この土地の所有者は誰?

「ウチの南側の土地に雑草が生い茂って困っているんです。それで、なんとかこの土地を買いたいと思っているのですが・・・」

不動産会社から紹介された、中古車販売店を経営しているというその男は話を切りだした。

問題の土地には小さな小屋が建てられており、そこに暮らしていた老女が昨年亡くなったという。
そして、現在は荒れ果ててしまったが、勝手に草刈りをするわけにもいかず、弱り果てているということだ。

「相続人はいないのですか?」

と聞いてみると、まるで身寄りがなく、民生委員が臨終を看取って、簡単な葬式を出したということだ。

「相続人がいないということになると、家庭裁判所で相続財産管理人を選任してもらって、その相続財産管理人から売却してもらうということも考えられますね」

相続財産管理人を選任すること、そして、その不動産を売却してもらうこと自体は、時間がかかることを除けばそれ程困難なことではない。
ただ、その男の話を聞いていると、もっと難しい問題に突き当たってしまった。

それは、相続財産管理人選任の申立ては、誰がしてもいいというわけではなく、法律上の利害関係人か検察官でなければできない。
しかし、検察官が進んで申立てをすることは考えられないので、実際上は法律上の利害関係人でなければ申立てができない。
単に、北隣に住んでいたとか、雑草で迷惑しているという程度では法律上の利害関係があるとは言えない。

ただ、考えられるのは、たとえば、その老女を看護していたとか、葬式を出してあげたとか、仏を祀っているというような人がいれば、「特別縁故者」といって、相続財産から何らかの分与を受ける権利があるため、法律上の利害関係人ということができる。

「民生委員がお葬式を出されたということですが、それは、言ってみれば民生委員の職務の一環としての行為ですから、特別縁故者というのは難しいでしょう。たとえば、その方の生前に、あなたが身上を看護していたとか、財産を管理していたというような事情があれば、あなたからの申立てもできると思いますが」
「いや、そういうことはありません。本当に隣どおしのつき合いだけで、特別に面倒を見ていたということはありません」

さて、困ったものだ。
おまけに、その男は土地の取得を希望しているものの、近隣の手前、自分が最初に行動を起こして、「あの人が土地を取り上げた」というような噂が立つのは困ると言う。
気持ちはわからないわけではないが、それも虫のいい話だ。

「何とか方法を考えてみます」

と言って引き取ってもらったが、さて、どうしたものか。
もうすぐ梅雨入れ。これからは、ますます雑草が伸びる季節だ。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

