株券発行会社であることのリスク

株券発行会社であることのリスク

貴社は株券発行会社?
 社長さん、貴社が株券発行会社か株券不発行会社かご存知ですか?
「株券発行会社」、「株券不発行会社」というのは法律上の定義があり、単純に、「うちは株券を発行していないから株券不発行会社だ」
ということにはなりません。
 以前は、株式会社は原則として株券を発行することが義務付けられていましたが、定款で株券を発行しない旨を定めておけば例外的に株
券の発行義務を免れることができました。もっとも、定款で株券を発行しないことを定めていた会社はごく少数であり、実際に株券を発行
していなくても、法律上は株券発行が義務づけられている会社が圧倒的多数でした。
 ところが、平成18年に施行された会社法ではこの考え方を逆転し、株券不発行を原則とし、定款に定めた場合だけ株券を発行することが
できることとなっています。
 もっとも、会社法施行以前に設立した株式会社については定款を変更しない限り従前の定めをそのまま踏襲することとされたため、多く
の会社が株券発行を義務づけられている会社のままとなっています。

株券発行会社かどうか見分ける方法
 株券発行を義務づけられている会社かどうかは、実は、会社の登記事項証明書で簡単に見分けられます。株券発行を義務づけられている
会社の登記事項証明書には、「株券を発行する旨の定め」という欄に「当会社の株式については、株券を発行する。」という記載がありま
す。「株券を発行する旨の定め」という欄自体がなければ株券を発行することができない「株券不発行会社」ということです。

株券発行会社はリスクだらけ
 当事務所では、株券発行会社は多くのリスクがあると考えています。株券を発行する必要性がなければ、すみやかに株券不発行会社に移
行することをお勧めしています。なお、株券不発行会社に移行するためには一定の手続と登記が必要です。また、株券不発行会社に移行す
ると、名義書換の方法などが大きく変わり、定款を大幅に変更する必要もあります。

リスク1 株券発行請求は拒否できない
 株券発行会社であってもその大多数は、実際には株券を発行していません。しかし、株主から株券発行の請求があると、これを拒否する
ことができません。例えば、株券発行会社の株主が株式を譲渡しようとするときは、株券の交付が必要となります。したがって、株式譲渡
のために株券の発行を請求される可能性は十分あります。
 また、敵対関係となってしまった少数株主から、いやがらせで(というと語弊がありますね。株券発行請求権は正当な権利です)株券発
行の請求をされることも考えられます。
 実際に株券を発行するためには、偽造防止の措置をして株券を印刷し、株券を管理する台帳も作成する必要があります。そのための経費
も小さなものではありません。
 この点、株券不発行会社に対しては株券発行請求をすることができませんので上記のような問題は起きません。

リスク2 株券の喪失は会社で管理する必要がある
 株券を発行して株主に交付すると、株主がその株券を喪失してしまう可能性があります。株券を喪失した者は、会社に対し、当該株券に
ついての株券喪失登録簿記載事項を株券喪失登録簿に記載し、又は記録することを請求することができます。
 つまり、株券発行会社は、株券喪失登録簿を作成し、喪失した株券を管理しなければならないのです。株券喪失登録がされた株券は、株
券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過した日に無効となりますが、その場合、会社は株券を再発行しなければなりません。
 株券不発行会社では、株券の喪失という事態は考えられませんので、このような煩わしい手続をする必要はないわけです。

リスク3 事業承継やM&Aの際に株券をする必要がある
 第三者への事業譲渡やM&Aの際、会社の株式を譲受人に全部譲渡する方法によることがあります。譲渡の相手方は第三者ですので、株券発行会社の場合には株券を譲受人に交付してはじめて事業譲渡やM&Aが完成します。なぜなら、株券発行会社において株式譲渡をするには株券の交付が必要とされ、株券の交付がなければ当該株式譲渡は無効となるからです(会社法128条1項本文)。そして、株券の所持が第三者への対抗要件になり、株主名簿への記載又は記録が株式会社に対する対抗要件となるわけです。「形だけ譲渡したことにして」というわけにはいかないのです。
 一方、株券不発行会社においては株式譲渡は当事者の意思表示のみによって有効に成立し、その結果を株主名簿への記載又は記録することにより株式会社その他第三者への対抗要件となります。

リスク4 認定承継会社の担保の手続が煩雑である
 事業承継税制を利用する場合において、非上場株式等に係る相続税の納税猶予の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに、特例非上場株式等についての納税猶予に係る相続税額に相当する担保を提供する必要があります。この担保として提供できる財産のひとつとして、納税猶予の対象となる認定承継会社の特例非上場株式があります。
 そして、認定承継会社が株券発行会社の場合には、認定承継会社の非上場株式(株券)を法務局(供託所)に供託し、供託書の正本を税
務署長に提出する必要があります。つまり、株券発行会社の場合には、株券を発行する必要が出てくるわけです。
 一方、認定承継会社が株券不発行会社の場合には、認定承継会社の非上場株式に税務署長が質権を設定することについて承諾した旨を記載した書類と納税者の印鑑証明書、認定承継会社の株主名簿記載事項証明書を提出すれば足ります。

 以上のとおり、株券発行会社は様々なリスクがあります。早期に株券不発行会社に移行するとともにそれに必要な定款の見直しを行いましょう。詳細は事務所にお問い合わせください。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

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古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

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