7 不動産の売却

不動産の売却が、不動産業者の査定等にもとづいた適正価格により行われたときは原則として否認の対象とはならないが、次の3要件のいずれにも該当する場合は否認の対象となりうる(法161Ⅰ)。

① 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせるものであること

② 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと

③ 相手方が、当該行為の当時、破産者が上記②の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと

このうち、②は破産者の主観的な要件であり、③は相手方の客観的要件であるが、③について、破産者の親族等については悪意の推定を受けるので(法161Ⅱ)、現実的には①に該当するか否かが問題となろう。

不動産の売却代金を当該不動産に対する抵当権者に弁済する行為は、一般的には①に該当しないと考えてよいと思われる。東京高判平成5年5月27日(金商928号24頁、判時1476号121頁)も、「破産者が適正価格で抵当権の設定された不動産を売却し、売却代金の大部分を抵当債務の弁済に充てた場合には、当該部分は否認の対象とはならないと解され」るとしている。

 では、売却代金が抵当権者以外の者に支払われた場合にどのように考えるかであるが、詐害行為に関するものではあるが、「他に資力のない債務者が、生計費及び子女の教育費にあてるため、その所有の家財衣料等を売却処分し或は新たに借金のためこれを担保に供する等生活を営むためになした財産処分行為は、たとい共同担保が減少したとしても、その売買価格が不当に廉価であつたり、供与した担保物の価格が借入額を超過したり、または担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しないと解するのが相当」であるとする判例(最判昭和42年11月9日(民集21巻9号2323頁、判時505号34頁、判タ215号89頁))の趣旨を鑑みれば、生計の維持や養育費に充てることは「隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせるもの」とは言えないと考えられる。

 また、事業継続のために使用人の給与の支払いに充てた場合も同様であるとの考え方が示されている(150問 236頁)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立