1 同時破産廃止

裁判所は、破産手続の費用を支弁するのに足りる金額の予納があった場合を除き、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない(法216Ⅰ、Ⅱ。同時破産廃止)。 ここで、「破産手続の費用」とは、破産手続の終了までに必要とされる一切の費用とされる(大コメ919頁)。

裁判所は、同時破産廃止の決定をしたときは、直ちに、破産手続開始の決定の主文、破産手続廃止の決定の主文及び理由の要旨を公告し、かつ、これを破産者に通知しなければならない(法216Ⅱ)。

同時破産廃止の決定に対しては即時抗告をすることができるが、即時抗告は執行停止の効力を有しない(法216Ⅳ、Ⅴ)。

個人の破産事件に占める同時廃止事件の割合は、平成15年までは9割以上を占めていたが、平成21年には75.6%にまで落ち込んでいるとされる(到達点と課題3頁)。このように、同時破産廃止をする事件が減少している要因としては、東京地裁における少額管財事件のように比較的低廉な予納金(東京地裁の場合は20万円)で管財事件を行う取扱いが全国的にも広がっていること、一部弁済をさせて同時破産廃止とする取り扱いが減少していることなどが挙げられる(到達点と課題3頁)。

同時破産廃止の決定をするか否かは裁判所の判断事項であるが、弁護士が関与しない債務者本人による申立や代理人弁護士による調査、説明が尽くされているとは評価し難い申立も含めて、原則的に同時廃止決定を行うような審理方法は、大きな問題を孕むという批判がある(到達点と課題81頁)。

また、同時破産廃止が減少傾向にある背景には、次のような理由により破産管財人を選任すべしという意見がある(到達点と課題74頁)。

① 債務者の財産が破産手続費用にすら満たないものであるかどうかは、管財人の調査を経なければわからないはずであり、これを債務者側の申告に頼るのでは財産隠匿を看過する危険が否定できず、ひいてはモラルハザードを誘発するおそれがある、。

② 債権者にとって、手続参加の機会がなく、また情報を享受することが困難である。この点について、実務上、債権者に財産の有無や同時廃止の是非について意見照会する方法で手続保障を図ろうとする運用も行われてきたが、債権者が十分な情報を保有している場合は少なく、また管財人の調査能力に遠く及ばないことは周知のところである。

③ 債務者にとっても、免責不許可事由が存在する場合は、管財人による調査を経ることで裁量免責を得られる場合も少なくないところ、同時廃止処理によることは免責を得る可能性がかえって狭まり、経済的再起が困難となるケースが増加するという難点がある。

しかし、個人破産の大部分が消費者破産であり、支払不能の状況に陥った消費者が破産管財人選任のための予納金を準備するのは困難な場合が大部分である。たしかに、破産債権者等の利害関係人の正当な利益もないがしろにすることはできないが、申立代理人や申立書類を作成する司法書士が債権調査、財産調査、免責不許可事由のスクリーニングを行って、同時破産廃止となるべき事案が正しく同時破産廃止となるように申立てを行うことが期待される。

個人の破産手続で破産管財人が選任されるのは、主に次のいずれかの場合といわれる(法律相談82頁)。

① 破産者が一定の財産を保有している、又は管財手続において一定の財産の回収が見込まれる場合

② 破産者が申立時又はその直前(申立前半年ないし1年程度)まで事業者であった場合

③ 破産者が申立時又はその直前(申立前半年ないし1年程度)まで法人の代表者であった場合

④ 破産者に免責不許可事由となりうる事情があり、破産管財人による調査・指導監督などの必要がある場合

⑤ 破産者の破産手続開始原因や財産状態について、破産管財人による調査が必要な場合

⑥ 破産者による破産申立前の財産処分行為について、破産管財人において否認権の行使を検討する必要がある場合

個人事業者について同時廃止処理ができるかどうかの問題は、破産財団を形成しそうな財産が出てくる可能性があるのか、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると裁判所が認められるかどうかにかかるものであり、この要件該当性が管財事件と同時廃止事件の分水嶺となるものと考えられるとされる(到達点と課題60頁)。

もっとも、個人事業者であっても、雇用に近い形で報酬を得ている者で、事業用の資産はなく、負債の内容ももっぱら生活費の不足を補うための金融業者からの借入れのみであり、かつ、その額も多額ではないといった場合には、同時廃止が可能と判断できる場合もある(管財手引 79頁)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立