「この抵当権は身に覚えがない!」

「この抵当権は身に覚えがない」という相談がありました。

抵当権を設定登記するには、抵当権設定登記手続きを命じる判決でもとられていない限り、不動産所有者の印鑑証明書と実印の押印が必要です。ところが、印鑑証明書を出したこともないし実印を押した覚えもないというのです。
もっとも、平成5年に登記された抵当権なので、記憶もあいまいになっているかも知れません。

とにかく、当時の登記申請書とその附属書類が法務局に保管されていると思うので、それを閲覧してみよう、ということになりました。

ちなみに、登記申請書とその附属書類は法務局に30年間保存されています。根拠条文は次のとおり。

不動産登記規則
(保存期間)
第二十八条 次の各号に掲げる情報の保存期間は、当該各号に定めるとおりとする。
一 登記記録(閉鎖登記記録(閉鎖した登記記録をいう。以下同じ。)を除く。) 永久
二 地図及び地図に準ずる図面(閉鎖したものを含む。) 永久
三 建物所在図(閉鎖したものを含む。) 永久
四 土地に関する閉鎖登記記録 閉鎖した日から五十年間
五 建物に関する閉鎖登記記録 閉鎖した日から三十年間
六 共同担保目録 当該共同担保目録に記録されているすべての事項を抹消した日から十年間
七 信託目録 信託の登記の抹消をした日から二十年間
八 受付帳に記録された情報 受付の年の翌年から十年間(登記識別情報に関する証明の請求に係る受付帳にあっては、受付の年の翌年から一年間)
九 表示に関する登記の申請情報及びその添付情報(申請情報及びその添付情報以外の情報であって申請書類つづり込み帳につづり込まれた書類に記載されたものを含む。次号において同じ。) 受付の日から三十年間(第二十条第三項(第二十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定により申請書類つづり込み帳につづり込まれたものにあっては、電磁的記録に記録して保存した日から三十年間)
十 権利に関する登記の申請情報及びその添付情報 受付の日から三十年間(第二十一条第二項において準用する第二十条第三項の規定により申請書類つづり込み帳につづり込まれたものにあっては、電磁的記録に記録して保存した日から三十年間)
<以下省略>

さてさて、登記申請書とその附属書類を閲覧したとしても、法務局ではコピーは撮らせてもらえません。だから、法務局に了解をもらって写真をとることになります。何回か以前に閲覧をさせてもらったことがありましたが、随分前のことで、当時はスマホなどなく、カメラで撮影して現像したという記憶があります。

ちなみに、登記申請書とその附属書類の閲覧は、利害関係人でなければ許可されませんので、利害関係のあることを説明できるだけの資料を持参するか、その内容を説明した書面をそろえる必要があります。昔は「訴え提起のため」と書けば閲覧できましたが、今では具体的な利害関係の疎明を求められるのです。

また、司法書士が代理人として閲覧する場合には利害関係人からの委任状と利害関係人の本人確認書類も求められます。

準備が整い、勇んで法務局に行きました。ところが、大きな壁が立ちはだかってしまいました。それは、不動産登記規則が改正された際の附則でした。

附 則 (平成二〇年七月二二日法務省令第四六号)
(施行期日)
第一条 この省令は、平成二十年七月二十二日から施行する。
(経過措置)
第二条 この省令による改正後の不動産登記規則の規定は、この省令の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、改正前の不動産登記規則の規定により生じた効力を妨げない。
2 この省令の施行の際現に不動産登記規則第二十九条の規定に基づき法務局又は地方法務局の長の廃棄の認可を受けている情報の保存期間については、なお従前の例による。

この改正がなされる前は、登記申請書とその附属書類の保存期間は10年だったのです。したがって、今から30年前までの書類が保存されているわけではなく、平成20年7月以前の書類は平成10年7月までの分しか保存されていないというわけです。

残念!

