法制審議会 民法・不動産登記法部会 第23回会議議事録

○山野目部会長 再開いたします。
  部会資料53をお取り上げください。構想される要綱案の第2部に当たる「不動産登記法等の見直し」に係る改正構想事項の全てをこの冊子に綴じてございます。内容が盛りだくさんでございますから,少し分けて御意見をお尋ねすることにいたします。
  初めに,第2部の「第1 所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み」,この部分について御意見をお尋ねすることにいたします。部会資料で申しますと,補足説明まで入れますと11ページまでの範囲で御意見を承ることにいたします。いかがでしょうか。
○今川委員 第1の1(1)の所有権の登記名義人が死亡した場合における登記の申請の義務付けについてですが,①の義務付けについては,後で出てきます(3)の相続人申告登記の制度を創設して,その制度による申出をすることにより登記申請義務が履行されたことになることを前提として賛成を致します。また,同じように,相続人申告登記の申出により義務の履行を認められるということであれば,義務履行の期間を3年とすること,これは比較的短期ですけれども,それについても反対するものではありません。なお,義務化を導入するのであれば,是非登録免許税の軽減策を併せて導入されることを要望いたします。
  次に,本文②の法定相続分による登記がされた後に,遺産分割があった場合に,更に登記の申請を義務付けるということについては消極意見の方が多いです。理由は,一つはまず,私的自治の原則に従うべきであるということ。関連しますが,売買や贈与その他の意思の合致による物権変動が生じた局面でも登記の義務化につながらないかという危惧があるということであります。二つ目として,そもそも不動産を含む遺産について分割協議を行うということは,それ自体,登記を前提としているともいえますので,あとは対抗関係の下での行動に任せていいのではないかということであります。三つ目の理由は,相続登記を義務とすることの理由としては,権利能力を失った者を公示し続けるのが不適当であると,こういう理由が大きかったと思います。そうであるならば,一旦法定相続での登記や相続人申告登記がされたということは,その後,遺産分割があった場合について登記の義務を課す必要はないのではないかということであります。四つ目として,このような規律を置くと,ある特定の不動産を除外して一部分割をするということも考えられるので,その実効性に少し疑問があると,こういう理由です。
  ただ,一方で,本文②について,もしこのような規律を置くのであれば,3年は長いのではないかという意見もあります。遺産分割協議が成立していながら長期間申請しないという理由が見当たらないので,もしもこの制度を導入するのであれば,例えば1年以内ぐらいでもいいのではないかという実務の感覚からの意見があります。
  それから,(注5)の改正法施行時既に所有権の登記名義人が死亡している不動産についての義務付けですけれども,本文①と同様に,義務発生要件に主観的要件が元々盛り込まれているということと,補足説明5の第1段落で説明されているように,既に登記名義人に死亡が発生している場合についても相続人申告登記の申出をすることで義務履行を認めるということを前提とされているとするのであれば,賛成であります。また,義務履行の期間を3年とするということについても,先ほど述べた理由によって反対するものではありません。
  (2)の相続登記等の申請義務違反の効果ですけれども,過料を科すということについては消極な意見の方が多いです。理由は,過料が科されているということで登記申請行動に結び付くのかどうかというのが我々の実務の感覚からして疑問であるということ,それから,正当な理由がないのに申請を怠ったことを登記官が判断するということになるのですが,補足説明にあるように,違反していることを職務上知る場合というのがどれほどあるのかというのが疑問であるという実効性の観点からの消極意見であります。それよりも,登録免許税の軽減等のインセンティブを与える方法によって義務化の実効性を持たせていく方がよいという意見であります。
  それから,(3)相続人申告登記の創設ですけれども,これは賛成であります。ただ,④の遺産分割を行った際の登記申請義務については(1)で述べたのと同じ意見です。
  幾つか,若干細かいところで質問があるのですが,補足説明2の6ページの最終行の括弧書きに,相続人に対する遺贈により所有権を取得した者についても,相続人申告登記により,登記申請義務を履行したものとみなすという表現があります。ということは,特定財産承継遺言によって取得したもの,さらには遺産分割によって取得したものについても,このようなケースは余りないかとは思いますが,規律上は相続人申告登記をすることによって義務を免れるということになるのですねという確認です。
  それから,二つ目の質問ですが,これも同じく補足説明2の7ページの第2段落の8行目に,登記官は,所要の調査の上で,職権で登記を行うとあります。これは(注2)と関連するのですが,この所要の調査というのは,住基ネットとの連携を利用して登記名義人の死亡の事実を確認したり,被相続人の死亡時の住所を調査して同一性を確認するというような意味ですねという確認と質問です。つまり,この登記の申出をする相続人が,被相続人の死亡の事実や死亡時の住所を証するものを提供しない,あるいはそれが不足していたとしても,そのまま受け付けて職権で登記をしてしまうという意味なのだろうと思うのですが,その辺,お尋ねを致します。
  それから,補足説明3の具体的な公示方法ですけれども,相続人申告登記については付記登記,そして,申出をした者が死亡した場合や住所又は氏名に変更があった場合には,付記登記の付記登記という形式をとることについては,今後,細部はまた省令等で定められることになるのだろうと思いますが,基本的にはそれでよいのだろうと思っております。そこで質問ですけれども,申出をした者について住所や氏名に変更があった場合は,その変更の旨も申出をさせるのか,申出をさせるとしたら,これを義務化の対象にするのか,それから,現時点ではこの申出をした者の住所,氏名の登記については住基ネット連携の対象には直ちにはならないのですねという確認であります。
