者は主債務者の履行状況について情報を提供しなければならないとされました(458条の2)が、債権者や保証人の属性(法人・個人の別等)により本条が適用されない場合があるのでしょうか。

     条文は「保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。」と規定しています。

     したがって、「債権者」は法人、事業者である個人、事業者でない個人いずれにも適用があり、また、「保証人」についても「主債務者」についても、法人、事業者である個人、事業者でない個人いずれにも適用があると考えられます。

     なお、保証人については「委託を受けた保証人」であるという要件があります。

  • 民法改正後、賃貸借契約に個人保証をつける場合の注意点を教えてください。

     一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(いわゆる「根保証契約」)であって保証人が法人でないもの(いわゆる「個人根保証契約」)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負うものとされ、個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じないとされました(民465条の2)。

     賃貸借契約の個人保証も「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」ですから個人根保証契約であり、この条文が適用されます。

     さらに、その極度額は書面等で定めなければ保証契約が無効となってしまいますので注意が必要です。

  • 民法改正後に、極度額を100万円と定めて賃貸借契約の連帯保証人となった個人が、滞納家賃を60万円支払って家賃滞納が解消されました。ところが、その後再び滞納が始まり、滞納家賃が80万円となった場合、賃借人は連帯保証人にいくらの保証債務の履行を請求できるでしょうか。

     この場合、極度額が100万円であり、既に連帯保証人は60万円の保証債務を履行していますので、賃貸人が連帯保証人に請求できる金額は40万円が限度となります。100万円の限度額の範囲である80万円全額を請求できることにはなりませんので注意が必要です。

  • 民法改正後において、賃貸借契約に保証会社をつける場合には保証の極度額を定めなくてもいいですか

     民法改正により個人の保証人には極度額を定めなければならないこととなりましたが、これは、個人の保証人が過大な保証債務を負担することがないように限度額を定めることを義務付けたものです。したがって、賃貸借契約に保証会社をつける場合には、原則として保証の極度額を定める必要はありません。

     保証会社は、家賃滞納等があった場合には賃借人に代わって賃貸人に賃料等を支払いますが、保証会社はその金額等を賃借人に求償することになります。そして、その求償権を保全するために個人の保証人を徴求するこしがあります。そのような場合に、保証会社が個人保証人に対して求償できる限度額を定めておかなければ個人の保証人保護に欠けることとなります。

     そこで、保証会社の求償権を保全するために個人の保証人を徴求する場合には、賃貸人と保証会社との間の保証契約に極度額を定めておかなければならないとされましたので注意が必要です。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、賃借人が死亡したときは個人保証人の責任の範囲が確定するようですが、具体的にはどのようになるのですか

     改正民法では、賃借人が死亡した場合には個人保証人の責任の範囲が確定することとされました。たとえば、賃借人Aが死亡したときは、その時点でAが賃貸人に支払うべき債務の範囲で個人保証人の責任の範囲が確定しますから、仮に、10ケ月分の賃料滞納があった場合には、その後もAの相続人が賃料滞納を続けたとしても、個人保証人Bは10ケ月分のみの責任を負えば足ります。この場合、もしも、個人保証人Bの極度額が10ケ月分未満の金額である場合には、個人保証人Bの責任は極度額までということになります。

     ところで、賃借人Aが死亡したとしても賃貸借契約は終了せず、Aの相続人が賃借人の地位を承継することになります。そうしますと、Aの死亡時点以降はBは保証人としての責任を負わなくてよいことになりますから、賃貸人としては保証人がいない状態で賃貸借契約を続けなければならなくなります。

  • 私は不動産賃貸業を営んでおり、主に、アパート経営をしています。入居者には連帯保証人をつけてもらっていますが、民法改正以降の賃貸借契約の締結に関し、連帯保証契約について注意すべき点はありますか。

     個人の方に連帯保証人になっていただく場合には保証債務について極度額を定める必要があります。また、その極度額は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額の全部に係る極度額である必要があり、そのことを明示しておくべきだと思われます。

     なお、極度額の定めは保証人が負担する保証債務の範囲の全部を対象とし、その上限の金額が一義的に明確でなければならず、かかる方式によらない元本の極度額のみの定めは(旧)465条の2第1項の極度額の定めには当たらないものと解するのが相当であるとした判例(熊本地裁平成21年11月24日判決(判時2085号124頁)があります。

     極度額をいくらにすべきかは法令上の制限はありません。もちろん、極度額を無限とすることはできないものと考えられますが、あまり高額な極度額ですと連帯保証人となることを躊躇することになるでしょう。したがって、万が一、主債務者の賃料未払いや明渡債務不履行等が生じた場合に想定される請求額を考慮して適切妥当な金額を検討して極度額を定めるべきでしょう。

  • 金融機関の融資実務では、経営者等を除く第三者の個人保証を徴求しない潮流がありますが、そうした中で、なぜ、改正民法で、保証契約の締結に先立ち保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示し、公正証書を作成する制度を設けたのですか。

     保証契約は個人的情義等から無償で行われることが通例である上、保証契約の際には保証人が現実に履行を求められることになるかどうかが不確定であることから、保証人において自己の責任を十分に認識していないまま安易に契約が結ばれる場合も多く、そのため、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たない状況が続いていました。

     保証人にとって過酷な結果を招くという問題が最も深刻に生じているのは、主たる債務者が事業のための資金を借り入れた債務の保証についてであり、事業のための資金の借入れは、主債務者が法人であろうと自然人であろうと、多額になりがちだからです。そのため、事業のための借入れに当たっての、特に経営に関与しない第三者による保証の問題性は広く認識されるに至り、保証に依存しない融資実務の確立に向けた試みが行われてきました。

     例えば、中小企業庁は、「事業に関与していない第三者が、個人的関係等により、やむを得ず保証人となり、その後の借り手企業の経営状況の悪化により、事業に関与していない第三者が、社会的にも経済的にも重い負担を強いられる場合が少なからず存在することは、かねてより社会的にも大きな問題とされてきております。」という認識を示した上で、信用保証協会が行う保証において経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを原則として禁止しました(平成18年3月31日付け「信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について」)。

     また、平成25年8月に金融庁が定めた「主要行等向けの総合的な監督指針」においても、経営者以外の第三者の個人保証について、直接的な経営責任がない第三者に債務者と同等の保証債務を負わせることが適当なのかという指摘があるという状況に鑑み、金融機関には、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立するという趣旨を踏まえた対応を取る必要があるとされ、金融機関に対する監督における着眼点として、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする方針を定めているか、経営に関与していない第三者が例外的に個人連帯保証契約を締結する場合に、当該契約は契約者本人による自発的な意思に基づく申し出によるものであって、金融機関から要求されたものではないことが確保されているか、などが挙げられていました。

     上記のような中小企業庁、金融庁の対応などの結果、実務上も、事業資金の融資において、主債務者の経営に実質的に関与していない第三者に保証をさせることは減少していきました(部会資料70A等)。

     しかし、一方で、起業をする際に物的担保の対象とするだけの財産を持たない一方で起業を支援しようとする第三者が保証する意思を有している場合などのように、第三者が保証する社会的に有用であるようなこともあり、第三者保証を全くなくしてしまうこともできないという指摘もされたようです。

     そこで、保証人が自発的に保証する意思を有することを確認する手段を講じた上で、自発的に保証する意思を有することが確認された者による保証契約は有効とするという方向性が示されました。

     つまり、保証契約の締結に先立ち保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示し、公正証書を作成する制度を創設したのは、原則として第三者保証を制限する流れの中の例外的措置であると位置づけることができると思われます。

契約実務と債権譲渡に関する見直しとの関係

  • 以前、当社の取引先が有する公共工事請負代金の譲渡を受けようとしたところ、債権譲渡禁止特約があったために断念しました。民法改正により、このような譲渡禁止特約の付された債権も譲り受けることができると聞きましたが。

     公共工事の工事請負契約では、請負代金の譲渡を禁止していることが多いようです。民法改正前では、このような譲渡禁止特約が付された債権を譲渡することは原則として無効であるとしていました。そして、例外的に、その債権の譲受人が譲渡禁止特約があることを知らず、かつ知らないことに重大な過失がなかった場合には、譲受人に対して、無効であることの主張をすることができないとしていました。

     しかし、債権の譲渡性に着目して資金調達が盛んに行われることになった現在、特段の理由もなく定型的に譲渡禁止特約を付していることがこの資金調達の妨げになっているとの批判もあったようです。

     そこで、466条2項では、「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない」とし、譲渡禁止又は制限の意思表示がある場合でも、その債権の譲渡は有効であることとされました。

     したがって、ご質問のとおり、譲渡禁止特約の付された債権も有効に譲り受けることができることになります。

     しかし、債権譲渡自体は有効であっても、債務者は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、その債務の履行を拒むことができます。なおかつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することもできます(466条3項)。

     ご質問の趣旨からすると、貴社は、譲渡禁止特約が存在することを知っていた(悪意)と考えられますから、まさに466条3項のケースに当たると考えられます。つまり、貴社が譲渡禁止特約が存在することを知っていたという理由で、公共工事請負代金の支払いを拒絶される可能性があるということになります。しかも、何らかの理由で取引先に対して請負代金を支払う必要がなくなったというような事由があれば、貴社に対してもそのことを主張することが可能であるということになります(これらの抗弁を放棄して貴社に対して請負代金を支払うことも可能ですが)。

     このような点を考えると、有効に債権譲渡を受けたとしても、必ずしも、貴社が直接請負代金を受領することができることは保証されていないということが言えます。

     しかし、上記のような場合であっても、請負代金を理由もなく取引先に支払わない場合には、貴社が相当の期間を定めて取引先への履行の催告することができます。そして、その期間内に取引先への支払いがなされないときは、請負代金の債務者は、譲受人である貴社に対して譲渡禁止・制限があったことを主張することができなくなります(466条4項)。つまり、この場合には、貴社が譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったとしても、直接請負代金の支払いを請求することができるようになります。

