Ⅴ 免責許可の取消し
詐欺破産罪(法265)について破産者に対する有罪の判決が確定したときは、裁判所は、破産債権者の申立てにより又は職権で、免責取消しの決定をすることができる(法254Ⅰ前段)。また、破産者の不正の方法によって免責許可の決定がされた場合において、破産債権者が当該免責許可の決定があった後一年以内に免責取消しの申立てをしたときも、裁判所は、破産債権者の申立てにより又は職権で、免責取消しの決定をすることができる(法254Ⅰ後段)。
このように免責取消しの決定についての法254条1項前段と後段との要件の差異を考慮すると、同条前段は、法的安定性及び免責の取消しによる破産者の不利益にかんがみ、免責決定確定後に長期間が経過した場合には、詐欺破産罪という特に悪質な破産犯罪について、有罪判決の確定という客観的に明らかな事態が生じたときに限って、免責の取消しを認めたものと解すべきであり、これに対し同条後段は、免責決定確定後1年内に破産債権者の申立てがあることを要件としており、かつ、破産者が不正の方法により免責を得たという幅広い概念によって免責取消しの事由を規定したものである(東京高決平成13年5月31日(金商1144号16頁))。
そして、同決定は、「不正の方法によって免責許可の決定がされた場合」とは、破産者が免責手続において、裁判所又は裁判所から免責不許可事由の有無につき調査を命じられた破産管財人に対して、免責不許可事由に該当する事実の有無について虚偽の陳述をした場合のほか、その事実があることを知りながら、敢えて、これを秘匿した場合を含むものというべきであるとしている。
裁判所は、免責取消しの決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び申立人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない(法254Ⅱ)。
大阪高決平成15年2月14日(判タ1138号302頁)は、破産管財人が破産者に対して破産財団に帰属する財産の所在・内容等について必要な説明を求めたのに対し、破産者が一部の財産の存在及び内容等について何ら説明をしなかったことについて、破産者は説明義務規定に違反しており、その説明義務違反の内容及び程度は極めて重大であるといわざるを得ないから、破産裁判所が破産者を免責する旨決定することはなかった可能性が高いとみることができ、破産者は不正の方法により免責を得たものということができるとして免責を取消した原決定を相当とした。
「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より