ヤミ金はどこだ

af0100024860「佐藤さんが、「僕が立て替えたから、早く払ってくれ」って言うものですから」
山中さんは、うなだれてそうつぶやいた。

話はこうである。
 山中さんは、ある日、携帯電話に「5000万円をもらえる特別な権利があなたに与えられた」というメールが届いているのに気が付いた。特にそういったものに申し込みをしたような記憶はないが、5000万円あれば住宅ローンも完済できるし、前から夢であった喫茶店経営もできるかもしれない。家族もきっと喜ぶに違いない。
 そう思ってメールを読み進めていくと、5000万円の権利を実現するには50万円を振り込まなければいけないということになっていた。それが、主催者に対する権利主張になるし、中東にいる主催者との連絡費用等の諸経費にあてられるという。

 山中さんは迷った。サラリーマンだし、そんなお金は自由にならない・・・。
でも、サプライズだ。なんとか捻出して、今の暮らしから抜け出そう。そう考えた山中さんは、家族に内緒で、会社の同僚の佐藤さんに、昼休みに、50万円貸してくれないか、と相談した。佐藤さんは、「そんなお金はないよ」と言っていたが、夕方になって、「僕の知っている人が協力してくれるかもしれないから、聞いてあげるよ」とメールしてきた。

 翌日の昼休み、佐藤さんは、ニコニコして山中さんに近づき、「ほら、50万円」と銀行の名前が印刷してある封筒を差し出した。「えっ」と驚く山中さんに対して、佐藤さんは「利息は月5万円だって。でも大丈夫だよね。5000万円も入るんだもんね」と屈託なく笑う。「でも、誰が・・・・・・」と言いかけた山中さんに、「ある会社の役員をやっている人だから、絶対に名前は伝えないこと。それが条件だって」と言って山中さんの言葉を遮った。
佐藤さん、顔が広いな。山中さんはそう思って、佐藤さんに感謝した。

 山中さんが50万円を振り込んだ3日後、山中さんの携帯電話にメールが届いた。いよいよ5000万円をもらう手続きが終わったというメールだと思い、メールを見た山中さんは目を疑った。
「中東の主催者との連絡ミスで、5 0万円では足りないことになってしまった。あと50万円送らなければならない。中東の主催者が相当怒っている。大至急、あと50万円を送ってもらわないと権利が失効する」
困った。あと50万円なんてあるわけがない。でも、何とかしなければ権利が失効していまう。それでは今の生活から抜けられない。

 山中さんは、すぐに佐藤さんに事情をメールして返信を待った。携帯電話を持つ手は汗ばんでいた。
30分ほどで、佐藤さんからメールが返信されてきた。そのメールを見て、山中さんは胸をなでおろした。前と同じ条件でお金を貸してくれることになった、というのだ。

 翌日、山中さんは50万円を振り込んだ。
 以来、5000万円に関する連絡が来なくなった。メールで問い合わせしても何も返事がこない。それでも、2カ月間ぐらいは、中東と連絡を取り合うのは大変だから時間がかかるのだろうと勝手に思い込んでいた。というか、そう考えるしかなかった。しかし、半年経った今、騙されたのではないかと思いはじめ、相談に来たのだった。

gf1120032058「そんな話があるわけないでしょ」
 私は山中さんの甘い考えを質した。そして、山中さんが振り込んだ相手先の銀行と、警察本部に対し、振込口座の凍結を申請した。しかし、案の定、既に凍結されており、残高もほとんどなかった。これ以上の被害回復は相当難しい。

「それで、毎月10万円を返済しているんですか?」
 山中さんは頷いた。100万円借りて、年に120万円の利息だ。こんな契約は無効だ。
「100万円だまし取られたのに加え、ヤミ金並の利息ですね」
「そうなんです。100万円騙されたのはあきらめるしかないと思っています。でも、これからも毎月10万円返すのは無理です。何とかなりませんか?」
 一体だれから借りているんだ。受任したとして、誰と交渉すればいいんだ。

「誰から借りているのか、佐藤さんに聞くことはできませんか。相手がわかれば交渉しますが」
「私も、返済方法を変えたいので、その方に会ってお願いしたいと何度も佐藤さんに言ったのですが、「それは絶対教えられない。実は、僕もその人からお金を借りている。そんなことをしたら、「一括で返せ」と言われるのが目に見えている」っていうんです」
 佐藤さんも借金をしているのか。

「それで、毎月10万円はどうやって支払っているのですか」
「佐藤さんに現金を渡して支払ってもらっています。渡した日の夜に届けているらしく、翌日に、受取書をくれます」
「受取書に名前は?」
「書いてありません」

 どうもよくわからない話だ。佐藤さんは何者なんだ。私はしばらく考えて、こう言った。
「まず、利息を支払うのをやめましょう。どっちみち無効な利息ですから払う必要はないですよ。払わなければ、正体を現すかもしれませんね」

その日の相談はそれで終わった。受任はしなかった。

 1カ月後、山中さんが再び相談に来た。山中さんは困惑した顔で話し始めた。
「それが、佐藤さんが立て替えて全部払ったというんです。だから、100万円と利息10万円の合計110万円を払ってくれって言うんです。そんなこと言われても困るんです。なんとか分割払いにできないか、先生、佐藤さんと交渉してもらえますか?」
 私は、「やっぱりそうか」と合点がいった。

 佐藤さん自身もお金を借りていると言っていた。そんな高利のお金を借りているぐらいだから、佐藤さんもお金に困っている筈。110万円ものお金を立て替えて支払えるわけがない。仮にそういうお金を持っていたら、まず、自分の借金を支払っている筈だ。それが経験則ってもんだ。

 私は、こう言った。
「山中さん、気が付きませんか? 佐藤さん、自作自演だとは思いませんか? ある会社の役員なんて最初からいないんじゃありませんか?」
狐につままれた顔というのは今の山中さんのような顔を言うのだろう。
「いいですよ。受任します。まず、私の名前で、佐藤さんに、いつ、いくら払ったのか、資料があれば資料を出すように内容証明郵便を出すことにします。その回答によって、今後の対策を考えましょう」

 私は、山中さんの代理人として佐藤さんに内容証明郵便を出した。それから半年が経過した。未だに佐藤さんからは回答がない。山中さんに対しても請求がなくなったということだ。
いよいよ、社内にヤミ金が蔓延る時代になってしまったのか。

(本稿の内容は、一部事案を変更し、または複数の事案を組み合わせています)

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

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