3 弁護士費用の支払い

東京地判平成9年3月25日(判時1621号113頁、判タ957号265頁)は、「「無償行為及之ト同視スヘキ有償行為」とは、破産者が対価を得ないでその積極財産を減少させあるいは消極財産を増加させる行為及び破産者が対価を出捐したが名目的な金額に過ぎず経済的には対価としての意味を有しない行為を指すものと解するのが相当であって、対価性を有する行為のうちの相当額を超える部分だけを取り上げて同号によって否認することはできないというべきである」と判示して無償行為否認の適用を消極的に解している。

 一方、神戸地裁伊丹支部平成19年11月28日(判時2001号88頁、判タ1284号328頁)は、破産申立代理人が破産者から支払を受けるべき弁護士報酬は、共益費にあたる部分のみが財団債権になると解され、破産手続開始前に支払を受けた弁護士報酬についても、共益費相当額を超える部分は否認の対象となると解しているが、その理由は「無償行為と同視すべきものと認められるとともに、破産財団を減少させ、破産債権者を害するものである」と述べており、無償行為否認を根拠としているようである。

 この点、東京地判平成22年10月14日(判例タイムズ1340号83頁)は、破産申立適正報酬額を超える部分は役務の提供と合理的均衡を失するものであり、債権者を害するものとして、法160条1項1号の詐害行為否認の対象となるとしているが、前掲東京地判平成9年3月25日と同様に無償行為否認は消極的に解している。しかし、その後の東京地判平成23年10月24日(判例時報2140号23頁)では、「弁護士による過払金返還請求訴訟の提起及び自己破産申立てに対する報酬の支払行為は、その報酬額が客観的にみて高額であっても、破産者と当該弁護士の間では、契約自由の原則に照らし暴利行為に当たらない限り有効というべきである。しかし、破産債権者との関係においては、その金額が、支払の対価である役務の提供と合理的均衡を失する場合、破産者はその合理的均衡を欠く部分については支払義務を負わないといえるから、当該部分の支払行為は、破産法一六〇条三項の「無償行為」に当たり、否認の対象となり得るというべきである」と、正面から無償行為否認を肯定している。

 以上のとおり、申立代理人である弁護士の報酬については、支払の対価である役務の提供と合理的均衡を欠く部分については、法160条1項1号の詐害行為否認の対象となるのか同条3項の無償行為否認の対象となるのかは解釈が分かれているものの、当該部分の支払行為は否認されることになりそうである。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立