  • 取引先が有する公共工事の請負代金請求権を差押えようと考えています。しかし、その請負代金請求権は譲渡禁止の特約がなされているようです。そのような債権を差押えることはできるのでしょうか。

     466条の4第1項は、「第466条第3項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない」と規定しています。466条3項は、当事者が譲渡制限の意思表示をした債権の譲渡がなされた場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができるという規定ですが、債権差押の場合にはこの規定を適用しないことを明らかにしています。

     なお、このような場合に、仮に、債務者の抗弁を許すとなると、当事者の合意により差押禁止債権を作ることができることになってしまうため、妥当ではないと考えられています。

  • 民法改正により、取引先がA銀行に有している定期預金を譲り受けることができるようになったのですか。

     譲り受けること自体は可能と考えられます。しかしながら、預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権について譲渡制限の意思表示があるときは、A銀行は、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人に対抗することができ、支払いを拒むことができます(466条の5)。

     預貯金は、通常、譲渡を禁止する特約が付されており、これは周知の事実です。したがって、定期預金を譲り受けても、通常は「譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった」ということになると思われます。

  • 民法改正により譲渡禁止特約のある債権であっても有効に債権譲渡ができることになりましたが、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者はその債務の履行を拒むことができるようですね。では、その場合に譲渡人が破産をしてしまったら、譲受人は何もできないのでしょうか。

     譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができます(466条の3)。

     したがって、譲受人は、供託金から回収することができるということになります。

     なお、これは譲渡人が破産した場合であって、譲渡人が民事再生や会社更生した場合には適用されません。

  • 譲渡制限の意思表示があった債権が譲渡された場合、債務者としては、譲受人の善意·悪意、無重過・過失の判断をすることができません。このような場合、債務者が債務を免れるためにはどうしたらいいでしょうか

     債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができるとされています(466条の2第1項)。したがって、債務者は供託することにより債務を免れることができます。

契約実務と約款に関する規定の新設との関係

  • どのような場合に「定型約款」に該当するのか詳しく教えてください。

     定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されており、そこでいう「定型取引」とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とされていますので(法548条の2)、定型約款に該当するかどうかは、
    ① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
    ② その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
    ③ 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された
    ④ 条項の総体
     のいずれにも該当する契約であることが要件といえるでしょう。そこで、これらの要件を検討していくことにします。

    ① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
     「不特定多数の者を相手方として行う取引」とは、相手方の個性に着目せずに行う取引という趣旨です。この要件により、例えば、労働契約において利用される契約書のひな型は「不特定多数の者を相手方として行う取引」に関する契約書とは言えず、定型約款に含まれないということになります。なお、一定の集団に属する者との間で行う取引であれば直ちに「不特定多数の者を相手方とする取引」に該当しないというわけではなく、相手方の個性に着目せずに行う取引であれば「不特定多数の者を相手方とする取引」に該当し得ることを前提としていることが部会資料86-2-1頁に記載されています。

    ② その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
     「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」の典型例は、相手方が不特定多数であり給付が均一である場合があげられ、ある企業が一般に普及しているワープロ用のソフトウェアを購入する場合などは、事業者間の取引ではあるが、上記の要件を満たすので、その場合には、定型約款に当たります。
     一方、仮に当事者の一方によってあらかじめ契約書案が用意されていたとしても、製品の原材料の供給契約等のような事業者間取引に用いられる契約書は定型約款に含まれません。なぜなら、当該取引においては、通常の契約内容を十分に吟味し、交渉するのが通常であり、この種の取引は画一的であることが両当事者にとって合理的とまではいえないからです。
     事実上の力関係等によって交渉可能性がないこともあるが、そういった場合であっても、プロ同士の取引であって、画一的であることが両当事者にとって合理的といえないのであれば、定型約款には当たりません。
     以上と類似するものとして、基本契約書に合意した上で行われる個別の売買取引などがあります。このような取引においては、基本契約書で合意したところに従い、契約条件の詳細は定められていて、個々の発注時には対象物の品質、数量等のみを示して取引が行われることが少なくありません。しかし、このような取引については、別途基本契約で内容を十分に認識して合意しているものであり、個別の発注時に基本契約書で定められた取引条件に拘束されるのは基本契約の効力によるものと解されます。したがって、このような取引は「定型約款」による取引とはいえないものと解されます (部会資料83-2-38頁参照)。

    ③ 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された
     この要件は文字どおりです。

    ④ 条項の総体
     「条項の総体」とは条項の集まりという意味です。「実務解説改正債権法」(359頁)では、「1枚の契約書における一部の契約条項群のみが「定型約款」に該当することはあり得る。例えば、個品割賦販売契約書の裏面に細かい字で印刷されている契約条項群(いわゆる裏面約款)などは、当該部分が定型約款に該当すると解される」としています。

  • 不動産賃貸業を営んでいますが、賃貸借契約書は所定のひな型を使っています。この契約書は定型約款に該当しますか。

     不動産賃貸借契約は、賃貸借する不動産や賃借人がそれぞれ異なります。したがって、一定のひな型を使っているとしても、取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的であるとはいえないと考えられます。

     また、賃借人の個性によっては契約内容を変更したり、特約事項を設けることも考えられますので、一般的に、「不特定多数の者を相手方とする取引」にも該当しないと考えられます。

     したがって、所定のひな型の賃貸借契約書を使っているからといって、定型約款に該当することはないと考えられます。

  • 定型約款に記載された条項は、現実に合意していなくても契約内容として当事者を拘束することになるのですか。

     定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの)を行うことの合意(「定型取引合意」)をした者は、現実に合意をしていなくても、定型約款の条項についても合意をしたものとみなされます(548条の2)。

     しかし、すべての場合に合意をしたものとみなされるのではなく、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、 または、定型約款準備者(定型約款を準備した者)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときに限られます。

  • 定型約款準備者に、定型約款の内容提示を請求することはできますか

     定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならないこととされています(548条の3第1項)。その方法としては、請求を受けた条項準備者は、定型条項を記載した書面を現実に開示したり、定型条項が掲載されているウェブページを案内するなどの相当な方法によって相手方に定型条項を示すことが想定されます(部会資料75B 11頁)。

     定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、改めて定型約款の内容を示す必要はありません。

     なお、定型約款準備者が定型取引合意の前において定型約款の内容提示の請求を拒んだときは、原則として、548条の2の「みなし合意」規定は適用されず、「みなし合意」は成立しません。(548条の3第2項)。

  • 当社では、取引先との商品販売契約書の雛形を作っており、極力、その雛形に従って契約をしていただくようにお願いしています。このような場合、商品販売契約書は定型約款に該当しますか。

     定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されており、そこでいう「定型取引」とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とされています(法548条の2)。

     したがって、貴社の商品販売契約書の雛形が上記の定義に当てはまるかどうかを検討していただくことになります。

     ご質問の商品販売契約書の雛形は、ご質問の趣旨からすると、「不特定多数の者を相手方として行う取引」ではなく、相手方の個性に着目し、相手方との交渉によっては契約条項の変更もあり得る取引を前提としたものであると考えられます。

     また、商品売買取引においては、基本契約書で契約条件の詳細を定めておき、個々の発注時には対象物の品質、数量等のみを示して個別契約を結んで取引をすることも少なくありません。このような取引は、基本契約で内容を十分に認識して合意されているものと思われます。そして、個別の発注時において、基本契約書で定められた取引条件に拘束されるのは基本契約の効力によるものと考えられます。したがって、このような取引は「定型約款」による取引とはいえないものと思われます。

契約実務と履行の請求・解除・損害賠償との関係

  • 売買代金の債務不履行の場合における遅延損害金について何か改正されたことはありますか。

     金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めることとされました。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によります(419条1項)。

     改正前の法定利率は年5パーセントでしたが、民法改正時の法定利率は年3パーセントに変更されました。また、これに伴い、商事法定利率(年6パーセント)の規定は廃止され、改正民法の法定利率に統一されることになりました。

     さらに、法定利率は3年に1度見直されることになりました。

     利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率によることとされましたので(419条)、売買代金の債務不履行の場合における遅延損害金は、遅滞が生じた時点における法定利率が適用されることになります。

  • 契約書に反社会的勢力を排除する条項がありますが、民法上はどのような意味があるのでしょうか。

     近年、反社会的勢力を社会から排斥するという目標のもと、契約書中に、相手方が反社会的勢力であることが明らかとなった場合には無催告解除することができる条項を設けているケースが多く見られます。

    条項例としては、次のようなものがあります。

    (反社会的勢力の排除)
    第●条 甲および乙は,現在,暴力団,暴力団員,暴力団準構成員,暴力団関係企業,総会屋,社会運動等標榜ゴロまたは特殊知能暴力集団等,その他これに準ずる者(以下,「反社会的勢力」という)のいずれでもなく,また,反社会的勢力が経営に実質的に関与している法人等に属する者ではないことを表明し,かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
    2 甲または乙は,相手方が次の各号のいずれかに該当する場合,何らの催告をすることなく契約を解除することができ,相手方に損害が生じてもこれを賠償することを要しない。
     ① 反社会的勢力に該当すると認められるとき
     ② 相手方の経営に反社会的勢力が実質的に関与していると認められるとき
     ③ 相手方が反社会的勢力を利用していると認められるとき
     ④ 相手方が反社会的勢力に対して資金等を提供し,または便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき
     ⑤ 相手方または相手方の役員もしくは相手方の経営に実質的に関与している者が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき
     ⑥ 自らまたは第三者を利用して,暴力的な要求行為,法的な責任を超えた不当な要求行為,脅迫的な言動,暴力および風説の流布・偽計・威力を用いた信用棄損・業務妨害その他これらに準ずる行為に及んだとき