  それから,これは申出に基づき職権によって登記をするという仕組みなので,手数料等も掛からないのですねという質問と,それから,これも同じ補足説明2の7ページの第2段落に,管轄区域外の不動産についても最寄りの法務局で申出をすることができるようにすることを検討するとありますけれども,これは当事者の負担を軽くするためにも,是非そのような制度としていただきたいという要望であります。
  それから,補足説明3で,相続人申告登記の申出をした者が死亡した場合に,登記官が職権でその者の死亡の事実があったことを示す符合を表示するということについては,すぐに実現することは困難であると説明されていますが,それは理解します。ただ,将来においてはデジタル化を進めて,この申告登記についても,ほかのネットワークとの連携を図るような改善はしていただきたいという,これも要望であります。
  それから,(4)について,遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化については賛成です。
  (5)の法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化についても賛成です。ただ,(注)については消極な意見が多いです。この点については部会で何回か意見を述べさせていただいておりますが,(注)の提案は,所有権の登記名義人となっている他の相続人の保護の観点から,必要に応じて仮処分の申立て等の所要の措置を講ずる機会を与えることが目的であるとされていますが,その趣旨に反対するものではありません。
  ただ,消極である理由として,一つには,法定相続の登記を経ずに最初から特定財産承継遺言に基づく相続又は相続人に対する遺贈の登記の申請をするときには,他の相続人に対しては何ら通知はされません。二つ目として,登記手続以外の局面ですが,自筆証書遺言は検認等の手続の場面で他の相続人に対して通知されますが,公正証書遺言の場合はそのような通知もなくて,登記がそのままされてしまうということであります。これ自体,よくないと言っているわけではないのですが,そういうふうな制度になっているということです。それから,三つ目の理由として,例えば,多数存在する相続人の1人が保存行為として全員のために法定相続分による登記をする場合,そもそも法定相続分による登記はほとんどがこの場合だと思います。ある1人の相続人が,保存行為として全員のために法定相続分による登記をした場合,この法定相続分による登記をしたこと自体が登記申請を行った相続人以外の相続人には通知もされません。そのため,登記名義人になった認識すらない相続人がいるということであります。以上のことから,相続人の保護を図ること自体は否定しないのですが,バランスを考えると,仮に他の相続人が所要の措置を採る機会を失わないようにするための方策を検討するのであれば,登記の局面だけでなく,相続法において実効性のある方策を検討すべきではないのかというのが意見であります。
  それから,これは少し司法書士として細かい要望になりますが,中間試案の補足説明の中で,この本文における更正登記の登記原因については「遺産分割」とするというような説明がありました。これは維持していただきたいと思います。加えて,法定相続分による登記と,法定相続分による登記を経ないで直に遺産分割協議による登記をした場合の登記原因が同じなので,遺産分割協議を行っているのか否かが登記記録上判然としないという課題があります。今後は,この部会での議論ではないかもしれませんが,登記原因についても見直しを検討していただきたいと要望いたします。
  それから,2の権利能力を有しないこととなったと認めるべき所有権の登記名義人についての符合の表示ですが,これは賛成であります。
  第1については以上です。
○山野目部会長 司法書士会の意見を取りまとめいただきましてありがとうございました。お尋ねがあった点を中心に,事務当局から回答を差し上げます。
○村松幹事 幾つか御指摘,御質問を頂いておりますけれども,まず,6ページの一番下の辺りというところで,遺贈により所有権を取得した者についても,申告登記によって申請義務を履行したものとみなすと,これはゴシックの方で書いてあるとおりの文言になっています。実体的に遺言がされているとか,あるいは遺産分割がされているとか,ありますけれども,後に取り消されたりすることもあるということも含めて考えますと,幅広く申告登記で義務が免除されるという形にする方がよろしいのではないかということで,この部分はそのように全般的に記載しているものですので,御質問の点については,そのとおりだということになろうかと思います。
  それから,申告登記について,今回,職権的に行うという表現に全般的にしていますけれども,申出をしていただくけれども,その後の,あるいは全体の手続としては職権登記という側で基本的には整理するという新しい仕組みを設けています。この部分については,資料の中にも書いておりますけれども,添付書面に関して,なるだけ省力化したいし,あるいは今後の技術革新というと言葉は強いですけれども,様々なデジタル的な連携が進むごとに,あるいは法務局側でのマンパワーがあるのであれば,できるだけ申請人の負担を軽減するという施策を引き続き検討していきたいと思っておりますので,その意味で,所要の調査の内容というのもできるだけ減らせるようにというのが含意であります。そこから先,どこまで減らせるかというのは引き続き省令の中で具体的には考えていきたいということを,施行時まで若干の時間がありますので,またその間の状況の変化も見ながら考えていくことを予定しております。調査が必要な事項については従前から申し上げているとおりですし,今の御指摘が前提の話になっているかと思っております。