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A
浜松西部中、浜松西高、中央大学出身
昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

  • 相続手続支援業務を司法書士の業務として法定せよ相続手続支援業務を司法書士の業務として法定せよ  令和6年4月1日から相続登記が義務化されることになった。不動産の権利に関する登記については国民の義務ではなく、第三者に対する対抗要件にすぎないとされてきた。その原則に対し、今回の改正は、相続登記に限って義務化するという大転換である。  この改正の背景には、所有者不明土地が大量に生じているという事実がある。その原因の最大のものは、何代にも亘って相続が発生しているにもかかわら […]
  • 杉山陽一を男にする杉山陽一を男にする 杉山陽一を男にする  タイトルを見て、杉山陽一新会長は女だったのかと思う方はいないと思うが、副会長就任にあたって私の頭をよぎったのは「杉山陽一を男にする」、この言葉だ。  私にとって杉山陽一さんは、年齢も業務経験も先輩である。私が開業した当時は今のような配属研修はなく、若干の研修を受けた後に即独立というのが普通だった。そのため、ほとんど実務を知らないまま依頼に応じるこ […]
  • 【動画】破産申立て前の遺産分割、どのような場合に否認該当行為になる?【動画】破産申立て前の遺産分割、どのような場合に否認該当行為になる? 【動画】破産申立て前の遺産分割、どのような場合に否認該当行為になる? https://youtu.be/Q-TyOzJHNh4
  • 配偶者居住権講義録を掲載しました配偶者居住権講義録を掲載しました 配偶者居住権講義録  これは、2020年1月22日に開催された講習会において、当事務所代表の古橋清二が講義した内容を記録したものです。  なお、YouTubeで講義の動画を見ることもできます。  第1講 配偶者居住権の概要  第2講 配偶者居住権の節税の可能性と相続税法上の財産評価  第3講 配偶者居住権に関する実務上の検討   本日は、配偶者居住 […]
  • 遺贈と所有権の対抗問題遺贈と所有権の対抗問題 【遺贈と所有権の対抗問題】  Aが死亡し、相続人はXとYの2名です。Aは、「甲土地をTに遺贈する」との遺言を残していましたが、甲土地について、まだAからTへの所有権移転登記はしていませんでした。  ところが、Yには借金があり、債権者であるKが、甲土地につきXとYに代位して、AからXY名義への相続を原因とする移転登記をしたうえで、Yの持分を差押えてしまいました。  XY名 […]
  • 故人の預貯金を払い戻すために家庭裁判所に対し仮分割の仮処分を申し立てる方法があると聞きましたが、どのような制度ですか。故人の預貯金を払い戻すために家庭裁判所に対し仮分割の仮処分を申し立てる方法があると聞きましたが、どのような制度ですか。  家事事件手続法200条2項に定められている仮分割の仮処分制度です。家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、審判又は調停の申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができます。  これにより共同 […]
  • 設立時代表取締役の選定方法設立時代表取締役の選定方法 発起設立により取締役会設置会社でない株式会社を設立する場合の設立時代表取締役の選定方法は次のいずれでも差し支えないでしょうか。 ① 定款で定める ② 定款の定めにより設立時取締役の互選で選任する ③ 発起人が定める いずれでも差し支えない。 […]
  • 【動画】7月改正! 新しい相続手続きの流れはこうなる!【動画】7月改正! 新しい相続手続きの流れはこうなる! 【動画】7月改正! 新しい相続手続きの流れはこうなる! 相続に関する法律が大きく変わりました。相続が発生した場合、どういう順番で何をしたらいいの? 法定相続情報証明って何? 相続税はかかるの? 遺産分割協議って何? いつまでに名義変更しなければならないの? ・・・・・・ そんな疑問にお答えします。 https://youtu.be/7jRh7mxusUo […]
  • 個人根保証契約において法定の元本確定事由が生じても元本が確定しないという内容の特約は有効でしょうか個人根保証契約において法定の元本確定事由が生じても元本が確定しないという内容の特約は有効でしょうか  個人根保証契約について法定の元本確定事由を設けたのは当事者間の衡平等を考慮して保証人を保護するためです。ですから、当事者の約定で保証人の責任を追及することができる範囲を広めることは立法の趣旨に反するものと考えます。  したがって、個人根保証契約において、法定の元本確定事由が生じても元本が確定しないとの特約を定めることは無効と考えます。(改正債権法と保証実務88頁参照) […]
  • 【動画】破産手続の諸問題 申立前に、信販会社から軽自動車の引き揚げを要求された場合【動画】破産手続の諸問題 申立前に、信販会社から軽自動車の引き揚げを要求された場合 【動画】破産手続の諸問題 申立前に、信販会社から軽自動車の引き揚げを要求された場合  別除権は、破産手続によらないでこれを行使することができるが(法65条)、行使の方法は通常の実行方法による。  ところが、破産手続開始後は、別除権の目的物が破産財団に属してしまうため、破産管財人を相手方として別除権を主張するためには別除権について対抗要件を具備している必要があると考えら […]