     仮に、このような条項を盛り込んでいなかった場合には、相手方が反社会的勢力であることが判明しても、民法の規定上、無催告解除をすることは困難なケースが多いと考えられます。

     そのため、契約中に、相手方が反社会的勢力であることが判明した場合には無催告解除することができる旨を明示しておくことは有用です。

  • 改正民法542条は、「債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき」は、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとしています。ここで、「履行を拒絶する意思を明確に表示した場合」とはどのような状況をいうのでしょうか。

    「履行を拒絶する意思を明確に表示した場合」とは、履行不能の場合と同様に扱ってよい程度の状況が必要であると考えられています。例えば、債権者と債務者との間の交渉の過程で、債務者がその債務の履行を拒絶する趣旨の言葉を発しただけでは要件を満たさないと考えられています(部会資料82-2 5頁)。

  • 改正民法542条は、「債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」は、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとしています。これは、どのような状況と考えればいいでしょうか。

    「債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」とは、「債務の不履行それ自体によりもはや契約をした目的を達することができないと評価されるため催告要件を課すこと自体が不適切である場合」で、例えば、大型機材を用いたビルの清掃業務の委託契約において、債務者の従業員がその不注意によってビル内の人に大怪我を負わせた場合などが該当すると説明されています(部会資料68A 24頁)。

     裁判例としては、賃貸人が、ショッピングセンターとするために一棟の建物を区分してこれを青物商果物商等の店舗として各賃貸するにあたり、ショッピングセンターの正常な運営維持のため賃貸契約に特約を付し、賃借人が、粗暴な言動を用いたり、濫りに他人と抗争したり、あるいは他人を煽動してショッピングセンターの秩序を棄したりすること等を禁止している場合において、賃借人が右禁止に違反して他の賃借人に迷惑をかける商売方法をとつて他の賃借人と争い、そのため賃貸人が、他の賃借人から苦情をいわれて困却し、そのことにつき賃借人に注意しても、賃借人がかえつて暴言を吐き賃貸人に暴行を加える等判示のような事情があるときは、賃貸借契約の基礎である信頼関係は破壊され、賃貸人は右契約を無催告で解除することができるとしたものがあります(最高裁昭和50年2月20日判決 民集第29巻2号99頁)。

  • 改正民法では、債務不履行による損害賠償について、債務者の責任かどうか「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断するとされていますが、これまでとどのように変わるのですか。

     改正民法415条1項は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定しています。

     このように、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由である場合には損害賠償請求をすることができません。したがって、債務の不履行の判断は、当事者がどのような意思をもって契約したのかが重視されることになります。

     そこで、契約実務において、契約書の前文や目的規定において、契約に至る経緯や契約に至った動機、当事者の意図等について詳細に記載しておくこと、帰責事由の判断基準を明記しておくことなどが考えられます。なお、改正民法の下では、契約の目的物の瑕疵の有無や解除などの場面においても当事者の意思が重視されますので、契約書の記載方法はこれまで以上に重要になります。

     また、債務不履行かどうかを判断するためには、契約内容が明確に特定されている必要もあります。そういう意味においても、今後は契約書を作成しておくことがますます重要になります。

  • 改正民法では、債務不履行による損害賠償について立証責任の分配が明確にされたと聞きましたが、どのようになったのですか。また、それが契約実務にどのように影響しますか。

     改正民法415条1項は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定しています。この条文の規定ぶりから、債務者が損害賠償を免れるためには、債務者が帰責事由がないことを立証しなければならないと解釈されます。そのような意味で、「立証責任の分配が明確にされた」と言われています。

     そこで、契約書を作る際には、その点について修正をしておくことが考えられます。債権者の側から考えると、債務者自身に帰責事由がなくても、たとえば、債務者の下請業者の事情により実際に損害が発生した場合のことを想定して損害賠償義務を明示しておくことが考えられます。この例示の場合、債務者自身に帰責事由がないとは言い切れない場合もあると思いますが、そのような点で争いになることを考えれば、なおさら、そのような修正をしておくことが必要となります。

     逆に、債務者の側から考えると、債務者の帰責事由がないことの立証責任を軽減する方向で契約条項を作成することが考えられます。

  • 改正民法では遅延損害金の法定利率が下がるということですが、契約どおりに支払わなければペナルティを受けるというプレッシャーが弱くなってしまうことが心配ですが。

     改正前の法定利率は年5パーセントでしたが、民法改正時の法定利率は年3パーセントに変更されました。また、これに伴い、商事法定利率(年6パーセント)の規定は廃止され、改正民法の法定利率に統一されることになりました。さらに、法定利率は3年に1度見直されることになりました。

     もしも、契約どおりに支払わなければペナルティを受けるというプレッシャーが弱くなってしまうことが心配でしたら、法定利率ではなく、遅延損害金の利率を契約で定めておく必要があります。

  • 改正民法のもとで、契約の相手方が債務を履行しない場合、債権者が債務者に履行の請求をできない場合があると聞きましたが。

     まず、債務の履行が不能かどうかによってとるべき手段が変わります。債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができません(412条の2第1項)。逆に言うと、債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして可能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができます。

     ここで、「履行不能かどうか」の判断は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」検討することになりますので、当事者がどのような意思をもって契約したのかが重視されることになります。したがって、AとBが契約した場合と、AとCが契約した場合とでは、それぞれの契約に至る経緯や契約に至った動機、当事者の意図等が異なる場合があり、「履行不能かどうか」の判断が異なることがあるということになります。

  • 民法改正により契約関係のルールに様々な変更があったということですが、当事者間で法律とは異なる内容のルールを定めた場合、どちらが優先しますか。

     当事者間で契約書を締結していたり、民法と異なるルールを合意している場合には、その契約書の内容や合意の内容が優先します。契約書を締結していなかったり、民法と異なるルールを合意していない場合には、民法のルールが適用されることになります。

     仮に、契約書を締結していたり、民法と異なるルールを合意していた場合であっても、それらの内容に含まれない事項については民法のルールが適用されることになります。

  • 改正民法の下、債務不履行による損害賠償の範囲はどのようになりますか。

     改正民法416条は、1項で「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする」、2項で「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる」と規定しています。1項は「通常損害」、2項は「特別損害」と言われています。

     1項の通常損害については改正はされませんでした。2項の特別損害は、改正前は「予見し、又は予見することができたときは」となっていましたが、「予見すべきであったとき」に改正されています。

     この点について、部会資料79-3 12頁では次のような説明がされています。

    「現行の民法第416条には、同条第2項の債務者の「予見」に関する要件が、債務者が現実に予見していたかどうかという事実の有無を問題とするものではなく、債務者が予見すべきであったかどうかという規範的な評価を問題とするものであることが条文上明確でないとの問題があり、少なくともその点については、何らかの改正をする必要があるとの指摘もあった。
     そこで、民法第416条第1項の規定は維持した上で、同条第2項の「予見し、又は予見することができたとき」との要件を「予見すべきであったとき」との要件に改めることとした。これにより、例えば、契約の締結後に債権者が債務者に対してある特別の事情が存在することを告げさえすればその特別の事情によって生じた損害が全て賠償の範囲に含まれるというのではなく、債務者が予見すべきであったと規範的に評価される特別の事情によって通常生ずべき損害のみが賠償の範囲に含まれるとの解釈をすることが可能となる。」

  • 改正民法の下、債権者が債務者の債務不履行により解除をする場合に催告を要しないのはどのような場合ですか。

     改正民法541条1項は、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」と定めています。このように、債権者が債務者の債務不履行により解除をするためには、原則として履行を催告する必要があります。

     しかしながら、履行不能であるなど、催告すること自体意味のない場合があります。改正民法542条は、債権者は、次の場合には、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができるとしています。

    一  債務の全部の履行が不能であるとき。

    二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

    三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

    四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

    五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

  • 改正民法の下で、債務者の債務不履行により契約を解除する場合に、債務不履行の状態に陥ったことについて債務者の帰責事由は必要ですか。

     民法改正以前は543条で「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と定めていましたが、改正により後段が削除されました。そのため、債務者の帰責事由は必要なくなりました。

     このように改正されたのは、債務不履行による解除の制度が、債務者に対して債務不履行責任を追及するための制度ではなく、債権者が契約の拘束力からの解放を認めるための制度として理解されるようになったからと言われています。

     なお、債務不履行による解除に伴って損害賠償責任を追及する場面では、債務者の帰責事由の存在が必要となります。

  • 改正民法の下で、債務者の債務不履行により契約を解除する場合には必ず履行の催告をしなければならないのですか。

     民法541条は、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」と定めています。したがって、原則として履行の催告をすることが必要です。

     一方、催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がなされる見込みがない場合など、次のように、催告をすることが無意味な場合には無催告解除が認められます(民542条1項)。

    1 債務の全部の履行が不能であるとき。
    2 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    3 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
    4 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
    5 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

  • 改正民法の下で、売買契約において、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、いきなり代金減額請求をすることはできないのですか。

     引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができますが、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(563条1項)。

     このように、いきなり代金減額請求をすることができるわけではなく、相当の期間を定めて履行の追完の催告をした上で、履行の追完がない場合に初めて代金減額請求をすることができるわけです。

     しかし、履行の追完の催告をしても意味がない場合には、履行の追完の催告をすることなく代金減額請求をすることができます。履行の追完の催告をしても意味がない場合として、次のような場合が定められています(563条2項)。

    一 履行の追完が不能であるとき。

    二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

    三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

    四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

     なお、履行された内容が契約の内容に適合しない場合に、それが買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、代金減額請求をすることはできません(563条3項)。