  • 受遺者の特別寄与料請求の可否受遺者の特別寄与料請求の可否 【受遺者の特別寄与料請求の可否】  私はAの相続人ではありませんが親族であり、Aの生前にAの療養看護に尽くし、Aの財産維持に特別の寄与をしたと思っています。Aは、私に対し100万円を遺贈するという遺言を残してくれましたが、とてもそれでは足らないと思っています。私は、相続人に対し、特別寄与料の請求をすることができるでしょうか。 回答  特別寄与者が、その寄与について被相続 […]
  • 2021民法・不動産登記法改正を研究する 第6回 不動産登記法改正案 ~相続人申告登記とは?~2021民法・不動産登記法改正を研究する 第6回 不動産登記法改正案 ~相続人申告登記とは?~ https://youtu.be/X3y2LmHrYb8
  • 【動画】不動産登記は早い者勝ち! オンラインの障害の責任は誰が負う?【動画】不動産登記は早い者勝ち! オンラインの障害の責任は誰が負う? 【動画】不動産登記は早い者勝ち! オンラインの障害の責任は誰が負う? https://youtu.be/AGD0eA0ZWYc
  • 株式会社ダッツの株主名簿管理人に就任しました株式会社ダッツの株主名簿管理人に就任しました  当事務所は、株式会社ダッツの株主名簿管理人に就任しました。  株式会社ダッツの発行する株式の名義書換、届出印、住所等の変更の届出、単元未満株式の買取請求等につきましては、株主名簿管理人である司法書士法人中央合同事務所が取り扱っております。お気軽にお問い合わせください。 詳しくは、下記のページをご覧ください。 http://司法書士法人中央合同事務所.com/kabun […]
  • 遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題 【遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題】  父Aが死亡し、相続人は子供の私Xと弟Yの2名です。Aは、「甲土地をXに相続させる」との遺言を残していました。甲土地について、まだAからXへの移転登記はしていませんでした。  ところが、Yには借金があり、債権者であるKが、甲土地につきXとYに代位して、AからXY名義への相続を原因とする所有権移転登記をしたうえで、Yの持分を差押えて […]
  • 寄与分と特別寄与料寄与分と特別寄与料 【寄与分と特別寄与料】  私の妻が亡父の療養看護に尽くし、父の財産を守ることができました。妻は父の相続人ではありませんが、妻の寄与に対して報いることはできないのでしょうか。 回答  相続人が被相続人の財産形成等に寄与した場合は、「寄与分」として遺産分割手続における具体的相続分を定める際に考慮されることとなりますが、相続人ではない者(本件で言えば相続人の妻)が相続人の療養 […]
  • 遺贈と所有権の対抗問題遺贈と所有権の対抗問題 【遺贈と所有権の対抗問題】  Aが死亡し、相続人はXとYの2名です。Aは、「甲土地をTに遺贈する」との遺言を残していましたが、甲土地について、まだAからTへの所有権移転登記はしていませんでした。  ところが、Yには借金があり、債権者であるKが、甲土地につきXとYに代位して、AからXY名義への相続を原因とする移転登記をしたうえで、Yの持分を差押えてしまいました。  XY名 […]
  • 【動画】主債務の履行状況に関する情報提供義務・期限の利益喪失時における情報提供義務【動画】主債務の履行状況に関する情報提供義務・期限の利益喪失時における情報提供義務 【動画】主債務の履行状況に関する情報提供義務・期限の利益喪失時における情報提供義務 1.主債務の履行状況に関する情報提供義務 (1)改正の経緯  保証人にとって、主債務者が主債務を履行しておらず遅延損害金が日々生じている状況にあることや、主債務の残額が幾らになっているかといった情報、すなわち、債権者が把握している主債務の履行状況に関する情報は、保証人として履行しなけ […]
  • 自筆証書遺言の作成方法を教えて下さい自筆証書遺言の作成方法を教えて下さい 自筆証書遺言の作成方法を教えて下さい  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、印を押さなければなりません。ただし、自筆証書にこ れと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書でなくてもよく、パソコンで作成し […]
  • 相続分の指定と所有権の対抗問題相続分の指定と所有権の対抗問題 【相続分の指定と所有権の対抗問題】 父Aが死亡し、相続人は子供の私Xと弟Yの2名です。Aは、「Xの相続分を3分の2、Yの相続分を3分の1とする」との遺言を残していました。この遺言をもとにXは甲土地全てを含む遺産の3分の2を、Yが預貯金から残りの3分の1を相続することになりました。甲土地について、まだAからXへの所有権移転登記はしていませんでした。 ところが、Yには借金があ […]
