Ⅸ 双務契約

1 双務契約

 双務契約とは、契約当事者の双方に債務が生じる契約であり、売買、賃貸借、請負、委任等の典型契約のほか、リース契約、クレジット契約等の非典型契約もある。契約当事者の一方に破産手続が開始した場合、これらのうち、委任契約は委任者又は受任者の破産手続開始により終了し(民653②)、リース契約、クレジット契約等の非典型契約についても「破産手続開始申立のあったとき」に解除権が生じる旨の倒産解除条項の付された契約は解除権の行使により終了する。なお、破産会社を売主、被告を買主とする売買代金支払請求において、売主が倒産した場合には買主が売買契約を解除できる旨の特約の実質的内容は、破産法上は本来許されない相殺を当事者間の合意によって達成しようとするものであり、破産手続における債権者の平等に反するものであり、被告は特約に基づく契約の解除を原告に対して主張することはできないとした例がある(東京地判平成10年12月8日(判タ1011号284頁、金融・商事判例1072号48頁))。

 法律の規定により契約が終了したり、倒産解除条項のない双務契約のうち、破産管財人の管理処分の対象となる契約については法53条以下の規定にしたがうことになるので、破産者が法人の場合には、原則として双務契約は破産管財人の管理処分権が及ぶと考えてよい。

一方、破産者が個人の場合には、どのような契約が破産管財人の管理処分の対象となる契約であるのか判然としない場合があるが、破産財団を構成する財産や債権に関する双務契約であったり、債権者の有する債権が破産手続きによる配当の対象となるものである双務契約に限り破産管財人の管理処分権が及ぶと考えられる。したがって、自由財産に関する双務契約であったり、債権者の有する債権を自由財産や新得財産で弁済すべき双務契約については破産管財人の管理処分権は及ばない。

 双務契約について破産管財人の管理処分権が及ぶ場合、双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる(法53Ⅰ)。 そして、この場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができ、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなされる(法53Ⅱ)。

 破産管財人が双務契約を解除し、又は解除したものとみなされた場合には、相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができ(法54Ⅰ)、破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存するときは相手方はその返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について財団債権者としてその権利を行使することができる(法54Ⅱ)。

2 継続的給付を目的とする双務契約

破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができないとする一方で(法55Ⅰ)、継続的給付を目的とする双務契約の相手方が破産手続開始の申立後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権として扱うこととしている(法55Ⅱ)。これは、破産手続においても事業を一定程度継続することが必要な場合があることから設けられた規定である。

電気、ガス、水道の供給契約、電話加入契約(固定電話・携帯電話とも)は継続的給付を目的とする双務契約に該当する(東京高裁昭和51年12月1日(判時842号110頁))。また、マンション管理費も、そのマンションの共用部分を利用することの対価的性質を有するものであることから.電気や水道等の光熱費の支払と同様に考えることできる。したがって、債務者が居住しているなどの事情があるときは、破産申立てに関し、同時破産廃止を予定している債務者が申立てまでにマンション管理費を支払うことは、偏頗行為否認の対象にならないと解される場合もある(150問6頁。なお、滞納マンション管理費は、マンションの任意売却又は競売時に、区分所有権の特定承継人に承継される(区分所有8))。

法55条1項及び2項の規定は相手方の履行拒絶権限を限定する趣旨であるから、賃貸借契約のようにある期の対価の支払いがないことを理由として次の期以降の給付をしないことを想定していない契約類型には適用されない(大コメ226頁)。賃貸借契約では対価の支払いがないことを理由に履行の拒絶をすることは想定されておらず、契約が解除されない限り履行をしなければならないのである。

なお、法55条1項及び2項の規定は使用者が破産手続開始の決定を受けた場合の労働契約には適用しないこととされている(法55Ⅲ)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立