第4章 破産手続開始の効果

 

Ⅰ 破産財団と自由財産

1 破産財団の構成と範囲

 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団を構成する(法34Ⅰ)。この場合、当該財産が日本国内にあるかどうかを問わない。

 実務上、名義人が破産者名義であっても、それを出捐した者が破産者以外のものであり、出捐した者が当該財産を実質的に管理化に置いていた場合は当該財産は出捐者に帰属すると考えられるケースは少なくない。

定期預金については、最判昭48年3月27日(民集27巻2号376頁)、最判昭52年8月9日(民集31巻4号742頁)などがあるが、後者においては次のように判示している。「被上告人の被相続人であるDが、上告人信用組合の管理部職員として貸付と回収の事務を担当していたEの勧めに応じて、自己の預金とするために六〇〇万円を出捐し、かねて保管中の「E」と刻した印章を同人の持参した定期預金申込書に押捺して、E名義による記名式定期預金の預入手続を同人に一任し、Eが、Dの代理人又は使者として上告人信用組合との間で元本六〇〇万円のE名義による本件記名式定期預金契約を締結したうえ、上告人信用組合から交付を受けた預金証書をDに交付し、Dがこの預金証書を前記「E」と刻した印章とともに所持していたとの原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯するに足りる。右事実関係のもとにおいては、本件記名式定期預金は、預入行為者であるE名義のものであつても、出捐者であるD、ひいてはその相続人である被上告人をその預金者と認めるのが相当であつて、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる」。

 このほか、実務的に多いのは保険契約の例であるが、最終的には、保険契約を締結した事情、保険契約者を破産者とした理由、破産者の関与の程度、保険料を誰がどのような財産から負担したか等の事情を検討の上、具体的な問題ごとに妥当な解決を図ることとなる(管財手引 180頁)。

破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権も破産財団に属する(法34Ⅱ)。 この例として、破産手続開始前に締結していた共済契約に基づく保険金請求権は破産財団に属するとした判例がある(札幌地判平成24年3月29日(判時2152号58頁)。

判決は、破産者が破産手続開始前に締結していた共済契約に基づく抽象的保険金請求権は、法34条2項の「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」として、破産手続開始決定により、破産財団に属する財産になるものであり、破産手続開始後に発生した共済事故に基づき発生した共済金請求権は破産財団に属する財産であるとし、その理由を次のとおり述べている。

「保険金請求権は、保険契約締結とともに、保険事故の発生を停止条件とする債権として発生しており、保険事故発生前における保険金請求権(以下、「抽象的保険金請求権」という。)も、差押えや処分が可能であると解される。このように、抽象的保険金請求権が、差押えや処分が可能な財産であるとされている以上、破産者の財産に対する包括的差押えの性質を有する破産手続開始決定についても別異に解する理由はなく、保険契約が締結された時点で、破産手続開始決定により破産財団に属させることが可能な財産として発生しているものとみるのが合理的である。したがって、破産手続開始前に締結された保険契約に基づく抽象的保険金請求権は、破産法三四条二項の「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」として、破産手続開始決定により、破産財団に属する財産になるものと解するのが相当である。」

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立