包括根保証の禁止の拡大
1 改正に至った経緯
商工ローンの問題から、平成16年の民法改正によって「貸金債務について」の根保証契約は、保証人の責任が過大になることを防ぐために極度額等を定めなければならないとされた。
一方で、その他の根保証(例えば不動産賃借人の債務等)契約については極度額等の定めは不要であった。
(この極度額等の定めの不要であった根保証を「包括根保証」という。)
しかし、その他の根保証についても、貸金債務についての根保証と同様に保証人の保護が必要だとする考えから、今回の改正では、包括根保証の禁止の対象を根保証一般に拡大した。
以下、殴り書きメモ
2 改正の概要
極度額について
・個人根保証の保証人は「極度額」を定めなければ、保証の効力を生じない。
・極度額は書面又は電磁的記録で定めなければ極度額の効力を生じない。
結果、保証の効力を生じない。
元本確定事由について
個人根保証契(個人貸金等根保証契約を含む)の元本の確定事由
①債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき(強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る)。
②保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
③主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
個人貸金等根保証契約の元本の確定事由
①債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき(強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る)。
②主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
個人根保証契約において法定の元本確定事由が生じても元本が確定しないとの特約は有効か
個人根保証契約について法定の元本確定事由を設けたのは当事者間の衡平等を考慮して保証人を保護するためであるから、当事者の約定で保証人の責任を追及することができる範囲を広めることは立法の趣旨に反する。
したがって、個人根保証契約において法定の元本確定事由が生じても元本が確定しないとの特約を定めることは無効と考えられる。(改正債権法と保証実務88)
元本確定期日について
元本確定期日については規定されていない。
平成16年に改正された貸金債務についての根保証は「原則3年以内」とする元本確定期日の定めが規定された。今回の改正であるその他の根保証では主なものとして「不動産賃借人の債務についての根保証」や、「会社間の継続的取引についての根保証」が考えられるが、それらについては長期間の賃貸や取引が考えられ、原則3年以内で区切ってしまうと、債権者の不都合が大きい。
参考
個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保証契約」という。)において
①元本確定期日の定めがある場合・・・元本確定期日がその個人貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。
②元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)・・・個人貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日
③元本確定期日の変更・・・変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。
※元本確定期日の定め及びその変更(その個人貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について書面性を準用
個人根保証契約にはどんな例があるか
例 ・賃貸借契約書 ・企業間の取引契約書 ・リース契約書 ・介護入居契約書 ・身元保証契約書
賃貸借契約で、「極度額は賃料の○ケ月分」という約定は有効か
無効と考えられる。一義的に定まること必要。「極度額は○円とする。」、「極度額は契約当初の賃料の○月分とする(契約書中に当初の賃料の記載がある)」など
月額10万円の賃貸借契約の根保証極度額を1億円と定めることは有効か
個人根保証契約の保証人の責任
主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証契約であって保証人が法人でないものの保証人は、極度額を限度として履行をする責任を負うものとされ、極度額を定めなければ根保証契約の効力は生じないとされた。その場合、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額の全部に係る極度額を定める必要がある。
熊本地裁平成21年11月24日判決(判時2085号124頁)は、極度額の定めは保証人が負担する保証債務の範囲の全部を対象とし、その上限の金額が一義的に明確でなければならず、かかる方式によらない元本の極度額のみの定めは(旧)465条の2第1項の極度額の定めには当たらないものと解するのが相当であると判示している。
したがって、元本についてのみの極度額を定めてあった場合には、その保証契約は無効とされる可能性がある。
民法改正後に、極度額を100万円と定めて賃貸借契約の連帯保証人となった個人が、滞納家賃を60万円支払って家賃滞納が解消されました。ところが、その後再び滞納が始まり、滞納家賃が80万円となった場合、賃借人は連帯保証人にいくらの保証債務の履行を請求できるか
この場合、極度額が100万円であり、既に連帯保証人は60万円の保証債務を履行していますので、賃貸人が連帯保証人に請求できる金額は40万円が限度となります。100万円の限度額の範囲である80万円全額を請求できることにはならない。