  それから,付記の関係で,付記登記で結局,申告された相続人の名前が入ってくるということになっておりますけれども,この関係で,相続人申告登記がされた後の住所,氏名の変更は認めるのだろうとは思っております。問題は,それが住基との連携の対象にできるのか,あるいは,住基との連携の対象にできるのであれば,また職権的にここも変更していけるのではないかという部分がございます。この部分,全体的には職権登記の世界の中の話ですので,ある程度,省令の中で,これもまたコントロール可能かなと思っておりますが,実際のところ,住基との連携がこの部分について可能かどうかについては,まだこちらの側ではシステム面を含めて精査中という状況です。基本的には,ますは所有権の登記名義人について,こういった施策をしっかり講じていくのが前提で,しかし,次の段階といいますか,同様のニーズがここの部分にもあるということは認識しておりますので,そこは問題意識を持っております。ただ,まだ現状では,結局,システム開発の規模が,ここも入れるとなると,膨らんでくるところがありますので,問題意識は持って取り組まなくてはならない,そういう課題だというところになっております。申し上げたいのは,必ずしもここを法律事項にしておかなくても対処は可能なものではないかとは感じているのですけれども,そういったところでこの部分は考えております。
○山野目部会長 村松幹事に一つ補足ですけれども,相続人申告登記において記録された氏名,住所のうち住所に変更があったときの申請が義務付けられるかという司法書士会の御疑問があったと聞きました。この部会資料の構想は義務付けられないということであろうと理解していますけれども,いかがですか。
○村松幹事 おっしゃるとおりであります。
○山野目部会長 ありがとうございます。山田委員,お待たせをいたしました。
○山田委員 ありがとうございます。簡単な質問で,申し訳ありません。意見というよりは,どういうことでしょうか,こういうことでしょうかというような質問を差し上げたいと思います。
  第1の1,相続登記の申請の義務付けに関わることであります。ずっと議論してきたことですし,このような方向で具体化していくことについて賛成という立場を最初に表明した上で,質問をさせていただきます。
  どういうことかというと,共同相続で複数の相続人がいると,遺産分割は行われていなくて,法定相続分どおり登記をすることになる,それが義務付けられるということになります。①の一番中心的な例であります。直前の御発言の中にもありましたが,保存行為として位置付けられますので,A,B,C,3人,共同相続人がいた場合は,その中の誰か1人が申請をすれば,相続を原因とした登記が法定相続分どおりで実現すると理解しております。そうすると,1の(1)の③の,前記①及び②の規定は,代位者その他の者の申請又は嘱託により,当該各規定による登記がされた場合には,適用しないとありますが,これが働いて,Aが単独で申請して登記がなされれば,BとCはこの規定に基づいて義務を免れることになると,そういう作りになっていると理解をしましたが,それでよろしいでしょうかというのが質問です。その質問に限りますので,申し訳ありません,お教えください。お願いします。
○村松幹事 山田委員御指摘のとおりでございまして,代位者その他の者の申請と書いておりますけれども,この部分で今の御指摘のあった部分は読むことになろうかと思っております。A,B,Cといて,Aが保存行為として法定相続分での所有権の移転の登記の申請をしましたら,B及びCの名前が入っていますので,BとCについても義務は履行されたものとなるということでございます。
○山野目部会長 山田委員,いかがでしょうか。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。まず第1の1,つまり相続登記等の申請の義務付けに関して発言をさせていただきます。
  原案に一応というか基本的に賛成であるということを申し上げた上で,先ほど今川委員がおっしゃいました反対意見に対して,今までも同じことを言ってきており,繰り返しになるのですけれども,いや,それは違うと思うということを申し上げたいと思います。その上で,1点だけやや疑問に思うところがあるので,申し上げたいことがあります。
  今川委員は先ほど,特に第1の1の②について反対であると,今川委員御自身が反対かどうか存じませんが,司法書士会としては反対の意見が強いということをおっしゃって,4点,反対の理由を挙げられました。私は,その反対の理由はいずれも必ずしも妥当しないのではないかと思っています。それらを個別に申し上げようとは思うのですが,結局のところ,この義務付けを何のためにするかというところで認識に違いがあるのだろうと思います。
  特にそれを端的に表しているのが,今川委員が3番目の理由としておっしゃったことで,ここで義務を認めるのは,権利能力のない者が所有権を有しているという記録を残し続けないことですよねとおっしゃったわけですが,私はそうではなくて,所有権を取得した方が所有権の登記を積極的にする,登記を見れば所有者が誰かが分かるという状態を実現する,その方策としてこれを考えるということであろうと思っています。そうだとすると,では,どうしてこの場面でというのは資料の補足説明にも書かれておりますし,これまでもずっと述べられてきているとおり,売買等の場合には基本的に自己の権利を守るための権利者の主体的行動を期待することができると考えられるのに対し,今,義務付けが問題とされている場面では,必ずしもそうとは言い難い面もある,だからここを手当てするのだということだと思うのです。
  今川委員は第1の理由として,ここでもし遺産分割などを入れてしまうと,売買等への拡張が心配されるのではないかとおっしゃったわけですけれども,この案は慎重に,そこは権利を取得した人が単独で登記の申請をすることができるという場面,ほかのところを工夫してですけれども,全部そういう場面に限って義務付けようとしているわけですので,売買の場合等に簡単に波及することにはならないと思います。
