Ⅱ 別除権

別除権とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について行使することができる権利であり(法2Ⅸ)、別除権を有する者は別除権者といわれる(法2Ⅹ)。なお、別除権という名称は、他の債権から別に除かれて優先的な取扱いを受ける権利という性質に由来する(大コメ275頁)。

破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有していれば別除権者としての扱いを受けるのであり、必ずしも破産債権者である必要はない。逆に、破産債権者であっても破産財団以外の財産に特別の先取特権等を有している場合には別除権者としての扱いを受けることはない。

別除権者としての地位が認められるのは、特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者のほか、譲渡担保権者(札幌高決昭和61年3月26日(判タ601号74頁等))、仮登記担保権者、所有権留保売買の売主、ファイナンス・リース契約のリース料債権者などがある。なお、将来の集合債権譲渡担保契約も、譲渡対象となる債権が他の債権から識別できる程度に特定されていれば担保としての有効性に問題はない(最判平成11年1月29日(民集53巻1号151頁)、最判平成12年4月21日(民集54巻4号1562頁))。

所有権留保売買についても実質的な目的が担保目的であれば別除権として扱うことになるが(前掲札幌高決)、目的物の所有権移転とその代金支払の対価性、牽連性を考慮しており、被担保債権の範囲を別個の契約から発生した債権にまで拡大した特約については公序良俗に反するとしている(東京地判決平成16年4月13日(金法1727号108頁))判旨は次のとおりである。

「所有権留保は、売買代金完済前に売主が売買目的物を買主に引き渡すが、その所有権を代金完済まで自己に留保し、買主が売買代金の支払を怠った場合、売主が留保所有権に基づき目的物を引き揚げ、これを評価処分して代金債権の満足を得ることを目的とするものであり、所有権留保の対象たる目的物の引渡しを受けた買主は、代金支払を条件とする所有権取得についての期待権を有し、売主は、買主の上記期待権によって制約された所有権、すなわち、他の債権者に優先して当該目的物から売買代金債権の支払を受ける担保的権利を有するものというべきである。本件では、所有権留保による被担保債権の範囲を当該売買契約の代金債権に限定することなく、売主が買主に対し現在有し又は将来取得する一切の債権にまで拡大する旨の特約があるが、所有権留保の機能は、売買契約において、目的物の所有権移転とその代金支払が対価性、牽連性を有することに着目して、当該売買契約から発生した当該目的物についての代金債権を担保することにあり、同売買契約上、代金債権に関連、付随する債権の約定が存するような場合に同債権を被担保債権に含めることは格別、これを超えて、被担保債権の範囲を別個の契約から発生した債権にまで拡大することは、その本来的機能を逸脱したものといわざるを得ない」

なお、これら別除権についても法49条(開始後の登記及び登録の効力)が適用される。最判平成22年6月4日(金法1910号68頁等)は民事再生事件の例であるが、再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるとし(民再45条参照),自動車につき,再生手続開始の時点で所有権留保権者を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、立替金等債権を担保するために留保した所有権を別除権として行使することは許されないとしている。

なお、軽自動車については、軽自動車検査協会発行の自動車検査証上の名義は対抗要件とはならず、一般の動産と同様、引渡しが対抗要件となるものと解されている。したがって、軽自動車については、仮に信販会社が自動車検査証上の名義を有していたとしても、同社は直ちに別除権を主張することはできないものと考えられる(管財手引 209頁)。

 前掲最判平成22年6月24日が判示したように、別除権の行使が認められるためには手続開始時に対抗要件の具備が必要であるとすると、手続開始前に立替払契約を締結した信販会社が債務者の支払停止により所有権留保物件(仮に自動車とする)を債務者の元から引上・換価したときに、信販会社が対抗要件を備えていなかった場合(例として自動車登録上の所有者が販売会社のままになっていた場合)、対抗力のない別除権者に対して弁済したことと同一視し、その行為が債務者が支払不能となった時期以降になされたときは偏頗行為として否認される余地も生じる可能性がある。

 別除権は、破産手続によらないで行使することができる(法65Ⅰ)。担保権の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有することとなる(法65Ⅱ)。

 ところで、昨今、将来債権の譲渡担保が増加しつつあるが、譲渡担保契約の対象となる債権と譲渡担保権設定者に対する国税との関係について重要な判例が出ているので見ておきたい。

 納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているものがあるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができることとされている(徴収法24Ⅰ)。しかし、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合等は、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することはできないものとされている(同条Ⅷ)。

問題となった事案は、国税の法定納期限以前に将来債権の譲渡担保契約が締結されるとともに対抗要件が具備されたが、その対象となる債権の発生は国税の法定納期限後であった。この場合、当該債権は、国税徴収法24条1項の射程範囲であるのか、同条8項が適用されるのか、である。

最判平成19年2月15日(民集61巻1号243頁、判時1963号57頁等)は、「将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合には,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り,譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡されているのであり,この場合において,譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには,譲渡担保権者は,譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に,当該債権を担保の目的で取得することができるものである」、「以上のような将来発生すべき債権に係る譲渡担保権者の法的地位にかんがみれば,国税徴収法24条6項(現行8項 筆者注)の解釈においては,国税の法定納期限等以前に,将来発生すべき債権を目的として,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され,その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には,譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても,当該債権は「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当すると解するのが相当である」として、法定納期限後に生じた債権についても「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当する旨明らかにしている。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立