3 自由財産(金銭)

 民事執行法131条3号に規定する額(標準的な世帯の2月分の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭)に2分の3を乗じた額の金銭(99万円)は自由財産とされているが、ここで自由財産として認められるのはあくまでも「金銭」だけであり、預貯金等の金銭以外の財産は含まれない。

 現実的には、債務者が、そのような多額の財産を金銭で保有していることは稀であり、預貯金等として保有していることが多いと考えられる。そこで、預貯金、生命保険解約返戻金等、比較的換価が容易な財産については金銭と同視して自由財産とする運用が望まれるが、実際には、金銭と金銭以外の財産については明確に区別する運用が主流のようである。

 また、その場合、従前、生命保険解約返戻金等、金銭以外の財産であったものを破産手続開始の申立てに際して金銭化した場合には、当該額は金銭としてではなく生命保険解約返戻金等の従前の財産とみなされると考えられるので注意を要する。これは、現金化が債務者が返済を継続していくことが実質的に不可能な状態において行われた場合、現金化された他の財産は、本来的には破産財団に帰属すべき責任財産だった以上、按分弁済や自由財産との関係では、あくまで現金化される前の状態を基準にすべきであり、債務者が破産申立てを依頼してきた後に、現金化がなされたような場合、あくまで現金化される前の状態が基準にされるという考え方があるからである(法律相談64頁)。

 一方、あくまで破産手続開始決定時において既に現金となっている以上、現金として取り扱うべきという考え方(150問46頁)や、偶然99万円という財産を現金という形態で所持していたか、預金で所持していたか、生命保険として所持していたかによって、取扱いを異にする合理的理由は見出し難いように思われる(到達点と課題57頁)とする考え方、法34条3項1号は「金銭」という文言を使っており、「現金」と明記しているものではなく、「金銭」を現金よりも広がりを持った財産の意義に解釈することは可能なのではないかという考え方(到達点と課題58頁)などもある。

 なお、預金・保険等の現金化については、これが支払不能状態等においてなされた場合、否認対象行為に該当するか、免責不許可事由に該当するかといった点も論点となろうが、現金化により価値が減少したわけではなく、自由財産とされる99万円の範囲内の現金化は破産者の生活維持のために相当であるから何ら問題ないものと考えられる。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立