戦後の相続法改正の推移

戦後の相続制度の変遷について

昭和22年5月3日~同22年12月31日の間に死亡した場合(応急措置法)

 戦後、個人の尊厳と男女の本質的平等を基礎とする日本国憲法の制定に伴い、相続についても家督相続から財産相続へ改正するために全般にわたって見直しが必要となりました。しかしながら、改正作業が日本国憲法の施行に間に合わなかったことから、民法のうち「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」に反する部分を応急的に廃止する法律として、昭和22年4月に「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号)が成立しました。

施行日 昭和22年5月3日

主な改正内容
① 家督相続を廃止して,遺産相続法に従う(同法7条)とすることで,財産相続に一本化しました。
② 血族相続人として,直系卑属,直系尊属,兄弟姉妹の3種を定め,それと併行して配偶者が常に相続人となることを認めました。そして、配偶者とその他の相続人の法定相続分が次のように定められた。
  ● 配偶者と第1順位 配偶者3分の1 直径卑属3分の2
  ● 配偶者と第2順位 配偶者2分の1 直系尊属2分の1
  ● 配偶者と第3順位 配偶者3分の2 兄弟姉妹3分の1

昭和23年1月1日~昭和37年6月30日の間に死亡した場合(新民法)

 家督相続制度の廃止、配偶者の相続権の確立などの改正のために、昭和22年12月に「民法の一部を改正する法律」(昭和22年法律
第222号)が成立しました。もっとも,十分な検討の時間がなかったため、憲法に抵触しない規定については明治民法の規定がそのまま承継された部分も多くありました。そのため、衆議院司法委員会において、「本法は,可及的速やかに,将来において更に改正する必要があることを認める。」との附帯決議がされました。

主な改正内容
① 家督相続を廃止し、相続を財産相続に一本化しました。
② 配偶者の相続権を強く認めました。
  配偶者とその他の相続人の法定相続分が次のように定められました。
  ● 配偶者と第1順位 配偶者3分の1 直径卑属3分の2
  ● 配偶者と第2順位 配偶者2分の1 直系尊属2分の1
  ● 配偶者と第3順位 配偶者3分の2 兄弟姉妹3分の1
③ 長子単独相続を諸子均分相続に改正しました。
④ 祭祀承継を相続財産から分離し、その承継者を相続人とは別に慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者としました。

昭和37年7月1日~昭和55年12月31日の間に死亡した場合(昭和37年改正

 全面的な改正には相当の時間を要することから、差し当たり、従来から解釈上疑義があり、実務に混乱をもたらしている問題等について
先行して見直しが検討され、昭和37年に「民法の一部を改正する法律」(昭和37年法律第40号)が成立しました。

施行日 昭和37年7月1日

主な改正内容
① 同時死亡の推定規定を新設しました。
② 代襲相続の原因たる相続人の死亡を「相続開始以前」とし,同時死亡の子の子も代襲相続権を取得することとしました。
③ 代襲原因を、相続開始以前に死亡したとき、相続欠格となった時、排除判決を受けたときの3つに限定し、相続放棄は代襲原因とならないこととしました。
④ 第1順位の相続人を子と定めることで孫以下の直系卑属には固有の相続権がないことを明記しました。
⑤ 相続人不存在の規定を改正し、特別縁故者の規定を設けました。

昭和56年1月1日以降に死亡した場合(昭和55年改正)

 昭和55年に「民法及び家事審判法の一部を改正する法律」(昭和55年法律第51号)が成立した。

施行日 昭和56年1月1日

主な改正内容
① 配偶者の相続分が引き上げられました。これにより、配偶者とその他の相続人の法定相続分が次のように定められました。
  ● 配偶者と第1順位 配偶者2分の1 直径卑属2分の1
  ● 配偶者と第2順位 配偶者3分の2 直系尊属3分の1
  ● 配偶者と第3順位 配偶者4分の3 兄弟姉妹4分の1
② 兄弟姉妹の代襲相続について再代襲を認めないこととしました。
③ 寄与分制度を新設しました。
④ 遺産分割の基準を明確化しました。
⑤ 配偶者の遺留分率を引き上げました。

 

