配偶者居住権講義録
これは、2020年1月22日に開催された講習会において、当事務所代表の古橋清二が講義した内容を記録したものです。
なお、YouTubeで講義の動画を見ることもできます。
第1講 配偶者居住権の概要
第2講 配偶者居住権の節税の可能性と相続税法上の財産評価
第3講 配偶者居住権に関する実務上の検討
本日は、配偶者居住権についてお話をさせていただく機会をいただきまして本当に感謝しております。
今日のテーマである配偶者居住権は、今回の相続法改正の目玉であるということができます。しかしながら、私も、以前は、「こんなややこしい制度は果たして使う人がいるのだろうか、せいぜい、調停や審判の場面で法定相続分の価額を調整するために使われるだけではなかろうか」、という程度に考えていましたし、内容が難しいせいか、あまり話題にもなっていないように感じます。
しかし、配偶者居住権という制度は、勉強すればするほど、「配偶者居住権の創設は大変大きな改正である」という実感が強くなってきましたし、相続税の観点でも配偶者居住権は節税に大きな効果があるということがわかってきました。
そもそも、配偶者居住権は、残された配偶者を保護するために設けられた制度ですが、どうも、違う思惑で予想外に広く利用されるのではないかという予感がしています。
法律は、時として立法事実とは異なる使われ方をすることがあります。私の経験からもいくつかそのようなことがありました。
たとえば、平成12年に施行された特定調停法。この法律は、ゼネコンや第三セクターなどの債務処理のひとつの方法として立法されたという経緯があります。ところが、蓋を開けてみると、利用者の大半は、いわゆる多重債務者でした。
また、平成13年に施行された個人向け民事再生についても、利用者は住宅ローンの返済が遅れてしまっている方を想定していましたが、こちらも、利用者の大半は住宅ローンの遅れはない方々だったため、わずか3年程度で改正がなされました。
今回の配偶者居住権につきましては、有効に活用することにより節税効果もあることから、今後は、当初の目的からそれて、節税の観点から多く利用されるのではないかと思います。
正直言って、配偶者居住権は、法律の面でも税金の面でもとっつきにくくて面倒臭い制度です。しかし、そういった面倒臭い制度をマスターしておけば、お客さんに対して他の人とはひと味違う法的サービスが提供できるのではないかと思っております。今日は長時間の講義になりますが、このつらい時間を我慢すれば、新しい未来が拓ける、というぐらいの気持ちで私のつまらないお話を聞いていただければと思います。
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