古い登記の抹消登記手続請求訴訟は司法書士の専門性を発揮できる訴訟だ

 ここ数日、古い登記の抹消手続請求訴訟は相続により被告が大勢になり、いろいろなことが起きることを書いてきた。
 送達の問題など、いろいろなことが起きることはともかくとして、この手の訴訟は司法書士の専門性が最大限に発揮できる訴訟だ。だから、司法書士としては絶対にマスターしておかなければならない。

 その専門性を発揮する場面の第一は、戸籍を調査することによって相続人を確定するスキルに長けているということだ。司法書士試験に戸籍法の問題は出ないが、相続手続を扱わない司法書士はおそらく皆無だ。だから、日々、戸籍を読んでいる。馴れてくると、一般の人では判読できない明治時代の戸籍でもすらすら読めてしまう。そして、それぞれの時代の相続法を知っているために相続関係を正確に把握していくことができる。そのため、司法書士であれば、時間はかかるが、数十人の相続人を調べ上げることができる。

 そして、専門性を発揮する第二の場面は、請求の趣旨を正確に記載することができるということだ。どのように登記申請をすればいいのかわかっているために、債務名義となる判決に記載されるべき主文、すなわち、訴状における請求の趣旨を正確に起案することができるわけだ。

 また、この手の訴訟が司法書士に適している理由として、ほとんどのケースにおいて、実質的に争いとなることはないということである。明治、大正、昭和の初期などに登記された抵当権や仮登記など、そもそもそういう登記があることすら相続人である被告らは知らない。しかも、一般的には争う気持ちにもならない。訴額としても簡裁で行うことができることが多く、司法書士が代理人として訴訟を遂行することができる。仮に地方裁判所の管轄となり、司法書士が代理権を行使できない場合であっても、本人に十分説明して訴訟書類を作成することで本人訴訟を支援することが可能な事件類型と言える。

 さて、この手の訴訟は、請求の立て方をキチンと理解していれば、請求の原因の記載も困難ではない。ところが、特別研修で勉強したはずなのに、それを忘れている人が多い。

 私は、研修に来た新人に、この手の登記手続請求訴訟の訴状を起案してもらうことがよくある。抹消すべき登記は、抵当権であったり、根抵当権であったり、賃借権、仮登記などさまざまである。まず、自分で請求の原因を考えて起案してみるように指示するわけだ。

 みんなウーンウーンと悩みながら、数日かけて訴状を起案してくる。何をウーンウーンと悩んでいたかというと、例えば、抵当権であれば被担保債権は弁済されたのか、時効消滅したのか、時効消滅したというのであれば時効起算日はいつか。根抵当権であれば、根抵当権は確定しているのか、確定しているとしたら確定事由は何か、そして、その債務は弁済されたのか・・・・・・。賃借権であれば・・・・・・。仮登記であれば・・・・・・。
 まあ、いろいろと苦労して考えてくる。

 そこで、私はいつもこう言う。「僕だったら5分で起案できるよ。請求原因は、相続関係の説明を除けば5行ぐらいかな。まあ、今まで5行で書けた研修生はいないから、今回勉強すれば大丈夫だよ」と。

 そして、「物権的請求権で書けばいいんだよ」というと、しばらく時間がたった後、「え、これでいいんだ・・・・・・」という反応が返ってくるのである。
一度、この手の事件の考え方を経験しておけば、あとは司法書士の専門性を発揮して得意分野にしていけばいいのである。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

