Ⅳ 免責許可の決定の効力等

免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる(法253Ⅰ)。

債務者が免責許可決定を受け、確定していたにもかかわらず、破産債権者が破産債権について支払督促の申立てをし支払督促が債務者に送達された事例について、免責許可決定がされ、同決定が確定した後の破産者の債務は、訴えをもって履行を請求することによる強制的実現を図ることができなくなると解され、通常の民事訴訟手続に準ずる手続である督促手続においてもその満足を受け得ないことは明らかであるから、当該債権について支払督促の申立てをすることは、法的手続によって正当な権利の実現を図るという裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き、違法性が認められるとした事例がある(東京地判平成20年2月29日(判タ1319号206頁))

また、破産者についての免責許可決定が確定すると、当該破産債権はいわゆる自然債務となり、訴えをもって請求することができず強制執行により実現することもできなくなるから、そのような債権を被保全権利として債権者代位権を行使することは許されない(東京高判平成20年4月30日(金商1304号38頁))。

なお、法253Ⅰ但書により、免責されない請求権が列挙されている。

① 租税等の請求権(法253Ⅰ①)

② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(法253Ⅰ②)

「悪意」は、単なる故意ではなく、不正に他人を害する意思ないし積極的な害意を指すと解すべきである(東京地判平成13年5月29日(判タ1087号264頁))。同判例では、非免責債権はその範囲を広く解するとすれば、自然人の破産者を保護し経済的更生を容易にするために設けら免責制度の趣旨が没却されることにもなりかねないから、免責制度の趣旨に鑑みてもなお免責の効力を付与するのが相当でないものに限られるよう、限定的に解するのが相当であると説明している。

③ 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(②に掲げる請求権を除く。)(法253Ⅰ③)

④ 次に掲げる義務に係る請求権(法253Ⅰ④)

イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務

ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務

ハ 民法第766条(同法第749条 、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務

ニ 民法第877条から第880条 までの規定による扶養の義務

ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの

なお、破産手続開始前の時点において、協議、調停、審判、判決又は和解によって将来にわたり継続的な支払時期が到来する養育費請求権のうち、既に支払期日が到来しているものは一般破産債権となる。これに対し、破産手続開始時点で支払期日の到来していない養育費請求権は、破産手続開始前の原因に基づく請求権とはいえないので、破産債権には当たらないと考えられ、破産手続によらずに支払う必要がある(管財手引 270頁)

⑤ 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権(法253Ⅰ⑤)

⑥ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)(法253Ⅰ⑥)

⑦ 罰金等の請求権(法253Ⅰ⑦)

 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない(法253Ⅱ)。

それに加え、最判平成11年11月9日(民集53巻8号1403頁、裁時1255号21頁、判時1695号66頁、判タ1017号108頁)は、「免責決定の効力を受ける債権は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや民法一六六条一項に定める「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきであるから、破産者が免責決定を受けた場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできないと解するのが相当である」と判示している。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立