会社の売買 -物語風-

会社の売買 -物語風-

「それで、その会社の代金としていくら払ったんですか?」
「50万円です」
「それで会社の実印だけをもらったんですか……」

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私は、目の前で小さくなっている中年の女性の目の奥を覗き込んだ。
今時、こんな簡単に不良会社を掴まされることも少ないだろう。

個人事業をしているその女性は、仕事の関係者から法人成りを薦められ、「新規に設立するより安上がりだから」と休眠状態の会社を斡旋された。
この会社を本店移転して名前を変え、役員を変えれば自分の会社ができるというわけだ。

「それは少し軽率だったというより仕方ないですね。会社を丸ごと買うことはしばしば行われますが、その場合はしっかり内容を調査しなければいけませんね。後で帳簿にも載っていない負債が出てきてビックリということのないようにね」

まさにそのとおりとなってしまったわけだ。その会社が1,300万円の負債を背負い込んでいたとのことで、内容証明郵便が送られてきたのだ。

「まだこの会社は実際には稼働していないわけですね。もう、この会社は放置しておいたらどうでしょうか。有限会社の場合、会社が負債を負っていたとしても原則として役員が個人責任を追求されることはありません。早い段階で会社の負債がわかったことは不幸中の幸いというより他ないですね」
「でも、これから会社が訴えられでもしたらどうしましょうか?」
「負債を負っていることが事実でしたら負けるでしょうね」

負けても何の問題も起こり得ないと確信していたので私はサラリと答えたが、女性の顔色がみるみる青くなるのが手に取るようにわかった。
ちょっと脅かしすぎたか…。

「負けたって、会社には何にも財産はないわけですから何も怖くないですよ。『無い袖は振れぬ』というところでしょうか」
「それじゃあ、私はこれからどうやって仕事をしていけばいいでしょうか?」
「どうやってというか…。この会社のことは放置しておくしかありませんので、それとは別に、今後の事業形態について最初から考えた方がいいと思います、収入的に法人成りした方がいいのかどうか、そのあたりの基本的な事から税理士さんに相談されたらどうでしょうか。それから、……………」

できれば、会社を買う前に相談して欲しかったものだ。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

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古橋 清二

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