  それから,第2の理由として挙げられた,これは私的自治に任せるのだということについては,いや,これは公共の利益を守るためだという側面もあるのだということも,これまで申し上げてきたところです。さらに,一部分割の助長をすることになるのではないかとおっしゃいましたけれども,しかし,その場面であっても,法定相続分による登記又は相続人申告登記は3年以内にしなければいけないというわけですから,登記名義に関して,あるいは登記記録に関して一定の手当てがされるという状態で,それ以上,誰に帰属させるかということをある土地について決めないというのは,もう致し方がないと割り切ることができるのではないかと思っています。したがいまして,ここの義務付けの趣旨が,所有権の登記がきちんとされることにしようということにあるのだと理解いたしますと,この提案は特段,問題を抱えているわけではないと思っています。
  その上で,相続人申告登記の扱いについて,先ほどは1点と申しましたが,2点申し上げたいことがあります。一つは,先ほどの今川委員からの問い掛けに対して村松幹事がお答えになった,申告登記の場合,住所変更の義務付けはしないのだということなのですけれども,技術的に難しいということもあるのかもしれず,それはしようがないのかなとも思いますけれども,申告登記だけがされて,その後,結局,住所が変更されないままほったらかしになるということになりますと,登記を見ても所有者を追えない,簡単には所有者にたどり着けないという状態が残ってしまうことになりますので,何とかできないのかなと思っています。これが意見の1点目です。
  もう1点は,申告登記でもって義務が履行されたとされる場合につきまして,それほどないのかもしれませんが,遺産分割が既にされた,相続開始時から3年以内にですね,あるいは特定財産承継遺言があるということも認識している,そういった場合に,そうであるにもかかわらず,当該権利者が申告登記しかしなかったけれども,それで義務が果たされましたとなると,何となく,まず申告登記がされ,その後に,遺産分割がされたとか,特定財産承継遺言があることが分かったというときと,バランスが取れないような気がします。権利関係を公示するのだということにもし趣旨があるとすると,ここは趣旨の捉え方に違いがあるということは理解しておりますが,そこに趣旨があるとすると,何だか,遺産分割が終わっていません,あるいは帰属が本当の意味では確定していませんというところでは,申告登記で置き換えるというのはなるほどと思うのですが,権利関係が既に確定しているにもかかわらず,申告登記をすればそれでオーケーですよというのは,制度の仕組み方として難しい点があるのだとすると,そこは何とも申し上げられませんけれども,受け取られ方としては非常に中途半端というか,権利の登記は結局無理にしなくてもいいのだよねと受け取られかねないように見えるのではないかが,少し気がかりなところです。
○山野目部会長 佐久間幹事から,合わせて3点を頂きました。後ろの2点,相続人申告登記に関する御提案を含む御意見については,引き続き検討することにいたします。
  1点目でおっしゃっていただいた事項は,今川委員との論争に発展しつつあります。論争にニックネームを付けるとすると,2段ロケット論争とでもいうべきものでありまして,相続人申告登記がされ,又は法定相続分による相続による所有権の移転の登記がされた後,遺産分割があった場合において,当該遺産分割の成果を反映する遺産分割による登記を義務付けの範囲に含むかどうかという論点,この後ろの2段目のお話のところ,言うなれば2段ロケットのところを義務付けに含むかどうかということについて,ただいま今川委員と佐久間幹事との間に応酬がありました。
○橋本幹事 少し気が引けるのですけれども,弁護士会の意見状況を報告したいと思います。相続登記の義務付けの点については,中間試案の段階から日弁連としては消極な意見を申し上げてきたところです。ただ,そうはいっても過料の制裁も科さないものでは意味がないだろうという賛成意見を述べるところももちろんあります。なので,日弁連として一枚岩で反対ということではないのですが,依然として過料の制裁については反対であり,抽象的義務の限度にとどめるべきであるというのが現時点においても多数であります。
  それで,仮に過料の制裁を課するとしてもなのですが,今,2段ロケット論争になっていますが,弁護士会としても②の点,それから(3)の④の点,この2段ロケット論争は少し行きすぎではなかろうかという意見が強い状況でした。政策パッケージとしてはここまでやらないと徹底しないというのは,それはそれで私は理解します。ただ,少しそれでは酷ではないだろうかというような心情的なところもありまして,そこについては消極であると。仮に共同相続についての登記義務で過料の制裁としたとしても,2段ロケット目は勘弁してくれないかということです。
  それと,もう1点ですが,過料の制裁を課すについての運用については,通達で明確化すると,登記官が催告をしたにもかかわらず,正当な理由がないのに,やはり応じないという場合に限って過料の制裁を発動するというようなことが書かれていますが,この点については,過料の制裁を作る場合には,やはりしっかりと通達を整理していただいて,そのほか一問一答などでもしっかりこの趣旨を国民に分かるように広く啓発していただいて,不意打ちになるようなことがないようにお願いしたいと考えています。
  それから,1の(1)の(注5)の点ですが,施行時から3年でどうかという問い掛けなのですけれども,3年ではやはり短いのではなかろうかと。恐らく既に亡くなっているケースに関しては,この施行時で一斉に義務が具体化する状況になりますので,この経過期間についてはもう少し長い期間が望ましいでしょうという意見が多数でして,更に少数意見としては,施行時に亡くなっているケースについてはそもそも適用すべきではないというような意見もありました。これは少数意見だと思いますが,そのような懸念を示す意見もありました。
