Ⅰ 取戻権

 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は破産財団となるが(法34Ⅰ)、破産手続開始という異常事態のもとで、破産管財人はとりあえず破産者が占有管理していた財産を引き継ぎ、第三者が占有管理している財産で破産財団に属すると判断される財産については当該第三者に引き渡しを求めることとなる。

そのため、破産者から引き継いだ財産であっても実体上は第三者の支配に属すべき財産が混在していたり、破産者の自由財産である財産が含まれていることもある。そこで、当該第三者等は、実体法上の権利にもとづいて破産手続外において破産者に属しない財産を破産財団から取り戻すことができる(法62)。

 売主が売買の目的である物品を買主に発送した場合において、買主がまだ代金の全額を弁済せず、かつ、到達地でその物品を受け取らない間に買主について破産手続開始の決定があったときは、売主は、その物品を取り戻すことができる。ただし、破産管財人は代金の全額を支払ってその物品の引渡しを請求することができる(法63Ⅰ)。

取戻権についての判例としては、離婚における財産分与として金銭の支払を命ずる裁判が確定し、その後に分与者が破産した場合において債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求した事案について、「右財産分与金の支払を目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方は、右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である。けだし、離婚における財産分与は、分与者に属する財産を相手方へ給付するものであるから、金銭の支払を内容とする財産分与を命ずる裁判が確定したとしても、分与の相手方は当該金銭の支払を求める債権を取得するにすぎず、右債権の額に相当する金員が分与の相手方に当然に帰属するものではないからである」というものがある(最判平成2年9月27日(判時1363号89頁、判タ741号100頁))。なお、本判決は金銭請求の事案であり、不動産等の引渡請求については触れられていない。

破産者又は破産管財人が第三者に取戻権の対象である財産を譲渡してしまった場合にはもはや取戻権の行使をすることができない。そこで、破産者が破産手続開始前に取戻権の目的である財産を譲り渡した場合には、当該財産について取戻権を有する者は、反対給付の請求権の移転を請求することができることとしている。破産管財人が取戻権の目的である財産を譲り渡した場合も、同様である(法64Ⅰ)。破産者又は破産管財人が第三者に取戻権の対象である財産を譲渡してしまった場合において、破産者が譲渡した場合には不当利得返還請求権を破産債権として破産手続に参加することができ、破産管財人が譲渡した場合には財団債権者となるが、これではあまりに不公平であるために、取戻権者に、反対給付請求権の移転請求権を認めたものである。なお、反対給付請求権の移転請求は破産管財人にすることになる。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立