要綱案(登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化)

 1 登記義務者の所在が知れない場合の一定の登記の抹消手続の簡略化

(1) 不動産登記法第70条第1項及び第2項に規定する公示催告及び除権決定の手続による単独での登記の抹消手続の特例として、次のような規律を設けるものとする。
 不動産登記法第70条第1項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。
(2) 買戻しの特約に関する登記の抹消手続の簡略化として、次のような規律を設けるものとする。
 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、不動産登記法第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

 2 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続の簡略化

 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続を簡略化する方策として、次のような規律を設けるものとする。
登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前記1(1)に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、当該法人の解散の日から30年を経過したときは、不動産登記法第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

 所有権の登記の登記事項に関し、次のような規律を設けるものとする。
 所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和38年法律第125号)第7条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるものを登記事項とする。

 2 外国に住所を有する登記名義人の所在を把握するための方策

(1) 国内における連絡先となる者の登記
 所有権の登記の登記事項に関し、次のような規律を設けるものとする。
 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものを登記事項とする(注1)(注2)
(注1)連絡先として第三者の氏名又は名称及び住所を登記する場合には、当該第三者の承諾があること、また、当該第三者は国内に住所を有するものであることを要件とする。
(注2)連絡先となる者の氏名又は名称及び住所等の登記事項に変更があった場合には、所有権の登記名義人のほか、連絡先として第三者が登記されている場合には当該第三者が単独で変更の登記の申請をすることができるものとする。

(2) 外国に住所を有する外国人についての住所証明情報の見直し
 外国に住所を有する外国人(法人を含む。)が所有権の登記名義人となろうとする場合に必要となる住所証明情報については、次の①又は②のいずれかとするものとする。
① 外国政府等の発行した住所証明情報
② 住所を証明する公証人の作成に係る書面(外国政府等の発行した本人確認書類の写しが添付されたものに限る。)

 3 附属書類の閲覧制度の見直し

 登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)の閲覧制度に関し、閲覧の可否の基準を合理化する観点等から、次のような規律を設けるものとする。
① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。後記②において同じ。)の閲覧を請求することができる。
② 登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面及び前記①に規定する登記簿の附属書類を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧につき正当な理由があると認められる者は、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、その全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る。)の閲覧を請求することができる。

 4 所有不動産記録証明制度(仮称)の創設

 相続人による相続登記の申請を促進する観点も踏まえ、自然人及び法人を対象とする所有不動産記録証明制度(仮称)として、次のような規律を設けるものとする。
① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。後記②において同じ。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「所有不動産記録証明書(仮称)」という。)の交付を請求することができる。
② 所有権の登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、当該所有権の登記名義人の所有不動産記録証明書(仮称)の交付を請求することができる。
③ ①及び②の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。
④ 不動産登記法第119条第3項及び第4項の規定は、所有不動産記録証明書(仮称)の手数料について準用する。
(注1)ただし、現在の登記記録に記録されている所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所は過去の一定時点のものであり、必ずしもその情報が更新されているものではないことなどから、請求された登記名義人の氏名又は名称及び住所等の情報に基づいてシステム検索を行った結果を証明する所有不動産記録証明制度(仮称)は、飽くまでこれらの情報に一致したものを一覧的に証明するものであり、不動産の網羅性等に関しては技術的な限界があることが前提である。
(注2)①及び②の規律は、代理人による交付請求も許容することを前提としている。

 5 被害者保護のための住所情報の公開の見直し

 不動産登記法第119条に基づく登記事項証明書の交付等に関し、次のような規律を設けるものとする。
 登記官は、不動産登記法第119条第1項及び第2項の規定にかかわらず、登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において、その者からの申出があったときは、法務省令で定めるところにより、同条第1項及び第2項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。

 

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立