(5)破産手続に関する登記・官庁等への通知
① 破産手続に関する登記
個人債務者について破産手続開始の決定があった場合において、当該破産者に関する登記があることを知ったとき、又は破産財団に属する権利で登記がされたものがあることを知ったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、破産手続開始の登記を登記所に嘱託しなければならないとされている(法258Ⅰ)。しかしながら、実務においては、原則として破産手続開始の登記を留保し、取引の安全を害する特別な事情がある場合に限って破産管財人からの上申等により破産登記をしているようである(管財手引 123)。
そして、破産登記がされた破産財団に属する権利が自由財産の拡張によって破産財団に属しないこととされたときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、その登記の抹消を嘱託しなければならないものとされ、破産管財人がその登記がされた権利を放棄し、その登記の抹消の嘱託の申立てをしたときも、裁判所書記官はその登記の抹消を嘱託しなければならない(法258Ⅳ)。
法人債務者については、破産手続開始の決定があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、破産手続開始の登記を当該破産者の本店又は主たる事務所の所在地を管轄する登記所に嘱託しなければならないとされている(法257Ⅰ柱書)。このように、法人債務者については法人の登記記録に破産登記をすることにより第三者は破産手続が開始されたことを知ることができるから、破産財団に属する権利については破産登記がなされない。そして、破産手続開始の決定の取消し若しくは破産手続廃止の決定が確定した場合、又は破産手続終結の決定があった場合についても、裁判所書記官は、その旨の登記を嘱託しなければならないとされている(法257Ⅶ)。
② 官庁等への通知
官庁その他の機関の許可、免許、登録、その他の許可に類する行政処分がなければ開始することができない事業を営む法人について破産手続開始の決定があったときは、裁判所書記官は、その旨を当該機関に通知しなければならないこととされている(規則9Ⅰ前段)。
許可の例としては、一般ガス事業、鉄道事業、建設業、倉庫業、産業廃棄物処理業、医薬品等の販売業、医薬品等の製造業、一般貨物自動車運送事業等がある。免許の例としては、宅地建物取引業、銀行業等があり、登録の例としては、貸金業、証券業、旅行業、電気通信事業等がある。
また、官庁その他の機関の許可がなければ設立することができない法人について破産手続開始の決定があったときも、裁判所書記官は、その旨を当該機関に通知しなければならないこととされている(規則9Ⅰ)。
なお、裁判所書記官が官庁等への通知をしなければならないという上記の規定は、破産手続開始の決定の取消し若しくは破産手続廃止の決定が確定した場合又は破産手続終結の決定があった場合について準用されている(規則9Ⅱ)。
「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より