人生の転機

人生の転機

「先生、以前お世話になったウチの従業員のことなんですが、今日、本人から退職願が出てきました。これは、彼女の破産のことと関係があるのですか?」

 夏も終わりに差し掛かった頃、ある会社の総務部長から彼女の進退について問い合わせを受けたものの、私には彼女の退職については何の心当たりも浮かばなかった。

 そういえば、あらから5年が経とうとしている。彼女の自己破産の申立を受託し、彼女は破産決定を経て、既に免責許可を受けている。1年ほどかけて全ての手続が終了し、サラ金の借金は全て支払義務のないものとなったのだ。

 彼女は上場企業に勤務していたが、私は、別の仕事の関係で、たまたまその企業の総務部長を存じ上げていたのだった。

 上場企業で給料体系がしっかりしていたことがかえって彼女に災いし、彼女は破産手続前にサラ金2社から給料の差し押さえを受けるに至っていた。彼女はもちろん、私もずいぶん苦労したし、総務部長も、差押さえられた給料を毎月供託しなければならず、手を煩わせてしまったものだ。いろいろな意味で思い出深い事件である。

 彼女は早くに母親と死別し、父と弟の3人で暮らしてきた。しかし、父も病弱で、病院の費用さえ滞納がちであった。父が亡くなり、本当に形ばかりの葬儀を執り行ったが、協力してくれる親戚等もなく、彼女は葬儀費用のためにサラ金に手を出さざるを得なかった。

 弟もアルバイトなどをしていたが、自動車ローンやサラ金などの支払いが困難で、彼女がサラ金を利用して自動車ローンの支払いの援助をしなければならなかった。彼女ら兄弟は、そうするしか方策を見いだせず、ズルズルとサラ金地獄に落ち込み、最終的には2人とも破産手続を選択せざるを得なかった。

 それにしても、既に手続が完了してから月日が経過している。彼女の今回の退職は、破産手続とは何の関係もないことは明らかだった。

 総務部長からそんな問い合わせを受けてから数カ月が経過し、私もその問い合わせの件を忘却していた。

そんなある日、その企業の関連会社の登記手続の依頼があり、再び総務部長と面談する機会にめぐまれた。

「そうそう、例の彼女の件ですけど・・・」

総務部長は切り出した。

「ああ、退職願が出てきたと言っていましたね」
「その件ですがね、実はね、退職の理由は結婚だったようなんです」
「そうですか。それはよかったじゃないですか」
「それが、詳しい話はわかりませんが、どうも玉の輿らしいんです」
「そうですか・・・・」

 サラ金に追いつめられ、古い雇用促進住宅で、ひとりサラ金の執拗な取立てにおびえ続けていた彼女。結婚が人生の大きな転機になりそうだ。彼女の幸せを祈らずにはいられない。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

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古橋 清二

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