3 記載上の注意

裁判所で様式を用意している個人の自己破産の申立書・陳述書を利用する場合には、様式にしたがって記入していけば上記の記載事項が網羅されることになる。しかし、それぞれの記載項目で否認該当行為や免責不許可事由などがチェックされているので、設問の趣旨を検討しながら記入していくことが必要である。

 たとえば、裁判所によっては、受任通知日の記載をさせている。受任通知により支払停止を黙示的に外部に表示したと解される場合が多いことから(前掲最判平成24年10月19日)、偏頗弁済との関係で記載をさせていると考えるべきである。したがって、受任通知日の記載をさせている場合には、任意整理が先行していた場合は任意整理の際の受任通知日を記載する必要があり、また、申立代理人や申立書類を作成した司法書士以外の弁護士又は司法書士が以前に受任通知を発している場合には、その日を記載する必要がある(管財手引 75頁)。

また、「支払いができないと思い始めた時期」を記載させたうえで、その後に支払った債務の有無とその金額を記載させる例もある。これは、偏頗弁済のチェックをしているものである。過去の遺産分割や財産処分行為の記載は、否認該当行為の確認である。

「破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情」は、どのような原因で負債を負うことになったのかの具体的事情と、いつの時点で支払不能となったのかという点をチェックする意味で非常に重要である。この点が明確であればその余の部分はある程度は簡潔でも足りるとする考え方もある(マニュアル208頁)。

ところが、中には、①負債総額が比較的高額であるにもかかわらず、単に生活費の不足としか説明がされない例、②債務者自身は低収入であっても、世帯全体では相応の収入があったり、若年者で実家暮らしのため住居費等がかからない等により、借入れをする必要性が乏しいにもかかわらず、借入れをした理由が判然としない例、③生活費の不足を理由としつつも、そもそも借入れ当時の世帯収入額が明らかでない例や、債権者一覧表にクレジットカードを使用した物品購入が多く記載されていたり、家計表で収入に見合わない過大な支出(住居費、食費、電話代、被服費、交際費、娯楽費等) が計上されている例も見受けられるようである(管財手引 40頁)。

こうした指摘を受けることがないように、司法書士が破産申立書類を作成する場合には、裁判所や破産管財人に理解しやすいように記載するとともに、裁判所の様式とは別に、裁判所に十分な情報が提供できるように上申書等で説明を尽くす必要がある。

さらに、申立書の記載にあたっては、破産管財人の立場に立って、管財業務をやりやすくするということも重要であり、図表や写真等を用いて積極的に説明書を作成することも必要である。

 

「司法書士のための破産の実務と論点」(古橋清二著 2014年4月民事法研究会発行)より

古橋 清二

昭和33年10月生  てんびん座  血液型 A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身 昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー(東証一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる 平成2年 古橋清二司法書士事務所開設 平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立