4 過払金債権の一部放棄   

 破産手続開始決定前に破産者が貸金業者に対する過払金債権を一部放棄して和解していた場合、破産者と過払金債権の一部放棄を受けた者が他の破産債権者を害することを知って和解した場合は法160条1項1号の否認の対象となる。また、過払金債権を一部放棄してした和解が破産者の支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後になされた場合には、これによって利益を受けた者が、和解当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときを除き、法160条1項2号の否認の対象となる。

 神戸地裁伊丹支部判決平成22年12月15日(判時2107号129頁)は、法160条1項2号により和解を否認したが、支払停止については「本件通知書には、大要、破産者は、生活苦等から、現在、サラ金業者等五社に約二三〇万円の債務を抱えており、返済が困難であるから、やむなく弁護士に対し、長期分割払による任意整理を依頼した旨の記載がある。上記記載のうち、破産者が、現在、約二三〇万円の債務を抱えており、その返済が困難であって、長期分割払をせざるを得ないという点は、破産者が、その時点で、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、弁済することができない状態にあることを自ら認めるものである。また、債権者五社の返済が困難であることは、それが一般的であることを、返済が困難である原因が生活苦等にあることは、それが継続的であることを、それぞれ意味するものである。以上によれば、相手方及び債権者らに対する本件通知書の送付は、支払の停止に当たるというべきである」と認定した。

 次に、破産債権者を害する行為にあたるか否かについては、「本件和解における回収額(五万円)が、本件和解時点における本件債権の経済的価値と均衡しているか否かによる」と基準を示している。そして、過払金債務者について「相手方の資産不足等から生じる本件債権の回収不能のリスクの有無及び程度は明らかではなく、かえって、疎明資料によれば、相手方は、過払金請求訴訟の原告が勝訴判決を得た場合には、全額を返還する方針であることが一応認められる」とし、50万円近い過払金を5万円に減額してその余を放棄したことについて「本件和解時点における本件債権の経済的価値と均衡していないというべきである」としている。

 そして、「相手方は、本件和解当時、少なくとも支払の停止があったことは知っていたから、相手方が、本件和解当時、支払の停止があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったとは認められない」として、法160条1項2号の要件すべての充足を認定し、否認を肯定している。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立