  • 有機肥料と本人訴訟支援有機肥料と本人訴訟支援 有機肥料と本人訴訟  我が家では、基本的に、ごみの日に生ごみを出すことはない。それは、生ごみはコンポストで有機肥料にするからだ。ただ、生ごみをそのままコンポストに入れるだけでは腐ってウジが湧いてしまう。そうではなくて、生ごみを土に混ぜ、それをコンポストに入れるのだ。そうすることにより、土の中の微生物が生ごみを食べ、1月ほどで土にしてくれるのだ。  もともと、その生ごみの多 […]
  • 遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題 【遺産分割方法の指定と所有権の対抗問題】 父Aが死亡し、相続人は子供の私Xと弟Yの2名です。Aは、「甲土地をXに相続させる」との遺言を残していました。甲土地について、まだAからXへの移転登記はしていませんでした。 ところが、Yには借金があり、債権者であるKが、甲土地につきXとYに代位して、AからXY名義への相続を原因とする所有権移転登記をしたうえで、Yの持分を差押えてしま […]
  • 【動画】誰が相続人になる? 法定相続分は?【動画】誰が相続人になる? 法定相続分は? 【動画】誰が相続人になる? 法定相続分は? https://youtu.be/UD0z9EcBiwI
  • 【動画】司法書士は株主総会にこんな方法で関わることができます!【動画】司法書士は株主総会にこんな方法で関わることができます! 司法書士は株主総会にこんな方法で関わることができます! 登記の専門家である司法書士だからこそ、登記に至るまでのプロセスをお手伝いできるのです! […]
  • ちょっと失礼な話ちょっと失礼な話 今日、東京の知らない司法書士から電話があり、事務員さんが用件を聞いた。個人民事再生で、共済からの借り入れについて、退職金等が実質的な担保となっている件につき、別除権扱いが認められたとのこと。 このこと自体は、僕が「個人民事再生の実務」(民事法研究会)に書いておいたので、きっとそれを見て書類を書き、認められたということだろう。 そして、電話をしてきた趣旨は、その別除権につい […]
  • 相続人以外の者による貢献の考慮相続人以外の者による貢献の考慮 【相続人以外の者による貢献の考慮】  私はAの相続人ではありませんが親族であり、Aの生前にAの療養看護に尽くし、Aの財産維持に特別の寄与をしたと思っています。そこで、相続に際し金銭の請求をしたいと考えていますが、何か方法はありますか。  平成30年相続法改正により、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄 […]
  • いっしょに働きませんか? 正職員・パートタイマーを募集しています!いっしょに働きませんか? 正職員・パートタイマーを募集しています! いっしょに働きませんか? 正職員・パートタイマーを募集しています!  当事務所は、浜松駅から北東に徒歩10分の司法書士事務所です。相続や売買などの不動産登記、会社設立や役員変更などの会社の登記、金銭トラブルや後見制度などの裁判業務、その他法律関係の仕事を行っています。  現在は、司法書士3名、事務員4名のアットホームな事務所です。業務多忙のため、正職員1名・パートタイマー […]
  • 認定司法書士の登記原因は「法務大臣認定」認定司法書士の登記原因は「法務大臣認定」  当事務所の神谷忠勝司法書士が、9月3日に簡裁訴訟代理の考査に合格し、晴れて認定司法書士になりました。  そこで、当法人の登記簿の変更登記を申請し、登記が完了しました。  登記原因は、「平成30年9月3日法務大臣認定」です。なんか、かっこいいですね。  ちなみに、変更登記は変更の事由が生じた時から2週間以内にしなければなりません。今回、法務大臣認定の証明書取得に時間がか […]
  • 有限会社から株式会社への移行の登記申請書に添付する株主リストの作成者有限会社から株式会社への移行の登記申請書に添付する株主リストの作成者 有限会社から株式会社への移行の登記申請書に添付する株主リストの作成者  有限会社から株式会社へ移行するためには、有限会社の株主総会において商号変更にかかる定款変更の決議を行い、これにもとづいて株式会社の設立登記の申請と有限会社の解散登記の申請を同時に行う必要がある。移行前の有限会社と移行後の株式会社は同一人格ではあるが、単に商号変更の登記申請をすればよいのではなく、株式会社 […]
  • 【動画】個人再生とはどんな手続? 住宅資金貸付債権の特則が使える場合と使えない場合? ペアローンで複数の抵当権が登記されているときは?【動画】個人再生とはどんな手続? 住宅資金貸付債権の特則が使える場合と使えない場合? ペアローンで複数の抵当権が登記されているときは? 【動画】個人再生とはどんな手続? 住宅資金貸付債権の特則が使える場合と使えない場合? […]

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)