6 担保権の設定

 担保権の設定は法160条1項の定める詐害行為否認の対象から除外されている(法160Ⅰ)。また、偏頗行為否認の対象となるのは「既存の債務についてされた担保の供与」に限定されている(法162Ⅰ)。そのため、債務者の新たな借入れがなされるのと同時に借入額に見合う担保提供がなされた場合には、詐害行為否認の対象にならないことはもちろん、偏頗行為否認の対象にもならない。

しかしながら、法160条3項の無償行為にあたる場合には、それが支払の停止等があった後又はその前6か月以内になされたときは、詐害行為否認の対象となり得る。札幌地判平成5年3月26日(判タ847号286頁)は、破産者が第三者の租税債務の担保のために自己の所有する土地に抵当権を設定した事案について、破産者は当該抵当権設定の対価としての経済的利益を受けておらず、抵当権設定契約は無償行為に当たるものというべきであるとしている。

破産者の生命保険会社に対する解約返戻金に根質権を設定した事例につき、その一部については無償行為否認を認定したが、残りの部分については根質権設定の対価として経済的利益を受けているので無償行為ということはできず、根質権の設定を否認することはできないとした事例がある(東京高判平成12年12月26日(判時1750号112頁))。

なお、金融機関の与信が破産者による保証ないし物上保証と同時交換的にされた場合について、「無償否認の根拠は、その対象たる破産者の行為が対価を伴わないものであって破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、破産者及び受益者の主観を顧慮することなく、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあることからすると、その無償性は、専ら破産者について決すれば足り、受益者の立場において無償であるか否かは問わないと解すべきである」として、破産者のした担保提供行為は無償否認の対象となると解すべきである」と説明している。そして、「金融機関としても、会社の債務について代表者に保証をさせ、又は代表者の資産に担保を設定する場合には、将来、無償否認が成立する可能性があることを計算に入れた上ですべきものであ」ると警鐘を鳴らしている(大阪高判平成22年2月18日(金法1895号99頁、判時2109号89頁))。

ところで、無償行為否認の「6か月以内」か否か争われた事例として、東京地判平成10年9月21日(金法1550号48頁)がある。この事例は、根抵当権設定契約が平成9年2月4日に締結され、その根抵当権設定登記は2月12日で行なわれた。そして、破産申立が平成9年8月5日であったので、根抵当権設定契約は6か月より前になされているが根抵当権設定登記は「6か月以内」になされている。判決では、破産管財人は「破産宣告前の破産者の行為については第三者に当たると解される」として、根抵当権設定登記の日が「6か月以内」であるとして無償行為否認を肯定した。

なお、支払の停止等があった後、第三者に対抗するための登記等がされた場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から15日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、対抗要件否認(法164Ⅰ)の対象となる。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立