  • 改正民法の下で、売買契約における売主の目的物についての債務不履行に対しては、債権者はどのような請求をすることができますか。

     民法562条1項は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」と規定しています。

     したがって、買主としては、売主に対し、まず、履行の追完を求めることができます。

     どのような方法、つまり、目的物の修補を請求するのか、代替物の引渡しを請求するのか、不足分の引渡しを請求するのかは、買主が選択することができます。これは、条文の構造上明らかです。

     しかし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができることになります。

     そして、この場合には、原則として、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をすることになります。債務不履行の場合には一般に履行の催告をすることが必要ですので、売買の場合には追完の催告をすることになります。そして、上記の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(563条1項)。

  • 改正民法の下では、債務不履行の程度が軽微な場合には契約解除をすることができないと聞いたのですか。

     改正民法541条は、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」としながら、「ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」と、債務不履行が軽微である場合には契約の解除をすることができないと規定しています。

     そこで、債務不履行が「軽微」かどうかが問題となりますが、契約実務においては、契約書の前文や目的規定において、契約に至る経緯や契約に至った動機、当事者の意図等について詳細に記載しておくことにより、当事者がどのような意思をもって契約したのかを明らかにしておくことが重要となります。

     また、債権者側から考えると、債務不履行により解除することができる契約条項を充実しておき、軽微な債務不履行でも解除することができるように工夫することも重要となります。

  • 改正民法の下では、債務不履行の程度が軽微な場合には契約解除をすることができないと聞きましたが、軽微かどうかはどの時点で判断するのですか。

     当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができます。しかし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除をすることができないこととされています(541条)。

     このように、「その期間を経過した時における債務の不履行が」軽微かどうかを判断することになりますので、債権者が履行の催告をした時点では軽微とは言えなくても、催告期間中に債務の一部が履行されたために催告期間経過時に債務不履行が軽微となった場合には解除をすることができないということになります。

  • 改正民法の下では、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、履行の追完の催告をすることなく代金減額請求ができるように契約書に定めることはできますか。

     買主は、売主に対し、相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるとされましたが(563条1項)、契約書で履行の追完の催告をすることなく代金減額請求ができるように定めることは可能です。

     スピーディーに簡潔したいような取引について契約書を作成する際は、こうした民法の原則を踏まえ、契約でどのように修正するのかを検討することが重要ですね。

  • 改正民法の下では、相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときであっても契約の解除をすることができない場合があると聞きましたが、どのような場合ですか。

     当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができます。しかし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除をすることができません(541条)。

     債務不履行が軽微かどうかは、「その契約及び取引上の社会通念に照らして」判断することになります。したがって、契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯、その契約についての取引上の社会通念などに照らして軽微と認められる場合には解除は認められないことになります。そこで、契約実務においては、契約書の前文や目的規定において、契約に至る経緯や契約に至った動機、当事者の意図等について詳細に記載しておくことが考えられます。

     また、債務の不履行が軽微であるときとは、不履行の部分が数量的にわずかの場合や、付随的な債務の不履行にすぎない場合などが考えられます。たとえば、地代の支払いが不履行であったために履行を催告した場合において、債務者が誠意をもって履行したが催告期間の経過した時に僅かな金額について支払うことができなかった場合、土地の売買契約において売買代金支払債務は履行されたが固定資産税清算金の支払債務が履行されない場合などが考えられます。

  • 民法562条1項は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」は、買主は追完請求することができるとしていますが、「契約の内容に適合しない」とはどのような意味ですか。

     「契約の内容に適合しない」とは、契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情にもとづき、取引通念を考慮して定まる契約の趣旨に合致しない、という意味です。したがって、売買契約書を作成する場合にあっては、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情等を盛り込んでおくことが重要です。

     また、当事者の主観的な意思や契約書の文言だけではなく、社会通念をも考慮して、契約内容適合性判断について、総合的に検討する必要があります。

  • 民法改正により、履行不能かどうかの判断について当事者がどのような意思をもって契約したのかが重視されることになるとのことですが、契約実務において注意すべきことはありますか。

     債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができません(412条の2第1項)。したがって、「履行不能かどうか」の判断は、当事者がどのような意思をもって契約したのかが重視されることになります。

     そこで、契約実務において、契約書の前文や目的規定において、契約に至る経緯や契約に至った動機、当事者の意図等について詳細に記載しておくことが考えられます。なお、改正民法の下では、契約の目的物の瑕疵の有無や解除、損害賠償の場面においても当事者の意思が重視されますので、契約書の記載方法はこれまで以上に重要になります。

     また、「履行不能かどうか」を判断するためには、契約内容が明確に特定されている必要もあります。そういう意味においても、今後は契約書を作成しておくことがますます重要になります。

     さらに、「履行不能かどうか」の解釈が争いとならないよう、履行不能となる場合を契約中に列挙しておくことも考えられます。

  • 民法改正により法定利率が年5パーセントから年3パーセントに変更になるのはいつからですか。

     改正民法は2020年4月1日から施行されますが、 施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率については旧法の規定によることとされています(附則15条1項)。つまり、2020年4月1日より前に利息が生じている場合には年5パーセントの法定利息が発生し、2020年4月1日以降についても年3パーセントではなく、年5パーセントの利率のままであるということです。

     また、契約が2020年4月1日より前であっても利息が2020年4月1日以降に発生した場合の法定利息の利率は年3パーセントということになります。

     次に、遅延損害金の法定利率ですが、施行日前に債務が生じた場合(施行日以後に債務が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む)におけるその債務不履行の責任等についても、旧法の規定によることとされています(附則17条1項)。したがって、2020年4月1日より前に遅延損害金が生じている場合には年5パーセントの遅延損害金が発生し、2020年4月1日以降についても年3パーセントではなく、年5パーセントの利率のままであるということです。

     そして、2020年4月1日以後に遅延損害金が生じる場合であっても、その原因である法律行為が2020年4月1日より前にされたときも、年3パーセントではなく、年5パーセントの利率が適用されることになります。

  • 民法改正後において、売主が引き渡した目的物が契約の内容に適合しなかった場合、買主は、いつまで履行の追完の請求をすることができますか。

     売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合においては、買主がその不適合を知った時から1年以内であれば、買主は、履行の追完の請求をすることができます。この期間制限は、履行の追完請求のみならず、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除に共通です。しかし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りではありません(566条)。

     なお、民法改正により、錯誤は「無効」から「取り消すことができる」ことに改正されましたが、取消権は追認をすることができる時から5年間、行為の時から20年間行使することができます(126条)。

     したがって、買主が錯誤を主張することができるケースでは、売主の履行の契約不適合を主張するのか、錯誤取消しを主張するのかで主張できる期間が異なることになります。

契約実務とその他の改正事項との関係

  • 改正民法522条において、「 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する」と定められましたが、実務的に気を付けることはありますか。

     契約の成立には申込みと承諾が必要であるということは、これまでも明文規定はなかったものの当然の法理として考えられてきました。ところが、実際には、なされた意思表示が契約の「申込み」なのか、単なる契約の申し込みの「勧誘」なのか、争われることがしばしばあります。

     本条では、いわゆる「申込み」を、「「契約の内容を示して」その締結を申し入れる意思表示」としていますので、改正後は、本条文に照らして申込みと勧誘の峻別を検討していくことになると考えられます。

  • 改正民法により、履行不能は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになったようですが、契約実務上、注意すべきことはありますか。

     民法412条の2は、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。」と規定していおり、部会資料68A2頁では、「その債務の履行が不能であるかどうかは、当該契約の趣旨に照らして判断されるべきである(中略)。ここにいう「契約の趣旨」は、契約の内容(契約書の記載内容等)のみならず、契約の性質(有償か無償かを含む。)、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮し、取引通念をも勘案して、評価・認定されるものである。」としています。

     後に、「契約の趣旨」という表現からは「取引上の社会通念を含む」ということを解釈しにくいので、条文は「取引上の社会通念に照らして」との表現にすることとされましたが(部会資料79-3)、いずれにしても、契約により発生した債務が履行不能かどうかは、契約の内容、契約の性質、契約をした目的、それらを契約の締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情を考慮して判断することになりますので、逆に言えば、契約締結の際にはそれらを明確に規定しておくことが必要となります。

     また、契約上の取引条件についてもどのような場合に履行不能とするのかを明確に定義する必要性も考えられます。たとえば、製造委託契約において最低ロット数を定めておき、当該ロット数未満の発注は製造原価の観点から履行不当とすることなどが考えられます。

     このように、履行不能かどうかの判断は、当事者の意思を考慮して判断されることになりますので契約実務においては注意が必要です。

  • 民法改正により、振り込みにより支払った場合の弁済の時期が明確にされたと聞きました。契約実務上、注意すべき点はありますか。

     改正民法477条では、「債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる」と規定されました。

     改正前までは振り込みにより支払った場合の弁済の効力発生時期についての規定はなく、解釈にゆだねられていました。

     たとえば、振込手続は当日に行ったが金融機関の営業時間の関係で着金が翌日となったり、金融機関側のシステムトラブルにより当日に送金することができなかったような場合が考えられますが、改正民法では、いずれも支払先の預金口座に入金がされ、相手先が金融機関に払い戻しを請求することができる時に弁済の効力が生じることを明確にしました。

     したがって、契約書の中で弁済の効力発生時期について、民法の規律どおりに定めるほか、債務者が機関機関に対し振込振手続きを行ったときに弁済の効力が生じることと定めたり、通常であれば債権者の口座に着金すべき時に弁済の効力が生じることと定めることが考えられます。

  • 連帯債務者の一人について時効が完成した際の効果は相対的効力に変更されましたが、その法的効果について、具体例で説明してください。

     ご質問のとおり、連帯債務者の一人について時効が完成した場合には、改正前は絶対的効力を有するとされていましたが、民法改正により相対的効果に変更されました(民法441条)。

