Ⅱ 財団債権

財団債権とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいい(法2Ⅶ)、財団債権を有する債権者を財団債権者という(法2Ⅷ)。

財団債権は、破産債権に先立って弁済されるが(法151)、破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における財団債権は、まず、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(法148Ⅰ①)、破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(法148Ⅰ②)、債務者の財産の管理及び換価に関する費用の請求権であって保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権(法148Ⅳ)が弁済され(法152Ⅱ)、残りの額が財団債権額の割合により弁済される。ただし、財団債権を被担保債権とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権の効力は妨げられない(法152Ⅰ)。

次に掲げる請求権は、財団債権とされる(法148)。

① 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(法148Ⅰ①)

② 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(法148Ⅰ②)

③ 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(破産債権となる国税徴収法又は地方税法の規定による加算税等(法97条5号に掲げる請求権)を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの(法148Ⅰ③)

④ 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権(法148Ⅰ④)

⑤ 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(法148Ⅰ⑤)

⑥ 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(法148Ⅰ⑥)

⑦ 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときに、破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権(法148Ⅰ⑦)

⑧ 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(法53条1項又は2項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権(法148Ⅰ⑧)

⑨ 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときにその負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権で、遺贈の目的の価額を超えない限度の請求権(法148Ⅱ)。

⑩ 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権(法148Ⅳ)

⑪ 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権(法149Ⅰ)

⑫ 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額(法149Ⅱ)

なお、⑦及び⑨の財団債権の額については法103条2項及び3項の規定が準用され、この場合において、当該財団債権が無利息債権又は定期金債権であるときは、当該債権の額は、当該債権が破産債権であるとした場合に法99条1項第2号から4号までに掲げる劣後的破産債権となるべき部分に相当する金額を控除した額とされる(法148Ⅲ)。

財団債権が代位取得された場合について、横浜地裁川崎支部判決平成22年4月23日(金商1342号14頁、判タ1344号244頁)は、労働者健康福祉機構が破産手続開始決定を受けた会社の従業員の未払給与分を立替えて支払ったことにより代位取得した未払給与債権につき、「原債権は、破産手続開始前3月間の破産者の使用人の給料債権であるから、本件代位債権も労働者の未払給料債権という性質は失わないものというべきである。そして、破産手続開始前3月間の破産者の使用人の給料の請求権は財団債権とされる(破産法149条1項)ところ、この規定は、使用人(労働者)の保護という政策的目的によるものであり、また、被告は、破産手続開始決定を受けた事業主に代わり、労働者の請求に基づき賃金の立替払をすることが義務付けられているのである(独立行政法人労働者健康福祉機構法12条6号、賃確法7条)から、事業者の信用不安に関するリスク回避を講じることは予定されておらず、被告による上記立替払は、最終的には優先的に支払われる賃金債権について、早期に支払うということで上記労働者保護の目的に合致しているものといえる」として、本件代位債権を法149条1項により財団債権とするのが相当であるとしている。

同様に、「弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり(最高裁昭和55年(オ)第3511号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号885頁,同昭和58年(オ)第881号同61年2月20日第一小法廷判決・民集40巻1号43頁参照),原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである。この制度趣旨に鑑みれば,求償権を実体法上行使し得る限り,これを確保するために原債権を行使することができ,求償権の行使が倒産手続による制約を受けるとしても,当該手続における原債権の行使自体が制約されていない以上,原債権の行使が求償権と同様の制約を受けるものではないと解するのが相当である。そうであれば,弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記財団債権を行使することができるというべきである。このように解したとしても,他の破産債権者は,もともと原債権者による上記財団債権の行使を甘受せざるを得ない立場にあったのであるから,不当に不利益を被るということはできない。以上のことは,上記財団債権が労働債権であるとしても何ら異なるものではない」と判示した最判平成23年11月22日(金法1935号52頁、金商1380号12頁)がある。

一方、委託を受けて破産会社の関税等の債務を保証し、破産会社の再生手続開始後に保証債務に基づき関税等を支払ったことにより代位権を取得したという事案においては、「私人が民法501条の代位による弁済によって租税債権を取得した場合には、もはや当該私人にまで租税債権としての優先的な効力を付与すべき理由がなくなる」とする判決がある(東京高判平成17年6月30日(金法1752号54頁、金商1220号2頁))。

 その理由は「旧破産法47条が財団債権として1号から9号までを列挙し、その2号で「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権」を掲げている趣旨は、租税が国又は地方公共団体の存立及び活動の財政的な基盤となり、高度の公共性を有することから、租税を公平、確実に徴収すべきであるという公益的な要請によるものであって、専ら国又は地方公共団体の租税債権ゆえに旧破産法の手続上付与された優先的な効力である。旧破産法等倒産手続法上付与された優先的な効力は、租税債権の内在的なものとして保有する固有の権利内容ではなく、各倒産手続法の立法政策上の判断によって創設的に付与されたものと解すべきである」と説明している。つまり、租税債権は、第三者が弁済しても優先的な効力までも移転するわけではないということである。

このほか、東京高判平成20年9月11日(金法1877号37頁)は、金融機関に対する債権譲渡担保契約の目的物である債権の支払のために振り出された手形を破産管財人が取り立てて破産財団が利得を得たことによる金融機関の不当利得返還請求権について、もともと破産会社に対する債権的請求権を有していたのではなく、手形の給付請求権という物権的請求権を有していたものであるから、破産手続開始決定後に生じたものであり、財団債権に該当するとしている。判決理由は次のとおり説明している。「被控訴人は本件譲渡担保権に基づき破産財団(破産管財人である控訴人)に対して本件手形1の交付請求権を有していたところ、この請求権は、別除権である本件譲渡担保権に基づく物権的請求権であり、破産会社に対する債権的請求権ではないから、破産債権ではないと解される。そして、破産管財人である控訴人が本件手形1を取り立てて回収し、その結果、上記交付請求権は消滅し、反面、破産財団には回収額と同額の利得が生じたことにより被控訴人に不当利得返還請求権が発生するが、この不当利得返還請求権は、破産管財人の本件手形1の取立てによって破産手続開始決定後に生じたものであるから、財団債権(破産法148条1項5号)に該当するものというべきである」

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

 

 

Ⅲ 実務上の問題

1 下水道の使用料

 下水道の使用料は、「法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入」であり(地方自治法附則6条4号)、指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは地方税の滞納処分の例により処分することができるとされている(地方自治法231条の3Ⅲ)。そして、「破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年を経過していないもの」は財団債権とされるが、「租税等の請求権」とは,法97条4号により「国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」と規定されていることから、破産手続開始前の原因に基づいて生じた下水道の使用料は、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年を経過していないものは財団債権となり、財団債権とならないものは法98条1項により優先的破産債権となる。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立