Ⅲ 留置権

 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する商法又は会社法の規定による留置権は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなされている(法66Ⅰ)。しかし、この特別の先取特権とみなされる留置権は、民法 その他の法律の規定による他の特別の先取特権に後れることとなる(法66Ⅱ)。

 「商法又は会社法の規定による留置権」には、代理商の留置権(商31、会社20)、商人間の留置権(商521条)等がある。

商人間の留置権とは、商人間において双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができるとするものである。

 銀行が貸付先の会社から手形割引の依頼を受けて預かっていた約束手形につき、同社が破産宣告を受けた後に破産管財人が返還を求めたところ、銀行はこれを拒絶し、手形を支払期日に取り立てて貸付金債権の弁済に充当した事案についての裁判例を見ておく。

この判例では、銀行が当該手形に商事留置権を有していることを前提として、会社が破産宣告を受けた後においても、銀行は手形を留置する権能があるから破産管財人からの手形の返還請求を拒むことができ、また、銀行が貸付先の破産宣告の後に当該手形を手形交換制度によって取り立てて被担保債権の弁済に充当する行為は、銀行取引約定書による合意が存在するほか、被担保債権の履行期が既に到来し、債権額も手形金額を超えており、手形について当該銀行に優先する他の特別の先取特権者が存在することをうかがわせる事情もないなどの判示の事実関係の下においては、破産管財人に対する不法行為となるものではないとしている(最判平成10年7月14日(民集52巻5号1261頁))。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立