4 破産財団に属しない財産の範囲の拡張

 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後1月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、破産管財人の意見を聴いたうえで、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる(法34Ⅳ、Ⅴ)。この申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる(法34Ⅵ)。

このように、自由財産の範囲の拡張の裁判は、破産手続開始決定が確定した日以後1か月を経過する日までの間に行うものとされているが、この期間は不変期間ではないので、裁判所の裁量により伸長することができる(法13条、民訴96条1項、管財手引 140頁)。

実務的には、債権者から破産の申立てがされた場合や、同時廃止による自己破産を申立てていたものの破産管財人を選任することが相当とされたなどといった場合を除き、自己破産の申立てをするのと同時に自由財産拡張の申立がなされることが多いようである(法律相談55頁)。

破産財団に属しない財産の範囲の拡張の申立書には、破産手続開始の時において破産者が有していた財産のうち、次に掲げるものの表示及び価額を記載した書面を添付することとされている(規則21)。

① 拡張の申立てに係る財産

② 法定の自由財産

③ その他裁判所が定める財産

このように財産を区分して記載するのは、破産手続開始決定時に破産者が有していた財産のうち、法定の自由財産となる金銭等の額がどの程度あり、それに対して拡張の必要性を容易に判断できるようにするためである。

もちろん、これらの記載に加え、考慮すべき事情に該当する事実を記載し、証拠資料を添付することになる。

自由財産の範囲の拡張の考慮要素としては、①破産者の生活の状況、②破産手続開始時に破産者が有していた財産の種類及び額、③破産者が収入を得る見込み、④その他の事情とされるが(管財手引 141頁)、破産財団に属しない財産の範囲の拡張については、裁判所によっては債務者換価の基準を作成し、その基準の範囲内であれば拡張決定をしなくても拡張決定があったものとして取り扱う運用が行われるところもあるようである(大阪地裁の自由財産拡張制度の運用基準について法律相談46頁)。これによると、破産者による申立てどおりに自由財産拡張を認めることが相当であると判断した場合、破産管財人は、当該財産を直ちに破産者に返還し、この時点で、裁判所による自由財産拡張の黙示の決定があったものとして扱われるとのことである(150問42頁)。このように、現実の運用は、裁判所毎に異なるものと考えられる。

 99万円を超える現金について拡張が認められた例も、いくつか報告されている。たとえば、破産者が寝たきりで入院中のために、社会復帰の見通しが絶望的であるという事例で、今後医療費・病院補償金等に必要ということで約210万円が自由財産として認められたケースや、夫や母親が死亡しその葬式費用として約110万円が必要となった上、今後定期的かつ安定した収入を得ることが困難で夫から相続した預貯金以外に見るべき資産もないといった事例で、預貯金残高のうち約185万円を拡張したといったケースも報告されている(法律相談42頁)。

 現金以外については、99万円までの現金が自由財産とされていることとの均衡から、自由財産の総額が99万円以下となるような自由財産の範囲の拡張については、比較的緩やかに判断しているとの報告もある(管財手引 141頁)。

 実務上の具体的な問題として、破産者が自営業者でその売掛金によって得られる収益で生計を立てていて、破産者にとって不可欠な財産である場合には、売掛金のうち破産者にとって不可欠な部分について拡張を認めている例、保険について、破産者や家族が現に使用中であるときや、保険の再加入が認められないために保険契約を継続する必要性があるときには、破産者の自由財産から解約返戻金相当額を破産財団に組み入れて、保険契約を解約せず解約返戻金を換価しない扱い、破産者の収入や生活状況等を考慮の上、退職金の8分の1相当額の全額に満たなくても、一定額の組入れがあれば、その余については、 自由財産の範囲を拡張するのが相当な例(以上、いずれも管財手引 142頁)などがある。

中には、次のとおり、破産者に厳しい取扱いをしている裁判例もあり、拡張が認められる範囲も裁判所により大きく異なるようである。

事例は、自由財産拡張申立却下決定に対し即時抗告がされた例であるが、「破産者の生活の維持等は,原則的には法定自由財産をもって図られるべきであって,自由財産の範囲の拡張には相応の慎重な態度で臨まなければならないものというべきである」、「抗告人は,少なくとも破産手続開始申立ての時点では,法34条3項1号所定の現金を法定額の満額(すなわち,標準的な世帯の3か月間の必要生計費に相当することとなる。民事執行法131条3号参照。)所持していたものであるところ,平成17年11月以降は雇用保険金の受給も開始したというのであるから,相応の生計費が既に確保されているものといってよい。他方,上記家族構成からして,抗告人において,標準的な世帯に比して過大な生計費の負担を迫られるものとは到底いえないし,抗告人の就労可能性もないとはいえない」として即時抗告を却下している(福岡高判平成18年5月18日(判タ1223号298頁))。

 なお、自由財産拡張基準と管財事件・同時廃止事件の振分基準とは多くの裁判所では関連性はない(到達点と課題57頁)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立