     たとえば、甲、乙及び丙が300万円の連帯債務を負っており、甲の債務について時効が完成したとしても、相対的効果とかないために、債権者は、乙、丙に対して300の万円の請求をすることができることとなります。

     また、445条は「連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ、又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その一人の連帯債務者に対し、第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。」と規定していますので、乙または丙が債権者に弁済した場合には、時効が完成している甲に対して求償することもできます。

     さらに、442条1項は「連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する」と規定していますので、仮に、乙が債権者に対し60万円の弁済をした場合においても、乙は甲及び丙に対してそれぞれ20万円ずつ求償することができることとなります。

  • 連帯債務者の一人について生じた事由は、原則として、他の連帯債務者に対してその効力を生じないとされ、「履行の請求」これまでの絶対的効力から原則的な相対的効力に改正されましたが、実務的にどのようなことに注意すればいいでしょうか。

     民法改正前は、連帯債務者の一人について履行の請求をすれば連帯債務者全員について履行遅滞に陥らせたり、連帯債務者全員について時効中断の効果が生じていましたが、改正民法により履行の請求は相対的効力とされたため、連帯債務者の一人について履行の請求をしても、他の連帯債務者については履行遅滞や時効中断の効果が生じないことになります。

     したがって、連帯債務者全員について履行遅滞に陥らせたり、連帯債務者全員について時効中断(完成猶予)の効果を生じさせるためには連帯債務者全員に対して履行の請求をする必要があります。

     なお、これと平仄を合わせ、改正民法により連帯保証人に対する履行の請求も相対的効力に変更され、主たる債務者に対して履行遅滞や時効中断(完成猶予)の効果が生じないこととなりましたので注意が必要です。

  • 連帯債務者の一人による相殺の効力と、他の連帯債務者による相殺権の援用についてはどのような改正がされましたか。

     連帯債務は一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有しているため、絶対的効力事由が多ければ多いほど連帯債務の担保的効力が弱まる方向に傾斜します。そのため、絶対的効力事由を多数認めることは、通常の債権者の意思に反するのではないかという問題も指摘されていたようです。そこで、審議過程では、絶対的効力事由の一つ一つについて絶対的効力を維持すべきかどうか検討されました。そして、連帯債務者の一人による相殺については絶対的効力を維持することとされたため、改正民法においても絶対的効力があることに変更はありません。

     しかしながら、他の連帯債務者による相殺権の援用(改正前民法436条2項)については、連帯債務者の間では他人の債権を処分することができることになり不当であるとの指摘がされており、債権者に対して債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない場合の規律についてはどのようにすべきか検討がされました(部会資料8-1 4頁)。

     改正民法では、当事者間の関係を簡便に決済するという趣旨からすれば、債権者に対して反対給付を有する連帯債務者の負担割合の限度で、他の連帯債務者が履行を拒むことができるという抗弁権を与えれば足りるとの考え方により、その連帯債務者の負担部分の限度で、他の連帯債務者は、自己の債務の履行を拒絶することができると整理されました(部会資料67A 6頁)。

消費貸借に対する改正民法の注意点

  • 改正民法において、諾成的消費貸借の借主が目的物を受け取るまでに契約を解したことにより貸主に損害が発生した場合には、貸主は損害賠償の請求をすることができるとされましたが、具体的にどのような損害を想定すればいいですか

     この場合に貸主が損害賠償請求できる損害とは、貸主が金銭等を調達するために負担した費用相当額等と考えられます。現実に目的物の交付を受けていないのですから、弁済期までの利息相当額を損害とすることは考えららません。

     もっとも、貸主が金融機関や貸金業者であって借主の解除により貸付けができない場合でも資金を他の貸付先に流用することが容易にできる場合には、損害は発生しないものと考えられます。

  • 改正民法による諾成的消費貸借が成立した後に、目的物が交付される前に借主が目的物を借りる必要がなくなってしまった場合でも借主は目的物を借りなければならないでしょうか

     たとえば、100万円について諾成的消費貸借契約が成立し、貸主が借主に100万円を交付する前に借主が別の資金調達をして借りる必要がなくなったとします。

     しかし、契約の拘束力からすると、貸主は貸す義務を負い、借主は100万円を返済する義務を負うことになります。しかし、必要性が消滅しているのにそれぞれに義務を強いるのは不合理です。

     そこで、改正民法においては、諾成的消費貸借の借主は、目的物を受け取るまでは、契約の解除をすることができることとしました。

     しかし、借主からの契約解除によって貸主に損害が発生した場合には、その損害を貸主が負担するのは不合理であることから、貸主は損害賠償の請求をすることができるとされました。

  • 民法改正で規定された諾成的消費貸借契約が書面による契約に限定されている理由は何ですか

     諾成的消費貸借契約とは、合意のみによって消費貸借契約の成立を認めるものです。したがって、諾成的消費貸借契約が成立すると、契約の効果として、貸主には貸す義務、借主には借りる義務等様々な権利や義務が発生します。

     このように、合意のみによって様々な権利義務関係が発生してしまうことから、軽率に消費貸借契約が成立してしまうことを防止するため、諾成的消費貸借は、消費貸借の合意に書面がある場合に限ってその成立を認めることとされました。

  • 民法改正で規定された諾成的消費貸借契約と、従来の消費貸借契約とは併存するのですか

     「従来の消費貸借契約」とは要物契約としての消費貸借契約という意味であると思われますが、諾成的消費貸借契約が規定されたからといって要物契約としての消費貸借契約がなくなるというわけではありません。

     また、諾成的消費貸借契約が規定されたからといって書面が作成されれば常に諾成的消費貸借契約になるということではなく、書面中に「目的物の交付によって消費貸借の効力が生ずる」という特約が定められていれば要物的な消費貸借を書面によって成立されることも可能です。

  • 民法改正で諾成的消費貸借契約が認められるようになったとのことですが、どのような契約ですか

     諾成的消費貸借契約とは、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約束し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約束することで成立する契約です。なお、諾成的消費貸借契約は、書面により合意することが必要とされています。

     民法改正前は、消費貸借契約は、金銭等の目的物が相手方に交付されたときに成立する要物契約とされていましたが、判例では、(最判昭和48年3月16日)では、当事者間の合意のみで貸主に目的物を貸すことを義務付ける契約が認められていました。

     これは、金銭貸借ついて貸主と借主が合意したにもかかわらず、借主からの金銭の交付請求を貸主が拒絶することができてしまうのでは、確実に融資を受けたいと考えていた借主にとって不都合であるからです。

  • 民法改正により、消費貸借についてはどのような点が改正されましたか

    民法改正による消費貸借に関する改正点としては、主に5点あげられます。

     まず、諾成的消費貸借に関する条文が整備されました。これまで、消費貸借は、目的物の交付を必要とする「要物契約」であるとされていました。したがって、当事者の合意のみでは消費貸借契約は成立しないと考えるのが原則でした。しかし、判例では、目的物の交付がなくても当事者間の合意に基づいて貸主に目的物を貸すことを義務付ける契約をすることができるとされていました(最判昭和48年3月16日)。
     そこで、改正法は、書面による諾成的消費貸借に関する規定を新設しました。

     次に、消費貸借による物の返還債務を消費貸借の目的とする準消費貸借について規定が整備されました。旧法では、消費貸借によらない物の返還債務を消費貸借の目的とする契約として「準消費貸借」が規定されていましたが、判例では、消費貸借による物の返還債務を消費貸借の目的とする準消費貸借も認めていましたので(大判大正2年1月24日)、改正民法はこのような準消費貸借契約について規定を設けました。

     3つ目として、貸主は、特約がなければ借主に対して利息を請求することができないこと、利息の特約があるときであっても借主に請求することができるのは借主が金銭等を受け取った日以後の利息であることを明文化しました。

     4つ目は、無利息の消費貸借は、その目的である物又は権利を、消費貸借の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定すること。一方、貸主から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、借主は、その物の価額を返還することができることが規定されました。

     そして、5つ目として、借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができるものとし、かつ、当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、貸主は、借主に対し、その賠償を請求することができることが規定されました。

  • 諾成的消費貸借において、「借主は目的物交付前に消費貸借契約を解除することができない」と定めることはできますか

     改正民法においては、諾成的消費貸借の借主は、目的物を受け取るまでは、契約の解除をすることができることとしましたが、これは、契約成立後において、必要性が消滅しているのに借主に借入れ強いるのは不合理だからであり、強行規定であると解されています。

     したがって、当事者間の契約において「借主は目的物交付前に消費貸借契約を解除することができない」と定めることはできないものと考えられます。

不動産賃貸借に対する改正民法の注意点

  • 2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されますか?