平成11年改正

 遺言の方式の見直しが検討され、平成11年に民法の一部を改正する法律(平成11年法律第149号)が制定されました。

主な改正内容
① 聴覚・言語機能障害者が手話通訳等の通訳又は筆談により公正証書遺言をすることができるものとされました。
② 併せて,口頭主義を原則とする秘密証書遺言、死亡危急者遺言等についても、聴覚・言語機能障害者が「通訳人の通訳」によりこれら
の方式の遺言ができるものとされました。

 

平成20年改正

 中小企業の事業承継の場面において発生する問題点として、遺留分による制約や事業承継時の資金調達の困難性、事業承継に際しての相続税負担等が指摘されていたことから、これらの問題に対処するため、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年法律第33号)が制定されました。

改正の内容
 一定の要件を満たす後継者が遺留分権利者全員との合意及び所要の手続を経ることを前提に、先代経営者からの贈与等により取得した株式の価額を遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入しないこと又は先代経営者からの贈与等により取得した株式の遺留分算定における評価額をあらかじめ固定することができるものとされました。

平成25年改正

 平成25年9月4日に最高裁判所大法廷により、民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分が違憲
であると判断されたため、「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号)が成立し,同部分を削除する改正がなされました。

平成30年改正

 高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から、平成30年7月に、民法・家事事件手続法の一部改正法案と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」案が可決・成立しました(平成30年法律第72号・第73号)。

施行日 自筆証書遺言の方式緩和については平成31年1月13日
    配偶者居住権・配偶者短期居住権、遺言書保管法以外については平成31年7月1日
    配偶者居住権・配偶者短期居住権については平成32年4月1日
    遺言書保管法については平成32年7月10日

主な改正点
① 配偶者短期居住権・配偶者居住権の創設
 配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合に、遺産の分割がされるまでの一定期間、その建物に無償で住み続けることができる権利として新たに創設されました。配偶者短期居住権は、被相続人の意思などに関係なく、相続開始時から発生し、原則として、遺産分割により自宅を誰が相続するかが確定した日(その日が相続開始時から6か月を経過する日より前に到来するときには、相続開始時から6か月を経過する日)まで、配偶者はその建物に住むことができるようになりました。
 また、配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物を無償で使用することができる権利です。建物についての権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」に分け、遺産分割の際などに、配偶者が「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得することができるようにされました。配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産もより多く取得できるようになり、配偶者のその後の生活の安定を図ることができる
ようになりました。
② 持戻し免除の意思表示に関する推定規定の新設
 結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して自宅の遺贈または贈与がされた場合には、原則として、遺産分割における計算上、遺産の先渡し(特別受益)がされたものとして取り扱う必要がないこととされました。これにより、自宅についての生前贈与を受けた場合には、配偶者は結果的により多くの相続財産を得て、生活を安定させることができるようになりました。
③ 預貯金債権の仮分割および家庭裁判所を介さない一部払戻し制度の創設
 生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済など、お金が必要になった場合、遺産分割前にも預貯金債権のうち一定額については金融機関で払戻しができるようになりました。
④ 自筆証書遺言の方式の緩和
 従前は、自筆証書遺言は、添付する目録もすべて自書して作成する必要がありました。その負担を軽減するため、遺言書に添付する相続財産の目録については、パソコンで作成した目録や通帳のコピーなど、自書によらない書面を添付することによって自筆証書遺言を作成することができるようになりました。
⑤ 自筆証書遺言の保管制度の創設
 自筆証書による遺言書は自宅で保管されることが多く、せっかく作成しても紛失したり、捨てられてしまったり、書き換えられたりする
おそれがあるなどの問題がありましたが、自筆証書遺言をより利用しやすくするため、法務局で自筆証書による遺言書を保管する制度が創設されました。
⑥ 遺留分侵害を理由とする遺留分権利者の権利の金銭債権化(遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へ)
 相続人に対する生前贈与について、遺留分の算定基礎財産に持ち戻す期間を相続開始前の10年間の贈与に限定されました。
 また、遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるものとされました。
⑦ 相続人以外の親族の貢献を考慮するための「特別の寄与」制度の新設
 相続人ではない親族(例えば子の配偶者など)が被相続人の介護や看病を行って被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対し、金銭の請求をすることができるようにしました。