Ⅰ 否認権の種類

否認権とは、破産手続開始より前に、破産者が不当に財産を減少させるなどの破産債権者を害する行為を行っていたり、破産債権者間の公平を害する行為を行っていた場合に、破産管財人がその行為の効力を否定し、破産財団の回復を図るために認められた破産管財人の権利である。

 破産法は、詐害行為否認(法160)と偏頗行為否認(法162)の2つの類型の否認を定めている。なお、法161条の「相当の対価を得てした財産の処分行為の否認」は詐害行為否認の特則と位置づけられる。また、法164条の「権利変動の対抗要件の否認」は権利変動の原因となる法律行為とは別に、対抗要件具備行為について独立して否認することができることを定めたものである。

 対抗要件具備行為を否認の対象としている趣旨は、最判昭和45年8月20日(民集24巻9号1339頁、判時606号32頁、判タ253号160頁)では次のように説明されている。「本来、不動産の物権変動は、対抗要件を具備しない以上第三者に対抗しえないものであるから、これを具備しない不動産の物権変動はこれをもつて破産財団にその効力を及ぼしえないものである。したがつて、この要件を具備することは、破産財団の増減という観点からは、権利変動の原因たる法律行為と同様破産債権者を害する結果を生じうべきものであり、かかる要件の充足行為も、元来同法七二条の一般規定によつて否認の対象となしうべきものである。しかし、対抗要件なるものが、すでに着手された権利変動を完成する行為であることを考えれば、原因行為そのものに否認の理由がないかぎり、できるだけこれを具備させることによつて当事者に所期の目的を達せしめるのが相当である。それゆえ、破産法は七四条において、一定の要件を充たす場合にのみ、とくにこれを否認しうることとしたのである。破産法が、七二条のほかにとくに七四条をおいて対抗要件の否認について規定したのも、その趣旨は以上のように解せられるのである。そうであれば、一般に、破産管財人が同法七二条に基づいて当該物権変動を否認し、これを原因とする登記の抹消を訴求している場合において、同人の主張および弁論の全趣旨のうちに同法七四条の要件を充たす事情があらわれているならば、もし、同法七二条に基づく原因行為の否認が認容されないときは、原告たる破産管財人において、さらに同法七四条に基づきその対抗要件をも否認せんとするものであることは、ほとんど疑いを容れる余地がないのである」。

否認権の行使は破産財団を原状に復させることとなる(法167Ⅰ)。ただし、無償行為否認(法160Ⅲ)がなされた場合においては、相手方は、当該行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、その現に受けている利益を償還すれば足りるものとされている(法167Ⅱ)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立