Ⅷ 開始後の法律行為等の効力
破産者が破産手続開始後に破産財団に属する財産に関してした法律行為は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができないものとされ(法47Ⅰ)、破産者が破産手続開始の日にした法律行為は、破産手続開始後にしたものと推定することとされている(法47Ⅱ)。これは、破産財団に属する財産については、破産手続開始によりその管理処分権限が破産者から破産管財人に移るため、破産者が破産手続開始後に破産財団に属する財産について法律行為をしてしまった場合の効力を規定したものである。
また、破産手続開始後に破産財団に属する財産に関して破産者の法律行為によらないで、法律の規定や破産者以外の行為によって第三者が権利を取得しても、その権利の取得は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができないものとされている(法48Ⅰ)。そして、その権利取得が破産手続開始の日であった場合には、破産手続開始後に取得したものと推定することとされている(法48Ⅱ)。
不動産又は船舶に関し破産手続開始前に生じた登記原因に基づき破産手続開始後にされた登記又は不動産登記法105条1号の規定による仮登記(実体上の権利変動は生じているが登記するための手続的な要件が欠けている場合には行う仮登記)は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができない(法49Ⅰ)。ただし、登記権利者が破産手続開始の事実を知らないでした登記又は仮登記についてはその効力を主張することができるとされており(法49Ⅱ)、破産手続開始の公告(法32Ⅰ)の前においてはその事実を知らなかったものと推定され、公告の後においてはその事実を知っていたものと推定される(法51)。
また、破産手続開始後に、その事実を知らないで破産者にした弁済は、破産手続の関係においても、その効力を主張することができる(法50Ⅰ)。破産手続開始後に、その事実を知って破産者にした弁済は破産手続の関係においては、その弁済が破産管財人に渡っているなど破産財団が受けた利益の限度においてのみ、破産手続の関係において、その効力を主張することができる(法50Ⅱ)。これらの場合も、破産手続開始の公告(法32Ⅰ)の前においてはその事実を知らなかったものと推定され、公告の後においてはその事実を知っていたものと推定される(法51)。
財産の共有者の一人が破産手続開始の決定を受けたときがあるときは破産者の共有持分について破産管財人が管理処分権を持つことになるが、共有物不分割の特約があっても破産管財人は分割の請求をすることができる(法52Ⅰ)。これは、破産管財人による換価をすることができず破産財団に不利益が生じることを防止するためである。このように、共有物不分割の特約がある場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って破産者の持分を取得することができる(法52Ⅱ)。
「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より