2 破産財団に属しない財産

 法34条1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない(法34③)。

①  民事執行法131条3号 に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭(現行99万円)

②  差し押さえることができない財産(民事執行法第131条3号 に規定する金銭を除く。)。ただし、同法132条1項の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。

動産については、福岡地裁本庁では、差押禁止動産として次のものが示されている。

和ダンス、洋タンス、整理タンス、茶タンス、鏡台(ドレッサーを含む。)、食器戸棚、ベッド、サイドボード、食卓セット、冷蔵庫、電子レンジ(オーブンレンジを含む。)、カラーテレビ、ビデオデッキ、冷暖房器具(エアコンを含む。)、掃除機、洗濯機、ラジオ(CDラジカセを含む。)。ただし、いずれも1点(破産法実務(福岡)34頁)

また、大工道具、理容器具等の技術者等の業務上必要な器具類は、差押禁止動産とされている(民執131Ⅵ)。

平成3年3月31日以前に効力が発生している簡易保険契約の保険金又は還付金請求権は差押禁止債権とされている(平成2年改正前の旧簡易生命保険法50。ただし、契約者配当金、未経過保険料等は 差押可能であるので注意が必要)。

また、各種の保険給付受給権は、差押禁止債権とされており(健保52、61)、高額療養費の支給(同52 九)、家族埋葬料の支給(同52七)等も同様である。

これらの他にも、生活保護受給権等(生保58)、失業等給付受給権(雇用11)、労働者の補償請求権(労基83②)等がある。

企業型年金も差押が禁止されている(確定拠出32Ⅰ)

 小規模企業共済は、事業者の「退職金」共済制度として差押禁止債権とされている(小規模15)。同様に中小企業退職金共済(中退共)も、従業員の退職金共済制度として差押禁止債権とされている(中退共20)。 しかし、破産者の取締役としての責任(善管注意義務違反等) との関係や免責不許可事由が相当程度あり裁量免責のために積立が必要な場合には、事案ごとに一定額を破産財団に組み入れる処理を行っていることも報告されている(150問33頁)。

自賠16条1頃は、被害者による保険会社に対する直接の請求権を認めている。これは、被害者の迅速な保護や救済をしようとするものであり、この請求権は差し押さえることができない(自賠18)。したがって、自賠法に基づく被害者の直接請求権は自由財産となる(150問56頁)。

一方、車輌の物損のような財産的損害の賠償請求権は破産財団に帰属する。治療費は、損害を受けた身体の治療にかかる費用であり、自由財産の拡張(破34Ⅳ) が認められると考えられる。なお、実際には、保険会社の支払は直接に医療機関に行われるため、これを破産管財人が破産財団に取り込む事例はほとんどないと思われる。

介護費用や入院雑費などは、金銭債権として破産財団に帰属することになる。しかし、これらの費用は、被害者の治療に直接関連するものであるから、自由財産の拡張が認められるものと思われる(150問57頁)。

差押禁止債権が銀行預金となった後は、差押禁止債権の属性を承継せず、預金債権として差押可能と判断されている(最判平10年2月10日(金法1535号64頁)) 。この最高裁判決では、国民年金のほか、労災保険金も対象となっているが(労災12の5Ⅱ)、預金債権となった後は、自由財産拡張の判断を受けることになる(150問33頁)。

また、最高裁は、名誉侵害を理由とする慰謝料請求権は、加害者が被害者に対し一定額の慰謝料を支払うことを内容とする合意若しくはかかる支払を命ずる債務名義が成立したなどその具体的な金額が当事者間において客観的に確定したとき又は被害者が死亡したときは、 行使上の一身専属性を失うとしている(前掲最判昭和58年10月6日) 。このような判例の立場からすれば、金額の確定した慰謝料請求権は、債務の履行を残すだけであり行使上の一身専属性はなくなるということになる。また、金額確定前に被害者が死亡した場合も、慰謝料請求権を承継取得した相続人に行使上の一身専属性を認める必要はないことになる(150問57頁)。

 このほか、慰謝料等の差押えできない債権の弁済によって形成された財産に差押禁止の効力が及ぶという下級審判決がある(東京地判平15年5月28日(金判1190号54頁、金法1687号44頁))が、最判平10年2月10日(金法1535号64頁、金判1056号6頁)は、消極に解している(到達点と課題97頁)。

 離婚に伴う慰謝料請求権は、慰謝料が行使上の一身専属性があるとされていることから、慰謝料の具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は自由財産であり、破産手続中に確定すれば(たとえば、当事者間での金額合意の成立、または債務名義の成立等)、破産財団に属するというのが判例である(到達点と課題98頁)。

 しかし、財産分与請求権については、清算的部分、慰謝料的部分、扶養的部分があるとされており、それを破産との関係に反映させると、理論的には、清算的部分は破産財団に属し、慰謝料的部分は(慰謝料請求権と同様に)自由財産であり、扶養的部分は、開始決定前の部分は破産財団に属する(ただし、自由財産拡張の対象となる。) が開始決定後の部分は新得財産というべきである(到達点と課題98頁)。

 家裁実務において財産分与として認められるのは、ほとんど清算的部分であり、かつ2分の1ルールが定着していることを考慮すると、財産分与請求権そのものに一身専属性を認めることは相当ではない(到達点と課題99頁)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立