  • 【動画&メモ】民法を学ぼう 保証契約締結時の情報提供義務【動画&メモ】民法を学ぼう 保証契約締結時の情報提供義務 保証契約締結時の情報提供義務(465の10) Ⅰ.改正の経緯  これまでは、保証契約締結時における保証人に対する情報提供について、特段の規定は置かれていませんでした。しかし、主債務者から「迷惑をかけないから」等と言われて保証人となり、その結果、予想に反する保証債務の履行を求められるという悲劇が多数発生していました。  そこで、このような悲劇を防止するため、一定の条件 […]
  • 【動画】根抵当権の債務者の相続、指定債務者の合意、そして、その先の話【動画】根抵当権の債務者の相続、指定債務者の合意、そして、その先の話 根抵当権の債務者の相続、指定債務者の合意、そして、その先の話   https://youtu.be/HI97-BRqzUY
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第3回 ~民法改正案904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)を考える~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第3回 ~民法改正案904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)を考える~ https://youtu.be/ANroZSPJ2HE
  • 相続分の指定と所有権の対抗問題相続分の指定と所有権の対抗問題 【相続分の指定と所有権の対抗問題】  父Aが死亡し、相続人は子供の私Xと弟Yの2名です。Aは、「Xの相続分を3分の2、Yの相続分を3分の1とする」との遺言を残していました。この遺言をもとにXは甲土地全てを含む遺産の3分の2を、Yが預貯金から残りの3分の1を相続することになりました。甲土地について、まだAからXへの所有権移転登記はしていませんでした。  ところが、Yには借金 […]
  • まちゼミ 「7月相続法改正! ~新しい相続手続の流れ~ 受付開始しました!」まちゼミ 「7月相続法改正! ~新しい相続手続の流れ~ 受付開始しました!」 7月相続法改正! ~新しい相続手続の流れ~ ※受講受付中!  相続が発生すると、預金の解約、遺産分割協議、相続税申告など、短い間に様々な手続きを行わなければなりません。それに加え、7月には相続に関する法律が大きく改正されました。  当事務所では、新しい法律にもとづいて、相続が発生した場合に何をどのような順番で行ったらいいのか、司法書士がわかりやすく解説いたします。 […]
  • 令和元年7月1日以降は、相続が始まってから遺産分割協議がまとまる前であっても、相続人は、単独で、金融機関の窓口において一定の上限の範囲内で預貯金を払戻すことができるようになったと聞きましたが、その概要を教えてください。令和元年7月1日以降は、相続が始まってから遺産分割協議がまとまる前であっても、相続人は、単独で、金融機関の窓口において一定の上限の範囲内で預貯金を払戻すことができるようになったと聞きましたが、その概要を教えてください。  これまでは、平成28年12月28日の最高裁大法廷決定において預貯金債権が遺産分割の対象に含まれると判断されたため、遺産分割までの間は一部の相続人が当面の生活費や葬儀費用に充てるために預貯金の一部を払い戻すことは認められませんでした。  そのため、遺産の預貯金があるにも関わらず相続人の生活費や葬儀費用が払えなくなってしまうおそれがありました。 […]
  • 特別寄与料請求の期間制限特別寄与料請求の期間制限 【特別寄与料請求の期間制限】  特別寄与料の請求はいつまでにしなければならないといった期間の制限はありますか。 回答  特別寄与料の請求は、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6か月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときは、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができなくなります。  このように権利行使期間が短期間に制限されてい […]
  • 【動画】中央合同事務所内の雑談 ◆相続法改正で新設された特別寄与料の請求とは?【動画】中央合同事務所内の雑談 ◆相続法改正で新設された特別寄与料の請求とは? 【中央合同事務所内の雑談】 相続法改正で新設された特別寄与料の請求とは? https://youtu.be/yS_-3XhGiUU  平成30年相続法改正により、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる […]
  • 会社法施行にあたって(2006年5月30日のブログより)会社法施行にあたって(2006年5月30日のブログより) 5月1日から会社法が施行されました。会員のみなさまの実務は順調に推移しているでしょうか。 私が副会長に立候補した際、その所信として、会社法施行に対する的確な対応を掲げさせていただきました。これは、昨年施行されました改正不動産登記法に対して、日司連のリードが必ずしも満足いくものでなかったため、会社法については日司連を頼ることなく地元で研究をして静岡から会社法の実務をリードして […]