  それから,相続人申告登記ですが,④の点については,先ほど申し上げたように反対意見が多数であります。相続人申告登記を創設することについては賛成しておりますが,義務履行の効果をみなす範囲ですけれども,共同相続人のうちの1人が申告をした場合には,ほかの共同相続人についても義務履行があったとみなす効果を与えるべきではないかという意見がありましたので,御紹介したいと思います。
  それから,(5)の点ですけれども,更正登記であるということについてはこれまでも賛成しておりましたが,前回,部会資料38のときにも申し上げましたけれども,これを不動産登記実務の運用により対応するということについては,前回の部会のときにも反対の意見を申し上げて,それを配慮したことを補足説明に書いていただいているのですが,やはりこの点については納得し難いという意見が多数の状況でありました。
  第1関係は以上です。2に関しては,特に異論はありませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。
  引き続き御意見を承ります。岩井幹事,どうぞ。
○岩井幹事 ありがとうございます。部会資料53の7ページに,登記官が相続人申告登記の申出に対して応答しなかった場合には,その登記官の判断は処分性を有するとされているところでございますけれども,相続人申告登記の申出があったときには,登記官が職権で付記登記をすると制度設計されていることとの整合性をどのように説明するのかという点に疑問があるところでございます。
  すなわち,現在の制度設計を前提といたしますと,相続人申告登記の申出は登記官の職権発動を促す行為と解されるところでございますので,この申出に単に応答しないという行為につきましては処分行為性を認めることができないのではないかという疑問があるところでございます。また,部会資料では,処分性を肯定する解釈上の手掛かりとなる規定を法務省令に置くことを想定されていると思われるところでございますが,処分性の有無の根拠となるような事項につきましては,本来,法律で定められるべき事項ではないのかという点も疑問のあるところでございますので,これらについて更に御検討いただければと思います。
○山野目部会長 岩井幹事から御指摘を頂きました。ありがとうございます。
  御指摘を頂いた問題の側面の中には,行政事件訴訟法の解釈,運用に関わる側面が含まれていると受け止めます。本日この会議に山本幹事からやや遅参するという御案内を頂いているところでありまして,この後の山本幹事の御出席のタイミング等を勘案して,御出席になられた段階で,ただいま岩井幹事から問題提起をしていただいた事項について議論を再開したいと考えますから,しばらくお待ちを賜りますようお願いいたします。
  ほかの点について御発言を頂きます。吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。相続人申告登記について若干の意見を述べたいと思います。
  こうした公法上の義務を履行するための簡便な申出の仕組みを導入することに賛成いたします。その上で,これを相続人申告登記という新しい登記と位置付けることが本当に大丈夫かということは,十分に考える必要があると思っております。私のような素人が感覚的なことを申し上げて大変恐縮なのですが,ただ,登記の種類を増やすということは非常に大きなことであって,これが今後の不動産登記法全体の議論にどのような影響を与えるかということ,それからもう一つ,国民への分かりやすさという点からどうなのかというところは,この名称で行くにしろ,十分に議論を尽くす必要があると考えます。
  最初に結論を申し上げますと,これは登記ではなくて相続人申告届といった方がいいのではないかと感じているところです。理由を2点申し上げたいのですけれども,まず,これを登記と位置付けることで,実体法上の効果の有無について議論や誤解が起きてしまうのではないかという懸念をやはり若干持っております。第10回会議において部会長から,以前,予告登記という制度が一時的にあったということ,それから,中田委員より,そのときに実体法上の効力の有無についてやや紛糾があり,今回はそのようなことのないようにという御指摘がございました。今回,是非本当にそうした現場での混乱や,法律関係者における必要のない議論が起きないようにしなければいけないと思っております。
  登記というのは幅広い概念かと思いますが,保存登記,移転登記などと並んで申告登記というものが新しくできたときに,登記と付いてはいるけれども,その実体は大きく異なります。移転登記は一筆単位の物権変動ですが,それに対して今回の申告登記というのは個人単位で行い,しかも飽くまでも付記登記であり,権利の移転は伴わないと。そうした大きく性質の違うものを,大きく登記とくくって,本当に今後,大丈夫であろうかということ。もちろん住所変更登記のように権利変更を伴わないものもありますが,住所変更登記は読んで字のごとくで,それによって権利に何か影響があるのかと迷う人は少ないと思います。しかしながら,今回の相続人申告登記というのは,字を見ただけでは一体どのような法的効果があるのか,どのような単位で行われるのか明示的ではなく,関係者が迷う余地が大きいと思っております。そうしたことは,やはり防がなければいけない。
  それから,2点目の国民への分かりやすさという観点ですが,相続登記に直面する場面というのは人生の中でそう多くはなく,この制度を初めて使う人がすぐに分かるように立て付けておくことが大切であると思います。そのときに,一般の人が相続人申告登記という七つの漢字を見て,それから,もう一方で相続登記という四つの漢字のものがありますと,同じように両方登記と付いているのだけれども,こういうふうに違うのですよと聞いたときに,すぐに理解できるだろうかと感じてしまいます。そして,どちらか,相続人申告登記をやれば,取りあえずいいのでしょうとなってしまわないだろうかと思います。