  • この土地の所有者は誰?この土地の所有者は誰? 「ウチの南側の土地に雑草が生い茂って困っているんです。それで、なんとかこの土地を買いたいと思っているのですが・・・」 不動産会社から紹介された、中古車販売店を経営しているというその男は話を切りだした。 問題の土地には小さな小屋が建てられており、そこに暮らしていた老女が昨年亡くなったという。 そして、現在は荒れ果ててしまったが、勝手に草刈りをするわけにもいかず、弱り果 […]
  • 認定司法書士の登記原因は「法務大臣認定」認定司法書士の登記原因は「法務大臣認定」  当事務所の神谷忠勝司法書士が、9月3日に簡裁訴訟代理の考査に合格し、晴れて認定司法書士になりました。  そこで、当法人の登記簿の変更登記を申請し、登記が完了しました。  登記原因は、「平成30年9月3日法務大臣認定」です。なんか、かっこいいですね。  ちなみに、変更登記は変更の事由が生じた時から2週間以内にしなければなりません。今回、法務大臣認定の証明書取得に時間がか […]
  • 自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、目録は表裏印刷でもいいですか自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、目録は表裏印刷でもいいですか 自筆証書遺言にパソコンで作成した目録を添付したいのですが、目録は表裏印刷でもいいですか  自筆証書遺言と一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書でなくてもかまいませんし、表裏印刷でもかまいません。ただし、偽造や変造防止の観点から、自書ではない目録を添付する場合には、遺言者は、その目録の毎頁に署名し、印を押さなければなりませんの […]
  • こんなこともあるわさ。のんびり行こう!こんなこともあるわさ。のんびり行こう! 「○○町のAだけどね」  電話口の向こうで、声の感じから80歳は超えていると思われるその老人は、こう自己紹介をした。  電話でいきなりそう言われても、すぐに思い当たる顔は浮かばない。「Aさん、下のお名前は?」と聞いてみたものの、下の名前を聞いても思い当たる人物はいない。勇気を出して「あのー、失礼ですが、私の事務所でAさんのこと、どのような依頼を受けていましたっけ?」と聞い […]
  • 移行後の株式会社が取締役会設置会社である場合移行後の株式会社が取締役会設置会社である場合 特例有限会社から株式会社への移行は、登記が効力要件とされていますが、移行後の株式会社が取締役会設置会社である場合、登記申請前に取締役会を開催し、代表取締役を選定することができるでしょうか。また、この場合に移行を決議した株主総会で代表取締役を選定することができるでしょうか。 登記申請前に取締役会を開催して代表取締役を選定することはできない。移行を決議した株主総会で選定する […]
  • お一人様の老後 どうすれば安心?お一人様の老後 どうすれば安心? お一人様の老後 どうすれば安心? https://youtu.be/cqbSw0ZsfuI
  • 不動産登記規則92条の解釈不動産登記規則92条の解釈 不動産登記規則92条の解釈 不動産登記規則92条とは、次の条文である。 (行政区画の変更等) 第92条  行政区画又はその名称の変更があった場合には、登記記録に記録した行政区画又はその名称について変更の登記があったものとみなす。字又はその名称に変更があったときも、同様とする。 2 […]
  • 古い登記の抹消登記手続請求訴訟は司法書士の専門性を発揮できる訴訟だ古い登記の抹消登記手続請求訴訟は司法書士の専門性を発揮できる訴訟だ  ここ数日、古い登記の抹消手続請求訴訟は相続により被告が大勢になり、いろいろなことが起きることを書いてきた。  送達の問題など、いろいろなことが起きることはともかくとして、この手の訴訟は司法書士の専門性が最大限に発揮できる訴訟だ。だから、司法書士としては絶対にマスターしておかなければならない。  その専門性を発揮する場面の第一は、戸籍を調査することによって相続人を確定する […]
  • 【動画】相続分を指定された者による遺産分割協議にもとづく登記申請に遺留分権利者の同意が必要か?【動画】相続分を指定された者による遺産分割協議にもとづく登記申請に遺留分権利者の同意が必要か? 【動画】相続分を指定された者による遺産分割協議にもとづく登記申請に遺留分権利者の同意が必要か?
  • 【動画】司法書士の公法上の説明助言注意義務を認定した令和2年3月6日最高裁判決! 今後どのような影響が出てくるのかを考えてみた。【動画】司法書士の公法上の説明助言注意義務を認定した令和2年3月6日最高裁判決! 今後どのような影響が出てくるのかを考えてみた。 司法書士の公法上の説明助言注意義務を認定した令和2年3月6日最高裁判決! […]

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)