Ⅹ 賃貸借契約等
双務契約についての法53条1項及び2項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には適用されず(法56Ⅰ)、相手方の有する請求権は、財団債権となる(法56Ⅱ)。
この規定は賃貸人等が破産した場合の規定であり、賃借権等が対抗要件を備えている場合には破産管財人の解除権を制限し、対抗力を備えた賃借権者等を保護する趣旨である。賃借人等が破産した場合には法53条1項及び2項の規定によることとなる。そして、賃貸人等が破産した場合に破産管財人の解除権が制限されるということは破産管財人が常に履行を選択するのと同じ結果となることから、相手方の請求権を財団債権としている(大コメ230頁)。
不動産賃貸借契約を例にすると、その対抗要件は、賃借権の登記(民605)、土地賃貸借についての地上建物の登記(借地借家10)、建物賃貸借についての建物の引渡し(同31)である。当該賃借権が担保権者に対抗できない場合は別除権者の競売により賃借権が消滅することになるが、そのように賃借権が担保権者に対抗できない状況にあるからといって法53条1項により破産管財人が解除を選択することができることにはならない。
賃借人の有する請求権は財団債権となるが、具体的には、使用収益権、修繕請求権等の賃貸借契約の本来的権利が保護されるにとどまる。
敷金返還請求権は賃貸借契約に付随する敷金契約にもとづくものであるため財団債権とはならない(敷金返還請求権が会社更生手続における共益債権とはならないという趣旨の東京地判平成14年12月5日(金商1170号52頁)がある)。
「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より