Ⅲ 裁量免責

破産者に免責不許可事由が認められる場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる(法252Ⅱ)。

旧破産法では本条のような規定は存在しなかったが、裁量的に免責を許可することができると解されていた。たとえば、仙台高決平成5年3月19日(判時1476号129頁、判タ846号277頁は、「免責の制度は、誠実な破産者に対する特典として、特定の債務を除きその責任を免除することによって、破産者の経済的ひいては社会的再起更生を容易にすることを目的とするものであり、破産法366条の9が「裁判所ハ左ノ場合ニ限リ免責不許可ノ決定ヲ為スコトヲ得」と規定していることからすると、破産者に同法366条の9所定の各号に該当する事由がある場合であっても、破産者の不誠実性が顕著でなく、破産者が社会人として更生できる見込みが充分に認められる等特段の事由があるときは、裁判所はその裁量により免責を許可することができるものと解するのが相当である」としている。

 当該事案は、破産者が自動車を購入したのは通勤に必要であったからであること、二回買い換えをなしたのは、自動車が故障したことによるものであること、自動車の購入以外に特段の浪費がないこと、最後に自動車を買い換えるために借金をした以降の借り入れは、ほとんど従前の借り入れの返済を目的としたものであったこと、クレジットカードを使用して購入し、質入した時計、貴金属は、破産者の父親が質屋から質入品を受け戻し、クレジット会社に引き渡されていること、債権者から免責の申立てについて異議が申立てられていないこと、破産者は新しい勤務先で働いており更生の意欲は充分あること、父親の援助によって債権者らに合計100万円を任意に一部弁済していること(配当率約14パーセント)などから、免責が許可されている。

また、破産者が支払不能に至った動機とその経緯、債権者の一人から異議が申立てられているに止まっていること、破産者において、できる限りの債権者に対する債務の弁済に努力したこと、破産者において今回の破産に至った生活態度を反省し、健全な社会人として生活することを誓うなど更生の見通しが十分期待できることを総合考慮して裁量により免責を認めることが相当であるとした事例(仙台高決平成5年2月9日(判時1476号126頁、判タ846号275頁))、破産者が4台の自動車を買い替えたことは、必要かつ通常の消費を超えたもので、破産者の収入等の財産状態に対し不相応な支出をしたということができ、「浪費」にあたるが、破産者が支払不能の状態に陥ったのは、父親の債務に対する返済を強いられたことや、退団(破産者はプロ野球選手であった)を余儀なくされたことにも起因することが認められ、一概に非難することはできず、そして、免責について異議の申立てをした債権者はいないこと、破産者はいまだ若年であって更生の見込みもあることが認められ、これらの事情を総合考慮すると、破産者については、免責不許可事由があるにもかかわらず、なお、裁量により免責を認めるのが相当であるとした事例(福岡高決平成9年8月22日(判時1619号83頁))などがある。

 一方、破産者は接客業に従事していたこともあって洋服を新調する必要があったことなど斟酌すべき事情も存することが認められるけれども、割賦金の弁済も借入しなければできない状態になってからも洋服を購入し、結局60着もの洋服を購入して644万円もの債務を負って返済不能に陥り、債権者に多大な損害を与えたものであるから、裁量によって免責するのは相当ではないとした事例(仙台高決平成4年5月7日(判タ806号218頁))、借金返済のためにやむなく借り受けたものも存するが、そのほかは生活費として家庭に入れたものはなく、多くはパチンコやポーカーゲームなどの賭け事や飲食代などの遊興費に当てるため借り受けたものであって、多額の借金があるのを顧みずに行ない総額70~80万円もの損をしていること、そして、破産者自身が審尋においてパチンコやポーカーゲームをしなければ破産宣告を受けるという事態を招くことはなかった旨述べているケースにおいて、債務増加の経緯事情等や多額の債務を負って返済不能に陥り、債権者に多大な損害を与えていることを考慮すると、破産者を裁量によって免責するのも相当ではないとした事例(仙台高決平成4年7月8日(判タ806号221頁))、支払不能の状態に至ってからも多額の借金を重ねているのであって、その借金がやむを得ずになしたと認めるに足りる資料はなく、またその返済不能となった総債務額は極めて多額で、多数の債権者に多大な損害を与えていることを考慮すると、破産者において一時期昼夜働いて返済に努めたとか、一部の金融業者側に貸付に当たって落度があったと評すべき事情が存するとしても、裁量によって免責するのは相当でないとした事例(仙台高決平成4年10月21日(判タ806号222頁))などがある。

かつては、破産債権の割合的一部だけを免責する運用(東京地決平成5年10月15日(判時1484号91頁)、東京地決平成6年1月17日(判時1484号93頁、東京地決平成6年2月10日(判時1484号94頁)等)や、破産債権の一定割合を新得財産で按分弁済することにより免責を許可するなどの運用がなされていたが、現在ではそのような運用は全くなされていない。

現在の実務は、むしろ、免責不許可事由が認められる場合には、少額の予納金で破産管財人を選任し、免責に関する調査をさせて免責の判断をする取り扱いが増加している。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立