  そこで,この新しい仕組みに込められているメッセージをしっかりと正しく世の中に伝え,そして,政策目標である相続登記の促進を実現していくためには,この制度自体は登記とは呼ばない方がいいのではないかと思っております。そして,相続人の方に説明をするときには「今回,相続登記が義務化されました。それは重たいことなのだけれども,公法上の義務を履行するための柔軟な対応方法として,こういう届出による個人ベースでできる申告の制度もあるのですよ。そうした届出も活用しながら,是非しっかり相続登記をしてくださいね」というふうに,性質の違う行為についてはそれぞれ別の名前で説明できるように,簡便な届出の仕組みを活用しつつ,登記をしっかりしてくださいと国民に説明できる方がいいのではないかと思っております。
○山野目部会長 相続人申告登記という新しい制度を創設するに際して,その法制的な意義のみならず,国民にしっかりと正確な理解を抱いてもらって,円滑な運用がされることが大切であるという見地から,吉原委員に御発言を頂きました。御提案も含まれていました。
  現在,部会資料で提示しているものは,登記官の方がその職権に基づいて行う行為及び,その登記上の成果を相続人申告登記の概念で呼び,申請人に対して求める行為を,丁寧にいうと相続人申告登記に係る申出,簡単にいうと相続が開始したことに伴う申出ということをお願いしますという言葉の整理で臨んでいるところでございます。ただいま吉原委員から御注意いただき,また御提案も添えていただいたところを踏まえて,より法制的にも整合的な説明が可能であり,国民に対しても誤解が生ずることがないような言葉の整理について努めてまいり,引き続き検討したいと考えます。ありがとうございます。畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 既に今までの審議で出ていたことだとしたら申し訳ないのですが,相続人申告登記について,私の専門分野に関わることではないのですが,質問させてください。
  先ほどから,従来からある相続登記については,共同相続人の1人が全員の分を申請できるという話が出ておりますが,この相続人申告登記の方はどうなのでしょうか。ある人が出してきた戸籍謄本,抄本の類いから,兄弟のことも分かるとかいうこともありそうなのですが,その辺りはどういうイメージを持てばよいか,御教示いただければと思います。
○村松幹事 相続人申告登記につきましては,個々の相続人の方が自分の分だけ申告していただくというのをまず基本に据えてはどうかと思っております。逆に言いますと,他の人の分も義務履行の効果を発生させるとなると,他の方の,相続人として他に誰がいるのかといった問題ですとか,場合によってはその住所等についても資料を提供いただくのかと,こういったことが問題になってまいります。そこまで,他の人の分までやるのではなくて,自分の分だけだったら簡単に済むから,それだけだったらやりますよと,こういう方向性で,それぞれが簡単に義務を履行できるようにという方策,こちらの方策で立ててはどうかというのが基本線です。それをベースにしています。
  ただ,とはいいながらも,この手続は申出という形で行われる手続で,いわゆる登記の申請よりも簡素な手続で進めたいと思っておりますけれども,そういった状況ですので,他の方と連名でといいますか,親御さん等含めて,お子さん含めて,連名で,では私の方で基本的にはやっておきますよという形で申請をしていただくということはもちろんありますし,もちろんそれが委任の代理の形で行われるということも否定されるものでは全然ありません。なので,考え方のベースがどちらなのかということかもしれませんけれども,1人でもできるし,ではやっておいてということであれば,その3人の方の分をまとめて申出をするということも否定はされないということになります。一応そういうつもりで作っています。
○山野目部会長 畑幹事,どうぞお続けください。
○畑幹事 いえ,何かはっきりした意見があるということではないのですが,この登記は今のところ職権による登記と位置付けられているようなので,先ほど申し上げたように,誰か1人が出してきた書類で兄弟姉妹のことも分かるというような場合には,登記してしまってもいいのかなということを少し考えたというだけです。特に強い意見ではありません。
○山野目部会長 ありがとうございました。御示唆は承りました。
  恐らく,先ほど村松幹事から御案内をしたとおりの運用のイメージであろうと感じます。ある人が亡くなって相続が開始したとき,その被相続人に5人のお子さんがいて,3人は1通の戸籍の謄抄本から分かるけれども,あと2人はそこからは直ちに分からないという書類を司法書士などの資格者代理のところに持って行ったり,登記所に持って行ったりすると,そこで相談を事前にするようなチャンスがあって,そういうときに相談すると,いろいろ言ってくれます。人によって,おしゃべりな人と,機嫌が悪い人と,寡黙な人と,いろいろいますが,比較的おしゃべりな人だと,その戸籍を見ると,ああ,3人さんいるのならAさん,あなただけではなくて,B,Cと御相談の上,委任状等をそろえて3人の分なさったらどうですかと勧めることもあるかもしれないし,そのときどうするかは申請人の随意ですし,そういうふうな現場の運用でされるということかもしれません。余り相談の場でいろいろこちらがたくさん述べると,畑幹事はよく雰囲気を御存じのように,積極的釈明がどこまで許されるかみたいな,それに似たような議論になってきて,ややこしいですけれども,しかし現場でそういうふうに収めていくという局面,契機も存在するかもしれません。御指摘いただきましてありがとうございました。山田委員,どうぞ。
○山田委員 ありがとうございます。先ほどの質問と少し違うところで,しかし似たような質問をさせていただきます。
  資料53の1ページの1の(1)の今度は②でございます。②については,冒頭で御反対だという御意見があったと理解をしております。それほど強い意見ではないのですが,まだ十分に私が咀嚼できていないがゆえの質問になると考えております。
