Ⅶ 債権者一覧表の記載事項

債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは、次に掲げる債権を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその有する債権及び担保権の内容を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りるものとされている(法20Ⅱ)。

① 破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権であって、②及び③に掲げる請求権に該当しないもの(規則14Ⅰ①)

② 租税等の請求権(法97④、規則14Ⅰ②)

③ 債務者の使用人の給料の請求権及び退職手当の請求権(規則14Ⅰ③)

④ 民事再生法252条6項、会社更生法254条6項又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第158条の10第6項若しくは第331条の10第6項に規定する共益債権

債権者が破産手続開始の申立てをするときも上記の債権者一覧表を裁判所に提出することを要するが、当該債権者においてこれを作成することが著しく困難である場合は、この限りでないとされている(規則14Ⅱ)。

債権者一覧表は、単に、上記の内容を機械的に記載させているのではなく、破産申立書、特に「破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情」に記載した事項との整合性がチェックされていると考えるべきである。

たとえば、代位弁済等により債権者が変わっている場合には、「債権者名」、「債権者住所(送達先)」欄には新債権者の名称、住所を記載するのみならず、原債権者の「借入始期及び終期」、「原因使途」、「最終返済日」欄等を記載し、それらの内容が「破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情」と整合していることが必要である。

また、債権者一覧表に記載する債権額は利息制限法による引直計算をした金額によるべきであり、裁判所によっては引直計算書を提出されているところもある。たとえば、大阪地裁では、利息制限法違反の取引がほぼ7年間継続している場合は取引履歴の調査と引直計算が必要とされている。また、札幌地裁などでは、5年以上の取引がある場合は調査の必要があるとしているようである。これに対し、具体的な基準は設けず、必要に応じて資料の追完を求める裁判所も多いようである(到達点と課題29頁)。

 申立人が法人の場合には、法人代表者やその親族などが申立法人に対して貸付金などの債権を多額に有していることもあるが、法人代表者等の同義的な責任を考えると他の債権者と同等に扱うことは困難であるので、これらの債権は原則として債権者一覧表に記載しないことが多い。

しかしながら、東京地判平成3年12月16日(金判903号39頁)は、株式所有を通じて支配会社が従属会社を管理支配する関係にあり、従属会社がその営業内容、規模に照らして過少資本によって運営されており、その不足を支配会社からの借入等により満たしているような場合に、従属会社が破産し支配会社が従属会社に対する破産債権を有しているときは、当該破産債権は劣後的破産債権のいずれにも該当せず、かつ、劣後的な取扱いをするについて、破産法その他制定法上明確に規定する条文は存在しないと判示している。

なお、本判決においても説明されているが、劣後的な取扱いを認めた東京高決昭和40年2月11日(判タ174号147頁、金法404号31頁)、福岡高決昭和56年12月21日(判時1046号127頁、判タ464号159頁)はいずれも差別的取扱いを認めている会社更生手続に関するものであるから、本件と事案を異にしているとされる(なお、本判決の支配会社は外国会社である)。

このような場合に破産手続においても劣後的な取扱いをすべきであるとの考え方は根強いようであり、破産管財人の実務においても、破産法人の代表者などの旧経営陣、親会社、支配株主等の届出債権については、破綻に至る経営責任や公私混同が認められることも少なくなく、また、これら関係者に対し責任追及をしなければならない場合もあることから、これらの債権をほかの届出債権と形式的に平等に扱うと破産債権者からみて道義的に釈然としないので、破産管財人が債権届出の取下げを勧告し、これに応じないときには、信義則又は権利濫用の法理(民1Ⅱ、Ⅲ) に照らして異議を述べることもあるとのことである(広島地福山支別平10年3月6日(判時1660号112頁)、管財手引 272頁)。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立