     改正民法が施行される2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されるかどうかは、改正民法の「附則」を注意して見ておく必要があります。

     施行日前に贈与、売買、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例によるとされていますから(附則34条1項)、2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約には旧法が適用されます。

     また、施行日前に通知が発せられた意思表示の効力発生時期については旧法が適用されますので(附則6条2項)、例えば、施行前に発せられた解除等の意思表示の到達は旧法が適用されます。

     さらに、施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例によるとされていますから(附則10条4項)、施行前に生じた賃料等の消滅時効期間は旧法が適用されます。

     このほか、施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率についてはなお従前の例によるとされていますから(附則15条1項)、施行前に生じた利息は旧法が適用され、施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率についてもなお従前の例によるとされていますから(附則17条3項)、施行前に生じた利息の法定利率は旧法によります。

     また、施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例によるとされていますから(附則21条1項)、施行前にされた保証契約には旧法が適用されます。

     さらに、施行日前に契約が締結された場合におけるその契約の解除については、なお従前の例によるとされています(附則32条)。

     一方、施行日前に締結された定型取引に係る契約については、改正民法の適用を受けることとなりますので(附則33条)、賃貸借契約に付随して締結された定型取引に係る契約は、改正民法施行により定型約款の規定の適用を受けることになります。

  • 不動産賃貸借契約に対して改正民法が与える影響を教えてください

     詳細な解説は別のFAQで行うこととしますが、大きく3つのポイントがあると思われます。

     ひとつめは、賃貸借契約について直接改正された部分です。たとえば、敷金に関する規定の新設、賃借人の原状回復義務の取扱いの明確化、賃借人の修繕権などがあります。

     次に、保証ルールの改正も大きな影響があります。賃貸借契約に個人の保証人をつける場合には限度額を定めておきなければ保証契約が無効となってしまいます。また、事業のために賃借する場合の個人の保証人には、賃借人が自らの財産状況を保証人に説明しておく必要があります。

     三つ目は、その他の改正点が及ぼす影響です。たとえば、改正民法施行時の法定利息は年3%ですから、滞納家賃の遅延損害金利率に影響があります。また、賃貸借契約解除を目的として滞納家賃の催告をした場合、一部のみの支払いしかなかったときでも、改正民法により、賃貸借契約を解除できないこともあり得ます。

  • 不動産賃貸業を営んでいますが、賃貸借契約書は所定のひな型を使っています。この契約書は定型約款に該当しますか。

     不動産賃貸借契約は、賃貸借する不動産や賃借人がそれぞれ異なります。したがって、一定のひな型を使っているとしても、取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的であるとはいえないと考えられます。

     また、賃借人の個性によっては契約内容を変更したり、特約事項を設けることも考えられますので、一般的に、「不特定多数の者を相手方とする取引」にも該当しないと考えられます。

     したがって、所定のひな型の賃貸借契約書を使っているからといって、定型約款に該当することはないと考えられます。

  • 改正民法621条は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」規定されていますが、具体的な責任分担がイメージできません。

     国土交通省住宅局が公表しているガイドラインでは、次のような図を用いて修繕等の費用の負担者について説明しています。

    A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものは、「経年変化」か、「通常損耗」であり、これらは賃貸借契約の性質上、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものである。したがって、賃借人はこれらを修繕等する義務を負わず、この場合の費用は賃貸人が負担することとなる。

    A(+G):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものについては、上記のように、賃貸借契約期間中の賃料でカバーされてきたはずのものであり、賃借人は修繕等をする義務を負わないのであるから、まして建物価値を増大させるような修繕等(例えば、古くなった設備等を最新のものに取り替えるとか、居室をあたかも新築のような状態にするためにクリーニングを実施する等、Aに区分されるような建物価値の減少を補ってなお余りあるような修繕等)をする義務を負うことはない。したがって、この場合の費用についても賃貸人が負担することとなる。

    B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものは、「故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等」を含むこともあり、もはや通常の使用により生ずる損耗とはいえない。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

    A(+B):賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられる。したがって、賃借人には原状回復義務が発生し、賃借人が負担すべき費用の検討が必要になる。

     なお、これらの区分は、あくまで一般的な事例を想定したものであり、個々の事象においては、Aに区分されるようなものであっても、損耗の程度等により実体上Bまたはそれに近いものとして判断され、賃借人に原状回復義務が発生すると思われるものもある。したがって、こうした損耗の程度を考慮し、賃借人の負担割合等についてより詳細に決定することも可能と考えられる。

  • 民法改正により、敷金について定められたことはありますか

     実は、敷金については、これまではっきりとした規定は民法にありませんでした。そこで、今回の民法改正で、初めて次のような規定が設けられました。

    民法622条の2第1項
    「賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
     1 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
     2 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。」

     もっとも、この規定は、これまで敷金について一般的に理解されていた内容と異なるものではありませんので、実務的な影響は少ないものと考えられます。

  • 民法改正により、賃借人が事業のために賃借する場合には、賃借人は保証人になろうとする個人に対し、賃借人の財産状況を説明しなければならないこととなりましたが、具体的に、どんなことを説明したらいいのでしょうか。

     この場合に説明すべきことは、賃借人の財産や収入、賃借する不動産の家賃等以外に債務があれば、その額や弁済状況、賃借する不動産の家賃等のために担保を設定する場合はその内容です。

     この説明をしなかったり、虚偽の説明をした場合には、保証人は保証契約を取り消すことができます。したがって、賃貸人、賃借人、保証人のいずれも、どのような内容の説明をしたのかを何らかの記録で残しておくことが望まれます。

  • 民法改正により、賃貸借契約の個人保証人には極度額を定めなければならないこととされましたが、確定した元本が極度額より低い場合、元本額だけの責任を負うことになりますか

     元本に対しては遅延損害金が発生します。遅延損害金の率は賃貸借契約で定められていることが多いと思われますが、定められていない場合には法定利率により計算します。ちなみに、改正民法施行時の法定利率は年3パーセントです。確定した元本が極度額を下回っていたとしても、遅延損害金は日々発生します。保証人が責任を負う極度額にはこの遅延損害金が含まれることになります。もっとも、どんなに遅延損害金が発生しても、保証人が責任を負うのは極度額の金額が上限となります。

  • 民法改正により、賃貸借契約の賃借人は、保証人になろうとする者に対し、賃借人の財産状況を説明しなければならなくなると聞きましたが

     民法改正により、賃貸借契約における個人の保証人の保護が強化されましたが、賃貸借契約の賃借人が保証人になろうとする者に対し賃借人の財産状況を説明しなければならないとされるのは、一定の場合に限られます。

     まず、賃借人が事業のために賃借する場合に限られます。したがって、賃借人が自らの住居として賃借する場合は該当しません。また、保証人が個人の場合に限られます。

     このいずれにも該当する場合は、賃借人は、保証人になろうとする者に対し、賃借人の財産状況を説明しなければなりません。説明をしなかったり、虚偽の説明がなされた場合には、保証人は保証契約を取り消すことができますので注意が必要です。

  • 民法改正前に賃貸借契約が締結され、同時に保証契約も締結されました。そして、民法改正後に賃貸借契約が法定更新されました。保証契約については何ら合意はありません。この場合、法定更新後は保証契約が継続しているのでしょうか。また、存続しているとしたら、新法、旧法のどちらが適用されるのでしょうか。

     まず、前段のご質問については、原則として、更新後の賃借人の債務についても保証人の責任が生じるとするのが判例です(最判平成9年11月13日)。

     後段については未だ明確ではなく、今後の実務の趨勢を見ながら検討する必要がありますが、もしも、新法が適用されるとすると、極度額を定めて合意をしておく必要があり、何ら合意をしていない場合には、極度額の定めがないことを理由に無効となる可能性があります。

  • 民法改正後、会社等の法人が賃貸借契約の保証人となる場合、保証契約に極度額を定めることは必要ですか。

     民法改正後に個人が賃貸借契約の保証人となる場合には保証契約に極度額を定めることが必要ですが、会社等の法人が賃貸借契約の保証人となる場合には、保証契約に極度額を定めることは必要ありません。これは、会社等の法人は、リスクを負うかどうかについて自らの責任で判断すべきだからです。

  • 民法改正後、敷金の返還時期を、「賃貸物の返還を受けたとき」ではなく、「賃貸物の返還を受けた後1ケ月後」とか、「敷金の半額を控除して返還する」などと定めることは可能でしょうか

     改正民法では、敷金は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」には、「その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」と規定していますが、当事者間でこれと異なる契約をすること自体を禁止しているわけではありません。したがって、ご質問のような契約も原則として可能と考えられます。

     しかしながら、賃借人が消費者である個人の場合には、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項で消費者の利益を一方的に害するような契約は、消費者契約法によって無効となる可能性がありますので注意が必要です。

  • 民法改正後、賃貸人が保証人から家賃滞納状況等を尋ねられた場合に答えなかったら、なにか問題になるのでしょうか。

     保証人は賃借人が正常に家賃を支払っているかどうか、重大な利害関係があります。そこで、改正民法は、保証人から請求があれば、賃貸人は、遅滞なく家賃の履行状況や滞納金額等を伝えなければならないと定めました。もしも、保証人から家賃支払状況等について尋ねられても賃借人が回答しなかったり、虚偽の回答をしたことにより保証人に損害が発生した場合には、損害賠償請求を受ける可能性があります。

  • 民法改正後、賃貸借契約に個人保証をつける場合の注意点を教えてください。

     一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(いわゆる「根保証契約」)であって保証人が法人でないもの(いわゆる「個人根保証契約」)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負うものとされ、個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じないとされました(民465条の2)。

     賃貸借契約の個人保証も「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」ですから個人根保証契約であり、この条文が適用されます。

     さらに、その極度額は書面等で定めなければ保証契約が無効となってしまいますので注意が必要です。

  • 民法改正後、賃貸借契約等で、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大することは可能ですか

     改正民法621条で定める賃借人の原状回復義務の規定(賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない)は任意規定と解されています。

     このため、賃貸人と賃借人との間でこれと異なる特約を定め、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大することは、理論上は可能です。しかし、そのハードルは、決して低くはありません。

     この点について、最高裁判例では、「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」との判断が示されています。

     また、消費者契約法9条1項1号は、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効であること、同法10条で「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定されています。

     したがって、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大する旨の特約を設ける場合ためには、例えば家賃を低廉に設定する代わりに、賃借人の原状回復義務の範囲を拡大するなどの必要性を明らかにして、明け渡しの際の原状回復の内容等を具体的に契約前に開示し、賃借人の十分な確認を得たうえで、双方の合意により契約事項として取り決める必要があります。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 民法改正後に、極度額を100万円と定めて賃貸借契約の連帯保証人となった個人が、滞納家賃を60万円支払って家賃滞納が解消されました。ところが、その後再び滞納が始まり、滞納家賃が80万円となった場合、賃借人は連帯保証人にいくらの保証債務の履行を請求できるでしょうか。

