5 会社分割

 会社分割は、株式会社又は合同会社が自らの権利義務の全部または一部を他の会社に承継させ(吸収分割)、又は分割により新たに設立する会社に承継させる(新設分割)組織再編をいい、承継させる権利義務は吸収分割契約(会757)又は新設分割計画書(会762)により定められる。

 会社分割については、会社分割後に分割会社に対して債務の履行の請求をすることができなくなる債権者、分割会社が分割対価である株式等を株主に分配する場合における分割会社の債権者(以上会789Ⅰ②)、吸収分割会社の債権者(会799Ⅰ②)に対して債権者保護手続がもうけられている。しかしながら、承継の対象とならずに分割会社に残る債務については、吸収分割承継会社又は新設分割会社から株式・社債等の対価が交付されるため、債権者が不利益を被ることは少ないと考えられており、債権者保護手続の対象とされていない。

 福岡地判平成21年11月27日(金法1911号84頁)は、破産会社の行った新設分割について、「破産会社は、本件新設分割時、債務超過であったにもかかわらず、本件新設分割により、その資産のすべてを原告に承継させており、債権者の共同担保となるべき資産はほぼ皆無の状態になっていた。他方、破産会社は、本件新設分割により、その債務の一部を原告に承継させているものの、同時に、上記債務につき、重畳的債務引受けをしているため、本件新設分割後において、その債務総額は変動していない。このように、破産会社は、本件新設分割により、既存の資産及び債務のうち、その資産のみ逸失させたのであり、このことからすれば、債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなったものであることは明らかであ」り、「破産会社代表者は、本件新設分割により、破産会社がその資産すべてを失うこと、これにより、非承継債権者が弁済を受けることができなくなることを知りながら、本件新設分割を行ったものであることは明らかであ」るとし、加えて、「破産法においても、会社法においても、否認の対象となる行為から会社分割を除外する規定はなく、その他これらを調整する旨の規定も置かれていない」として、法160条1項1号の詐害行為否認の対象として否認権行使を認めている(同旨福岡地判平成22年9月30日(金法1911号71頁、判タ1341号200頁)。

 また、法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴え(会828条1項10号)と詐害行為取消権の行使との関係について、最判平成24年10月12日(金判1402号16頁、裁時1565号2頁)は、「詐害行為取消権の行使によって新設分割を取消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない」「新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである」と判示し、会社分割を詐害行為取消権を行使して取消すことができること、その場合の取消しの効果は相対的なものであることを明らかにしている。

 

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立