  これは,法定相続分どおりの登記がまず行われて,その後,遺産分割が行われたということと思います。その後,遺産分割を反映させる,これは更正登記になるということが今日も話題になっていますが,それを申請しなければならないというのを義務付けるというものと理解しました。私の理解が誤っているかもしれない不安はあるのですが,その更正登記は共同申請になるのだろうと理解をしております。A,B,C,3人が法定相続人で,法定相続分どおり相続登記が行われたとします。しかし,遺産分割が行われて,BとCがその不動産を共有する形で遺産分割が行われ,Aが所有者から外れるという場合には,Aは登記義務者として更正登記の申請に加わらなければならないのだろうと理解をしております。そうしますと,BとCに申請の義務が課せられるわけですが,BとCはAの協力がないと申請ができません。しかし,遺産分割から3年をたつと,この義務違反に基づく過料の効果が生ずるということと理解をしました。それは,先ほど①について,一番単純な,多く例があると思うのですが,1人でできる,それをしなかったら過料になるというのとは少し違ったレベルの話かなと思います。しかし,そういう場合のB,Cが,訴訟までは起こさなかったけれども,登記についてはきちんと関心を持っているというときに,相続人申告登記,名前は変わるかもしれませんが,それをすることで,BとCは遺産分割に基づく更正登記をしなかった義務違反から免れると,こういうことになるのだろうと理解をしております。その理解でよいかどうかということと,そして,直前の畑さんの御質問にも関わるのですが,そのときBとCはそれぞれが相続人申告登記を申請しなければならないのか,それとも,そうではない方策があるのか,その辺をお教えいただければと思います。
○村松幹事 まず,法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割があったケースについて,A,B,C,3人いて,B,Cが2分の1ずつ遺産分割で相続するという形になりましたと,このケースについての整理でございますけれども,御指摘がありましたように,②に従いますとBとCには申請義務が課される。その申請義務の履行の仕方につきましては,今回,簡略化の提案を併せて申し上げていますので,9ページの(5)のところですけれども,更正登記の形になり,かつ単独申請ということにしております。そのため,B,Cがこのケースでは登記権利者と扱われますが,B,Cにとって,Aの協力は不要ということになろうかと思います。これまでの単独申請に関する登記実務の理解を前提といたしますと,B,Cいずれかによる申請で更正登記が行われるということが想定されております。
○山野目部会長 山田委員,お続けください。
○山田委員 続けることはありません。分かりました。9ページの(5)のところをしっかりと関連させて,連携させて理解をしておりませんでした。よく分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 山田委員,どうもありがとうございました。
  引き続き御意見を承ります。國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。この相続登記の義務化というのに関しましては,基本的には賛成でございます。その中で,義務に対する過料といういろいろな御意見がございました。私ども,表示に関する登記については従前から過料という部分がありました。それについては全く違和感なく,当然ですけれども,義務の履行に対するモチベーションというか,そういったものを含めて,過料を科すべきだろうとは考えております。そもそも相続登記を義務化するという大前提が,所有者不明土地をなるべく減らそうということで,その相続の発生があったときには,それをきちんと登記簿に表すということが大前提でありますので,やはりこれの履行を促す一つとしても,やはりこの過料というのは必要ではないかと思っております。
○山野目部会長 松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。今回,相続人申告登記の申告期間につきましては,法定相続,特定財産承継遺言,相続人への遺贈,または遺産分割による所有権取得による登記の場合と同様に3年間ということにするという説明が,部会資料53の3ページにございます。この3ページの9行目以下では,第16回会議で,相続人申告登記については負担を軽減した手続であるので,期間を1年とか6か月とする提案もあったのだけれども,これまでなかった義務を新たに課すものであるから,「差し当たり3年とするのが適当である」と,理由を丁寧に説明していただいていると思います。
  それを前提にしてということですけれども,やはりこの相続人申告登記を導入する趣旨は何かということを考えたときには,一つは,相続が開始したということを公に知らせて,それと同時に相続登記の準備をする,あるいはひとまず相続人申告登記をしておいて,遺産分割の準備に入ってもらうという意味もあるのではないかと思います。したがって,法定相続の登記とか遺産分割の登記というのと横並びの第三の登記というよりは,やはりその準備的なものであるという位置付けになりますし,そのために手続も軽減もされて,各相続人が単独でもできるということになっているのではないかと思います。そういう趣旨からいたしますと,あえて3ページで説明していただいている点ではありますけれども,3年でいいのか,それとも1年とか2年とか,少し縮めるということをなお考える余地があるかどうかということについて,議論があってもいいのではないかと思い,問題提起をさせていただきたいと思います。
  と申しますのも,部会資料53,第2部第1の1(1)②および注4では,相続人申告登記がされた後で,遺産分割があったときは,「遺産分割の日から3年以内」に所有権移転登記の申請をすべきことになっています。では,その遺産分割自体をいつまでにやるのかという点について,その動機付けというかインセンティブはどうなっているかというと,17回会議だったと思うのですけれども,部会資料42,第1の1で示されましたが,相続開始時から10年経過すると法定相続分又は指定相続分で遺産分割をすることになるというのが一つのインセンティブないしディスインセンティブとして想定されていたと思います。遺産分割そのものは相続開始時から10年以内にということですので,そのための最初の準備手続はできるだけ速やかに,もちろん,過度な負担を課さない範囲でですけれども,短くするという姿勢を示すことにも意味があるのではないかと思った次第です。その後,遺産分割がされれば,遺産分割の時から3年以内に所有権移転登記を申請すべきであるということを,公法上の義務として課すとともに,民法899条の2によって対抗要件の効果も働くということで,そちらはそれなりに効果的ではないかと思います。そこで,そもそも遺産分割それ自体の1つの準備になりうるかという観点から,少しでもスピードアップを図る考慮が示されてもよいと思い,あえて発言いたしました。