  • 経営革新等支援機関に認定されました(平成30年12月21日付)経営革新等支援機関に認定されました(平成30年12月21日付) 経営革新等支援機関に認定されました!  当事務所は、平成30年12月21日付で、東海財務局及び関東経済産業局から、「中小企業経営力強化支援法」(中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律)に基づく「経営革新等支援機関」として認定を受けました。 認定支援機関とは?  経営革新等支援機関(認定支援機関)は、中小企業・小規模事業者が安心して経営相談等が受けられるために、専門知 […]
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第6回 不動産登記法改正案 ~相続人申告登記とは?~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第6回 不動産登記法改正案 ~相続人申告登記とは?~ https://youtu.be/X3y2LmHrYb8
  • パートさん募集中! -募集は終了しました-パートさん募集中! -募集は終了しました- パートさん募集中! いっしょに働きませんか? ◆仕事内容は、登記関係書類の作成・整理、財産管理している個人のお客さんの経理処理(と言っても、通帳を見て簡単な会計ソフト使ってパソコンに転記するイメージ)、市役所等での住民票等の取寄せ(社用車使用)などです。 ◆パートさんを含め、8名のアットホームな事務所です。 ◆明るい方。未経験者も積極的に応募してください。子育て中の方も […]
  • 株式会社ダッツの株主名簿管理人に就任しました株式会社ダッツの株主名簿管理人に就任しました  当事務所は、株式会社ダッツの株主名簿管理人に就任しました。  株式会社ダッツの発行する株式の名義書換、届出印、住所等の変更の届出、単元未満株式の買取請求等につきましては、株主名簿管理人である司法書士法人中央合同事務所が取り扱っております。お気軽にお問い合わせください。 詳しくは、下記のページをご覧ください。 http://司法書士法人中央合同事務所.com/kabun […]
  • 【動画】誰が相続人になる? 法定相続分は?【動画】誰が相続人になる? 法定相続分は? 【動画】誰が相続人になる? 法定相続分は? https://youtu.be/UD0z9EcBiwI
  • 「【講演録】民法改正後の賃貸借契約の留意点(保証を中心に)」のページを追加しました。「【講演録】民法改正後の賃貸借契約の留意点(保証を中心に)」のページを追加しました。 「【講演録】民法改正後の賃貸借契約の留意点(保証を中心に)」のページを追加しました。  平成31年3月12日に行われた全日本不動産協会静岡県本部主催の研修会で当事務所の古橋清二が講演した「民法改正後の賃貸借契約の留意点(保証を中心に)」の講演録を掲載しました。 下記のリンクからどうぞ! http://xn--fiqui1ew2o5rb2c2a680hkray93eo1l […]
  • 遺産分割協議がまとまる前に払戻しが認められるのは預貯金の一部と聞きましたが、同一の金融機関に複数の預金がある場合はどのような金額が払戻可能ですか。遺産分割協議がまとまる前に払戻しが認められるのは預貯金の一部と聞きましたが、同一の金融機関に複数の預金がある場合はどのような金額が払戻可能ですか。  遺産分割協議がまとまる前に払戻しが認められる預貯金の額は、相続が発生した時点における残高の3分の1に、払戻しを求める相続人の法定相続分を乗じた額です。ただし、金融機関ごとに150万円が限度とされています。  そして、ここでいう「預貯金の額」は、預金毎に考えられることになります。たとえば、ある金融機関に故人の普通預金300万円と定期預金1200万円がある場合で、払戻しを求め […]
  • 可分債権を遺産分割の対象とすることの可否可分債権を遺産分割の対象とすることの可否 【可分債権を遺産分割の対象とすることの可否】 貸金債権のような可分債権の相続においては、当該債権が遺産分割の対象となるかどうかが問題となります。判例では、被相続人が相続開始時に有していた貸金債権は、相続開始とともに当然分割されて各相続人に法定相続分に応じて帰属することになるため、遺産分割の対象とならないとされています(最判昭29.4.8)。  しかしながら、裁判所の実務で […]
  • 改正利息制限法講義録 利息制限法の大改正、あれから、僅か10年しか経っていないのですね。当時、資料のない中で必死に勉強し、改正利息制限法の講義をしたものでした。  あまり文献のない分野ですので参考になればさいわいです。 ご紹介いただきました古橋清二です。 […]
  • 大根十耕と新人研修大根十耕と新人研修  大根十耕とは、「大根の種を蒔く前に土を十回耕せ」と言う意味です。 大根のような根物は、土の塊や石などがあると、曲がったり、又根になったりして真っ直ぐ伸びず、品質が落ちてしまうのです。  そろそろ大根の秋まきの時期です。10回は無理ですが、耕耘機でよ~く耕して畝を作りました。左側は表面をならした畝、右側はこれから表面をならす畝です。  ところで、今、静岡県司法書士会では […]
  • 登記簿に新築年月日の記載のない場合の住宅家屋証明登記簿に新築年月日の記載のない場合の住宅家屋証明 登記簿に新築年月日の記載のない場合の住宅家屋証明 備忘のためのメモです。 登記簿に新築年月日の記載のない建物がありますが、浜松市の場合、評価証明書で建築年次が確認できれば建築後の年数が確認できるので、中古住宅売買用の住宅用家屋証明書の発行が可能でした。 […]