個人根保証契約の極度額設定を定めた465条の2は一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする個人根保証契約を対象としており、貸金等債務を含む場合に限定していない。一方、個人根保証契約の元本確定期日を定める465条の3の規定は、個人貸金等根保証債務を含む場合に限って適用している。これはなぜか
個人根保証契約が締結される場合の主債務は、貸金等債務だけではなく、建物賃貸借契約の賃料支払債務、継続的売買契約の売買代金支払債務など様々なものが考えられる。
このうち、建物賃貸借契約は法定又は合意により期間が更新されることが多く、また、企業間で行われる継続的売買契約等も、契約が自動更新されて長期に亘って契約関係が継続することも多いと思われる。
このような場合にまで元本確定期日を定めなければならないとすると、元本確定期日以降の取引については根保証の効力が及ばないこととなってしまう。
そこで、元本確定期日を定める465条の3の規定は、個人貸金等根保証債務を含む場合に限って適用することとされた。
個人根保証契約において、債務者の財産について強制執行が申し立てられても元本確定事由とされていないのはなぜか
個人根保証契約において、主たる債務者が破産しても元本確定事由とされていないのはなぜか
当事者間で、法律で示された事由以外の事由を元本確定事由として加えることは有効か
保証人の相続人は保証人のどんなに責任を相続するか
3 訴状(請求の趣旨)
Xは、令和2年5月1日にYに対して建物を賃貸し、その際、Zとの間で100万円を極度額として、賃料、賃料に対する利息、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについて、個人根保証契約(連帯保証)を書面で締結した。
Yはたびたび賃料の支払いを怠ったので、Zは既に連帯保証人として30万円を支払ってきた。
しかし、Xは滞納家賃が120万円に膨らんでしまったため、Zに保証債務履行請求をするための訴訟を提起することとした。訴状に記載する「請求の趣旨」はどのようになるか。なお、約定利息は年10%とする。
1.被告は、原告に対し、金70万円を支払え。
では、滞納家賃が50万円の場合はどのように記載するか。
1.被告は、原告に対し、金70万円の範囲内で、金50万円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年10パーセントの割合による金員を支払え。
Zに対する保証債務履行請求訴訟を提起する場合の要件事実は何か
改正前の考え方
① 根保証契約の成立
② 主債務となる債務の発生原因事実
③ 根保証契約が書面又は電磁的記録によってされたこと
改正民法の適用がある場合の考え方
前記の要件に、極度額の定めがあること、それが書面又は電磁的記録によってされたことという要件が加わる。つまり、次のとおりとなると考えられる
① 極度額の定めがある根保証契約の成立
② 主債務となる債務の発生原因事実
③ 根保証契約が書面又は電磁的記録によってされたこと
その他
平成6年12月6日 最高裁判所第三小法廷 判決
原審の前記認定事実によれば、本件根抵当権設定契約における極度額一二〇〇万円は、本件証書貸付金の残元金八五〇万円と被上告人がDに新たに貸し付ける八〇〇万円の合計一六五〇万円から、Dの被上告人に対する合計五〇〇万円の定期預金債権を差し引いた額に見合うように定められたものであり、また、一番抵当権者の申立てに基づく前記マンションの競売手続においては、二番抵当権者である被上告人も配当として極度額である一二〇〇万円の弁済金の交付を受け、なお二〇九万一六八三円の剰余金があった、というのである。そうだとすると、右極度額は、信用組合取引約定により被上告人がDと取引を継続することによって取得する債権が一七〇〇万円程度にとどまることを想定し、この金額からDの被上告人に対する合計五〇〇万円の定期預金債権を差し引いた一二〇〇万円の範囲内において、前記マンションの担保価値を把握すれば足りるとして定められたものと解することができる。そして、前記のとおり、本件保証契約は本件根抵当権設定契約と同時に締結されたものであり、右各契約はいずれも信用組合取引約定により被上告人がDに対して取得する債権の回収を確保するためのものであったところ、この事実と前記のような各契約の締結及び極度額設定の経緯を併せ考えれば、本件保証契約の文言上保証の限度額が明示されなかったとしても、客観的には、その限度額は本件根抵当権設定契約の極度額である一二〇〇万円と同額であると解するのが合理的であり、かつ、本件保証契約は、保証人の一般財産をも引当てにして、物的担保及び人的保証の両者又はそのいずれかから一二〇〇万円の範囲内の債権の回収を確保する趣旨で締結されたものと解するのが合理的である。したがって、本件においては、被上告人が根抵当権の実行によりその極度額相当の配当を受けた場合には、本件保証契約による上告人の保証債務は当然に消滅することとなる。
保証の極度額を定めなかった場合でも、根保証と根抵当権を同時に設定した場合において根抵当権の極度額の範囲内で保証するというのが当事者の合理的意思解釈であるとした判例。
しかし、改正民法のもとでは、個人根保証契約は極度額を定めなければ無効となるので物上保証人としても責任のみを負うこととなる。
また、個人根保証契約の極度額を定めた場合で、担保権実行されるまでに保証人として一部支払いをしていた場合には、保証人としては極度額のうち支払いをした金額は責任を免れるが、物上保証人としては根抵当の極度額全額について責任を負うこととなる。
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