Ⅵ 国税滞納処分等の取扱い

破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分はすることができない(法43Ⅰ)。その一方で、破産財団に属する財産に対して国税滞納処分が既にされている場合には、破産手続開始の決定は、その国税滞納処分の続行を妨げないとしている(法43Ⅱ)。

 これは、破産手続における総債権者の公平な満足を実現するためには、破産管財人に破産財団に属する財産の管理処分権を専属させ、その広い裁量と責任の下に手続の円滑な進行を図る必要があることを考慮する一方、破産手続開始の決定前に滞納処分が開始されている財産については、当該滞納処分を行った租税債権者は当該財産から当該滞納処分に係る租税債権を優先的に徴収することができるという点において、特定の財産に対する担保権と同等の地位を有していることを考慮したものと解される(国税不服審判所平成20年3月3日裁決。裁決事例集75集725頁)。

なお、国税徴収法は、国税が私債権に優先することを原則としながら、国税の法定納期限等以前に滞納者の財産に質権や抵当権が設定されている場合には、その財産の換価代金の配当に当たっては、その被担保債権が国税に優先することとしているが(徴収法23)、納税者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となつているものがあるときは、納税者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができることとされている(徴収法24)。

前掲裁決例は、将来生ずべき債権をも含む債権譲渡担保契約を締結していた譲渡担保設定者が破産した場合のものであるが、将来生ずべき債権を一括して譲渡担保権者に譲渡することとする債権譲渡担保契約が譲渡担保設定者と譲渡担保権者との間で締結された場合には、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款がない限り、譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡され、譲渡担保の目的とされた将来生ずべき債権については、それが発生したときに、譲渡担保権者が譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当該債権を担保の目的で取得するものと解されている。しかし、そうすると、譲渡担保財産は法形式上担保権者に移転しているため、設定者に対する滞納処分として差し押さえることができないことから、譲渡担保の設定が国税の法定納期限等後であっても、譲渡担保権者は譲渡担保財産の換価代金から常に国税に優先して配当を受けることができることとなり、質権や抵当権との均衡を欠くことになる。

そこで、すべての担保制度が租税の徴収の面からはできるだけ同一の取扱いを受けることが望ましいとの観点に立った上で、徴収法24条により、譲渡担保財産が譲渡担保権者に移転していることを考慮して、その譲渡担保権の設定が国税の法定納期限等後に行われ、かつ、滞納者の財産から国税を徴収することができないときに限って、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産に対する滞納処分を行うことによって、その換価代金から国税を優先的に徴収することができることとしていると説明されている。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立