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

古い登記の抹消登記手続請求訴訟は司法書士の専門性を発揮できる訴訟だ」への5件のフィードバック

  1. 東京簡裁は登記関係は地裁へ送る。が基本ですよ。
    ちょっと複雑だとなんでも送るけれど。
    浜松はそうはならないのですか。

    1. 浜松で、登記関係で移送されたことはないですね。今、不動産の共有物分割訴訟をやっていますが、これも簡裁で係属中です。

  2. 自分も古い抵当権がついた土地を相続しており、手続きに行き詰っております。
    こちらのページを拝見し、少し自分の事案をお伝えさせていただいてもよろしいでしょうか?

    昭和初期に県知事の命により解散している無限責任~組合が、債権額1500円で土地に抵当権を設定しております。
    解散したこの法人には清算人が選任されておらず、また当時の理事4名も戸籍を取り寄せましたところ、全ての方が
    お亡くなりになっておりました。
    清算人もしくは特別代理人を選任し、訴訟をすれば間違いなく勝訴となる判決をいただけることは、色々調べていく
    うちにわかったのですが、何分、士業の方に報酬をお支払いできる経済的な余裕がなく、困っております。

    調べていくうちに、令和5年4月に施行される不動産登記法の改正で、
    「第七十条の二 解散した法人の担保権に関する登記の抹消」
    『被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したとき』

    現在の所有者単独で、抹消することが出来るような条文をみつけたのですが、これで自分の土地に設定されている
    古い解散した法人の債権を消すことはできるのでしょうか?

    そもそも、大正時代の借金で90年以上が経ち、明らかに時効で消滅しているのはわかりきっているようなものを
    なぜ、相続しなければならないのかと、憤りを感じる所存です。
    乱筆失礼いたしました。

    1. はじめまして。
      コメント拝見しました。改正法が適用できるか、ですが、未だ改正法の解釈が判然としないところがあり、確定的な回答ではありませんが、個人的には適用できないと考えています。
      改正法は清算人が所在不明であることを要件としていますが、清算人が死亡している場合には所在不明とは言えないと思います。したがって、これまでどおりの手続きが必要になると思います。
      ただし、裁判所または県で清算人が選ばれたら、裁判までしなくても抹消登記に応じてくれる可能性が高いと思われます。
      実際に資料を見ないとわからないところもありますので、お近くの司法書士に相談されることをお勧めします。

      1. 丁寧なご解答ありがとうございます。
        法改正にかけていたところもあるのですが、残念ながら適用されそうにないとのことで、この先、100年経とうとも古い抵当権は残ったままになりそうですね。。。

        コメント返信が遅くなりましたが、昨日、市の司法書士無料相談会へ参加してきました。
        しかし、「このような組合の閉鎖登記簿を見たことがない」とやんわりと断られました(^^;
        たぶん、私共の土地では戦争にて古い登記簿が残っていないので、このような古い時代の解散した法人の閉鎖登記簿を見たことある人は皆無だろうとのことでした。

        またまた行き詰りました。
        日本の法律改正が実情に沿ったものとなりますことをこの先、期待していきます。
        この度は、ありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)