2 財産分与
離婚による財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することを目的として行なわれるが、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮することになる(民768Ⅲ)。
このため、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によつて、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当ではない。
したがって、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当であるとされる(最判昭和58年12月19日(民集37巻10号1532頁、判時1102号42頁等))。
なお、分与が不相当に過大ではない場合であっても偏頗行為否認(法162)、移転登記については対抗要件否認(法164)の対象にはなり得ることもある(到達点と課題101頁)。
もっとも、往々にして財産分与に仮託して財産処分がなされていることも見られ、その場合には、法160条1項又は3項の詐害行為否認の対象となることが考えられよう。
また、慰謝料については「離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は、右損害賠償債務の額を超えた部分について、詐害行為取消権の対象となる」 との判例がある(最判平成12年3月9日(民集54巻3号1013頁、判時1708号101頁))。
「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より