○山野目部会長 3年という期間は,このたびの部会資料で初めて数字を一つに絞ってお出ししているものでありまして,その当否をもとより委員,幹事に御検討いただきたいと望みます。ただいま松尾幹事からはその観点の御意見をおっしゃっていただきました。ひとまず3年という数字を選んだ背景は,部会資料の補足説明で御案内しているところでございます。
  実務的な経験を見て直感的に感ずるところは,これは公式の統計はありませんけれども,司法書士の方々のお話などを伺っていると,人が亡くなってから割と1年後,2年後ぐらいにやる人が多くて,その後しばらくずっと余りいなくて,10年目ぐらいになると,またやる人が増えるというグラフを描くもののようです。そうすると,松尾幹事がおっしゃったように,10年を待つことはいささか,あちらの遺産分割の時期のコントロールとは趣旨が異なりますし,それから,1年か2年でやる人が多いという実態ではありますが,今回は罰則も一応用意した上で義務付けますから,世の中でされているとおりに,ほらすぐやりなさいという感じで義務付けるよりは,もう少し後ろのところに法定の年数を置くことにしようかということも考えなければいけないというところから,3年という数字を出していますけれども,様々な政策的要請を考えるともっと短くていいではないかという松尾幹事の御意見も理解することができます。
  1段目のロケットについてはそういうことでありまして,2段目はまだ実態上,経験がありませんから,ここは手探りで年数を決めていくしかありませんけれども,1段目の方のお話と連動させながら,そちらも考えていかなければならないという観点の御示唆を頂きました。
  中田委員にお尋ねですが,お手をお挙げになって,お手をお下げになったのですが,もし何かおありでしたら御遠慮なさらないで,どうぞ御発言いただたく望みます。
○中田委員 ありがとうございます。ただいまの3年の話とは違う話でしたので,引っ込めたのですけれども。
○山野目部会長 どうぞお話しください。
○中田委員 先ほどの山田委員と村松幹事と部会長とのやり取りがあった部分なのですけれども,相続開始後に遺産分割をして登記をするという場合と,相続開始後に法定相続分の相続登記をした後,遺産分割をするという場合と,相続開始後に相続人申告登記をした後,遺産分割をする場合と,3種類あるのと思うのですけれども,最初の二つについては,現行法の下では,一旦法定相続分の登記をした後ですと共同申請になるのだけれども,遺産分割をいきなりしたときには,単独申請プラス遺産分割協議書でできるということだろうと思います。今回,法定相続分の相続登記をした後に遺産分割をした場合も単独申請にするとともに,相続人申告登記の場合も,直接遺産分割をして登記する場合と同じになるというのが今回の部会資料の整理だろうと思っています。それはそれで,もしその理解で間違いなければ,整合的だなとは思いました。
  ただ,今申し上げました私の理解自体が正しいかどうかよく分からないのですけれども,仮に正しいとしても,非常に分かりにくいところでして,現行法の下でも必ずしも明瞭ではなく,不動産登記法63条2項がどの範囲で適用されるかについて,解釈の部分もあると思うのです。今回,新しい制度を設けて,更に複雑化するのであれば,そこはもう少し明瞭にした方がいいのではないかと思いました。
○山野目部会長 中田委員,どうもありがとうございました。村松幹事の方から何かお話しになることがあれば,どぞ。なければ無理にはお願いしませんけれども,おありでしょうか。
○村松幹事 今,中田委員からお話しいただきましたように,今回の改正を踏まえて,整理を工夫しているところですけれども,分かりにくいというのはおっしゃるとおりかもしれませんので,そういった辺りは通達という形なりで示していくということ,対外的にもしっかりと示していくということかなと思っております。
○山野目部会長 中田委員におかれては,どうもありがとうございました。
  引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○水津幹事 第1の1(1)(3)の規律について,先ほど出ていた意見と同趣旨ですが,重ねて意見を申し上げます。この規律によれば,法定相続分での相続登記も,相続人申告登記もされていない場合において,遺産分割があったときは,相続人申告登記の申出がされれば,登記申請義務が履行されたものとみなされます。この場合には,遺産分割の結果を踏まえた登記を申請する義務は,課されません。これに対し,法定相続分での相続登記がされているか,又は相続人申告登記がされている場合において,遺産分割があったときは,遺産分割の結果を踏まえた登記を申請する義務が課されます。これでは,アンバランスではないかという気がします。
○山野目部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。
  そうしましたら,第1の部分の相続登記の義務付けその他の事項につきましては,おおむね方向が固まってきておりますけれども,それゆえにという側面もありますが,本日御議論いただいた細目にわたる点について,なお説明ぶりを含めて,深めなければいけない点が明らかになりましたから,これらについての検討を重ねてまいるということにいたします。

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立