相続放棄と固有の財産の関係

投稿者: | 2018年8月25日

相続放棄についての少し真面目な話(1)制度の趣旨
相続人は、相続開始の時から被相続人に属した財産上の一切の権利義務を当然に承継する(民896)。しかし、その一方で、相続人につき、単純承認、限定承認、放棄のいずれをも自由に選択することを認めている。これは、債務を強制的に相続人に承継されることは個人主義的財産観念に反するからであると言われている。
(2)相続財産と相続人固有の財産
相続財産とは、被相続人に属した財産上の一切の権利義務をいう。しかしながら、相続財産ではない相続人固有の財産については、相続を放棄しても取得する権利を失うものではない。
① 生命保険金
生命保険金請求権は、受取人として特定の者を指定してある場合にはその者の固有の権利として取得する。これは、生命保険契約が第三者のためにする契約としてなされているからである。また、受取人を「相続人」とした場合にも、その表示は保険契約者の相続人たるべき個人を表示するものであり、固有の権利として取得することができると解する(最判昭和40.2.2民集19巻1号1頁)。
② 退職金
労働者が労働契約の継続中に死亡して退職金が支給される場合、法律や条令、就業規則等で受給権者が定めるられている場合には固有の権利として認められる(最判昭和60.1.31家月37巻8号39頁)。
③ 遺族年金等
遺族厚生年金、公務員の遺族扶助料、国家公務員等共済組合法による共済年金、国民年金の遺族共済年金なども各法律で受給権者が定められており、固有の権利として認められる。
(3)申述期間
債務者が多額の負債を残したまま死亡した場合、相続放棄の申述をすることで債務の承継を免れるケースも少なくない。相続放棄の期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述をする必要がある(民915①)。「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、単に相続開始の原因たる事実を知った時ではなく、より具体的に、自己が相続人となったことを覚知した時と解されている(大判大正15.8.3民集五巻679頁、福岡高決昭和23.11.29家月二巻一号7頁等)。
また、3か月経過後に相続人が被相続人の債務の存在を具体的に認識した場合、その時から熟慮期間である3か月が起算されるとした裁判例もあり(大阪高判昭和54.3.22判タ370号72頁)、現在では、熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算すべきであると解されている(最判昭和59.4.27民集38巻6号698頁)。
実務上、3か月経過後に被相続人に対する債務の存在が明らかとなり、放棄の申述をすることも多数あるが、この場合、債務の存在を具体的に認識した時期を明らかにするため、督促状等の書面を添付するのが望ましい。
3か月の熟慮期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所がこれを伸長することができる(民915①但書)。これは、相続人は、承認又は放棄をする前に相続財産の調査をすることができ(民915②)、調査に時間を要する場合も考えられるからである。なお、期間伸長の申立は期間内にしなければならない。

さて、先日、ある相続放棄事件で初めて知ったのだが、簡易保険の受取人が指定されていない場合、簡易生命保険法で受け取るべき遺族が指定されている。つまり、保険金は遺族の固有の財産となり、相続財産に含まれないということだ。勉強になった。

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