Ⅰ 破産債権

破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(法97各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいい(法2Ⅴ)、破産債権を有する債権者を破産債権者という(法2Ⅵ)。

破産債権を破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権に限定しているのは、破産財団が破産手続開始時の財産に限定されることと対応して、破産手続開始を基準時として手続に参加させるためである。

では、破産手続開始前に破産者を保証人とする保証契約が締結されており、具体的な保証債務の発生が破産手続開始後であった場合は破産債権となるだろうか。

大阪地判平成8年6月13日(判タ920号248頁)は、破産債権の原因を破産手続開始前に限定したのは、破産手続開始時の総財産から弁済を受ける期待をもつ債権者のみを破産債権者として手続に参加させることにしたものであるから、「その趣旨からするならば、破産債権の要件としての「破産宣告前の原因」とは、債権の発生原因の全部が宣告前に備わっている必要はなく、主たる原因が備わっていれば足りるものと解するべきである」とし、「具体的に保証の対象となる主債務が発生したのが破産宣告以降であったとしても、破産債権に当たるものと解するのが相当である」としている。最判平成24年5月28日(金法1947号54頁、裁時1556号1頁、判タ1375号97頁)も同旨の判断をした。

同様に、保証人が、主債務者の破産手続開始後に弁済したことにより取得する事後求償権は、その主たる発生原因は保証契約であり、保証契約が主債務者の委託を受けないで締結された場合であっても、主債務者の破産手続開始前に締結されていれば、事後求償権は破産債権となるとしている(大阪高判平成21年5月27日(金法1878号46頁、金商1393号26頁))。

この判例では、「事後求償権の主たる発生原因は保証契約であり、保証人による弁済等は上記事後求償権を発生させる法定の停止条件である。したがって、上記事後求償権は、保証契約が破産手続開始前に締結されていれば、破産手続開始当時未だ保証人が弁済等をしていない場合でも、破産債権となると解すべきである」と述べている。

 破産債権は、破産法に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ行使することができない(法100Ⅰ)。

 もっとも、破産手続中であっても、破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることは妨げられないと解されている(最高裁平成18年1月23日(民集60巻1号228頁、裁時1404号13頁、判時1923号37頁、判タ1203号115頁等))。しかし、同判決は、「自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり、破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことからすると、破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり、少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない」としている。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立