     この場合、極度額が100万円であり、既に連帯保証人は60万円の保証債務を履行していますので、賃貸人が連帯保証人に請求できる金額は40万円が限度となります。100万円の限度額の範囲である80万円全額を請求できることにはなりませんので注意が必要です。

  • 民法改正後において、賃貸借契約に保証会社をつける場合には保証の極度額を定めなくてもいいですか

     民法改正により個人の保証人には極度額を定めなければならないこととなりましたが、これは、個人の保証人が過大な保証債務を負担することがないように限度額を定めることを義務付けたものです。したがって、賃貸借契約に保証会社をつける場合には、原則として保証の極度額を定める必要はありません。

     保証会社は、家賃滞納等があった場合には賃借人に代わって賃貸人に賃料等を支払いますが、保証会社はその金額等を賃借人に求償することになります。そして、その求償権を保全するために個人の保証人を徴求するこしがあります。そのような場合に、保証会社が個人保証人に対して求償できる限度額を定めておかなければ個人の保証人保護に欠けることとなります。

     そこで、保証会社の求償権を保全するために個人の保証人を徴求する場合には、賃貸人と保証会社との間の保証契約に極度額を定めておかなければならないとされましたので注意が必要です。

  • 民法改正後に賃借人が賃借物件内で自殺してしまった場合、その部屋を貸し出すことができません。相続人や保証人に損害賠償請求できますか

     賃借人が賃借物件内で自殺してしまうと、嫌悪感のため、通常はその物件の賃借を希望する人が見つかりません。したがって、賃借人の相続人に対して損害賠償請求することは可能と考えられます。この賃貸借契約に個人保証人がいる場合には、賃借人の死亡によって保証債務の額が確定しますが、賃借人の死亡の時に損害賠償請求権が発生すると考えられますから、個人保証人に対しても損害賠償の保証債務を履行することを求めることは可能です。

     ところが、民法改正により、個人保証人の場合には極度額を定めておく必要がありますので、将来、このような事態が生じた場合にどの程度の損害賠償請求をすることができるかを予想して極度額を定めておく必要があります。

     様々な裁判例がありますが、東京地裁平成19年8月10日の判決では、2年分の賃料に相当する損害賠償を認めました。2年分というのは、最初の1年間は貸し出すことができず、次の2年間は半額の家賃でなければ貸し出すことができないという計算です。このような裁判例を参考にしながら極度額を検討する必要もありそうですね。

  • 民法改正後に賃貸借契約の保証契約を個人と結ぶ場合は極度額を定めなければならないとされましたが、「賃料○カ月分」というような定め方でもいいでしょうか。

     極度額を定める場合の定め方については、今後の実務や裁判例を注視していく必要があり、「賃料○カ月分」という定めが有効かどうか、現時点では不明です。ただ、平成16年改正で設けられた貸金等根保証契約の限度額については、具体的な金額を定めなければならないと解説しているものもありますので、その考え方を踏襲すると、「賃料○カ月分」という定め方は避けた方が無難であると思われます。

     また、仮に「賃料○カ月分」という定め方をしてしまうと、賃料が改定されたときにはそれに連動して限度額が変動してしまうことになり、具体的な金額を定めたものとは言いがたいものとなってしまいます。

     したがって、「賃料○カ月分」という定め方をするのであれば、「当初賃料○カ月分」等と、具体的金額が変動することなく把握できるようにすべきであると思われます。

  • 民法改正後に賃貸借契約の保証契約を個人と結ぶ場合は極度額を定めなければならないとされましたが、さまざまな損害に対応するために極度額を相当高めに設定することは可能でしょうか。

     極度額を定める場合には、家賃の額、予想される損害の額、敷金の額、保証人の資力、家賃滞納等で解除し明け渡しを求めるのにどの程度の期間を要すると考えるのが合理的か、などを総合的に勘案して定めるのが一般的かと思われます。また、したがって、そのような計算からかけ離れた金額を極度額として定めた場合には、公序良俗に反して無効とされてしまうことも考えられます。

     仮に、極度額の定めが無効とされてしまうと、極度額を定めていないと同じことですから、個人根保証契約も無効とされ、保証人に何の請求もできないこととなりますので注意が必要です。

  • 民法改正後に賃貸借契約の保証契約を個人と結ぶ場合は極度額を定めなければならないとされましたが、どのような基準で極度額を定めたらいいでしょうか

     民法では特に基準を定めていませんが、一般的に言えば、家賃の額、どのような物件か、保証人をつける目的、賃借人の資力、保証人の資力、予想される損害の内容、解約時の修繕の程度などを考慮して定めることになるでしょう。また、家賃滞納があった場合には、そのまま放置すると極度額を高めに設定しなければなりませんので、放置せずに早期に対応していくことを前提として合理的な範囲で定めるべきかと思われます。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、保証人の財産に強制執行がされたときには保証債務の元本が確定するとされたのはなぜですか。

     保証人の財産に強制執行や担保権の実行がされるときは、保証人が相当程度苦境に陥っていることが考えられるため、個人保証人の保護のために元本を確定させることとしたと言われています。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、個人保証人が死亡したときは保証人の責任の範囲が確定するようですが、具体的にはどのようになるのですか

     改正民法では、賃貸借契約の個人の保証人が死亡した場合には保証人の責任の範囲が確定することとされました。たとえば、個人保証人Bが死亡したときは、その時点で賃借人Aが賃貸人に支払うべき債務の範囲で保証人の責任の範囲が確定しますから、仮に、10ケ月分の賃料滞納があった場合には、保証人Bの相続人は、10ケ月分のみの責任を負えば足ります。この場合、もしも、保証人Bの極度額が10ケ月分未満の金額であった場合には、保証人Bの相続人の責任は極度額までということになります。

     ところで、保証人Bが死亡したとしても賃貸借契約は終了しません。そうしますと、Bの死亡時点以降に発生する債務についてはBの相続人は責任を負わなくてよいことになりますから、賃貸人としては保証人がいない状態で賃貸借契約を続けなければならなくなります。この点は注意が必要です。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、賃借人が死亡したときは個人保証人の責任の範囲が確定するようですが、具体的にはどのようになるのですか

     改正民法では、賃借人が死亡した場合には個人保証人の責任の範囲が確定することとされました。たとえば、賃借人Aが死亡したときは、その時点でAが賃貸人に支払うべき債務の範囲で個人保証人の責任の範囲が確定しますから、仮に、10ケ月分の賃料滞納があった場合には、その後もAの相続人が賃料滞納を続けたとしても、個人保証人Bは10ケ月分のみの責任を負えば足ります。この場合、もしも、個人保証人Bの極度額が10ケ月分未満の金額である場合には、個人保証人Bの責任は極度額までということになります。

     ところで、賃借人Aが死亡したとしても賃貸借契約は終了せず、Aの相続人が賃借人の地位を承継することになります。そうしますと、Aの死亡時点以降はBは保証人としての責任を負わなくてよいことになりますから、賃貸人としては保証人がいない状態で賃貸借契約を続けなければならなくなります。

  • 民法改正後の賃貸借契約において、賃借人や個人の保証人が破産した場合にはどのような影響があるのでしょうか。

     賃借人が破産したとしても、賃借人が賃料を支払い続けている限り、賃貸借契約が終了することはありませんし、保証人の元本が確定することもありません。一方、個人の保証人が破産したときは、保証人の元本が確定し、その時点における賃借人の債務額を保証債務として破産手続きにより処理されることになります。

  • 私は不動産賃貸業を営んでおり、主に、アパート経営をしています。入居者には連帯保証人をつけてもらっていますが、民法改正以降の賃貸借契約の締結に関し、連帯保証契約について注意すべき点はありますか。

     個人の方に連帯保証人になっていただく場合には保証債務について極度額を定める必要があります。また、その極度額は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額の全部に係る極度額である必要があり、そのことを明示しておくべきだと思われます。

     なお、極度額の定めは保証人が負担する保証債務の範囲の全部を対象とし、その上限の金額が一義的に明確でなければならず、かかる方式によらない元本の極度額のみの定めは(旧)465条の2第1項の極度額の定めには当たらないものと解するのが相当であるとした判例(熊本地裁平成21年11月24日判決(判時2085号124頁)があります。

     極度額をいくらにすべきかは法令上の制限はありません。もちろん、極度額を無限とすることはできないものと考えられますが、あまり高額な極度額ですと連帯保証人となることを躊躇することになるでしょう。したがって、万が一、主債務者の賃料未払いや明渡債務不履行等が生じた場合に想定される請求額を考慮して適切妥当な金額を検討して極度額を定めるべきでしょう。

  • 賃借人が原状回復すべき部分が一部分の場合、賃借人の負担すべき補修費用の算出はどのようにすればいいですか

     原状回復は毀損部分の復旧ですから毀損部分に限定する必要があります。しかしながら、通常、当該部分のみの補修工事を施工単位としない場合には、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位を負担対象範囲として算出すべきです。

     この場合、毀損部分と補修工事施工箇所にギャップがあるケースが問題となります。

     例えば、壁等のクロスの場合、毀損箇所が一部であっても他の面との色や模様あわせを実施しないと商品価値を維持できない場合があることから、毀損部分だけでなく部屋全体の張替えを行うことが多いと思われます。しかし、賃借人の負担すべき修繕義務という観点からは、賃借人にどのような範囲でクロスの張替え義務があるとするかということが問題となります。

     この点、当該部屋全体のクロスの色・模様を一致させるのは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きいというべきであり、当該部屋全体のクロスの張替えを賃借人の義務とすると、原状回復以上の利益を賃貸人が得ることとなり、妥当ではありません。

     一方、毀損部分のみのクロスの張替えが技術的には可能であっても、その部分の張替えが明確に判別できるような状態になり、このような状態では、建物価値の減少を復旧できておらず、賃借人としての原状回復義務を十分果たしたとはいえないとも考えられます。

