破産債権は、優先的破産債権(法98)、一般の破産債権、劣後的破産債権(法99Ⅰ)、約定劣破産債権(法99Ⅱ)に分類され、この順により配当を受けることができる(法194)。

優先的破産債権とは、破産債権のうち、破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権である(法98Ⅰ)。「一般の先取特権」には、共益費用の先取特権(民307)、雇用関係の先取特権(民308)、葬式費用の先取特権(民309)、日用品供給の先取特権(民310)があるが、「日用品供給の先取特権」は破産者が法人の場合には含まないとされる(破産法実務(福岡)81頁)。

雇用関係の先取特権のある破産債権の典型例は労働の対価である給与であるが、雇用関係に密接に結びつくかたちで貸付がされた場合の貸金返還請求権が商法295条1項(民法308条の改正により削除)所定の「雇用関係に基づいて生じた債権」に該当することを理由に優先的破産破産債権であるとした事例がある(浦和地判平成5年8月16日(判時1482号159頁、判タ839号257頁))。

この判例では、「民法は、雇人と雇主との経済的社会的地位の格差を考慮して、雇人の給料債権を保護するという社会政策的配慮から、306条2号、308条において、右給料債権(最終6か月分)について、雇主の総財産の上に先取特権を認めて、給料生活者の賃金保護を図っているが、商法295条は、さらに、会社が破綻した場合に使用人を保護するため、給料債権に限定することなく、会社と使用人との間の雇傭関係に基づいて生じた債権について、広く会社の総財産の上に使用人の先取特権を認めている。そして、このような同条の趣旨に鑑みるならば、同条にいう「雇傭関係ニ基ヅ」いたものかどうかの判断も、経済的社会的な会社と使用人との力関係を基本にして、当該債権の発生が雇傭関係に与えた影響の程度、それが真に使用人の自由な意思に基づく契約により発生したものかどうか等の観点から総合的に判断するのが相当」であるとしている。

一方、社内預金については商法295条1項(民法308条の改正により削除)所定の「雇用関係に基づいて生じた債権」には当たらず優先的破産債権に該当しないとする判例がある(札幌高判平成10年12月17日(判時1682号130頁、判タ1032号242頁))。その理由を、「社内預金は、労基法によって、労働者の保護のために一定の条件の下で認められ、その保全措置も賃確法、同施行規則で定められているところ、特に、その保全措置のうち、労働者の使用者に対する社内預金の払戻債権を被担保債権とする質権又は抵当権を設定する方法は、社内預金返還請求権について、商法295条の先取特権が認められるならば、保全措置として特に設ける必要のないものであると考えられることからすると、それらの保全措置規定は、社内預金返還請求権が、商法295条の先取特権を有する優先債権に該当しないために、特に設けられたものと解するのが相当である」、「社内預金は、労基法上、労働契約に附随してするものは禁止されており、労働者の任意の委託によってされるものが、認められているところ、破産会社の社内貯蓄金管理規程上も、希望者について社内預金を取り扱うとされているのであって、社内預金は雇用契約を契機とするものとはいえ、必ずしも雇用契約に基づくものとは認められない」と説明している。

「その他一般の優先権」には租税等の請求権(徴収法8、地税14等)等がある。優先的破産債権間の優先順位は、民法 、商法 その他の法律の定めるところにより定まる(法98Ⅱ)。

優先権が一定の期間内の債権額につき存在する場合には、その期間は、破産手続開始の時からさかのぼって計算する(法98Ⅲ)。たとえば、日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在するとされるが(民310)、「最後の六箇月間」とは破産手続開始の時から前六箇月間ということになるので、同期間に生じた債権だけが優先的破産債権になるということになる。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立