4 新たな破産債権取得による相殺の禁止

 次に、破産者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができないとされる(法72Ⅰ)。

① 破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき

② 支払不能になった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき

③ 支払の停止があった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。

④ 破産手続開始の申立てがあった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき

なお、②乃至④については、その破産債権の取得が法定の原因、支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因、破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因、又は破産者に対して債務を負担する者と破産者との間の契約によるときは適用されない(法72Ⅱ)。

①の「破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき」について、委託のない保証人が取得した求償権に対して類推適用し、相殺を否定した判例がある(最判平成24年5月28日(金法1947号54頁、裁時1556号1頁、判タ1375号97頁))。判決は、その理由として、「無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。そうすると,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である」としている。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立