     したがって、クロス張替えの場合には、毀損箇所を含む一面分の張替費用を賃借人の負担とすることが妥当と考えられます。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 賃借人が結露を放置していたために物件にシミができてしまいました。賃借人の退去時に修繕費を請求することができるでしょうか

     賃借人は、賃借物を善良な管理者としての注意を払って使用する義務を負っています(民法400条)。建物の賃借の場合には、建物の賃借人として社会通念上要求される程度の注意を払って賃借物を使用しなければならず、日頃の通常の清掃や退去時の清掃を行うことに気をつける必要があります。

     賃借人が不注意等によって賃借物に対して通常の使用をした場合よりも大きな損耗・損傷等を生じさせた場合は、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになります。例えば、通常の掃除を怠ったことによって、特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合も、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになると考えられます。

     また、飲み物をこぼしたままにする、あるいは結露を放置するなどにより物件にシミ等を発生させた場合も、賃借人は善管注意義務に違反して損害を発生させたことになると考えられます。

     なお、物件や設備が壊れたりして修繕が必要となった場合は、賃貸人に修繕する義務がありますが、賃借人はそのような場合には、賃貸人に通知する必要があるとされており、通知を怠って物件等に被害が生じた場合(例えば水道からの水漏れを賃貸人に知らせなかったため、階下の部屋にまで水漏れが拡大したような場合)には、賃貸人は、賃借人に対し、損害賠償を求めることも可能である場合があると思われます。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 賃貸人が保証人から家賃滞納状況等を尋ねられたら答えてもいいのでしょうか。個人情報保護との関係で問題ないでしょうか。

     保証人から家賃滞納状況等を尋ねられたら、答えるのが当然であると考えます。しかし、賃借人の家賃滞納状況等は個人情報に該当するため、賃借人の同意を要するという考え方もあったようです。この点につき、改正民法は、保証人から請求があれば、賃貸人は、遅滞なく家賃の履行状況や滞納金額等を伝えなければならないと定めましたので、回答することについて明確な根拠となります。

  • 賃貸借契約の場合、改正民法が規定する保証人の極度額にはどのような債務が含まれますか

     一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(いわゆる「根保証契約」)であって保証人が法人でないもの(いわゆる「個人根保証契約」)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負うものとされ、個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じないとされました(民465条の2)。

     そこで、賃貸借契約においてどのような債務が含まれるのかを考えてみますと、滞納家賃、滞納家賃に対する利息や遅延損害金、賃貸借契約から生じる違約金、損害賠償金などが含まれると考えられます。

  • 賃貸借契約の連帯保証人は、どのような債務を支払わなければなりませんか

     賃貸借契約の連帯保証人は、賃貸借契約にもとづいて賃借人が支払わなければならない様々な債務を支払う必要があります。家賃や、賃貸借契約解除後に至っても賃借人が退去しないために生じた損害賠償債務、賃貸物件の設備を壊してしまった場合の修繕費、退去後に放置された物品の処分費等、その範囲は広範です。賃借人が賃貸物件内で自殺をしてしまった場合には、それが原因で他人に賃貸できなくなったことによる損害賠償債務を負うこともあります。

     このため、改正民法では、個人の連帯保証人の責任が制限なく広がらないように改正がされました。

  • 賃貸借契約中に修繕が必要となった場合、誰が修繕費を負担しなければなりませんか

     改正民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」と定めています。

     つまり、原則として賃貸人が修繕義務を負うが、賃借人の責任で修繕が必要となった場合には賃貸人は修繕義務を負わないということです。

     これまでは、この点について明確な規定はありませんでしたが、民法改正により規定が設けられました。

     したがって、賃貸人の立場から言えば、修繕が必要となった場合には、どうして修繕が必要となったのか、その事情を賃借人から説明してもらうことが必要となります。そして、それが専ら賃借人の責任によるものであれば、賃貸人は修繕義務を負わないということになります。

     そして、現実的な対応としては、修繕の負担について修繕をする前に充分協議したうえで勧めていくことが必要であると考えられます。

  • 賃貸借契約期間中であっても個人の連帯保証人の責任の範囲が確定することがあると聞きましたが、どのような場合に確定するのですか

    改正民法は、次の場合に賃貸借契約の個人の連帯保証人の責任の範囲が確定することとしました。この改正は、実務的にも大きな影響がありますので注意が必要です。

    ①賃借人の死亡
    ②保証人の死亡
    ③保証人が破産したとき
    ④保証人の財産に強制執行がされたとき

  • 賃貸借契約終了後の原状回復について、民法改正で定められたことはありますか

     改正民法621条は、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定しました。

     実は、これまでは、賃貸借契約終了後の原状回復について民法にこれほど具体的な規定は置かれていませんでした。もっとも、平成17年の最高裁判決では、賃借人が通常の使用をしていても生じる損傷や劣化(自然損耗)については、賃借人は原則として原状回復費用を負担する義務はないと判断されましたから、裁判実務ではこの考えが定着しています。なお、この判例では、例外的に、賃貸借契約等で、賃借人が負担すべき損傷の範囲が具体的かつ明確に定められている場合には賃借人が原状回復費用を負担する必要があると判断しています。

     今回の民法改正で上記のような具体的な規定が設けられましたが、これは、それまでの最高裁判例等を踏まえて原状回復費用の負担のルールを明確にしたということができます。

  • 賃貸借契約終了時にクリーニング費用を敷金から差し引くことは可能ですか

     クリーニングに関する特約についてもいろいろなケースがあり、修繕・交換等と含めてクリーニングに関する費用負担を義務付けるケースもあれば、クリーニングの費用に限定して借主負担であることを定めているケースがあります。

     後者についても具体的な金額を記載しているものもあれば、そうでないものもあります。

     クリーニング特約の有効性を認めたものとしては、契約の締結にあたって特約の内容が説明されていたこと等を踏まえ「契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わす専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円(消費税別)を負担する旨の特約が明確に合意されている」と判断されたもの(東京地方裁判所判決平成21年9月18日)があり、本件については借主にとっては退去時に通常の清掃を免れる面もあることやその金額も月額賃料の半額以下であること、専門業者による清掃費用として相応な範囲のものであることを理由に消費者契約法10条にも違反しないと判断しました。他方、(畳の表替え等や)「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約は、一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えないと判断したもの(東京地方裁判所判決平成21年1月16日)もあり、クリーニング特約が有効とされない場合もあることに留意が必要です。

    ※この回答は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局 平成23年8月)を引用しています。

  • 賃貸借契約継続中に、賃借人から敷金を滞納家賃に充当するように請求することはできますか

     できません。賃借人は、賃貸借契約にもとづいて賃料を支払う義務があります。賃借人から敷金を滞納家賃に充当するように請求することはできません。

     逆に、賃貸借契約継続中に、賃貸人から、敷金を滞納家賃に充当することはできます。その場合には、賃借人に対して充当した金額を敷金として再度預けるように請求することができます。

請負契約に対する改正民法の注意点

  • 改正民法634条の請負が仕事の完成前に解除された場合の報酬請求権は、合意解除の場合も適用がありますか

     改正民法634条では、請負が仕事の完成前に解除された場合において、請負人は、既にした仕事の結果が一定の要件を満たすときは、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができるとされていますが、これは、当事者が合意により請負契約を解除した場合をも含むと考えられます。もっとも、解除の合意の中で報酬について634条の内容と異なる合意がなされていればそれにしたがうことになります。

  • 改正民法の下における請負契約で、注文者に帰責事由にあって仕事を完成することができなくなった場合の責任分担はどのようになりますか

     改正民法では、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合には、既にされた仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は、その利益の割合に応じて報酬を請求することができるとしています。

     一方、注文者に帰責事由にあって仕事を完成することができなくなった場合には、債権者は、反対給付の履行を拒むことができないことから(民536条2項前段)、仕事が未了の部分も含めて報酬全額の債務を負うことになり、債務者は、自己の債務を免れたことによる利益の償還をしなければならないということになります(民536条2項後段)。

  • 改正民法の下における請負契約で、請負人が割合的な報酬を請求する場合の帰責事由についての主張立証責任はだれが負担しますか

     改正民法では、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合には、既にされた仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は、その利益の割合に応じて報酬を請求することができるとしていますが、この場合、請負人は、注文者に帰責事由がないことについてまで主張立証をする必要はないと考えられます。

     一方、注文者に帰責事由にあって仕事を完成することができなくなった場合には、債権者は、反対給付の履行を拒むことができないことから(民536条2項前段)、報酬全額の請求が可能となります。この場合には、請負人は、注文者の帰責事由について主張立証する必要があると考えられます。

     なお、この場合、請負人は、自己の債務を免れたことによる利益の償還をしなければならないということになります(民536条2項後段)。

  • 民法改正により、請負契約の報酬についてはどのように定められましたか

     改正民法634条では、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合又は請負が仕事の完成前に解除された場合において、請負人は、既にした仕事の結果が一定の要件を満たすときは、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができるとされました。

     旧民法では、仕事が中途で完成しなかった場合の報酬については規定されていませんでした。しかし、判例では、民法641条に基づき仕事の完成前に請負が解除された事案や仕事の完成前に請負人の債務不履行を理由に請負が解除された場合であっても、中途の結果によっても注文者が利益を受けている場合には、請負人がその利益の割合に応じた報酬を請求することを認めていました(大判昭和7年4月30日、最判昭和56年2月17日)。

     これに加え、このような割合的な報酬の請求は、判例で認めていたような請負が解除された場合に限らず、仕事の完成前に請負人の債務の履行ができなくなった場合には一般的に認めるのが合理的であると考えられます。
     そこで、改正民法ではこれらを明文化しました。